トップページ > ナジックリリース > 第19号 > 5女子大学共同教職大学院運営モデルの構築 (学校法人日本女子大学常務理事 若林 元)

5女子大学共同教職大学院運営モデルの構築

2008年度の戦略的大学連携支援事業の選定を受け、日本女子大学、大妻女子大学、実践女子大学、昭和女子大学、東京家政大学の5女子大学による共同教職大学院の開設が進められている。「女性リーダー教員の養成」を目的とした本連携事業が構想された背景には、女性教員の管理職が数%しかいないといった教育現場の実情があった。大学の連携により、どのような新しい共同教職大学院が誕生するのか。その展望と課題を取材した。


5女子大学が平等に分担・協力する

政府が男女共同参画社会の実現を掲げてから歳月が流れた現在も、教育現場の女性教員の活用が十分に進められているとはいいがたい。小学校の教員における女性の割合はおよそ半数を占めるものの、管理職を務める女性教員の数となると極めて少ないのが現状である。

2007年度学校教員統計調査(中間報告)によると、校長職のうち女性教員の占める割合は、中学校でわずか4.9%、高等学校で5.3%に過ぎない。初等から高等教育の質の充実が求められている今日、優れた女性教員の育成は、我が国の教育体制の重要課題の一つといえるだろう。

このような問題意識を共有する五女子大学が、戦略的大学連携支援事業の選定を受け、「共同教職大学院」の設置を進めている。日本女子大学、大妻女子大学、実践女子大学、昭和女子大学、東京家政大学の五大学である。日本女子大学常務理事・若林元氏は、連携事業の経緯をこう語る。

「管理職を務める女性教員の数が少なく、『学校経営に女性教員の能力が十分に活かされていない』という問題意識がありました。2003年度に教職大学院制度ができてからは、『女性リーダー教員を養成する専門機関をつくりたい』と、五つの女子大がそれぞれに考えていましたが、『いくつかの大学が協力して、より質の高いプログラムをつくれないか』という考えのもと、五女子大学の学長がはじめて集まったのが2年前のことでした」

しかし、当時、複数の大学が共同で大学院を設置する上で考えられるのは、「連合」という仕組みだけだった。「連合」の仕組みでは、一つの大学が基幹大学となり、参加大学がそれぞれに教育プログラムを提供する。学位は基幹大学が授与し、提携の中心は基幹大学が担う形である。教職大学院の分野では、すでに京都教育大学が基幹大学となり、この「連合」形式の試みが始まっていた。

日本女子大学を中心とする五女子大学の間では、「お互いに平等な関係で協力したい」という意思があったが、「少子化の時代で経営が厳しい中、まったく新しいやり方でリスクを負えるかが課題だった」と若林氏は言う。
「ちょうどそこに、共同学部・共同研究科制度という新制度ができそうだという話がありました。情報を集めると、大学間が共同で教育課程を編成できるといいます。昨年の秋に新制度が公表されたのを機に、五女子大でこの制度を活用しようと決めました」(若林氏)

入学者は、五女子大学のうちの一大学に「本籍」を置くが、「学籍」は五大学すべてに持ち、学位は五女子大学学長の連名で授与される。これは日本ではじめてのことである。授業料収入も五つに分け、運営経費の負担も全く平等にする。そのために「共同事務センター」をつくり整理するという。

「女性ライフステージ論」などの専門科目も

五女子大学が連携することで、どのようなメリットが生まれるのか。一つは、各大学の特色が教育プログラムに活かされることである。各大学には、地域連携や女性のキャリアアップなど、長い歴史の中で培ってきた強みがある。それらの強みを持ち寄ることで、カリキュラムの幅を広げ、質を高めることができる。
「女子大学が連携して女性リーダー教員を養成する」という目的を達成するため、「女性教員」に焦点を当てる新たな科目も設置する。「共通科目の中に『女性リーダー教員養成に関する領域』を設け、『女性ライフステージ論』などの科目を入れます。これは他にない特色です」(若林氏)。

また、学生にとって通学が便利になる、という利点もある。本事業では共通科目は五大学の五つのキャンパスで開講する予定で、入学者はどのキャンパスで受講してもかまわない。教職大学院には卒業した学部生のほか、現職教員の入学者も少なくない。教壇に立ちながら大学院へ通う学生にとって、通学時間は短いほどよい。五つのキャンパスのうち、職場や自宅に最も近いキャンパスで学べるこの仕組みは、社会人学生にとって大きなメリットとなるだろう。
専門科目は、開校しているキャンパスで受講することになるが、開校地のバランスなどを考慮し、教員が他大学へ講義に行くこともある。また、1日のうちに複数のキャンパスを移動する必要がないように、〝1日一キャンパス〟でまとめて受講できるようにカリキュラムを組む。さらに、「テレビ会議システム」の活用も予定している。「テレビ会議システム」で開講している科目は、どのキャンパスにいても同時に受講できる。

円滑な意思決定システムの構築

ただし、課題も見えつつある。例えば、運営体制の整備だ。共同教職大学院を開設する前の体制としては、五大学の学長で構成する学長会議の下に設置準備委員会、設置部会を置き、その下部組織として各種ワーキンググループを置いている。大学院開設後は、適切な意思決定を円滑に行えるよう、各大学の理事会の下に、専任教員15名による研究科委員会と、各大学の理事長が指名したメンバーによる運営協議会を置く予定である(上図参照)。

「運営協議会と研究科委員会で検討した内容を、最終的に各法人の理事会で意思決定するわけですが、『一つの大学が反対したらどうするか』といった問題が予想されます」(若林氏)

大学によって意見が割れた場合の対応などは、今後、運営の中で整備していかなくてはならない課題だという。
高等教育の新たなテーマとして教育の「質の保証」が掲げられているが、質の保証を図る上で、大学連携は「極めて有効な手段」と若林氏は語る。

「五つの大学が集まると、教員の合計数も多くなります。同じ一つの分野で、より質の高い教育プログラムをつくろうとした場合、教員の数が多いことは強みです。能力と特色を持った教員を幅広く集められますから」(若林氏)
この五女子大学による共同教職大学院の開設は、2010年4月の予定である。

若林 元(わかばやし・はじむ)
学校法人日本女子大学常務理事

大学改革提言誌「Nasic Release」第19号
記事の内容は第19号(2009年6月1日発行)を抜粋したものです。
ナジックリリース第19号・記事一覧