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「夢」を原動力に世界と地域に貢献する

「夢」を原動力に世界と地域に貢献する
「グローバル・エクセレンス」の実現に挑む

神戸大学長
福田秀樹

2009年4月から神戸大学の新学長に就任された福田秀樹氏は、民間企業経験者の学長として多方面から注目を集めている。民間企業での経験や、マネージメント力を今後の大学改革にどう活かすのか。福田新学長にお伺いした。


民間企業経験を活かして自然科学系組織を改組

――民間企業の研究者から転進して、神戸大学工学部の教授に就任されたのが1994年。その後、企業での経験をどう活かしてこられましたか。

福田学長(以下敬称略) 私は24年間、民間企業の研究所に勤務し、47歳のときに神戸大学の教授に就任しました。民間時代の大半を研究者として過ごしたのですが、最後の5年間は主にマネジメント業務に従事しました。会社全体のプロジェクトの計画立案、運営、研究者・技術者の統括といった仕事です。この経験は大学への転職後も活きています。

私は「自然科学系先端融合研究環」という組織に所属しているのですが、前身は自然科学研究科という名称でした。当時は、理学部、工学部、農学部、海事科学部などの五つの部局が、その自然科学研究科に属していました。しかし、組織として効率的な体制になってはいなかった。そこで、私が責任者として改組することになりました。

それぞれ部局ごとに文化も価値観も異なります。各部局が改組にかける期待や希望もそれぞれです。多様な考えをどうまとめて、一つのベクトルへとまとめていくか。実際は容易ではありませんでした。各部局の代表者だけが集まって話をすると、エゴのぶつかり合いで前に進めません。そこで、利害関係のないベテラン教員二名にオブザーバーとして参加してもらい、議論を進めていきました。

革新的な改組案に対しては、「文部科学省から反対されるに違いない。無理だ」と消極的な意見も出てきました。しかし、民間出身の私には先入観がありませんから、逆に改革への足かせも少なかったと思います。

結局、工学研究科、理学研究科、農学研究科、海事研究科に再編し、それらを統括するコア組織として自然科学系先端融合研究環を置き、それぞれの部局から人材を集めて研究チームをつくるという体制に改組したのです。この一連の仕事で、民間時代のマネジメント経験が大いに役立ちました。

バランス感覚で大学のプレゼンスを高める

――企業と大学を比較して、今後の大学のあるべき姿をどうお考えですか。
福田 まず企業の特質からいいますと、企業は利益を上げる集団ですから、効率の追求を非常に重視します。プロジェクトのスパンもどんどん短くなっており、短期的な利益を求める傾向が強くなっています。

一方、大学の長所は、多様な研究に自由に取り組めることです。もちろん、様々な制約もありますが、各種の研究を進め、その情報を発信し、その成果を社会に還元することが、大学の使命の一つです。ですから、大学運営においては、自由な研究環境を担保することを重視すべきでしょう。
法人化後の大学運営においては、「経営感覚」や「効率」といったキーワードが頻繁に使われるようになっています。もちろん、今の大学は、〝お金も物も与えられて、やりたいことをやっていればいい〟という時代ではありません。しかし、大学のあり方が、あまりに企業に近いものになってしまうと問題です。そこのバランスをいかにとっていくかが、法人化後の大学マネジメントで問われているのだと思います。

例えば、研究分野のバランスです。社会の喫緊のニーズに応える研究も重要ですが、国や地球の未来を見据えた基礎研究も同じく重要です。
2008年にノーベル賞を受賞された小林誠先生、益川敏英先生の研究は基礎研究でした。

研究が発表されたのは1970年代で、研究テーマは、社会の問題の解決にすぐに役立つというものではありませんでした。しかし、40年近く経ってから、その研究の重要性が認められました。企業は成果が出るのを長い期間待てませんから、長期的視野の基礎研究は、大学の役割の一つです。

しかし一方で、今は大学のプレゼンスが問われています。大学の社会貢献や存在価値が、外部に明示されていなければなりません。そのためには、研究情報を発信し、研究成果を社会に還元したり、外部から客観的に評価を受ける仕組みも大事です。

大学にしかできない、将来に備えた基礎研究と、現代の社会に貢献できる研究と、両方のバランスをうまくとっていく必要があるでしょう。
本学は2006年より「神戸大学ビジョン2015」を掲げ、研究・教育におけるグローバル・エクセレンスの実現を目指しています。中期に当たる2010年からの3年間を「チャレンジ・フェーズ」、つまり「神戸大学がグローバル・エクセレンスの実現に挑戦する時代」と位置づけています。「挑戦する時代」ですから、具体策を打ち出していき、目に見える変革を積み重ねていくことが、私の役割です。

一つには、本学の研究者・教育者に対する評価とインセンティブの制度を整えたいと考えています。企業の研究者であれば、「特許をいくつ取得したか」「研究が実用化され、どれだけの利益を生み出したか」といった尺度で、数字で業績を評価することができます。しかし、大学の研究者や教育者には、もっと長期的な視点で、継続的に評価していく必要があります。その評価制度をどう整備するかという課題が一つです。

それと同時に、インセンティブをどう与えるかも重要です。評価された人が何らかのインセンティブを得られるシステムをつくりたいと考えています。例えば、新しい評価制度で評価の高かった研究者に対しては、その研究グループのポストや人員を増やす。あるいは、ボーナスを支払うなどで金銭面のインセンティブを与える。そのようにして、「あなたを評価しています」「大事にしています」という大学からのメッセージを、研究者や教育者に発信できるようにしたい。そうした環境でこそ教職員の能力がより発揮されると思うからです。

また、今は大学間の競争も厳しい時代です。学内での評価や待遇に不満を感じている教員が、他大学に引き抜かれることもあります。そういう意味でも、評価とインセンティブの制度づくりは、ぜひ挑戦したい課題です。
また、国際色豊かな大学であることが、神戸大学の特徴の一つです。現在、1000名を超える留学生が在籍していますが、今後はさらにその数を増やしていきたいと考えています。そのためにはハード面の整備が必要です。留学生寮の拡充をはじめとしたインフラも、具体的に進めていきたいところです。

研究者自身が夢に溢れ学生同士が磨き合う大学に

――学生に対する教育面では、どのようなビジョンをお持ちですか。
福田 教職員が学生の立場に立って考え、行動できる大学にしていきたいと考えています。大学の先生は、知識はもちろん学生より豊富ですし、自分のやり方が正しいと思い込みがちです。しかし、時代は変わっています。

例えば、今の学生は非常に恵まれた環境に育っています。欲しいものがすぐに買え、行きたいところにも簡単に行くことができます。しかし、努力と工夫で欲しいものを手に入れるほうが、喜びは大きいものです。ハングリー精神はそういう環境で育まれます。

また、困難な状況に陥ってこそ、人のありがたみが身にしみるものです。だから昔の方がよかったと言いたいわけではありませんが、昔と今とでは、学生が置かれている環境も、学生の気質も大きく異なることは事実です。ですから、教職員が自分のバックグラウンドにとらわれて学生に接していると、現代に生きる学生のよいところを伸ばすことはできません。今の学生を最大限に伸ばすためには、やはり学生の立場に立った教育が必要なのではないでしょうか。

「大学生の学力が落ちている」と騒がれていますが、私はそう思いません。今の学生も、能力、知識、ポテンシャルともに非常に高いものを持っています。ただし、人間関係を構築する力が足りないように感じます。

企業の人事担当の方々とお話ししていても、「人間関係が苦手な若手社員が増えている」とよく聞きます。能力はあるのに、人間関係がうまくできないので、孤立してしまう。そういう社員が多いと、企業としても困るのです。私の研究室には60名超の学生がいますが、学生同士が互いに切磋琢磨できる環境を意識的につくっています。学生同士が対話をし、時には批判し合い、そして協力し合える環境です。そういう環境づくりを、神戸大学全体に広げていきたいとも考えています。

具体的には、教育と研究の両面で大きな成果を生むであろう試みとして、「フラッグシップ・プロジェクト」というものを構想しています。
神戸大学は、近隣の大阪大学や京都大学と比べると規模こそ小さいのですが、神戸大学だから実現できることがあるはずです。例えば、神戸大学の各分野の力を結集してプロジェクトを立ち上げるといったことです。本学は自然科学系、社会科学系、生命・医学系、人文・人間科学系の四つの学術系列に分かれており、各学術系列には、世界的にも評価されている個人やグループの研究者がいます。

しかし、それらの人々が結集して一つのプロジェクトを立ち上げた例はありません。大学としての規模が大きすぎると、全分野の研究者が一つのプロジェクトを進めるのは困難ですが、神戸大学の規模ならそれが可能です。このプロジェクトを「フラッグシップ・プロジェクト」と名づけ、例えば「グリーンで安心安全な社会を構築する」といった目標のもとに英知を結集し、研究と社会貢献を展開していきたいと考えています。

神戸大学の研究者が、共通の大目標に向かって邁進している姿は、学生にも素晴らしい刺激を与えると思います。学生たちには、大学生活で自分のやりたいこと、一生をかけて追究していきたいテーマを見つけ、そこで自分の「夢」を見つけてほしいのです。それを社会で実現するための基礎力を身につけさせることが、教職員のミッションです。

研究者や教育者自身が互いに協力し、夢に向かって仕事をする。その姿を見て、学生も成長するのです。教員が学生に背中を見せることが重要です。

神戸という地が育んだ、国際性と開放性。そのメリットを活かし、未来に向けて明るい夢を実現していきたいと思います。神戸大学なら、2015年の「グローバル・エクセレンス」はきっと達成できる。私はそれを確信し、努力していきます。

福田 秀樹 Hideki Fukuda

1947年生まれ。70年に京都大学工学部を卒業後、鐘淵化学工業株式会社(現カネカ株式会社)に入社。94年に神戸大学工学部教授、神戸大学大学院自然科学研究科教授に就任。その後、神戸大学付属図書館副館長、同大大学院自然科学研究科長、同大自然科学系先端融合研究環長などを歴任し、2009年4月より現職。専門は生物化学工学。工学博士。

大学改革提言誌「Nasic Release」第19号
記事の内容は第19号(2009年6月1日発行)を抜粋したものです。
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