一流の学生、研究者の育成なくして、高等教育の発展はあり得ない (京都大学 総長 長尾 真)
一流の学生、研究者の育成なくして、高等教育の発展はあり得ない
競争よりも共栄を目指す京都大学の精神とは
京都大学 総長 長尾 真
京都大学は、5名のノーベル賞受賞者をはじめ、多数の世界的な研究者を輩出し、大学のあるべき姿を追求し続けてきた。戦後、新制大学が発足して以来の大改革といわれる国立大学法人化を控え、自らの使命を果たすため、大学は何を守り、何を変えていくべきなのか。長尾真総長に伺った。(聞き手/学生情報センター社長 北澤俊和)
国立大学法人化後も研究環境の維持を
――国立大学の法人化がいよいよ目前に迫り、全国の大学ではさまざまな改革が進められています。運営の効率化や体力強化を目的に、国立大学が統合する動きも出てきました。大学間の競争激化が予想される中、在野精神を持つ京都大学がどのような改革を行うのか、非常に注目を集めていますが。
長尾総長(以下敬称略) 京都大学には、「伝統的学問を継承し発展させる」「基礎研究を重視して新しい分野を切り拓く」「世界で提起される深刻な問題に積極的に対応する」「こういったことに積極的に挑戦してゆく優れた人材を育成する」という明確な使命があります。
この使命を全うしていくため、本学はこれまでも先見性のある改革を着実に行ってきました。したがって、今回の法人化に際して、特にドラスティックな改革を断行するつもりはありません。急激な変化は、大きな混乱を招く危険性があるからです。本学としては、変えるべきでない部分はしっかりと守りながら、変えなければならない部分については、ゆっくりと変化しながら新しい態勢に移行していきたいと考えています。
――どういった部分を変えずに守っていこうと考えておられるのですか。
長尾) 取りも直さず、本学の教員が自由闊達に研究に取り組める環境だけは、絶対に守り続けなければなりません。社会で注目されるような先端的な研究については、大学側がサポートしなくても、教員の実力次第で研究費を確保できるでしょう。
それに比べていろんな地味な「基礎研究」は、目先の利益につながらない場合が多く、ひとたび弱肉強食的な競争原理にさらされると、これまでのように研究費を得られなくなる可能性があります。しかし、基礎研究は人類の未来のために必ず継続しなければならないものであり、10年20年という長いスパンで見守っていく必要があります。
具体的な成果が見えにくい基礎研究を維持するためには、勇気も忍耐も要りますが、だからこそ京都大学のような伝統ある大学が力を注いでいくべきなのです。
一方、法人化によって変えなければいけない面もあります。例えば、国立大学の教職員は法人化後、国家公務員でなくなり、原則的に一般企業と同じ雇用関係になります。しかし、給与体系や組織の変革を一挙に行おうとしても、必ず無理が生じるわけで、数年間の移行期を設定して、段階的にシステムを変えていくべきと考えます。
その間、研修等を通じて職員の意識改革に取り組み、職種によっては近隣の大学との人事交流を行ったり、一般企業へ出向して勉強してもらうこともあり得ます。いずれにせよ、今後、仕事量は増えるにもかかわらず、人員は増加できませんから、事務効率の向上のために、組織全体で業務内容の改善や職員の専門能力向上に取り組まねばならないといえます。
一流の人材を輩出するには自主性の醸成が不可欠
――ここまで主に研究面についてうかがってまいりましたが、大学のもう一つの重要な役割である「教育」に関するお考えをお聞かせください。
長尾) 本学では、伝統的に学生の自主性を重んじる風潮があり、どちらかといえば放任主義的な教育を行ってきました。しかし、近年の学生の質的変化に対応する意味も含めて、京都大学の教育はいかにあるべきかを改めて見直すべく、ここ数年は教育のあり方に関するシンポジウムを開催しています。
基本的には個々の教員の個性・能力を生かした教育を行っていけばよいと考えています。もちろん、教育内容を日々充実させていくのは我々の当然の責務です。しかし、高校まで「詰め込み教育」を受けてきた学生に、大学に入ってまで知識を詰め込むような教育を行うべきではありません。
大学側はどういう環境を与えるのがベストかを考えたとき、入学後1~2年の間は、「自分は何を勉強すればよいのか」という問題に悩み、もがき苦しみ、深く考える経験を通じて、本当にやりたいことを自分で見つけさせることも大事なのではないでしょうか。ある意味、冷たい印象を受けるかもしれませんが、これまでの本学卒業生のアンケート結果を見ると、自主性を育てる本学の教育方針を評価している声が多いのも事実です。
「これを学べ」と、外から押しつけられるのではなく、自分自身で見つけた目標だからこそ、それを達成するために大きな力が湧いてくるのです。もちろん、ただ突き放すだけでなく、目的を見失って授業についていけなくなった学生にカウンセリングを施すなど、必要なケアは行っています。
――長尾総長が就任されてから、学生を育成する環境を改善するため、キャンパスの整備や留学制度の拡充にも取り組んでこられたそうですね。
長尾) キャンパスや校舎の環境整備は、優れた学生を育てるために不可欠な要素であると考えています。以前の京都大学には、必ずしも美しいとはいえないキャンパスから個性あふれる人材が輩出されるのを尊ぶ風潮があり、私はそれ自体を否定するつもりはありません。
しかし、学力だけでなく、しっかりとしたプライドを持った人格、どんな場面でも堂々と物怖じしない人間をつくるためには、建物やキャンパスの雰囲気をよくすることも大切です。すべてにおいて一流のものに触れていないと、一流の人材は育ちにくいと考えられるからです。
本年11月には、時計台の建物の改装が終了する予定であり、最も整備が遅れていた教養部の建物も、きれいに改装しつつあります。こうした取組みは、学生を集めるためというよりも、入学してきた学生の育成のための活動といえます。
海外留学に関しては、国際的な視野と、外国人を説得できるだけの語学力を身につけて、世界を舞台に活躍できる人材を育成するため、これまで以上に力を入れています。法人化後は、できるだけ多くの優秀な学生が高度な教育を受ける機会を得られるよう、奨学金制度の拡充も図りたいと考えているところです。
国立大学の法人化は、京都大学が世界の大学へと飛躍していくチャンスととらえています。今こそ大学の本来の使命をしっかりと認識し、地に足をつけた改革を進めることが肝要といえるのではないでしょうか。
長尾 真 Nagao Makoto
1936年生まれ。59年京都大学工学部電子工学科卒業。
61年同大学院工学研究科修士課程修了後、同年京都大学工学部助手となる。66年に博士号を取得し、67年には京都大学工学部講師、翌68年に同助教授。
69年からフランス・グルノーブル大学で客員助教授を1年間務めたのち、73年に京都大学工学部教授に就任。大型計算機センター長、評議員、附属図書館長、総長特別補佐などの要職を歴任する。
97年には京都大学工学研究科・工学部長となり、同年12月に京都大学第23代総長に選出され、現在に至る。また、日本学術会議会員、文部科学省・経済産業省・法務省など中央省庁の審議会委員、委員長などに任命されている。
紫綬褒章・日本放送協会放送文化賞・ノッティンガム大学名誉博士号ほか、多数の賞を受けている。
日本のほとんどの大学の生い立ちは、昔の東京帝国大学に範をとっている。いわば、全国にミニ東京大学がたくさんあるという状態なのだ。こういう経緯があるため、今の大学は東京大学を頂点とした序列ができている。
しかも、少子化が進み、大学の数が溢れ、2009年には、全入時代を迎える。ちまたでは、全国の大学の4分の1が危ないのではないかと噂されている。
極端な例かもしれないが、私が考える日本の大学のミッションとは、例えば次のようなものである。


志願者数を増やすにはどうしたらいいか、という考え方はしていません。もちろん、志願者が減ってしまうのは困りますが。「上智で学びたい」という強い希望を持っている方に来ていただきたいということが、第一義なのです。3校の先生方とも推薦入試についてのご質問があったのも、このことと無関係ではないと感じています。
CALLは、"Computer Assisted Language leaning"の略で、コンピュータを外国語の教育・学習に活用するシステムです。これまでのような「受け身」ではなく「個別型、参加型・発信型」の授業を可能にする教材はつくれないかということから始まりました。プロジェクトは、1998年からスタートしました。
「最近は、誰もが大学へ行くようになり、大学の果たす役割は変わったし、もう変えなくてはならない。純粋に学問を追究し、研究するだけでなく、大学で教える人間も、さまざまな人がいていい。
それは、徹底して地域に密着しながら、高度な実務型職業人や社会的リーダーを育成するというビジョンに、地元の企業や自治体から多大な期待と協力が寄せられているからに他ならない。
企業内で教育するつもりであれば、やれば伸びるポテンシャルや、努力する能力を見ればいいのだから、受験で入るのが難しい大学の人間をとっておくのが無難だった。