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現役企業幹部が語る「新入社員に期待するもの
大卒者の厳しい就職環境が続くなか、大学側も学生に対する就職支援を強化している。その対策はどこまで有効か。新卒者は何を身につければいいのか。企業現場の生の声を取材した。
就職者は減少フリーターは増加
大学教育の結果、あるいは成果とは何か――。
それにはさまざまな指標が考えられるが、その一つに「卒業後の進路」が挙げられるだろう。

大学進学率の推移を見ると、1990年の30.6%に対し、2002年は、44.8%と大幅に上昇している。それにともなって、大学卒業者数も90年の40万人から、2002年には55万人に増加した(図1)。
しかし、卒業後の進路はどうか。
文部科学省の「学校基本調査」では、1990年の卒業者に占める就職者の割合は81.0%と高い値を示していたが、バブル崩壊後から減少傾向が続き、2002年には56.9%にまで落ちこんでいる。代わって急増しているのがフリーターだ。90年の3万人から、2000年以降は毎年14万人のフリーターが生まれている。
大学卒業生の約4人に1人がフリーターという計算になる。この就職しない、あるいはしたくてもできない学生をどうするのかは、大学関係者のみならず、社会的問題となっている。
一方、企業の採用傾向という側面から見ても、新卒者にとっては厳しい状況が続いていることがわかる。経済の低迷が長期化する中で、企業は雇用調整や人件費の圧縮を余儀なくされている。
内閣府が行った企業行動に関するアンケート調査「デフレ下の日本企業」(2003)でも、収益の悪化に対して人件費の圧縮をしている企業のうち、6割強がその方法として新規採用の抑制や凍結という回答をしている(複数回答)。また、正社員よりも、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトで、人員不足を補う傾向が強まっている。

終身雇用制度が崩れるにしたがって、企業も人材の採用の仕方や考え方を変えてきた。つまり、長期的に能力を蓄積して終身的に雇用するジェネラリスト、高度な専門能力を有し年俸や業績給で遇するスペシャリスト、そして雇用や賃金について比較的調整がしやすいパート・アルバイトと、三つの形態に分類して採用を考える企業が増えているのだ。
即戦力のニーズと大学の就職対策
これまで日本の企業は、将来の可能性に期待しながら新卒者を採用し、企業内で時間をかけて教育訓練を行い、人材を育成してきた。しかし、最近ではグローバル化によって従来の日本的雇用の考え方が変化し、また経営環境の厳しさも相まって、時間とコストをかけて新卒者を育成していく余裕がなくなり、中途採用にシフトする企業も少なくない。
中途採用であれば、教育訓練の投資が少なくてすみ、即戦力としての活用が期待できる。
こうした傾向を踏まえ、多くの大学が少しでも企業のニーズに応えようと、「即戦力」の育成に力を入れ始めた。資格取得や語学修得、インターンシップの導入などで実務能力の向上をめざしているが、これらの対策は、どこまで有効なのか。企業が求める人材像と、本当にマッチしているのだろうか。現役企業幹部に聞いてみた。
何を評価ポイントにして新入社員を採用するか
「どんな人を採用したいか」という質問に対して、三菱信託銀行個人業務部執行役員の見田元部長は、「生きる力を持った人」だと答える。そして、見田氏は採用したくないタイプについてこう言及した。
「何事に対しても中途半端、すべて適当にやっていくという姿勢がうかがえる人は、採用を躊躇しますね。たとえば学業成績が特に優秀というわけでもなく、でも『優』がゼロというわけでもなく、そこそこはやっている。熱心にクラブ活動に打ち込んだわけでもなく、なんとなく同好会に入ってそれなりにやってきた。こういうタイプの中には、社会人としても『そこそこ』にやって行けば通用するのだと思い違いをしている人が見受けられます」
日本航空国内旅客事業企画室の鈴木満部長は、採用時の評価ポイントを次のように表現した。
「芯というか機軸というものを持っていない人とは、非常に仕事がしにくいものです。たとえ間違っていてもいいのです。自分の意見をきちんと言える人でないと、会社で共に仕事をしたときに、周囲を惑わせてしまうおそれがあります」
2人の意見に共通していたのは、まず「採りたくない。一緒に仕事をしたくない」と、否定的な表現をしている点だ。これは、採用する側は「こういう人材がほしい」というよりも、まず「こういう人は要らない」という、採用候補者から除外する作業から始めるということを表しているのかもしれない。
そして、重要なことは、「そこそここなす」「何においても平均点」の人は、「要らない」人と判断されて最初に除外されてしまうということだ。今の時代、「器用な人間」というのは評価されないということを表しているのだが、これは現在の日本経済が置かれた状況を理解すればうなずける。
「会社の仕事というのは適当にやっていれば大丈夫、と考えていたら大間違いですが、最近の若い人を見ていると、それをわかっていない人が増えているようで怖いです」(鈴木氏)
「そこそこやってきた人に比べたら、極端な話、『優』がまったくないとか、クラブ活動は一切やらなかったという人のほうが、私には魅力的に見える場合が多いですね。そして、クラブ活動だけは一生懸命やったとか、アルバイトとか、もちろん勉強とか、何でもいいんです。これだけは一生懸命やったと言える人に『生きる力』を感じるのです。
何事も適当にやってきて、真正面から事に当たるということをしたことがない人には、本当の意味での『生きる力』はありません」(見田氏)
「即戦力」として何が期待されるのか
では、新卒者に対して「即戦力」として期待される能力は何だろうか。
「じつは仕事ですぐに使える能力には、大きな期待は抱いていません。会社によって事情はちがうと思いますが、わが社では、会社に入って4、5年の間は、地道に地力を培う努力をしてもらえばよいと考えています」(見田氏)
「日本的経営の特徴かも知れませんが、やはり若いうちは現場で経験を積み上げていくことが大切でしょう。そうした基本的な体験から私の言う『機軸』も生まれてくるのです。
もちろん、英語は使えたほうがよいでしょう。パソコンも使えたほうがよいでしょう。しかし、それは採用の可否を大きく左右する要因にはなりません。
インターンシップなども盛んに言われだしましたが、社風とか会社の概略を理解してミスマッチを少なくするということには役立つかもしれませんが、私どもでは即戦力の養成機会だとはとらえてはいません」(鈴木氏)
たしかに、学生が企業の仕事を内部から見られる機会は少ない。それだけに、インターンシップ等でお互いによく理解しておくことは、意味があることだろう。だからといって、その経験が仕事にすぐに使える能力を養成するとは考えていないのが、企業側の現状のようだ。
表面的な能力より人間的魅力を
今後の採用事情について聞いてみた。
「これからは、スペシャリストとジェネラリストを分別した採用になってゆくだろう」と言うのは見田氏である。とくに金融業界においては、ファイナンシャルプランナー、MBA、産学協同での研究者など、スペシャリストを望む声は企業側から強くあがっている。
「しかし、最終的にものをいうのは『生きる力』なんです。金融機関は、今冬の時代だとか言われていますが、そうしたときだからこそ、活躍できるチャンスはたくさんあるのです。そういうところでチャレンジしてみようという意欲ある新卒者には、ぜひとも来ていただきたい」(見田氏)
一般的には、企業側は「即戦力」を求める傾向を強めており、従来は中途採用者について言われていた即戦力が、新卒に対しても広がっているように思える。学生たちが資格取得や海外留学への熱意を見せているのも、そんな背景があるからだ。しかし、企業側が新卒者に対して求める「即戦力」とは、すぐに使える実務能力というよりも、むしろその根底にある潜在能力にあるといえそうだ。
東京商工会議所が行った「新卒者等採用動向調査」でも、新卒者を予定通り確保できなかった理由として、第1位に挙げられていたのは「いい人材がいない」からであった。では、いい人材とは何を指すのか。採用に当たって最も重視したポイントには、「積極性」「コミュニケーション能力」「常識・マナー」が上位を占め、「専門知識・技術」を上まわっている(図3)。

「企業は人なり」といわれるように、企業にとって人材は、最も大切な柱である。新卒者を採用し、長期間かけて育成していくシステムを決して軽視しているわけではない。時代がいかに変化しようとも、仕事を統括し組織をリードしていく人材は必要である。新卒者に最も期待されているのは、その可能性ということではないだろうか。
語学、資格、実務能力、これらを身につけようと努力するのは必要なことかもしれない。しかし、それが就職のための表面的な飾りに終わるのではなく、本人の人間的な魅力やエネルギッシュな実行力として磨かれるようなものになっていることを望みたい。
記事の内容は第9号(2003年11月30日発行)を抜粋したものです。