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第三者評価と大学改革
桜美林大学副学長 諸星 裕
大学改革の一つとして、文部科学省が第三者評価を提唱している。
閉鎖的だった大学を、外部から評価しようという動きであるが、これで日本の大学の変革と再生は可能なのか。桜美林大学で大学改革の先頭に立って活躍中の諸星裕氏に、第三者評価の問題、そして桜美林大学での改革について語っていただいた。
第三者評価以前の問題
現在、文部科学省が大学の第三者評価というものを提唱している。
今まで閉鎖的だった大学を、外部の第三者が評価して大学の透明度をあげようというのが趣旨のようだ。しかし、第三者評価を実施する以前に、日本の大学が解決しなければならないもっと重要な問題がある。
私はアメリカで、大学の評価認定委員を長く経験してきたが、私にいわせれば、日本の大学は世界的な大学の尺度にすら入っていない。世界的な標準から見れば、日本の大学が何をしているのか、さっぱり見えてこないのである。
日本の大学の特殊事情
日本のほとんどの大学の生い立ちは、昔の東京帝国大学に範をとっている。いわば、全国にミニ東京大学がたくさんあるという状態なのだ。こういう経緯があるため、今の大学は東京大学を頂点とした序列ができている。
東京大学を目指していた学生は、入試に失敗したのでA大学に入学する。A大学を目指していたが、その入試に失敗したのでB大学に入学する。つまり、大学はひとつ上のクラスを目指していた学生の受け入れ校として機能しているのが現状である。
よく譬えに出すのであるが、リンゴとオレンジを較べてはいけない。リンゴはリンゴどうしで、オレンジはオレンジどうしで較べなければならない。つまり、すべての大学を東京大学と較べても仕方がないのである。
では、日本の大学はまず何をしなければならないのか。それはミッションをつくることである。うちの大学はこういうことを実施している、というミッションが必要なのである。
明快なアメリカのミッション
アメリカの大学の例を挙げよう。ミネソタ州にカールトン大学という私立の大学がある。アメリカでは五本の指に入る優秀な大学であるが、ここにはきっちりした次のようなミッションがある。
「ここに入学すれば、アメリカの他のどの大学にも負けない最高の教育をします」
こう書いてあるものの、研究に関しては何も記述がない。カールトン大学には世界的な学者が集まっているが、ここは、研究機関ではなく、あくまで教育機関としての大学であることを謳っているのである。ここの大学の教員は、研究論文で査定されることはない。教育者としての評価だけである。驚くことに、ここには大学院もない。
アメリカの大学は、ミッションに関して誠に厳しい。約束が実行されないと、本当に大学がつぶされてしまう。実際、私も何回か大学を廃校にする立場に立ったことがある。
こういうアメリカの実情を見ていると、日本の大学は、はなはだ甘いといわざるを得ない。日本の大学は、アメリカの大学に較べて30年は遅れているといえる。
全入時代を迎える大学の現状
では、日本の現状はどうか。大学の数も学生の数も少ない時代だったら、まず研究ありき、という旧態依然とした大学のあり方でもよかったかもしれない。大学に入る学生のほとんどが、研究を目指しているわけではないし、実際、教授がどういう研究をしているのか、学生はほとんど関心を持っていない。
しかも、少子化が進み、大学の数が溢れ、2009年には、全入時代を迎える。ちまたでは、全国の大学の4分の1が危ないのではないかと噂されている。
大学側も集客力をいかに上げるかという目先のことだけを考えているようだが、一般レベルの大学においては、年を追うごとに学生の質が下がってきているという実態に目をつぶってはいけない。こうなってくると、教員に求められるのは、研究の成果ではなく、いかに学生の側に立った教育を提供できるか、ということなのである。
桜美林大学での取組み
私が3年ほど前から実施していることであるが、大学のホームページ上に、私だけしか見られない電子メールでの投書箱を設けた。毎朝チェックし、返事を出すのが私の日課の一つである。
1週間に平均して15通から20通寄せられる。外部からの意見も頂戴するが、90%近くが学生からのものである。カリキュラムや教員や授業に対する不満、そして事務に関することまで、内容もさまざまである。
例えば、学生からスクールバスの時刻を変更してほしいという旨のメールが来た。理由を聞いてみると、電車との接続が3分しかなく、乗り継ぎが大変だという。
私はすぐ担当部署に指示を出して、改めさせた。市役所などでみかける蕫すぐやる課﨟に近い役割ともいえるが、こういう細かいことも、とても大切なことである。
学部制の弊害をなくす
少しは改善されたようだが、いままでの大学は、学部間のセクショナリズムが強く、学生は学部が違う別の授業を受けられなかった。転部に至ってはさらに困難で、大学を入り直すより方法がなかった。
学生は若い。新たな関心が広がるにつれ、志望が変わっていくのは当然のことである。
私は、できるだけ学部間の壁を低くし、どの学部の授業でも聴講できるように改革を行った。主専攻とは別に、新たに副専攻を設け、たとえば経営政策学部の学生が、副専攻として別の学部である文学部の中国語の授業を受けられるようにした。
学生は、自分の志望に応じて、柔軟に授業を選べる。
将来の就職の選択肢も広がる。中国との貿易を扱う商社にも、中国路線を運航する航空会社にも就職の可能性は広がるであろう。また、こうすることで、各講座を受け持つ教員間にも、一種の競争原理を導入することになるのである。
評価基準を改める
また、日本の大学において、教員が学生を評価する基準が曖昧なのも問題である。たとえば、授業に出ていないのに、たまたま試験だけうまく通れば、単位が貰えてしまうという実態がある。これは、大学の成績が「優」や「良」の数だけで評価され、落とした単位は成績に勘案されないというところに問題があるのだ。
私はこれを改め、厳格な学生評価基準としてのGPA(Grade Point Average)を実施した。導入するまでに、教授会や職員を説得するのに1年もかかった。大学のプロダクツとは何か。卒業生でもサービスでもない。単位なのである。
この改革を実施してから、教員が評価に真剣に取り組むようになり、学生も成績に敏感になった。
教員の採用が研究業績だけで決まるというのも問題だった。面接や試験も大切だが、私がもっとも重要なポイントと考えているのが、学生たちへの模擬授業である。
教員志望者には、その人物が最も得意なことを、学生に講義してもらう。そして、その講義がどうであったかを、学生に評価してもらうのである。教員として大切なのは、どのくらい学生たちの目線に降りられるかなのだ。
一般レベルの大学に必要な独自性
今まで閉鎖的だった大学を、外部からチェックする第三者評価というシステム自体は価値のあることである。
しかし、その大学が何をしたいのか、そのためにはどういうカリキュラムを採用し、どういう教員を確保しているか、ということに踏み込める仕組みになっていない第三者評価では意味がない。さまざまな評価基準を設けて行わないと、相変わらず縦の軸が一本という、くだらない評価になってしまう。
大学は、オレンジもあればリンゴもある。慶應大学や早稲田大学など、同規模の大学をそれぞれ比較する分にはかまわないが、これ以外の、規模の小さい大学や、地方の大学と同列に較べても参考にならない。東京大学と偏差値を較べても意味がないのである。
研究機関としての東京大学、京都大学などは素晴らしい大学である。日本の技術力を上げるため十分な貢献をしているとは思う。しかし、一般レベルの教育機関としての大学が、これらの大学をまねる必要は全くないのである。
日本の大学は再生できるか
極端な例かもしれないが、私が考える日本の大学のミッションとは、例えば次のようなものである。
「我々の大学は、偏差値30から40までの学生しか取りません。そのかわり、卒業までには、英検準2級の資格を取らせます。ちゃんとした文章が書け、正しい日本語を話せるようにします。常識ある日本人として社会で活躍できる人物の育成をお約束します」
うちの大学はこういう特色があり、入学した学生にはこういうことを提供する、というミッションを明確に打ち出す。そしてそのミッションが確実に実行されているかどうかをチェックする、それが第三者評価なのである。
このように、明快なミッションを掲げた大学が並び始めたら、真の第三者評価が根づき、日本の大学はそれぞれ十分使命を全うできるのではないか。私はそう考えているのである。
諸星 裕 Morohoshi Yutaka
1946年生まれ。69年国際基督教大学(ICU)卒業。
70年に渡米し、ブリガムヤング大学大学院修士課程修了後、カナダ・オンタリオ州政府矯正省に入省。米国に戻り、州立ユタ大学にて博士課程修了後、77年ミネソタ州立セントクラウド大学助教授、84年同大学教授、90年ミネソタ州立大学秋田校学長に就任。98年桜美林大学大学院教授、99年副学長に就任。
記事の内容は第9号(2003年11月30日発行)を抜粋したものです。
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