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腹をくくってから動く!これが大学の生きる道《第一回》

これを読めば大学サバイバルに勝ち残ることができる! エコノミクスの最前線で活躍する辣腕コンサルタントによる大学経営指南。

アクセンチュア株式会社
官公庁本部・戦略グループ シニアマネジャー 榎原 洋

エコノミクスには逆らえない

1つの真理から始めよう。
蕫いかなる業種・業態であれ、中・長期的にはエコノミクス(経済性)には逆らえない﨟
これは、我々がコンサルタントとして入社した早期に、徹底的にたたき込まれる大原則である。

業界事情やその時々の偶然により、短期的には一見そうともいえないようなことはある。しかし、他の多くの業界での先例を見るに明らかなように、エコノミクスを軽んじて長続きすることはごく稀である。

もちろん、高等教育界も例外ではない。少子化などの影響を受け、ようやく、まさにようやく、競争市場が整いつつある。そして、競争市場が整えば、民間企業で駆使している経営改革の手法、特に経営戦略の考え方が、これもまた「ようやく」といっていいと思うが、存分に適用可能に、むしろ必要になる。

こうした前提を踏まえた上で論を進めてゆきたい。というのも、各大学にはそれぞれにドメスティックな事情があるが、そうした事象第一に囚われると先が見えなくなる。一方で、純粋理論一辺倒では、「大学は営利企業ではない」という非難を招くこともあるだろう。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される」。

とかく大学改革はやりにくいというわけだが、我々のスタンスはあくまでも「智」に基づいた上で、「情」とのバランスを取る方法を探る。なぜなら、高等教育、とりわけ大学が、今後、従来の方法ではまったく立ち行かないことは明白だからである。
そうであれば、これまでは必要のなかった民間の経営手法を、まず「知る」ことから始めよう。

そして、そこから、それぞれの環境を慎重かつ充分に検討していこう――荒唐無稽ととられるかもしれないが、そうした向きにはこういっておこう。大学界にもすでに、本当の市場原理という賽は投げられたのだと。

3つの「腹のくくり方」

戦略と戦術――大学改革の議論で、最近、特に耳目を引く言葉である。
戦略とは、「我々(大学)はどこを(何を)目指すのか」であり、そのためには何が必要か、どういうアクションを起こすか、これが戦術である。戦略と戦術を、目的と手段と言い換えてもかまわないが、いずれにせよ、両者の混同、そして戦略なき戦術が溢れ返っているというのが、現時点での業界の実情である。

大学は医療現場と同じで、トップダウンで云々というよりは、現場の声を実行に移す、ボトムアップの実行スタイルが支配的である。しかし、ボトムアップはそもそも、戦略があっての物種であり、組織的な目的を欠いた現場志向は、単なる「その場しのぎ」「運だのみ」でしかない。

戦略がない――それはどういうことか? 「腹のくくり方」が足りないのである。「我々はこれで行くんだ」とまず腹をくくってから、アクションプランを立て、実行に移らなければならない。仮に、改革推進派と慎重派が平行線を辿る懸案があったとしても、「これで行く」という判断基準、つまり戦略に照合すれば、選択肢は自ずと決まってくる。

大学業界における多くのアクションに「その場しのぎ」の感が拭えないのは、要するに腹が決まっていないことに根ざすのではないかと見ている。

ではここで、3つの戦略オプションのパターン、「腹のくくり方」を紹介しよう。「拡大多角化」とは、シナジーを期待して学科を増やす、学部間の乗り入れを可能にするなど、関連する新領域へ打って出ることである。

現状のカテゴリーでいえば「総合大学」がこれに当たるだろう。「選択と集中」とは、「ウチは新たにこれに限定し、そこに全力投球しよう」、「陣地確保」は、「今の領域だけで、できるだけ上手くやろう」ということで、単科大学の多くがこのケースに該当するだろう。

ここで強調しておきたいのは、3つのオプションには何ら絶対的な優劣がないことである。つまり、自身に照らし合わせて最良の選択をすることが必要なのである。マーケットを冷静に分析すれば、拡大多角化に勝ち目はなく、むしろ縮小してゆくほうが得策だというような判断が、大学界にあってもいいはず。

総合大学がひたすら陣地確保に、逆に、単科大学が拡大多角化に動いたっていいのである。しかし、今のところそうした方向への目立った動きは、残念ながら見当たらない。

なお、右肩上がり成長期以降に成功・再生した民間企業の多くは、どれかに腹をくくり、スクラップ・アンド・ビルドを行っている。拡大多角化だけが「成長」でも「改革」でもないわけだから、大学にも選択の余地は十二分に残されているといえる。

4つのPとコストカット

まず戦略を決めて、次にどう動くか――それが戦術である。必ず考えなくてはならない二つの分類を挙げよう。
4つのPとは「商品(Product)」「価格(Price)」「場所(Place)」「プロモーション(Promotion)」である。

大学でいえば、正課・課外の教育とサービスが「商品」、学費が「価格」、サテライトキャンパスやeラーニング、あるいは大学そのものの立地条件が「場所」であり、学生募集や広告が「プロモーション」である。戦略に合わせ、これらのうちのどれを自分たちは強化するのか。それをチョイスして組み合わせ、戦術として落とし込んでゆくわけである。

4つのPについての詳細な分析は、稿を改めなければならないが、プライシング(学費)について簡単に触れておこう。
一言でいえば、プライシングだけでも充分な戦術となり得る。携帯電話市場を考えてみてほしい。
当初、その料金体系はシンプルなものだったが、今は利用者の状況や立場、つまりニーズによって非常に多様化している。大学も同じで、例えば、授業ごとの課金などどうだろう。

いい授業には人気が集中し、価格は安くなり、さらにいいサービス(授業)が提供されるというサイクル。反対に、つまらない授業は価格が高騰、不買運動まで起こり、教員はお払い箱――授業評価や人件費の適正化にもつながり得る。他にも、奨学金制度の見直しやバウチャー制度の導入など、価格だけでも工夫の余地はまだまだ存在するのである。

さて、コストカットは大学にとって頭の痛い話だが、これは、人件費に手をつけなければ、抜本的な効果は期待できない。しかし、多くの大学で教員のそれは聖域化していて、最初から棚上げになっている。もちろん、コストカットは人件費だけの問題ではないが、総体として民間に比べれば、大学はまだまだ手緩い。

なぜコストカットが進まないか? これも戦略の欠如によるものが大きい。納得のための縁もなく所得が減ったり、あるいはリストラされたりすれば、誰だって頭に来るし反発もするというものだ。

では、この戦略と戦術を、誰が、どのように決め、いかにして落とし込んでゆくのか――それを理解するには、ガバナンス(統治)の形態と、それに付随したリーダー像の検討、さらに決裁プロセスや権限の整理など、仕組み論からのアプローチも交えて、さらに検証を進めなければならない。

榎原 洋 Ebara hiroshi

慶應義塾大学経済学部卒業後、アクセンチュア入社。
大学・学校法人の他、研究機関、病院、公共交通・運輸業などのコンサルティングに携わる。大学・学校法人においては、募集戦略、新学部学科のフィジビリティスタディ、新規事業戦略、組織再編、人事制度改革、教育プログラム改訂、情報化計画、業務効率化など、多種プロジェクトに従事。

大学改革提言誌「Nasic Release」第9号
記事の内容は第9号(2003年11月30日発行)を抜粋したものです。
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