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未来を見据え希望を持って人生を歩んでいくための力を育む

文部科学省
高等教育局 局長
磯田文雄
Fumio Isoda

[聞き手]
学生情報センターグループ 代表
北澤俊和

我が国のキャリア教育、職業教育の在り方について、中教審答申では、学校教育と職業や人材育成との連関はその根幹に「一人一人がより幸福な人生を送っていくことができるようにするためのもの」という教育や学習の本旨があることを忘れてはならないと提言した。文部科学省高等教育局の磯田文雄局長に答申の意義と人材育成のあるべき姿を伺った。


社会の構造変化に沿った新たなキャリア教育・職業教育の在り方

――中央教育審議会キャリア教育・職業教育特別部会は2011年1月31日に「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」の答申をまとめました。この答申について、磯田局長のご意見をお聞かせください。

磯田局長(以下、敬称略) キャリア教育・職業教育特別部会は2008年12月文部科学大臣より諮問を受け設置され、これまで関係省庁、有識者など各界から広くご意見をいただきつつ30回にわたる審議を重ね、答申をまとめました。

また、今回の答申は、従来の教育界、産業界などの枠を超え、各界一体となって幼児教育から高等教育までを通じ網羅的に提言しているという点で、過去に例を見ない大きな意義があります。

今回の答申の背景には、経済のグローバル化で産業構造や雇用慣行が大きく変化し、それに伴って教育、雇用・労働をめぐる新たな課題が生じたことが挙げられます。

――社会構造の変化に伴い、学生の職業観や人生観が変わってきています。それと共に、産業界の大学に対する期待も様変わりしています。このような時代にあり、高等教育機関がカバーする教育の領域も変化しているのではないでしょうか。

磯田 近年、就職状況が思わしくないので、職業観の醸成やキャリア教育、職業教育の在り方に注目が集まっていますが、この種の議論がされるのは、今回が初めてではありません。

日本社会が大きく変貌した高度経済成長期にも人材育成の在り方が現在と異なる視点で議論されました。

今日の日本は21世紀型の産業構造へと大きく変わろうとしている最中ですから、現代にふさわしい職業観や人生観を持つ人材の育成が必要になるのは当然のことです。

一方で、従来は家庭や地域、学校などの組織体が人と人との繋がりを形成してきましたが、今はその伝統的なコミュニティーを維持することが難しくなっています。

「新しい公共」の担い手を育てるための高等教育機関の役割は何なのかを、社会の動きもよく見据えて議論していかねばなりません。

昨今は学生が高等教育機関に期待する内容が多様化し、社会からの要請も多岐にわたっています。既存のカリキュラムに職業関連科目を追加するだけではなく、学位プログラムの中で、社会に役立つ能力をどのように身に付けさせるのかを考える必要があるでしょう。

意識の隔たりが企業と学生の間のミスマッチの原因

――バブル経済が崩壊して以来、新卒者の就職率(内定率)は厳しい状況が続いています。

磯田 就職率(内定率)として見ると、今が最も厳しい状況であることは間違いないでしょう。文部科学省としては、産業界に向けて雇用機会の増大をお願いしています。

一方で産業界からは「かつてのように新卒者の雇用を増やしたい気持ちはあるが、日本経済の行く末を考えると簡単に増員できない」との意見をいただいています。

政府としても経済の立て直しが重要であるとの認識は持っています。しかし、この状況を抜本的に解決することは容易ではありません。

ある調査によりますと、大学3年生の夏からインターンシップに参加し、秋から本格的な就職活動を始めても2人に1人が4年の秋になっても就職が決まらないという報告がありました。

多くの大学生が、大学生活の大半を就職活動に費やしている事態は深刻です。産業界からも大学からも、長すぎる就職活動は不適切であるとの見解が示されています。

――内定が出ない原因の一つに、学生の安定志向が指摘されています。自身に適した職業とは何か、どのような仕事がしたいのかなどを十分に考えずに、大手企業を志向するのがミスマッチの原因に繋がるのではないでしょうか。

磯田 産業界と大学、文部科学省で検討会を開いた際に「中小企業の新卒求人倍率は2.16倍」とのデータが話題に上りましたが、中小企業からは「この数字を見て、中小企業には旺盛な採用意欲があると受け止められては困る」との意見が出ました。

有効求人倍率が2倍以上の中小企業は限られており、全国中小企業団体中央会でも、景気回復を実感できない段階では積極的な採用は難しいとの見解が出ています。しかし、積極的な採用を展開する中小企業が存在するのも事実です。

これに対して学生の意識はどうかというと「日本の労働市場では、中小企業から大企業に転職するのは難しい」と大半の学生や保護者が考えているそうです。

その真偽のほどはともかくとして、学生は大企業に挑戦するほうが将来の選択肢が広がると思っているようです。こうした考えを持つ学生や保護者に対してどのようにアプローチすればよいのか、また、大学側で何をすべきなのかも検討しています。

多様化する社会を生き抜く力を大学や企業で育成する

――希望する仕事に就けずに苦労しているのは新卒者だけではありません。一昔前は、就職できなかった新卒者が一旦フリーターや派遣社員に就いても、数年後には正社員に移行できましたが、最近では30歳を過ぎてもアルバイトや派遣社員などの不安定なままという人が少なくないようです。

磯田 確かに、一度、非正規雇用の層に入ると、そこから正規雇用に移行するのは難しいという状況は認識しています。

我々としては学生が非正規雇用層に入ることを可能な限り防ぎたいですし、仮にそうなっても、早い段階で正規雇用にきちんと移行できる仕組みを整えたいと思っています。

近年は、働き方が多様化しています。ワークシェアリングであったり、外国人採用枠の拡大であったり。そう考えると、高等教育機関における人材育成で重要なのは、様々な人々とコミュニケーションを取りながら働くことのできる多様性を持った人材を育成することだと考えています。

また、キャリア教育や職業教育に対しても、学生からは「面接のために正しいおじぎの方法を教えてほしい」などの要望が出ますが、大学も産業界もその必要はないとの認識で一致しています。我々も高等教育機関における人材育成は単なるハウツーであるべきではないと考えています。

産業界が求めている能力は、例えば、難しい交渉事をまとめる調整力や一年がかりのプロジェクトをやり遂げる探求力です。こうした能力を学生に身に付けさせるという考え方は、従来の学士教育の方向性と大きく変わるものではありません。

――地域社会との交流も、実社会が必要とする能力とは何かを知る良い機会になるのではないでしょうか。

磯田 昨今は、地元産業界との連携や共同研究、まちづくりプロジェクトへの参画など、地域社会と交流する機会が増えていると聞いています。

インターンシップにしても、単なる会社見学ではなく、会社が抱える課題や会社の本質に触れる機会を持てるようなプログラムが企業から提供され始めているようです。

学生にとってお客様扱いではなく、企業を内側から見ることは自分自身のキャリアや働き方を考える好機になります。

中長期的にはこのようなインターンシップを推進したいと考えています。大学はあくまで教育プログラムとしてのインターンシップ受け入れを企業に依頼しています。

実社会で体験を積んだことで、大学での勉強の刺激になったり、役立ったりするからこそ、学生をインターンシップに派遣するわけです。企業側も、忙しいなか、学生を受け入れていただくのですから、双方にとってプラスになる交流にしてもらいたいと思います。

例えば、産業界の方にキャリアコーディネーターとして大学教育に参画してもらうとか、大学と企業が人材育成プログラムについて意見を交換するといったことも必要です。

採用活動だけに留まらない交流を持つことが、長期的にはより良い職業教育や人材育成プログラムに繋がっていくのではないでしょうか。

企業や地域との連携を強化することで結果、学生の就業力育成に繋がる

――昨年8月から政府の「新卒者雇用・特命チーム」による『新卒者雇用に関する緊急対策』が始まりました。「大学生の就業力育成支援事業」などについてお考えをお聞かせください。

磯田 各大学が主体的に取り組み、興味深い試みが多数行われていることには感謝しています。例えば、工学系の学部や学科が研究領域が近い地元企業と交流を図るような試みは、我々としても参考にしたいと思っています。

就業力育成についての、新たな課題も見えてきました。現在議論しているのは、大学や学部、学科が単独ですべきことと、分野が近い組織が複数集まって連携するほうがより効果が出る場合と各々あるだろうということです。

また、大学の構成員は専門分野もバックボーンも多様ですから、各構成員の特性やネットワークを生かせば学生の就業力をさらに高められるでしょう。個人のネットワークも活用すれば、今まで大学には入ってこなかった種類の情報も入ってくる可能性があります。

――具体的にはどのような効果が期待できるのでしょうか。

磯田 学生は就職活動以外の角度から企業を知ることができます。新しい交流や意外なパートナーを発見するきっかけにもなるでしょう。

例えば信州大学では、サテライト・ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーを運営していますが、この拠点を設けたことで地元企業が大学に集まるようになりました。

そして、企業から寄せられた意見は大学教育に反映され、その成果が再び企業に還元されるという好循環を生んでいます。

新卒者雇用・特命チームの対策は「緊急」を謳っていますが、今回の対策が信州大学のような循環を生むきっかけになれば、来年度以降の学生にもメリットを提供できるのではないでしょうか。

――緊急対策には「卒業後3年以内の既卒者も新卒者として扱う」ことが盛り込まれています。

磯田 昔は「753問題」と言えば、高校生の7割、中学生の5割、小学生の3割が授業についていけないことを意味しました。しかし10年ほど前から、この言葉は若者の離職率の高さを指摘する際に使われています。すなわち中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が3年以内に離職すると。

しかし教育現場では、就職ミスマッチがあったとしても、最終的に自らが望む仕事に就けるのであれば良しとする考え方もあります。

また、受け入れる企業側の中途採用数も増加傾向にありますから、社会全体の流れからして、卒業後3年以内の既卒者を新卒者として扱うのは問題ないと考えています。

――企業の採用計画では新卒者プラス既卒者の枠は決まっていますから、新卒者扱いの対象が広がれば、単純に応募者数が増えて、新卒者の内定率が低下するのではありませんか。

磯田 答申でも述べられているように教育や学習の本旨は、一人一人がより幸福な人生を送っていくことができるようにするためのものであることを忘れてはなりません。

既卒者を新卒者扱いにしなければ、最初の就職で失敗した人は復活のチャンスがなくなってしまいます。新卒でつまずくと二度とリカバリーができないとなれば、その人の人生は悪循環に陥るだけです。

それは結果として、労働力の損失、ひいては日本経済の活力低下に繋がります。より多くのチャンスが提供される社会を構築しようというのが我々の考え方です。

また、同時に「就職活動期間を短縮すると、企業とめぐり合う機会が減少する」といった考えも、一面からしか見ていない議論です。

就職活動は確かに重要ですが、学生生活のどのくらいの時間を割くのが、人生を総合的に見た場合必要で適切なのか、しっかりと議論しなければなりません。

我々が考えるべきは、若者の成長のために望ましいことは何かなのです。そういった観点から、多角的な施策を講じていきます。

磯田文雄(いそだ ふみお)

教育学修士、政治学修士。東京大学法学部卒業、米スタンフォード大学大学院修士課程修了。1977年文部省入省後、香川県教育委員会義務教育課長、文部省初等中等教育局企画官、教育助成局海外子女教育課長、筑波大学理事・副学長、文部科学省研究振興局長などを経て、2010年7月から現職。

日本経済の持続的発展には若年層の活力が不可欠

経済産業省
経済産業政策局 産業人材政策室長
髙橋直人
Naoto Takahashi

[聞き手]
学生情報センター 代表取締役社長
西尾 謙

我が国の雇用情勢、とりわけ新卒者の就職環境が深刻化してきた。政府は、緊急雇用対策本部を設置し、新卒者支援対策を講じてきた。

しかし、就職内定率が過去最低の数値となり、未定者の数もこのままでは多数にのぼると懸念されるなか2010年8月、横断的な取り組みをより強力に推進するため、内閣府、経済産業省、文部科学省、厚生労働省による「特命チーム」が新たに設置された。

採用意欲の高い中小企業とのマッチング支援を主導する経済産業省経済産業政策局産業人材政策室の髙橋直人室長に話をお聞きした。


魅力ある中小企業と意欲的な若者を繋ぐ

――大学新卒者の雇用悪化が深刻な問題になっています。経済産業省としては、どのような対応策を検討しているのでしょうか。

髙橋室長(以下、敬称略)一昨年12月より就職状況が悪化してきました。政府では2010年9月に「新成長戦略実現に向けた三段構えの経済対策」を閣議決定しています。

これにより、経済産業省と厚生労働省、文部科学省が協力しながら、新卒者の雇用対策を推進していく体制が整いました。2011年1月には「新成長戦略実現2011」も閣議決定され、雇用・人材に対する取り組みなど、多岐にわたる政策が打ち出されました。

これら多面的な取り組みを推進するなかで、経済産業省としては、特に中小企業の雇用に焦点を当てたいと考えています。

国内企業の9割以上は中小企業です。しかしながら、中小企業では、人材の確保がかねての問題でした。「新卒者の採用ノウハウを持っておらず、日々多忙な業務のなかで、コストや時間をかけてまで新卒求人に積極的になれない」という声が中小企業から発せられているのも事実です。

しかし、ある民間調査によると、従業員規模別の求人倍率は1,000人以上の企業が0.57倍であるのに対して1,000人未満の企業は2.16倍、300人未満の中小企業では4.41倍となるなど、中小企業の採用意欲は強いと断じられます。

このため、経済産業省としては、学生と採用意欲のある中小企業とを、丁寧にマッチングしていくことに注力しています。

そのためには、まず中小企業の魅力を学生に発信していく必要があります。中小企業に対して、経営の不安定さや待遇の悪さをイメージする学生もいるかと思います。

不法な就労を強いる「企業」ではない、成長力や人材育成など魅力ある企業の姿をしっかり見せていかなければ、信頼は得られません。そのためにも経済産業省としては、学生のみならず保護者への働きかけも含めて、中小企業の確かな情報を提供することで、とかく大企業に向かいがちな学生の考えを転換していきたいと思っています。

具体的な取り組みとしては、インターネットなどを活用して中小企業の魅力発信やマッチングを行うドリーム・マッチプロジェクトを2010年5月より、日本商工会議所などと推進しています。

登録するだけで企業と学生の面談が自動で設定されるウェブサービスの実施や、全国七都市で合同説明会を実施し会場内で面談と選考が行えるようにしたところ、昨年七月から直近までで2,000人を超える内定者が出ました。

日本の中小企業の底力を若者に発信する

――学生には大手志向、安定志向が定着しているように感じます。彼ら・彼女らに中小企業の魅力をどのように訴求していくのでしょうか。

髙橋 経済産業省では、採用意欲があり人材育成に優れる企業を「雇用創出企業」として、その魅力をウェブサイトを通じて発信しています。また、地域の中小企業を知ってもらうバスツアーを実施したり、中小企業が行うインターンシップを支援したりしています。

ともかく、あらゆる手段を講じ、中小企業の魅力を伝えていきたいと考えています。学生はあまり知らないかもしれませんが、世界の工業製品の中で、日本の中小企業が手掛けるネジやバネがないと、成り立たないという製品もあります。

製品によって、国際市場のシェア90%を占めているような中小企業は数多くあります。こういった情報も引き続き、PRしていきたいと思います。

加えて検討したいのが、地方から都市部の大学へ進学した学生の何割かが、卒業後、地元や地方都市での就職を希望するという事実です。Uターン、Iターンを希望している学生は、必ずしも十分な就職情報を入手できず、不安に思っていると思います。

ニーズと情報をいかに繋ぐかが課題です。何らかの形でデータベース化し、情報を共有することも検討が必要でしょう。

――これまでの成果をどのように受け止めておられますか。また、大学に対して望むことはありますでしょうか。

髙橋 現在までのところ、我々の施策についておおむね好評をいただいていると感じています。特に大学だけの努力では、中小企業の活動を網羅するにも限界があります。

従来の大学のキャリアセンターは、学生が相談に来て初めて対応するという待ちの姿勢が多かったように思います。1、2年次生のころからキャリアに関する働きかけを行うなど、より学生に積極的にアプローチしてほしいと思います。

私見ですが、大学教職員の意識が研究偏重ではないかと感じています。大学を経営的側面で見ますと、学生を自立した人材として社会に送り出さなければ、社会的な評価も下がり、新入生も入ってこなくなります。

大多数の学生が研究者としてではなく就業者として何らかの職業に就くわけで、キャリアにおいてもきちんとサポートする体制をいっそう確立していく必要があるでしょう。

――昨年9月に閣議決定された「新成長戦略実現に向けた三段構えの経済対策」においても、若年層に対する雇用対策が謳われています。経済産業省が重点化を図りたい領域はどういったところでしょうか。

髙橋 新成長戦略においては、人材育成が最も重要で基本となります。海外と伍して戦えるグローバル人材の育成が不可欠です。企業もこうした人材を求めています。

しかし、グローバル人材とはどのような人材なのか、企業から具体的かつ定量的に示されていないことも問題です。

「元気がある」といった定性的な言い方やTOEICの点数以外で、どのような具体的かつ定量的な条件を備えた人材が国際社会で活躍し得るのか、学生に対して誰も示していません。

今の学生は、数百通もエントリーシートを書かなければならない状況に追い込まれていますが、それでも面接すら受けられない学生も多いと言われています。企業側としても、何万通もの応募を見ないといけない。お互いにとって莫大な労力が発生している状況なのです。

文部科学省では「教育の質の保証」に対する議論や取り組みがなされていますが、企業はグローバル人材、そのほか自らが求める人材像をより明確かつ詳細に大学・学生に対して提案し、これを踏まえた教育を大学が施し、学生の質を保証していくことが必要でしょう。

ミスマッチの解消には大学と地域の産業界の連携が不可欠

――企業が望む学生像、大学が輩出する学生像を明確化するとして、そのほかにはどのような施策が必要だとお考えでしょうか。

髙橋 先ほど述べたことを大学初年次から継続して実施すると共に、地域の産業界にも協力を要請し、実効力ある取り組みに発展させていきたいと思っています。

「中小企業は魅力的です」と働きかけても、実態が見えない学生にすれば、不安感を持ってしまいがちです。学生に中小企業を訪問してもらい、企業の直面している課題や長所、短所についてレポートしてもらう。

そういった機会を大学もカリキュラム化し、学生は自身の目で見た中小企業の魅力や課題を地域の産業界と交流しながら研究し、発信していくことも一案ではないでしょうか。

また、例えば中小企業に勤める入社5年以内の社員を大学に招き、学生を前に実情や魅力を語ってもらう。そういった交流も効果的でしょう。

なお、関西の中小企業や商工会議所は、大学とのタイアップに非常に前向きです。経済産業省としても、意欲的なプログラムに関しては支援を行い、若い人たちの意識を変える一助にしたいと考えています。このように、大学と地域の産業界が、協力体制を構築できれば、望ましいと思っています。

さらに、就職に当たっては、親の意向が学生のモチベーションを左右することがあります。私も一人の親として、子供の将来が安定したものとなってほしい気持ちはあります。

しかし、安定は大企業に入れば得られるものではありませんし、そういう時代ではありません。親世代を含めて社会の認識を変えていくことが必要となります。

――意識の変化を促すうえで、新卒者の一括採用を含めた企業の人事制度、並びに就職活動の長期化についても変革していく必要があるのではないでしょうか。

髙橋 昨年10月、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の三大臣連名で「新規学校卒業者等の採用」に関する要請文を、245の主要経済団体及び業界団体に向けて発出しました。主たる目的は、就職活動の早期化、長期化の是正についてですが、課題は様々です。

例えば、現行の一括採用を前提として是正するのか、それとも一括採用や大学の学事日程まで抜本的に見直したうえでの変更なのか。

色々な考え方、それぞれの立場があるでしょうが、どこまで踏み込んで変えるのかを明確にして、あるべき就職・採用活動の議論がなされるべきです。

現在、一般的な大学生は、大学三年次の夏から情報収集を始め4年次の5月の連休以降に内々定が出るという進行かと思います。学生によっては1年以上、就職活動に割く人もいます。

現在は、学事日程を優先し、学生の負担を軽減し、学業に影響しないような就職活動の在り方についての議論を、三省と経済界、大学とで行っています。

ただし、なおいっそうの改善を検討するのであれば4月から翌年3月までが1年であるとか、大学は4年間であるといった学事日程、制度にまで踏み込むことも検討する必要があるかもしれません。

経済成長策との連動が若年層の雇用機会を創出する

――制度を変えても、雇用量が増えないと、抜本的な解決にならない側面があるのではないでしょうか。

髙橋 おっしゃる通りで、経済成長は雇用創出を促進するうえで必須です。経済発展を促し、そのなかで雇用システムの在り方を考えないといけません。

政府では、緊急対策として新卒者や卒業後三年以内の既卒者の雇用確保を集中支援してきました。しかし、雇用の絶対量が限られていては、新卒者などを数多く受け入れることが不可能です。やはり絶対量の増加策が必要です。

併せて労働市場の流動性についても考えていく必要があるでしょう。「今年の新卒者は就職先がなくて大変だ」という、ミクロな施策のみを行っているのでは、抜本的な解決に繋がりません。

若年層のみならず、女性や高齢者、派遣労働者を含めた抜本的な雇用創造が必要と考えています。介護、医療、農業、環境などの成長分野での新たな雇用機会の創出や、企業やNPOなどと連携して、地域人材を育成し、新たな雇用を創出していくことが当面必要となります。

私が大学生だった30年ほど前は、大学進学率は20%程度でした。しかし、今は50%を超えます。日本国内での就職機会は企業のグローバル化などで減少しているのに、大学生の数は倍以上に増えました。マッチングしない構造的原因はそこにあるのです。

いずれにしても、日本経済が持続的な発展を遂げるためには、若年層の労働力が源泉です。経済産業省としては、今後とも産業界と学生を有機的に結び付ける策を講じていきたいと考えています。

髙橋直人(たかはし なおと)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。88年、通商産業省入省。内閣官房郵政民営化準備室企画官、資源エネルギー庁長官官房総合政策課エネルギー戦略推進室長、経済産業省商務情報政策局情報通信機器課環境リサイクル室長、商務情報政策局流通政策課長などを経て、2010年より現職。

一橋大学「スマートで強靭なグローバル一橋」で世界ONLY ONEを目指す

学長 山内 進
Susumu Yamauchi

一橋大学は2015年度までの中期目標を設けた。
そこでは「新しい社会科学の探求と創造、全学共通教育と専門教育の有機的連関および他大学との連携、構想力ある専門人、理性ある革新者、指導力ある政治経済人の育成、国内・国際社会への知的・実践的貢献」が掲げられている。

これらの目標を具体的にどう実現していくのか。
その取り組みについて山内進学長にお話を伺った。


プラン135はグローバル時代に向けたグランドデザイン

――学長に就任されて、一橋大学プラン135を発表されました。「アジアNO.1、世界ONLY ONE」を実現していくためにどういったお考えをお持ちですか。

山内学長(以下、敬称略)一橋大学は2010年、創立135周年を迎えました。記念すべき年に学長に就任したわけですが、私がまず示したいのは、大学改革のグランドデザインです。その基本計画を「プラン135」と名づけました。

任期4年の間に目指したいのは「スマートで強靭なグローバル一橋」で、これをぜひ実現していきたいと考えています。

スマートとは「賢明で洗練された」という意味を込めていますが、一橋大学においては文化的洗練さ、すなわち世界レベルの教育と研究を求めていかねばなりません。大学間の競争の時代では、他大学との差別化を図る質の高い国際性に富んだ文化的洗練さを持つ必要があります。

本学は教育の目標として「構想力ある専門人、理性ある革新者、指導力ある政治経済人の育成」を掲げていますが、そのためにも高いレベルで社会科学の専門知識が必要です。

また、グローバル化が急速に進展する時代では、社会科学の知見だけではなく、思想、文化や芸術に造詣を持ち、異文化に対応できる心と語学力が必要です。

一橋大学のスタイルを一言で表すならば「リベラリズム」です。高度な学生の自主性と自己責任に裏付けられたリアルな自由主義ともいえるでしょう。

一橋は東大や京大とは違う、経済的自由主義を伝統としてきたからこそ、創立以来135年間、国家に頼らず民間の力で切り拓いていくという気概を持った市民的でビジネスに強い、国際社会で活躍する数多くの人材を輩出してきたのです。

私がスマートに加えて強靭なグローバル一橋と宣言した理由は、この一橋大学の独自のスタイル「知的強靭さ」が、今まさに社会から求められているからなのです。

世界で生起するあらゆる事態に的確に対処できる強さと粘りを持たねばなりません。強い一橋の下で、強靭なグローバルリーダーが育ちます。

一橋のスタイルは弱肉強食ではない社会性を持った自由主義

――グローバル人材の養成という観点で、一橋大学の特色をお聞かせください。

山内 我々の掲げる自由主義は、ある種の社会性を持った自由主義なのです。社会のために役立つ、多くの人が幸せになるために活動するといった意識を大事にしています。弱肉強食の自由主義ではありません。

一橋大学が育てようとする人材は、社会科学の理知を持つだけではなく、思想、文化、芸術にも造詣が深く、問題を感知・発見し、それを解決する能力と強靭さを持ち、そして異文化に対応できる心と語学力を備えていることが必要となります。

一橋大学は、その長期戦略「21世紀の経済、社会への挑戦―世界水準の社会科学の創造と統合をめざして―」を掲げています。重要なことは「世界水準」に照準を合わせている点です。

研究の世界水準化と共に教育レベルでは、世界に伍して活躍できる人材の養成であり、そして世界中から研究者や学生を吸引する大学そのもののグローバル化が必要となってきます。

――過去、多才なグローバル人材を数多く輩出してこられましたが、成果や今後の方針についてお聞かせください。

山内 キャリア支援は現状、うまく機能していると評価しています。その理由は同窓会「如水会」やOB・OGの協力があり、多くの企業にインターンを受けていただいているからです。

「社会性を身に付ける」ことをキャリア支援の目的の一つとして重要視しています。一流企業で活躍しているOB・OGの皆さんに講師として登壇いただく「キャリアゼミ」の開催により、その目的は達成できているのではないかと考えています。

少数精鋭教育と如水会との連携で一橋の特長を最大限に生かす

――キャリアゼミでは、実社会で活躍する先輩方から大変有意義な講義を受講できるそうですね。

山内 学生たちは社会に出て働き出せば、めったに会えない企業のトップや様々な分野の第一線で活躍する人物から直に話を聞き、討論することができます。有益でかつ社会の実際を学ぶ良い機会になっていると思います。

また講師の皆さんは若い人に自身の経験を伝えたいという気持ちが強く「教えがいがある」との声もいただいています。

一橋大学の特長は、少人数教育にあります。創立から135年で卒業生は八万人と少ないながら、企業に占める社長や役員の確率は高い。ですから社会に影響を与えるインパクトは強く、それだけに如水会の結束は堅く、親密です。

しかも如水会には、大学を支援したいという思いを強く持っていただいております。「社会の動向を考えれば、学生は早いうちにキャリアを考えたほうがいい」とのご意見が如水会からなされ、大学との協議のうえ、キャリアゼミがスタートしました。

こうした取り組みが2007年度、文部科学省の現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に「同窓会と連携する先駆的キャリア教育モデル―寄附講義によるコア・プログラム構築とキャリア形成支援活動との有機的連携―」として採択されました。

大学と如水会との継続的な連携と協力関係を軸に、従来は困難であった新たなキャリア教育を展開できたと考えています。なお「現代GP」は昨年度で終了しましたが、キャリアゼミは継続しています。

グローバル化時代の牽引役となる人材を育成する

――文部科学省は中教審答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」に基づき、教育課程を通じた実践的な教育の展開を重点に置く方針のようです。今後のキャリア教育の重点化について、どのような考えをお持ちでしょうか。

山内 実務を尊ぶのは、一橋大学の伝統です。しかし、狭い意味でのプラクティカルな教育になってしまっては意味がありません。

本学の教育の目標として「構想力ある専門人、理性のある革新者、指導力ある政治経済人の育成」を挙げています。広い意味で社会の諸問題を解決できる問題解決志向の人材を育てることが本学のキャリア教育の本質だと認識しています。

大学は原理、理論を教育・研究する場であり、実務を志向しつつ理論を組み立てるという、二つの側面を忘れないでいたいと思います。

大学教育が魅力的なのは、体系的な知識を教授できるからです。学生はそれを身に付け、確かな知性を育んでいきます。

一方で、理論を観念的に理解しているだけでは不十分です。具体的な手立てが必要ですが、とりわけグローバルに活動するうえでは、英語をはじめとする語学力やMBAなどの実務上の能力を備えておかねばなりません。

我々が学生に身に付けさせたいと考えているのは、語学力と教養、そして具体的な問題解決能力です。そのためにはしっかりと頭を鍛えなくてはなりません。

鍛錬は理論の習得と議論によって行われますが、いずれにしても考え抜く力が必要です。そういう人が応用力を身に付けるのであり、世の中に出たとき人材として重宝されるのだと思います。

――一橋大学は就職難の時代にあって、高い内定率を誇ります。今後も質の高い就職を維持していくためには、どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。

山内 幸い学生が就職できないという状況ではありませんが、このような時代ですから、すべての学生がトップ企業に入社できるわけではありません。時代の変化を学生は感じていても、親が一流企業以外を許さない例も散見されます。

本学としては、著名な企業だけがすべてではなく、実力を持った企業が数多くあることを教えていきたい。それに、現在はグローバルに活躍している企業も、かつては全く名前が知られていなかった事例も多々あります。

「せっかく一橋大学に来たから銀行や保険業界に進みたい」というのは、一つの生き方ではありますが、皆が同じ選択をする必要はありません。学生が興味を抱いた分野で活躍してほしい。そういったメッセージを発信していきたいと思います。

山内進(やまうち すすむ)

1949年北海道生まれ。72年、一橋大学法学部卒業。77年、一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。90年より一橋大学法学部・大学院法学研究科教授を務める。2004年、21世紀COEプログラム「ヨーロッパの革新的研究拠点」拠点リーダー就任。2010年12月より現職。専門は法制史。

広島大学・豊かな社会の実現を担う思いやりのある人材の養成を目指す

学長
浅原利正
Toshimasa Asahara

広島大学は1998年、国立大学として初めて、現在のキャリアセンターの前身である学生就職センターを設立。
以来、大学を挙げて学生の就職・キャリア支援に注力してきた。
「ナショナル&リージョナルセンターとしての総合研究大学」という長期ビジョンの下、今後どのような人材育成を目指すのか。浅原利正学長にお考えを伺った。


果敢にチャレンジし課題を克服していく力を育成する

――広島大学は2009年に第二期中期目標・中期計画を策定し、10~15年後を見据えた長期ビジョンを発表しました。具体的にどのような大学像を目指しているのでしょうか。

浅原学長(以下、敬称略)広島大学には11学部12研究科がありますが、このうち学士課程教育については10年後も大きく変わることはないと思います。

私が学士課程教育において特に重視しているのは、総合大学としての環境を生かした「教養教育」の充実です。将来、専門分野で活躍できる人材を育てるためには、その人間的基盤を養うためにも、教養教育をきちんと行う必要があるからです。

その一方で、専門教育を行う大学院の研究科では、社会の環境変化に対応する必要があります。例えば、環境分野の研究は、21世紀の地球・人類にとって大きな課題です。

こうした分野で、本学として何を重点的な研究テーマとするかについては、今後10年の間に変化することも考えられます。

この先予想される少子高齢化や、グローバル化などの要素を勘案しながら、大学の在り方を検討し、教育研究を展開していきたいと考えています。

――そうした基本方針の下で、広島大学としては、どのような人材の育成を目指しているのでしょうか。

浅原 学生も社会に出れば、様々な課題に直面することになります。だからこそ、学生には大学4年間で、多様なことに挑戦してもらいたい。

失敗を繰り返しながら、課題や困難を克服できる人間を育てたいのです。さらに言えば「相手のことを思いやる人間」を育てるべきだと、私は考えています。

戦後、日本が発展していく過程では、競争は確かに必要だったかもしれません。しかし、競争原理は人と人との繋がりを希薄にしていくところがあります。

社会がある程度成熟した今、新しい価値観の下で、より多くの人々にとって住みよい社会をつくる時期に来ているのではないでしょうか。そのキーワードとは「寛容」であり、相手に対する思いやりがなければ、本当に安定した豊かな社会を実現することはできないと思うのです。

入学直後からキャリアデザインを強力にサポート

――学長のお考えのような人材を育成するために、広島大学ではどのような就職・キャリア支援を行っているのでしょうか。

浅原 現在、本学のキャリアセンターでは、各部局と連携して学生のキャリアデザインを支援しています。これは「低年次生からのキャリア支援」と「卒業(修了)前年次生からのキャリア支援」の二本立てになっています。

なぜ二本立てかというと、卒業前年次に就職活動の準備を始めるのでは遅すぎるからです。

学生の中には「なんとなく大学に入ってきた」という人も少なくありません。こうした学生が、いざ3、4年になって卒業後の進路を決めようとしても、間に合わないのが実情です。

自分は将来どんな社会人になりたいのか、そのためには何を勉強すべきなのか、入学時点で考える機会があれば、大学生活を通してキャリアデザインを描き、目標に向かって集中して学問に挑むことができます。

このため本学では、新入生オリエンテーションや教養ゼミでキャリアガイダンスを行い、キャリアデザインをテーマにした教育科目を開講しています。さらに、大学院生を対象とするキャリア教育科目も新設するなど、様々な取り組みを行っています。

学生が主体的に取り組む提案型プロジェクト「フロントランナープログラム」

――低年次生からのキャリア支援の一つとして、広島大学では「フロントランナープログラム」に注力しておられます。この取り組みについて教えてください。

浅原 フロントランナープログラムは06年度から文部科学省の現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)によりスタートしました。これは、学生が主体的に提案したプロジェクトの計画・実行を大学が支援する、いわばPBL(Project Based Learning)型プログラムです。

ここでは、学生がチームとなって社会に出て、地域と連携しながら自らの計画を実現していきます。私も報告会に出て大変感動したのですが、これまでにも、無人島への植樹、酒蔵通りの活性化、映画祭の実施、国際交流のためのフットサルリーグ設立など、多種多様な興味深い取り組みが実行されてきました。

プロジェクトを進める過程では、必ず計画通りにいかず苦労します。立ちはだかる障害をどうしたら乗り越えることができるのか、学生たちはプログラムを通じて学んでいきます。

そのプロセス自体が、学生たちにとって得がたい貴重な経験となっています。文部科学省の現代GPは09年に終了しましたが、今後もこのプログラムを本学のキャリア教育の一環として定着させたいと考えています。

就業経験の提供と経済的支援を目的とした「フェニックス・アシスタント」

浅原 2010年度から、学生が図書館の窓口業務などの大学運営業務に携わる「フェニックス・アシスタント制度」をスタートさせました。

この制度は、学生に学内で働いてもらうことで、就業経験の提供と経済的支援を同時に行うことを目的としています。窓口業務などを通じて、自分が学生を迎える立場になれば、学生自身の意識も大きく変わってくるでしょう。

学内のアルバイトは一般のアルバイトと違い、私たち教職員の目が届くので、少々失敗してもサポートしやすいというメリットもあります。学内で「働く」ということを経験し、大いに失敗してほしい。失敗したことは必ず身に付きます。

この制度が、失敗を恐れず、失敗に耐えられる人材の育成に繋がると期待しています。

――現在、文部科学省は大学に対して、実践的なキャリア教育や職業教育の強化を求めています。その点について、広島大学としては、今後どのように取り組んでいかれるのでしょうか。

浅原 今、大学教育に求められている実践的な力とは「卒業後すぐに職場で実務をこなせる」ということでは必ずしもないと考えています。

実践的教育の必要性は理解できますが、まず、自分自身が主体的に仕事に取り組み、むしろ5年後、10年後に職場や社会で大きな貢献ができる、そのようなトータルな力が求められているのではないでしょうか。

こうした力を養うためには、視点を広く持つこと、企業や地域に役に立ち、貢献するためには、社会でどういう役割を果たすべきなのかを理解することが重要です。
そのうえで、文章力や語学力、技術力などのスキルが生かせるのであれば、社会人としての評価も極めて高いものになるのではないでしょうか。

日本の文化を理解し国際社会で活躍できるグローバル人材を育成

――社会からは、具体的なスキル習得を目的とする教育の充実も求められているかと思います。この点については、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

浅原 まず、語学力については、グローバル化への対応という点からも重視しています。新たに教員も採用し、学生の語学力向上のための取り組みを進めているところです。

しかし、外国語の習得はあくまでもツールであって、それだけでは不十分です。国際社会で活躍できるグローバルな人材を養成するためには、日本独自の社会システムや文化・芸術に対する理解を深めることが必要です。

本学の学生には、日本の良さや文化を理解したうえで、国際社会に雄飛する人材に育ってほしいと思っています。

――広島大学で培われる学生のアイデンティティーとはどのようなものでしょうか。

浅原 大学4年間は、人生全体から見ればわずかな期間かもしれません。しかし、この時期に何を学び、どんな人と交わったかということが、その後の人生に大きな影響を与えるのも事実です。

広島大学は総合大学であり、多様な分野の教育・研究を推進していますが、その利点を生かし切れていない面もあります。

幸い、教育学部や総合科学部では、文系と理系の学生が交流しながら学べる環境が形成されつつあります。

その意味でも、今後は総合大学としての利点を最大限生かす教育研究を展開し、それを広島大学のアイデンティティーとして育てていきたい。それが「ナショナル&リージョナルセンター」としての広島大学を実現することになるのです。


浅原利正(あさはら としまさ)

1946年生まれ。71年広島大学医学部医学科卒業84年医学博士号取得(広島大学)。広島大学医学部講師、助教授を経て、99年同大医学部教授に就任。

2002~04年同大大学院医歯薬学総合研究科教授、04~07年同大学病院病院長・教授などを歴任し、07年5月より現職。

関西学院大学 全人教育を通じて複眼的視野を持った「世界市民」を養成する

学長
井上琢智
Takutoshi Inoue

関西学院大学は、総合私立大学でトップクラスの就職決定率を誇る。
2010年度には文部科学省の「大学生の就業力育成支援事業」に「社会との接点から自己を磨き高める就業支援」が採択された。

ここでは、景気動向にかかわらず、就職決定率97.0%以上、就職率85.0%以上の目標達成が掲げられている。本年四月に就任した井上琢智新学長に、人を育てる教育と就業支援について伺った。


大学の4年間は生きるとは何かを考え、自分の強みを探す時期

──関西学院大学では、グローバル社会で活躍できる人づくりに向けて、様々な取り組みがなされています。学長が目指される大学像、教育研究の在り方についてお聞かせください。

井上学長(以下、敬称略)関西学院はキリスト教主義に基づく「全人教育」の下「世界を視野におさめ。

他者への思いやりと社会変革への気概を持ち、高い見識と倫理観を備えて自己を確立し、自らの大きな志をもって行動力を発揮する人」を育てることを目指しています。

全人教育とは、人間として生きる力を身に付ける教育なのです。学ぶことの大切さを知り、自らの価値観を養成し、それに従い行動を選択できるという能力を身に付けることを最重要視しています。

キャリア・就職支援の要となっているのが、各キャンパスに設置しているキャリアセンターです。ここでは、学生時代を「一人一人の強みづくり、強み探し」の時期と位置付けており、卒業後の進路を考えるに当たって、次の五つのステップを踏む必要があると考えています。

一つは人生観、職業観を持ち、自分の人生における働く意味を明確にする。次が、自分の長所と短所を知り、強みを生かす。

そして3番目で自分の人生を考えながら業界・業種を選択し4番目に企業を選ぶ。最後が、その企業風土が自分に合っているかを確認するといった流れです。

在学中に、社会の幅広い分野で活躍できる専門知識を身に付けることは大切です。しかし、それ以上に「生きる」とは何か、あるいは「働く」とは何かを根本的に問い直してほしい。それが「学ぶ」ということです。

自分の価値観を確立すると真の実力が身に付き、充実した人生を送ることができます。本学を卒業したある女性は、実務を経験しながら会計士試験を受けようと頑張ったけれども、不合格となったため、すぐに渡米して1年間英語を勉強しました。

その後、香港で日本の大手電気メーカーに勤め、財務に関する能力を生かし、世界のマーケットで活躍するまでになりました。そのままいけば順調にキャリアを積んでいたはずです。

しかし彼女は、そのメーカーを退職し、現在は、米国での永住権を取得するため、日本人が経営するカナダの農場で経理の仕事に携わっています。大学時代の4年間に、自分自身の人生観、職業観を形成することが、その人の人生設計に関わっていくという好例でしょう。

教員は、自分の専門分野を教えると同時に、学生一人一人と向き合うことが大切です。EDUCATIONの語源を考えると「能力を引き出す」という意味です。

教えるのではなく、本来持っている能力を自らが引き出すことを手伝う、これが教育の使命であり、私たちの最大の役割だと思っています。

入学から卒業まで真の人間力を高めるキャリア支援を実施

──関西学院大学は、全国屈指の就職内定率、就職率を誇っています。就業支援の在り方全般に関して、どのようにお考えでしょうか。

井上 真の実力を身に付けるには、主体的に学ばなければなりません。学ぶべきものの中身は、基礎力、専門知識と技能、教養の三つです。

これは土屋明生キャリアセンター長の言葉ですが「基礎力は専門の能力の礎となるもの」であり「専門知識と技能は誇れるもの」「教養は多様性を生かすためのもの」です。

関西学院大学では、正課、正課外、エクステンションの各プログラムの連動によるライフデザイン・プログラムに基づき、一年次から体系立ててキャリアを学ぶことができます。

低年次(一、二年次)では、正課プログラム「ライフデザイン科目群」で世界観、人生観、職業観を体系的に学び、自らの将来、生き方、在り方を考えていきます。

また、インターンシップや他大学との交流プログラムなどを通して、自分らしさや社会との関わりについて知り、他者とのコミュニケーションを実践することによって、自らの可能性を広げていきます。

就職活動年次(三、四年次)では、これまでの大学生活を通して培った、自らの強みや持ち味を発見・管理する「自己分析」に取り組みます。そして「業界・企業・仕事研究」で自分に合った働き方を明確にする。

この間、教職員は進路決定までのタイムリーなプログラムと、きめ細かな面談で学生を全学的にサポートします。エクステンションプログラムでは、将来の人生設計に必要な能力を習得するため、学業や課外活動と並行して学内で受講できる様々な講座を提供しています。

これらの講座は受講できる学年に制限を設けていませんので、低年次から計画的に受講していくことが可能です。

自己を確立し、大きな志を持って行動できる人間に

──関西学院大学では「複数分野専攻制」(MDS)をはじめ、学生の目標や興味に応じて、他学部の専門科目を自由に履修できるカリキュラムを構築しています。その意図を教えてください。

井上 本学は、各学部の英語の名称をSchoolと呼び、学部中心の運営が特徴となってきました。しかし一方で、学生に豊かな発想力・創造力を養ってもらうために、全学の協力体制も確立し充実させてきました。

学部間の垣根を低くし、他学部で開講している科目を履修できる枠を広く設定することで、学生一人一人が自分の夢を実現するチャンスが増えます。

例えば、商学部に所属しながら法学部のプログラムを履修し、法律に精通したビジネスマンを目指す学生がいます。また、MDSを利用して、4年間で二つの学部を卒業できる「ジョイント・ディグリー制度」を日本で初めて導入しました。

就職支援に関しても、同様の全学の協力体制の下、ライフデザイン・プログラムを学部横断的に構築しています。

創立120周年となった2009年度に、今後10年間で到達すべき目標を定めた「新基本構想」を策定しました。

ここでは、いかなる人間を育て、いかなる大学であろうとするかを明示しています。目指す人間像は「体現する世界市民」目指す大学像は「垣根なき学びと探究の共同体」です。

大学時代に高い識見と倫理観を備え、自己を確立したうえで大きな志を持って行動し社会に巣立ってほしい。

国内外で活躍する人間に育ってもらうために、多様な留学プログラムをはじめ「大学コンソーシアムひょうご神戸」主催の海外インターンシッププログラム、留学生向けの国内インターンシップ、国連ボランティア計画(UNV)との協定に基づいた開発途上国へのボランティア派遣などを行っています。

学部間の垣根を低くした教育を実施

──大学にキャリア教育・職業教育の充実が求められています。関西学院大学の「人を育てる教育」の方向性についてお聞かせください。

井上 私の専門は経済思想史ですが、アダム・スミスは『国富論』で「分業は生産性を高めるが、人間性を破壊する」と述べています。少なくとも本学は、人間らしい生き方ができる学生を育てたい。

最近では企業も人を人材として使い捨てるのではなく、人を人として扱うほうが、最終的には好ましい結果が得られると考え始めています。

それを前提に申し上げれば、例えば「新卒者雇用に関する政府の取組」では、新卒者雇用の定義を「三年以内既卒者」としています。この発想は、単位取得=卒業とみなし、まだ、自らのライフデザインを描けていなくても、卒業させてしまうということを前提にしています。

本学では、4年間たって単位を取得しても学び足りないと思ったら、自分の意思で大学に留まって勉強できる道を開いています。

経済学部の私のゼミに、文学部の学生がMDSを利用してきたことがあります。その学生は、歴史学を専攻していました。

おそらく、人生設計をするのに文学部で学ぶだけでは何か足りないものを感じ、経済学でも学ぼうとしたのでしょう。そのように、学部間の垣根を低くすることで、学生の知的好奇心を満たし、目的に応じた学習計画をバックアップしています。

学長就任に当たり、各方面から様々な質問をいただきます。私がいつも答えているのは、高等学校までの勉強が強制されたものだとすると、大学は主体的に学ぶ場であるということです。実学教育という言葉があります。

この本来の意味は、就職に直結する資格を取ることではなく、自然科学を含めた総合的な学び、まさにSciencesを学ぶべきであるという考え方です。

私自身、学生のある時期、一プラス一がなぜ二になるかを考え続けたことがありました。一見、無意味に思える問いかけですが、学生時代にはそのように根本的な問いに向き合ってほしい。
それがきっと、人間としての幅を広げることに繋がっていくはずです。


井上琢智(いのうえ たくとし)

1946年生まれ。関西学院大学大学院経済学研究科修士課程修了、同博士課程単位取得。関西学院大学経済学部助教授、同大経済学部教授、同大大学院経済学研究科博士課程指導教授、同大経済学部長、副学長、評価情報分析室長、学院史編纂室長を歴任し、2011年4月より現職。

芝浦工業大学 21世紀の日本の活路を拓く実践型イノベーション人材を育成する

学長
柘植綾夫
Ayao Tsuge

1927年の創立以来「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」を建学の精神に掲げる芝浦工業大学は、実学主義を核にした教育を推進し、就職氷河期にもかかわらず高い進路決定率を誇っている。「今こそ・実践型イノベーション人材・の育成が不可欠」と力強く語る柘植綾夫学長に、次世代を見据えた人材育成の在り方についてお聞きした。


イノベーション創出を実現する4タイプの人材を育成

――芝浦工業大学では、21世紀を担う人材の育成について、どのように取り組んでおられますか。

柘植学長(以下、敬称略) 社会の巨大化、複雑化が加速度的に進行しています。これに伴い社会が求める科学技術は、高性能化、高信頼性化のみならず、心の満足といったスペクトル幅の広がりが求められています。

このような社会背景から日本の将来を鑑みると20世紀の「キャッチアップ型」の産業構造から、21世紀の「フロントランナー型」へと転換していくことが必要であり、そこに21世紀のイノベーション創出の難しさがあるのです。

巨大複雑化する社会経済システムに対応するためには、個別先端科学技術と基盤技術を創造する人材と、それらを統合し社会・経済的価値化を創り出す能力を備えた人材がフロントランナー型イノベーションを創出する人材として必要です。

工学の役割が知の融合・統合を通じて社会・経済的価値を創造することである以上、イノベーションの創出は本学の教育・研究の原点であり、フロントランナー型イノベーション人材を輩出することが本学に課せられた使命なのです。

では育成すべきイノベーション人材像とは、どのような人材かと言いますと、まず一つ目が、差異化技術を創造するタイプD(Differentiator)です。これは、持っていれば必ず勝てる技術を創造し得る人材を指します。

次が持っていなければ必ず負けてしまう技術を生み出す人材であるタイプE(Enabler Technologies)です。

3つ目は幅広い基礎技術と基盤技術、技能を有し、広い意味でものづくり力を支えるベースとなる人材となるタイプB(Basic Science & Techno-logies)です。

タイプDもEも不可欠な人材ですが、ベースとなるタイプBの人材を育てなければ、イノベーションの実現は不可能です。

これら3つのタイプの人材は段階を経て育成するのではなく、要求される技術の高さや人文科学や社会科学分野まで含んだ幅の広がりに応じて、同時に育成していくべきものです。

そして、4つ目のタイプが、タイプD、E、Bの人材と技術群を統合し、社会経済的な価値を生み出す能力(インテグラル能力)を持った人材であるタイプΣの統合能力人材です。

日本では、これまで大学においてΣ型人材の育成メカニズムが希薄だったのですが、21世紀のフロントランナー型の産業構造においては、大学でもこのタイプの素養を育成することが喫緊の課題です。

これらのタイプについて各々の学生の資質を見極め、適性に合わせた人材へと導くことが重要だと、本学では考えています。

「工学教育」と「科学技術研究」「イノベーション」の三位一体を推進

――芝浦工業大学では、創立90周年に向けて「チャレンジSIT-90」を推し進めていますが、この狙いと成果についてお聞かせください。

柘植 本学は、2007年に創立80周年を迎え90周年に向けて新たな10年を歩み始めています。同時に本学にとってのこの10年は、大学が生き残りをかけて競争する重大な試練の10年でもあります。

創立から現在まで「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」という、本学の建学の精神は脈々と息づいていますが、建学の精神の実践の重要性が今ほど社会から求められた時代はなかったといえるでしょう。

いま一度建学の精神に立ち戻り、教育、研究、そしてイノベーションの一体推進へ挑戦するときだと私は確信しています。

そこで08年4月からスタートした教学改革が「チャレンジSIT-90」です。教学ビジョンである「本学80年の伝統と強みを生かして工学教育と科学技術研究、イノベーションの一体推進を強化する」を実現するための3つの柱「基礎から積み上げる骨太な実践型技術者教育」「大学の国際化と次代を担う人間力の育成」「社会に役立つ教育研究とイノベーションへの参画」と「七つの挑戦」に従って、各教学機関が改革目標を設定しPDCAによる継続的、自律的な大学改革を教員、職員、学生が一体となって推進しています。

こうした目標を設定することで、教育の絶え間ない改善・改革を意識する、という組織文化を根付かせることができました。

08年からの10ヶ年計画のうち、これまでの3年間を第1段階とするなら11年4月からは第2段階に入ります。

これまでは各々の教学部門で、独自に目標達成に向けた取り組みを推進してきましたが、今後は独自性を継続しながらも、シナジー効果を高めるべく、学長室をはじめとし、各機関が連携して本学の教育改革を推し進めていきたいと思っています。

一年次から四年次までを通した工学リベラルアーツ教育で工学教育の実質化を図る

――芝浦工業大学は「就職に強い大学」ではなく「仕事に強い大学」となることが大切だと提言しています。具体的な教育方針を教えてください。

柘植 社会・経済的価値を創出するイノベーション人材の育成が重要だと申し上げてきましたが、本学では、工学教育の実質化に向けて本学独自の「工学リベラルアーツ教育」の強化を推し進めています。

実践型のイノベーション人材を育成するためには、初年次でリベラルアーツ教育を終了するような従来の教育では十分ではありません。

21世紀の市民として、自らの意見で判断・発言・行動できる素養を育成し、また、専門科目を学ぶ動機付けや理解度を向上するため、さらに問題解決能力を育成するために1年次から4年次まで連続した新しいリベラルアーツ教育が必要なのです。

生活・社会の中での工学の使われ方を学び、自律的な問題解決遂行に必要な人間力を養成する初年次の工学リベラルアーツ教育のみならず、専門科目を生活・社会への応用の中で学び、専門知識を応用した問題解決能力を育成する高学年の教育にも注力する新リベラルアーツ教育が必要とされているのです。

工学教育への原点回帰が就業力の育成にも繋がる

――芝浦工業大学は高い就職率を誇りますが、就業支援に対する取り組みについてお聞かせください。

柘植 2010年度、文部科学省の「大学生の就業力育成支援事業」に、本学の「社会の諸相を教材とした実践的就業力育成」が採択されました。

プログラムでは「産学連携による就業力育成科目と、その教育体制の整備・強化」や「進路を自ら選べる力を育成する教育科目の整備・強化」などの目標を達成するため、先ほど申し上げた本学独自の工学リベラルアーツ教育の効果向上や改善実施のほか、産業界での人材育成教育のノウハウを取り入れた、学生のコミュニケーションスキル育成教育を新たに開発し、実学的専門教育やキャリアデザイン構築能力を育成する教育を全学的に展開しています。

ただし忘れてはならないのは、単に就業力の強化だけを目指すのではなく、就業力育成を目的とした工学教育の実質化こそが重要だということです。

なぜなら、産業界が求める実践型技術者を育成することで、就業力はおのずと向上するというのが、本学の基本方針であるからです。

工学とは、社会・経済的に価値あるものを生み出し、社会生活のレベルを維持、向上させていく人間の営みそのものです。

「工」の字が意味するように「天と地の空間において人が価値あるものを創造する営み」が工学の原点なのです。その原点に戻って工学教育に特化すれば、就業教育や就業力育成のための別メニューは必要ありません。

建学の精神をベースにしながら、現在の社会の諸相やニーズを反映させた工学教育を徹底していくことこそが、21世紀の今、社会から強く求められていることであり、本学の使命でもあると、私自身が産業界に身を置いた経験から、強く確信しています。

柘植綾夫(つげ あやお)

1973年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。専門は機械工学。1969年に三菱重工業に入社し、技術本部高砂研究所長、代表取締役常務取締役技術本部長などを経て、2007年12月から現職。内閣府総合科学技術会議議員、日本学術会議会員なども務め、工学教育の在り方について積極的な提言を行っている。

明治学院大学・社会のために役立つ人材を建学の理念で養成する

明治学院大学 学長 大西晴樹
Haruki Onishi

米国人宣教師J・C・ヘボンが創立し2013年に150周年を迎える明治学院大学。
「他者への貢献」を教育理念に掲げ、有為な人材を輩出してきた。
キリスト教の黄金律『Do for Others』をキャリア教育を通して養成するため、教育目標の一つに「キャリアをデザインできる人間の育成」を掲げている。

対人能力に優れた人材育成にも定評がある同大学は、今後どのようなキャリア教育を展開していくのか――。大西晴樹学長にお話を伺った。


「他者への貢献」を社会で実践できる人材の育成を目指す

――明治学院大学は2013年に創立150周年を迎えます。今後、どのような大学像を目指すのでしょうか。

大西学長(以下、敬称略)1863年のヘボン塾創設以来、本学は「キリスト教に基づく人格教育」を掲げてきました。近年は「他者への貢献」(Do for Others)を教育理念として打ち出し、社会に役立つ人材の育成に努めております。

この教育理念は「自分が人にしてもらいたいと思うことを、あなたがたも人にしなさい」という、新約聖書の言葉に沿ったものです。それと同時に、創立者ヘボンが医療奉仕や辞書編纂、聖書の翻訳、学校創設などに生涯を捧げ、身をもって他者への貢献を示したことに由来しています。

この建学の精神に基づく教育目標の一つとして、本学では「キャリアをデザインできる人間の育成」を掲げています。他者への貢献を社会で実践するためには「自分がどのような目標を持って生きたいのか」を、在学中から考え、準備しておく必要があります。

そのためにも、自分のミッション(使命)を模索し、キャリアデザインに取り組める人材の育成を目指しています。

生計、生きがい、スキルのバランスを重視した独自のキャリアデザイン「J・C・C」

――明治学院大学におけるキャリアデザインの根幹を支える「J・C・C」という考え方について教えてください。

大西 「J・C・C」とは、学長としての私のキャリアデザインに関する考え方を表したものです。自立のためにどう生計を立てるかを考え(Job)、天職を見つけ(Calling)、プロフェッショナルとしての知識や経験を蓄積できる仕事を探す(Career)ことを意味しています。

このうちCallingとは、経済学者マックス・ヴェーバーの思想からヒントを得ました。ヴェーバーは論文『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で、プロテスタンティズムが資本主義の形成に重要な役割を果たし、近代の職業観に大きな影響を与えたと述べています。当時のプロテスタントにとって職業は神聖なものであり、神に与えられた召命(Calling)であると信じられたのです。

しかし現実には、理想だけを追求して生きていくことは難しい。そこで、Job、Calling、Careerという三つの観点から考えることが重要になるわけです。

Callingという観点から「生きがい」を模索し、Jobという観点から「いかに生計を立てるか」を考え、Careerという観点から「スキルやキャリアが磨けるような職場」を探す。この「J・C・C」のバランスが最も良い形を持つ企業が本人にとって良い職場ということになります。

大学、卒業生、企業がアライアンスを組み学生のキャリアを支援

――2010年度の文部科学省「大学生の就業力育成支援事業」に、明治学院大学の「MGアライアンスによる循環型キャリア教育」が選定されました。

大西 この取り組みは、大学と卒業生、企業関係者が一体となって「MGアライアンス」を形成し、学生の就業力を養成することを目的としたものです。

まず、アライアンスサポート室を設置し、卒業生が経営する企業や採用でお世話になっている主要企業などとコミュニケーションを取りながら、企業側の要望も取り入れて、学生の就業力養成の教育プログラムを共同で開発します。

在学生、卒業生、企業へ様々な調査をし、本学の就業力の現状を把握し、取り組みの効果を検証して、より効果的な就職支援に繋げていくのが狙いです。

サポート室には専門的なキャリアコーディネーターを配置し、企業からの情報収集や、学生の個性や資質に応じた就職相談を行います。また、振り返りや目標設定のツールとして「キャリアポートフォリオ」を開発します。

このツールの活用により、学生は目標を描き、アセスメント結果に基づいて自分の能力を伸ばしていくことができます。さらに、授業科目やキャリアデザインに関わる講座を可視化し、身に付く力や社会での有用性といった情報を一元化し、充実を図っています。

・・学生同士で就職を支援する試みも行われているそうですね。

大西 就職が内定した4年生が、自分の就活体験を後輩と分かち合う取り組みを行っています。朝6時半からディスカッションし、朝食を取りながら、就職活動に臨む下級生をサポートする。

これは職員の発案による自主的プロジェクトですが、本学ならではのフレンドリーな就職支援といえるでしょう。

このように上級生が下級生を、企業人や卒業生が学生のキャリアを支援する、まさに「循環型教育」であり、4年間の各種教育プログラムでは大学で力を培い、社会での体験を通じて、大学でさらに就業力を強化する、内―外―内の「循環型教育」なのです。

学生の実践力を養うという意味では、各学部の魅力を他学部の学生に分析させ、3月のオープンキャンパスで発表させる試みを予定しています。学生にプレゼンテーションの機会を経験させ、実践力を磨く野心的なプロジェクトです。

学生と伴走するキャリアセンターを目指す

――現在、明治学院大学ではキャリアセンターを拠点として就職・キャリア支援を行っています。特に注力するポイントについて教えてください。

大西 キャリアセンターで最も重視しているのが、対応力です。就職活動中の学生が抱える悩みを職員がしっかりと受け止め、就職内定まで伴走していく。そこに、キャリアセンターにおける支援の最も重要なキーがあると考えています。

一般に「キャリアセンターは敷居が高い」という声もあるようですが、本学では、キャリアセンターの利用は一年生からOB・OGに至るまで非常に高い利用率になっています。

――昨今の就職環境の悪化を受け、卒業生への就職支援も強化されています。

大西 2009年に「明治学院大学卒業生就職支援室」を開設しました。ここでは校友会の資金サポートを得て20代、30代の卒業生に就職・転職支援を行っています。

就職はしたが進路変更をしたい、資格試験になかなか合格できない、就職先とのミスマッチが理由で転職したいなど、様々な事情を抱えた卒業生を対象に、キャリアカウンセリングや面接対策、マナー研修などを行っています。

――実践的な知識、技術の習得を目指す職業教育については、どのように取り組んでおられますか。

大西 学長特別予算を用意して、各学部で様々な取り組みを行ってもらっています。以前からインターンシップに注力してきた経済学部では、学生の半数がインターンシップの講義を履修します。

2年次にインターンシップ科目を受講し、三年次に現場実習を経験します。この講義では、都市銀行の元支店長や大手生命保険会社の役員経験者がキャリアコーディネーターを務め、教員と共に学生の指導を行っています。

社会学部では、第一線で活躍する起業家を講師に招いて、起業に関する講座を開いています。学生の起業マインドを育て、キャリア観を豊かにしてもらうことが目的です。

法学部では新聞社と連携して「マスコミセミナー」を開設し、リテラシーや時事問題を読み解く力の養成を図っています。

また、心理学部では、心理学を活用して他者に貢献する力を養うため「心理支援力の強化」を目指していきます。国際学部では、2011年度からすべての授業を英語で行う国際キャリア学科を新設したことに伴い、海外インターンシップにも力を入れていく予定です。

コミュニケーション能力に秀でた人材を輩出する明治学院大学の伝統

――明治学院大学は「英語に強く就職に強い大学」というイメージがあります。秘訣はどこにあるのでしょうか。

大西 本学の公認文化団体「英語研究会」(ESS)は、いくつかの有名企業のトップを輩出しています。100人以上のサークル・メンバーを統率するなかで、実践力を磨いたことが、その後の活躍に結び付いていると言われています。

語学力を培っただけでなく、人をまとめていく能力を自然に身に付けている、そこに本学の精神が生きていると自負しております。

幕末維新の日本で様々な困難に耐えながらミッションを追求した、創立者ヘボン以来の伝統でしょうか、本学の学生の特徴は「控えめではあるが、芯がある」と言われています。

『他者への貢献 Do for Others』を体得した人間は、本学の教育目標にあるように、他者の理解ができる心豊かな人間であり、コミュニケーション能力に富んだ人間となるはずです。

彼らが他者、他国、自然環境と共に生きて、大いに社会で活躍するよう支援することが、私たちの使命だと思っています。

大西晴樹(おおにし はるき)

1953年北海道生まれ。75年法政大学法学部政治学科卒業、78年明治大学大学院政治経済学研究科修士課程修了、83年神奈川大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。93年明治学院大学経済学部教授に就任。同経済学部長を経て、2008年4月より現職。キリスト教学校教育同盟100年史編集委員会委員長。経済学博士。

地の利を最大限に活用し世界を舞台に活躍する人材を輩出する

学校法人青山学院
理事長半田正夫 Masao Handa

キリスト教信仰に基づいた建学の精神が脈々と宿る青山学院大学。同大学は21世紀のあるべき姿を目指し、大きく変貌を遂げつつある。

その将来ビジョンに沿って進められているのが2012年四月に実施される青山・相模原キャンパスの再配置だ。

教育研究機能のさらなる高度化を目指す青山・相模原両キャンパスの再開発は、新生・青山学院大学に何をもたらすのか。半田正夫理事長にお話を伺った。


活力あふれる変革を常に続ける

――青山学院大学は2006年11月に、将来ビジョンとして「アカデミック・グランドデザイン」を策定しました。その概要をお聞かせください。

半田理事長(以下、敬称略)本学はキリスト教信仰に基づき、聖書の言葉である「地の塩、世の光」を教育理念として人材育成に努めてきました。

このスクール・モットーには「たとえ目立たなくとも、社会に役立つような人材になってほしい」という願いが込められています。

この建学の精神を踏まえつつ、21世紀のあるべき姿を示したのが「アカデミック・グランドデザイン」で、本学が直面する課題を洗い出して174項目に分類し、改革のための指針としています。

近年の少子化に加えて、国の補助金も削減の一途をたどっており、私学は大変厳しい時代を迎えています。しかしながら、不況の影響もあって、授業料の値上げは難しいのが実情です。こうしたなかで青山学院大学が持続的に発展していくためには、様々な仕組みを考えていく必要があります。

私立大学が生き残っていくためには、常に動いていなければならず、絶えずエネルギーを燃やして活力あふれる変革を続けていかなければならないというのが私の持論です。

「青山学院にはエネルギーがある」と感じてもらえるよう、歩みを止めず、新しい取り組みを実行していこうと考えています。

2012年4月 青山・相模原のキャンパス再編が実現

――現在、青山学院大学が克服すべき重点課題とは何でしょうか。

半田 最大の課題は、学部の1、2年生と3、4年生が学ぶキャンパスが二つに分断されているということです。現在、文系学部の3、4年生は青山キャンパスで1、2年生は相模原キャンパスで学んでいます。まずはこの分裂状態を解消することが、喫緊の課題と考えています。

本学は1982年に厚木キャンパスを開設しました。これは1959年制定の工場等制限法により、都心部のキャンパス拡張ができなくなったためやむを得ず開設したわけですが、厚木キャンパスは都心から遠すぎたため、様々な問題が生じました。

例えば2年次の単位を一つでも落とすと、三年生になっても厚木キャンパスに通わざるを得ない。厚木で授業がある日は青山キャンパスに行けないので、結果として留年する学生が増えるなど、在校生に不人気で、受験生の数も減ってしまったのです。

そこで2003年に厚木キャンパスを閉鎖して相模原キャンパスを開設し1、2年生を相模原に移すことにしました。同キャンパスは最寄りの淵野辺駅からも近く、以前と比べると大変便利になりましたが1、2年生と3、4年生の分裂状態は依然として解消されないままでした。

私が学長時代に関わった「アカデミック・グランドデザイン」が策定されたことで、青山キャンパス再開発計画がスタートし、2012年に長年の懸案が解決することになりました。

産学連携の研究拠点として期待される相模原キャンパス

――キャンパス再編によって、青山・相模原両キャンパスの役割はどのように変わるのでしょうか。

半田 2012年4月には、これまで相模原キャンパスで学んでいた人文・社会科学系七学部の1、2年生約7,000人が、青山キャンパスに移ることになります。

一方、相模原キャンパスには、理工学部と社会情報学部という二つの理系学部が残ります。ここには、キャンパス再編で空いたスペースを活用し、理系の新学部を開設することを検討中です。

相模原市はもともと中小企業が多く、本学の進出以来、地元企業と理工学部との間で産学連携の機運が高まってきました。また、相模原市は東京に最も近いリニアモーターカーの停車駅の有力候補地でもあり、将来的には新横浜駅周辺のように発展する可能性も秘めています。

また、在日米軍の補給施設が2013年度には返還・開放される予定で、大規模な工業団地を造成する計画もあるようです。

こうした相模原市のまちづくりを追い風に、相模原キャンパスでも、工業に重点を置いた学園づくりを推進したいと考えています。

幸い、相模原市役所には本学の卒業生が60人以上勤務しており、市役所内に青山校友会の支部があるほどで、人脈には恵まれています。この縁を最大限に活用して、相模原キャンパスを先端的な科学技術研究の拠点にしたいと思っています。

将来的には理工系の高等学校の新設も考えており、また、外国人留学生を数多く受け入れて国際交流の拠点とする案もあります。

相模原市の人口増加は、都内ナンバーワンで、特に他府県から若い人の転入が多いと言われています。このような成長力がある地域との連携を深めながら、キャンパスの活性化を図っていきたいと考えています。

青山キャンパスは地の利を生かした文化・情報の発信拠点に

――文系の学部・大学院が集約される青山キャンパスについては、どのような将来像を描いておられますか。

半田 青山キャンパスについては、地の利を最大限に生かした教育研究を行っていきたいと考えています。20年ほど前、ある団体の寄付講座を青山キャンパスで開催したことがあります。

各界の超一流の方々に講師をお願いしたのですが、多忙なはずの皆さんが二つ返事で引き受けてくださったのです。

本学の知名度の高さもさることながら、立地の良さも大きな要因でした。青山キャンパスは渋谷からほど近い都心にあるので、どんなに多忙でも、仕事の合間に立ち寄ることが可能だったのです。

この一連の講義は学生からも大変評判が良く、受講者を先着順としたところ、早朝から行列ができるほどでした。青山キャンパスの周囲には文化施設やデジタル・コンテンツの会社も多く2008年に新設された総合文化政策学部では、映像や放送などに関する教育を行っています。

一方、青山地区は、根津美術館、岡本太郎記念館をはじめとする文化施設が集積する地域でもあります。こうした環境を最大限に利用して、青山キャンパスを、IT時代にふさわしい文化や情報発信の拠点にしたいと考え2009年9月に「青山から文化を創造し社会に発する」をコンセプトに、複合文化施設「青山学院アスタジオ」を竣工しました。

NHKサテライトスタジオや多目的ホールを備えた教育・研究施設で、地域や国内外の多くの学生に利用してもらえます。

――新しい青山キャンパスは、自然光や風を取り入れた、環境に配慮した設計になると伺っています。具体的にはどのような青写真を描いていますか。

半田 私が本学に赴任した四十数年前は、東京オリンピックの直前でした。大改修で騒然とした青山通りから一歩キャンパスに入ると、森閑とした空気の中にコリント風の建物が佇み、それが非常にアカデミックな印象だったのを覚えています。

一時は、間島記念館を取り壊して高層ビルを建てるという話もあったのですが2008年に間島記念館とベリーホールが国の登録有形文化財に指定されたのを機に、正門からの眺望を永久に残していこうということになりました。青山学院ならではのキャンパスの佇まいを大切にしながら、青山キャンパスの再開発を進めていきたいと考えております。

「英語の青山」の名に恥じない国際的な人材を育成

――今後、青山学院大学はどのような人材を世の中に送り出すべきだとお考えでしょうか。

半田 本学は古くから「英語の青山」と呼ばれてきました。その言葉に恥じぬよう、世界を舞台に活躍できる人材を送り出したいと考えています。

そのためにも、よりいっそう力を入れていきたいのが英語・語学教育です。今後は中国や韓国をはじめ、世界中から留学生を受け入れて、日本の学生と外国人学生が交流する機会をもっと増やし、異文化交流を通じて様々な能力を身に付け、海外で活躍できる人材を育成したいと考えています。

青山学院大学の学生の強みは、明朗で人の和を大切にし、社会性が豊かであるということです。最近の大学入試は偏差値偏重主義で、能力を図るものさしが記憶力に偏りがちです。しかし、単なる知識や情報は、インターネットで検索すればたちどころに入手することができます。

それよりも、コンピューターでは検索できない、想像力や創造性、協調性や明朗さといった能力を重視すべきではないでしょうか。こうした能力を豊かに持っているのが本学の学生であり、その潜在能力をどのように引き出すかが、我々の務めだと考えています。

幸い、青山学院には全国から優秀な教員が集まってきています。立地的にも恵まれていますし、日本一の大学になるという気概を持って、大学の改革を推し進めていく所存です。

半田正夫(はんだ まさお)

1933年北海道生まれ。56年北海道大学法学部卒業、61年同大大学院法学研究科修士課程修了、67年法学博士号取得(北海道大学)。青山学院大学法学部教授、同法学部長を経て、99年12月青山学院大学学長に就任(~2003年12月)、2010年10月より現職。社団法人日本複写権センター理事長(1999年~)などの要職も務める。

愛知大学・新名古屋キャンパスは「第二の創学・建学」の第一歩

愛知大学 学長・理事長
佐藤元彦 Motohiko Sato

愛知大学は2012年4月、名古屋駅至近の「ささしまライブ24地区」に新名古屋キャンパスを開校させる。これに伴い、豊橋、車道を合わせた三キャンパスの位置付けを明確にし「第二の創学・建学」とも言うべき大変革を推し進める計画だ。佐藤元彦学長・理事長にキャンパス再編の狙いとビジョン(第三次基本構想―次を拓く愛大2015)をお伺いした。


名古屋市のグレーターナゴヤ・イニシアティブ(GNI)と大学の理念が合致

──「新名古屋キャンパス」の開校まであと1年になりました。新キャンパス開校に至る背景や経緯をお聞かせください。

佐藤学長・理事長(以下、敬称略) 1946年11月に中部地区唯一の旧制法文系大学として豊橋市で開学した愛知大学は、創立当初から名古屋市進出が長年の夢でした。

中国・上海に設置された日本最古の海外高等教育機関・東亜同文書院大学の学籍簿を受け継ぎ、同大学を前身とすると言っても過言ではない経緯で誕生した愛知大学は、開学以来「世界文化と平和への貢献」「国際的教養と視野をもった人材の育成」「地域社会への貢献」を建学の精神に掲げ、多岐にわたる改革を推進してきた歴史があります。

名古屋市進出というその思いは、開学から数年後の51年に名古屋市中心部の車道に校舎を開設することで実現しましたが、年を追うごとに手狭になり、当時の工場等制限法の規制もあり88年、名古屋市郊外の三好町(現みよし市)に名古屋キャンパスを開設したのです。

豊橋キャンパスとの距離や交通の利便性などで様々な問題がありましたが、三好でありながら名古屋キャンパスと命名したところに名古屋に対する強い思いがあったのです。

今回、名古屋市のグレーターナゴヤ・イニシアティブ(GNI)の一環として、ささしまライブ24地区の再開発構想が持ち上がり、念願の名古屋キャンパス実現に向けて取り組みを始めたわけです。

名古屋市は「国際歓迎・交流拠点」の形成と「にぎわいのある複合型のまちづくり」構想を推進するため、ささしま地区の再開発に着手し、その計画に賛同する事業体を募ることになったのです。

同市は当初、大学の誘致を選択肢として検討していなかったようです。しかし、常時にぎわいをつくり、ささしま地区を国際化の玄関にしたいという、名古屋市の開発コンセプトが、愛知大学の建学の精神や実績、将来ビジョンと合致したため、コンペの参加資格を得たのです。2007年秋にはコンペ参加を機関決定し2008年1月15日に本学の案が採択されました。

各キャンパスの使命を明確化し大学の総合的な発展を実現

──新名古屋キャンパス開設後の体制、各キャンパスの特色に関してお聞かせください。

佐藤 新名古屋キャンパスを開設するに当たり2012年度以降は現在の名古屋キャンパスを閉鎖し、豊橋、車道を含めた3キャンパス体制になります。

大規模な学生と教職員が移動することになりますので、これを機にこれまで曖昧だった各キャンパスの特色やミッションを明確に打ち出していきたいと考えています。

具体的には、新名古屋キャンパスを「国際化への貢献拠点」、豊橋キャンパスを「地域社会への貢献拠点」、車道キャンパスを「高度専門職業人の育成拠点」と位置付ける方針です。

まずは2011年度、豊橋キャンパスが変わります。人文・社会科学領域への多角的なアプローチによる教育研究の発展を目指して、文学部に六つのコースが設置されるのと同時に、地域政策学部が開設されます。

同キャンパスは三遠南信地域連携センターをはじめ3つの地域研究機関が設置され、地域への貢献に力を入れています。地域政策学部の開設で、地域社会への貢献拠点としての豊橋キャンパスの特色がいっそう発揮され「地方の時代」の先駆者としての本学に、大きな期待をいただいています。

2012年度になると新名古屋キャンパスに法学部、経済学部、経営学部、現代中国学部、国際コミュニケーション学部が移転し、約7,000人が学ぶ一大拠点が形成されます。

現代中国学部と国際コミュニケーション学部を同キャンパスに移転させるのは、先にも述べた、国際化への貢献を視野に入れているためです。

一方、法学部、経済学部、経営学部を新名古屋キャンパスに集約するのは、これらの学部が、かつて法経学部としてまとまっていたという本学の歴史的背景があるのです。

1988年の三好キャンパス開校後3学部に分離したのですが、当初は各々の教員がキャンパス間を行き来し、他学部の科目が学べるなど、相互協力体制が取られていました。

しかし、時の経過や時間・距離などにより、協力体制も徐々に希薄になっていったのです。本学は公務員試験の合格者が多いことで知られますが、これは多様な学問の習得と地域への貢献を大切にする本学の理念によるところが大きいのです。

3学部が再び1つのキャンパスに集まることで、相乗効果が創出され統合力が高まることを期待しています。

高度専門職業人育成をベースとする車道キャンパスには、以前からある専門職大学院(法科、会計)に加え、大学院五研究科を集約します。

また、名古屋駅から電車で8分という地の利を生かして、社会人のリカレント教育やシニア向けの講座も充実させる予定です。

──環境都市・名古屋市に竣工するだけあり、新名古屋キャンパスは、環境にも十分配慮した設計になっているとお聞きしています。

佐藤 新名古屋キャンパスは、キャンパスの地下に地域冷暖房のプラントを設置し、それを周辺の建物に供給していくシステムになっています。

また、二期工事では、高層の建物の中に風を通す穴が開けられます。これは、ビル風対策であると共に、その風を冷暖房にも活用していくという発想です。もちろん、屋上緑化なども計画しています。

愛知大学は早くから環境を重視した教学体制を整備してきました。新名古屋キャンパスにおいても「環境」を念頭に置いた研究・教育を実践し、地域社会に貢献していきます。

「第二の創学・建学」を通じて世界に発信する大学へ

──人文社会科学系の総合大学として確固たる地位を築きつつありますが、真の総合大学へと発展するためには、理工系学部の開設も必要ではないでしょうか。この点についてどのようにお考えでしょうか。

佐藤 冒頭で述べた通り、愛知大学は中国との学術・教育交流に先進的に取り組み、多くの実績を重ねてきました。しかしながら、最近は他大学でも理系、特に工学系が主体となって急速に中国との関係を深めており、人文社会科学系の大学である本学の特色が十分に生かされていないのも事実です。

実は、創立時に関係官庁に提出した書類に「将来の計画」という一節があり、そこでは農学部と水産学部の設置についても言及しています。創学の地、豊橋キャンパス周辺は日本でも有数の農業生産地でもあり、最近は工学を農業に生かした取り組みも進んでいます。

他大学との連携も視野に入れながら2020年代の初めごろには、理系を含めた総合大学化を実現したいと考えています。

──キャンパス移転を機に大きな転換期を迎えられますが、学生募集という観点からも、新名古屋キャンパスの開校は大きな意味を持つのではないでしょうか。

佐藤 本学は伝統的に、三重県、岐阜県からの進学者が多かったのですが、名古屋駅から時間がかかるなど、立地条件を理由に進学者が減少する傾向にありました。

しかし、新名古屋キャンパスが名古屋駅から徒歩約10分の距離にできることなどから、移転発表後のこの2、3年は着実に受験生が増えています。2010年3月は、一般入試の志願者数が約10年ぶりに15,000人の大台を超えました。今年度の公募制一般推薦入試についても、前年比で50%も増えています。

──佐藤学長は「第二の創学・建学」が必要だと強調されています。大学の将来像について、お聞かせください。

佐藤 ささしまライブ24地区は、周辺にJRセントラルタワーズ、ミッドランドスクエアなどの高層ビルが立ち並び、様々な開発計画が進行している、経済、交通の要所です。

その主要拠点に新名古屋キャンパスを開校することや、既存学部の再配置などを契機として「第二の創学・建学」を推し進めていきたいと考えています。大事なのは、今こそ愛知大学はどういう大学としてスタートしたのかを、再認識するときだということです。

私立大学では、常に建学の精神に基づいた改革が必要です。「世界文化と平和への貢献」「国際的教養と視野をもった人材の養成」「地域社会への貢献」という建学の精神がどのような思いを持って定められ、大学としてスタートしたのか。

東亜同文書院大学を前身としますが、そのほか、海外の旧制大学、旧制高校からの入学者も大勢いました。そのような創立時の経緯からすると、東京大学、京都大学、慶應義塾大学、早稲田大学などと並び得る大学として開学したと認識しています。

愛知大学は、今や新司法試験や公務員試験の合格者数、中国に関する研究・教育では、全国有数の実績を誇り、ある調査では2010年の学部別就職率ランキングにおいて、本学の経営学部が全国トップになっています。

これらの実績を基にしながら、人文社会科学系の総合大学である本学の評価を、まずは全国に、そして海外に広めていきたいと思います。

愛知大学の「愛知」は、地名を冠したものではなく、実は「知を愛する」として命名されたことや、初代の学長が慶應義塾大学の塾長経験者だということもあまり知られていません。

これらの本学の伝統や特色を全国にそして世界に、積極的に発信していくのと同時に、教育と研究をいっそう充実させ、本学の強みをさらに磨いていく。

その結果が、地域社会への貢献、世界文化と平和への貢献に繋がり、世界から注目される大学に変革し、成長を遂げていくのです。

佐藤元彦(さとう もとひこ)

1958年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。89年、広島大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。特殊法人日本学術振興会特別研究員(PD)、愛知大学経済学部助教授、教授、経済学部長・理事、副学長、学長代行などを歴任し、2008年8月から現職。

ナジックのロゴが京都・都大路を駆け抜けた

平成22年度全国高等学校総合体育大会
男子第61回 女子第22回
全国高等学校駅伝競走大会
日  時:平成22年12月26日(日) 
    スタート/女子10:20 男子12:30
場  所:京都市西京極陸上競技場付設マラソンコース
主  催:(財)日本陸上競技連盟、(財)全国高等学校体育連盟、
    毎日新聞社、京都府 京都府教育委員会、
    京都市 京都市教育委員会
後  援:文部科学省、NHK
特別協賛:ナジック学生情報センター

ナジック特別協賛!「全国高等学校駅伝競走大会」レポート

師走の京都・都大路を駆け抜け、冬の風物詩ともいえる「全国高等学校駅伝競走大会」(以下、全国高校駅伝)が、京都市内を舞台に平成22年12月26日(日)に開催された。今回で男子は61回、女子は22回目を迎えた同大会には、全国から予選を勝ち抜いた総勢94校が参加。それぞれの思いを胸に襷を繋いだ。

駅伝が地域や母校への誇りをもとに襷を繋げていくのと同様に、ナジック学生情報センター(以下、ナジック)では「繋がり」「情」「継続」を経営理念に掲げ、学生の未来を拓く教育環境づくりに力を注いできた。

ナジックはこれまで「びわ湖大学駅伝」や「全国学生相撲選手権大会」の特別協賛を務めるなど、学生スポーツに対するサポートを行ってきた。

全国高校駅伝の特別協賛は平成21年度から始まったが、ナジックの長年培ってきた学生支援に対する企業姿勢が高く評価され2年連続して同大会のゼッケンスポンサーに選ばれている。

全国高校駅伝はナジックの本社がある京都において、昭和41年の第17大会から開催されてきており、スポンサーを務める意義は大きいものがある。平成22年度の全国高校駅伝大会の模様と、ナジックの関わりをレポートする。

師走の京都に全国から94チームが集結開会式で決意を固める

全国高校駅伝は、日本陸上競技連盟や全国高等学校体育連盟などの主催により、昭和25年に大阪で第一回大会が開催された。昭和41年、開催の地を京都に移し、平成元年からは女子大会も併催されるようになった。

歴代走者には日本を代表するマラソンランナーである、瀬古利彦氏や谷口浩美氏らも名を連ねており、高校生ランナーにとって、同大会は夢の舞台となっている。

大会前日の12月25日(土)。西京極陸上競技場に隣接する京都市体育館で、開会式が開かれた。セレモニーでは選手たちの入場行進に続き、全国高体連会長杯、文部科学大臣杯など、各杯と優勝旗の返還および、レプリカの授与が行われた。

その後、全国高等学校体育連盟会長の三田清一氏から祝辞、京都府、京都市関係者からの挨拶と歓迎の言葉に続き、特別協賛として「ナジック学生情報センター」の社名が読み上げられた。

選手宣誓は、昨年の男子優勝校である世羅高等学校(広島県)の藤川拓也主将が担当。「チームの思いを襷に込め、師走の都大路を韋駄天のごとく駆け抜けることを誓います」と、力強く宣誓した。

また、式典では大会ポスターとプログラム表紙の優秀作品の表彰も行われた。今回も昨年に続きナジックグループの北澤俊和代表から優秀作品賞が、京都精華女子高等学校の森岡風香さんへ授与された。

冬の都大路を駆け抜ける絶好の駅伝日和の下すべてのランナーが全力を尽くす

大会当日12月26日(日)の午前10時20分。号砲が鳴り響くなか、まずは女子の部が始まった。

当日の天候は晴れ、スタート時の気温は9度で絶好の駅伝日和。47人の選手たちはナジックのゼッケンを胸に、スタート地点である京都市西京極陸上競技場を生き生きと飛び出していった。

女子の部は21.0975km(ハーフマラソンの距離)のコースで4つの中継所を5人のランナーが繋ぐ。西京極陸上競技場を出発し、平野神社前、烏丸鞍馬口の中継所を経て室町小学校前で折り返し、北大路船岡山、西大路下立売を経由して西京極に戻ってくる。

レースは終盤4区で動きを見せる。2位で襷を受けた興譲館高等学校(岡山県)が、同区間1位の走りを見せ、それまでトップの須磨学園高等学校(兵庫県)を逆転。一位で襷を受けたアンカーがそのままゴールテープ切り1時間7分50秒の記録で5年ぶり2度目の優勝に輝いた。

女子の部の興奮が冷めやらぬなか12時30分には男子の部がスタート。天候晴れ、気温九・五度のコンディションの下、各都道府県の地区大会を勝ち抜いてきた47人の選手たちは、力強い走りで西京極陸上競技場を後にする。

女子がハーフマラソンの距離を走り抜けるのに対して男子は42.195kmを7人で繋ぐ。

西京極陸上競技場を後にした第一走者は、区間最長の10kmを走り烏丸鞍馬口で第2走者に襷を中継する。第2走者が担当するのは丸太町河原町までの3kmだ。

第2中継所で襷を受けた第3走者は、国際会館前の折り返しを経て、襷を受けた地点で次の走者に襷を繋ぐ。その後レースは終盤に入り、烏丸紫明、西大路下立売の中継所を経て西京極陸上競技場に戻ってくる。

レースは最後のトラック勝負までもつれ込む。最初にトラックに姿を見せたのは、昨年の覇者で連覇を狙う世羅高等学校(広島県)。その後をわずか2、3秒の差で鹿児島実業高等学校(鹿児島県)のアンカーが追う。

この激しいデッドヒートを鹿児島実業高等学校が最後の280mで逆転し2時間3分59秒のタイムで42回目の出場にして見事初優勝を果たした。

男女共に大会新記録には至らなかったが94すべてのチームが限界に挑戦した素晴らしい大会となった。

また、各優勝チームに双子のランナーがいたことも印象深かった。興譲館高等学校では4区と5区で姉妹が、鹿児島実業高等学校では1区と6区で兄弟が襷を繋ぎ、チームの優勝に貢献した。

優勝校の監督にナジックからトロフィーの授与新たな決意を掲げた閉会式

大会が終了した同日午後4時からは、閉会式が行われた。レース直後は歓喜と号泣に包まれていた選手たちも、閉会式では激しい競争を終え、晴れやかな表情を見せていた。

女子、男子共に、優勝校をはじめとする8位までの入賞校に対して、表彰が行われた。

また、今回は優勝監督賞として、女子優勝校の興譲館高等学校森政芳寿監督と男子優勝校の鹿児島実業高等学校上岡貞則監督に対して、ナジックの西尾謙代表取締役社長より記念トロフィーが授与された。

全国高校駅伝のゼッケンスポンサーとなって2年。ナジックの名は、沿道で選手たちに声援を送るファンやテレビ観戦をする多くの人々の目に焼き付いた。

ナジックグループは、今後も「教育環境創造企業」としての社会的使命を果たすべく、確固たる理念の下、より幅広い学生サポートを展開していくだろう。