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学生、教職員、卒業生が三位一体となりグローバル化と地域貢献で使命を果たす
千葉大学長
齋藤 康
千葉大学は、九つの学部、九つの大学院研究科・学府を擁する、首都圏を代表する総合大学である。千葉県内の、西千葉、亥鼻、松戸、柏の葉の四つのキャンパスに、学部で約1万1000人、大学院で約3600人、合わせて約1万4600人の学生が学んでいる。
2008年4月の学長就任以来、学生との対話を重視し、総合大学の強みを生かした数々の改革を進めている齋藤学長。大学の理念として、「つねに、より高きものをめざして」を掲げる千葉大学の現在と将来展望などお話を伺った。
学生との積極的対話を通して理想の大学像を探る
――齋藤学長は、「大学とは自ら作り上げるもの」とおっしゃっています。千葉大学が目指す大学像とは、どのようなものなのでしょうか。
齋藤学長(以下敬称略) これは私の持論なのですが、大学とは、学生、教職員、卒業生が三位一体となり、ともに作り上げていくものだと考えています。そのためには、私たちが学生と積極的に対話することが大切です。
私は今でも学生と面談する時間を積極的に作り、そこで学生の要望や意見に真剣に耳を傾け、そこから生まれたアイデアでよいものがあれば、進んで採り入れるようにしています。
もちろん、学生側からも、教職員に積極的にコミュニケートできるようになればいいのですが、年齢やキャリア、ポジションの違いなどで学生が躊躇してしまうこともあるでしょう。ですから教職員自身が、授業や大学祭、ボランティア活動など、学生の活動の場に積極的に出向いて、声をかけてほしいと思っています。
こうすることで、学生たちと同じ目線で考え、学生の自主性を引き出すことができるのではないでしょうか。こうしてはじめて、私が考える「教職員が学生の近くにいて、学生と一緒に泣き笑いしながら学ぶ」環境を実現できるのだと思います。
実際、こうした対話を触媒にして、学生たちが発案し、形になったものはたくさんあります。たとえば、千葉大学には「学生憲章」がありますが、実はこの憲章は、学生のプロジェクトチームが自ら作り上げたものです。
また、環境ISOに関するプロジェクトにも、学生が積極的に関わっています。千葉大学では、2003年10月から、全学挙げて環境ISO(ISO14001)の認証取得に取り組み、2005年、西千葉キャンパスが最初に認定されました。
この敷地内には、各学部の他、附属の小中学校や大学構内で様々な業務を担っていただいている協力企業の方々も含まれており、こうした総合的なキャンパスで環境ISOを取得したのは、国立大学法人でははじめてのことです。その後、松戸、柏の葉、亥鼻と、主要四キャンパスすべてにおいて、環境ISOの認証を取得しました。
この認定の準備段階から、環境ISO学生委員会が主体となって活動しているのです。学生が、内部研修講師を務めつつ、マニュアルや目標、ステッカーなどの原案の作成に携わるなど、委員会の学生が大学事務局の業務を実際に行いながら取り組んでいるのが特徴で、この学生委員会の活動は単位認定しています。
こうした学生主体での環境マネジメントの運営も、他の大学に見られないもので、文科省の「特色ある大学教育支援プログラム」にも採択されています。
人間教育の根幹としての「普遍教育」と大学のグローバル化
――グローバルCOEの獲得に見られるように、千葉大学は高度な研究を推し進める一方、人間教育にも力を入れていらっしゃいます。今後、教育に関してどのような改革を考えていますか。
齋藤 私は、大学には大きく分けて、学ぶ道筋が二つあると考えています。一つは、専門分野を深く学ぶ場所であり、そこで自分の専門性を高め、学問を深く探究します。そしてもう一つが、幅広い教養とともに豊かな人間性を身につけ、優れた社会人として活躍するための人間形成の場所です。狭い領域に執着するのではなく、その専門性を社会に活かし、世の中で価値ある人材として世に送り出さなければなりません。そのために、千葉大学では「普遍教育」という科目の履修を義務づけています。
「普遍教育」とは、なかなか耳慣れない言葉ですが、社会で生活していくために必要な基礎能力を向上させるための科目と、幅広く厚みのある人間育成のための教養的な科目を合わせた教育を指しています。具体的には、コミュニケーション能力を強化する英語科目、外国語初修科目、スポーツ・健康に関する科目、教養を深める教養コア科目、教養展開科目などで構成されています。
千葉大学では、「普遍教育」として約1300の科目を開講しており、全学の1、2年次にこの普遍教育科目を履修するようにしています。
また、「教員が学生の近くにいる大学」の実践として、「普遍教育」を少人数制で実施する体制を目指しています。大教室での講義だけでなく、五人、10人というスモールグループで実施できる方式を模索しています。
各学部の縦割りの弊害をなくし、学部間の垣根を低くして、専門科目が自由に履修できる環境づくりも進めています。今のような多様化が進んだ時代にあって、一つの学部だけで学問が完結するということはありません。
医学部、工学部、理学部の融合はすでに取り組んできていますが、今後は、文系や理系の融合ということも視野に入れていこうと考えています。
――「留学生30万人計画」もあり、各大学はグローバル化を推し進めています。千葉大学の取り組みを教えてください。
齋藤 グローバル化には、さらに積極的に取り組んでいきます。その一環として、大学間交流協定の拡大も、今後の大きな目標の一つです。現在、アジア地域で23大学、アメリカなど北米地域で八大学、欧州で15大学、オーストラリアで三大学と提携を結んでおり、さらに増やしていく予定です。
特に中国では、北京に千葉大学のオフィスを設けて大学をアピールする一方、中国の大学とダブルディグリー・プログラム(相手校への留学を通じ、卒業時に本属の大学の学位と相手大学の学位を取得できる制度)を発足させています。これにより、さらに国際交流の輪が広がっていくことでしょう。
海外からの留学生は、年々増加傾向にあり、学部学生、大学院生、研究生を合わせると、870名を超える学生が、千葉大学で学んでいます。
留学生といえば、私にこんな経験があります。以前、私の研究室に、中国からの女子留学生が在籍していました。経済的に恵まれた環境ではないので、ちゃんと食事をしているのか心配でなりませんでした。
私一人で学生アパートに訪ねるわけにはいかないので、妻と一緒に訪ねていき、妻には、お米など食料品がきちんと備わっているかチェックさせたものです(笑)。
留学生受け入れ増で大きなネックになるのが、こうした宿舎等のハード面の問題とともに、入国手続から始まり滞在中の生活面のサポートに至るまでの留学生のケアです。教職員がすべてケアするには限界があり、「30万人計画」の中で、今後は留学生のサポートがさらに必要になってきます。餅は餅屋といいますが、やはりリーズナブルで、信頼できるところにアウトソースすることも考えるべきでしょう。
地域と連携を強化し、大学の存在をさらに身近に
――千葉大学は、地域との連携を大切にしていますね。
齋藤 地域と密接に関わり、地元に貢献することも、大学の大切な使命です。マスコミにも取り上げられましたが、2006年に地元のプロサッカーチーム、プロ野球チームとの連携協力に関する協定を結びました。具体的には、試合でイベントに参加したり、監督を客員教授として招いたり、教育学部の学生がインターンシップでプロ野球チームのスタッフに関わったりなど、様々な交流を重ねています。
2008年11月には、学内の学生組織が中心となって、広く参加を呼びかけ、1万人規模の東京湾岸のゴミ拾いボランティアを行いました。
他の例を挙げると、柏の葉キャンパスでは、「柏の葉カレッジリンク・プログラム」を実施しています。ここでは、おもに、環境・健康・食の視点から、地元の人たちとともに、〝よりよく生きる〟ことをテーマに学習しています。ここは、地域と大学が一緒に考える場として、新しい可能性の発見と育成を図っているところです。
大学は、すべての人にとって、もっと身近な存在であってほしいと思っています。最近のことですが、60歳を過ぎた本学の卒業生が、「学生時代にはできなかった脳に関する勉強をもう一度やり直したい」といって大学に戻ってこられました。年齢を重ねても変わらない貪欲な知への探求心には、本当に頭が下がる思いです。こうした積極的な学びの姿勢は、学生たちにも教職員にとっても、大変よい刺激になっているのです。
大学は、卒業生はもちろん、地元の人にとっても、何かを知りたいとき、学びたいときに、いつでも力になれる場所、いわば「知の駆け込み寺」ともいえる存在になるべきだと考えています。
千葉大学が目指す日本の「羅針盤」としての役割
――このような厳しい経済環境の中、大学も変革を迫られています。最後に、千葉大学の目指す役割と今後についてお聞かせください。
齋藤 財政的な背景から無駄を排除し、研究教育の効率化を図ることはある面必要なことです。ただ、本来、学問は多様なもので、短期の評価だけで計れるものではないと思います。すべてを効率の観点で見るのはいかがなものでしょうか。
学問というものは、不動のものであり、長い年月をかけて、ようやく完成するものであると思います。私は、むしろ教育ぐらいは、目先の効率に惑わされず、しっかりしたものを提供していく必要があると考えます。
戦前の京都大学もそうでしたが、大学というところは、時には世論の波に抗して、きっちり反論する場であってもいいと思います。周囲におもねることなく、自分の意見を忌憚なく言える場としても、大学は必要な存在なのだと思います。
幸い、学生も、昔と変わらず優秀です。基本的に素直で、礼儀正しい。年齢を重ねた側から見れば、少し苦言を呈したくなる部分はあるかもしれませんが(笑)、私は学生を信頼しています。
今後、千葉大学はその総合力を活かし、気概を持って日本の「羅針盤」の役割を果たしていくべき存在にならなければなりません。それが私たちに課せられた使命だと考えます。
齋藤 康 Yasushi Saito
1942年生まれ。68年新潟大学医学部卒業。75年千葉大学医学部助手、84年同大医学部講師、93年山形大学医学部教授を歴任し、95年千葉大学医学部教授に就任。千葉大学医学部附属動物実験施設長、同大医学部附属病院長、同大予防医学センター長等を経て、2008年4月より現職。日本老年病学会理事、日本臨床栄養学会理事、日本肥満学会副理事長、日本動脈硬化学会理事。
記事の内容は第19号(2009年6月1日発行)を抜粋したものです。
- 日本の将来を切り開き、新しい価値基準を創造できる自立性の高い人材を養成
- 学生、教職員、卒業生が三位一体となりグローバル化と地域貢献で使命を果たす
- 「夢」を原動力に世界と地域に貢献する
- 社会のあるべき姿を追求する「自立型人材」の育成が法政大学の使命
- 国際社会のオンリーワン大学を目指す
- 「責任ある教育」の推進が地域と世界に貢献するマグネット・ユニバーシティを実現する
- 学生のための改革で、教育責任と質の保証を果たすことが知識基盤社会構築を担う大学の役割
- 「戦略的大学連携支援事業」で特色ある大学づくりをさらに加速
- 5女子大学共同教職大学院運営モデルの構築
- ポーアイ4大学による連携事業
- 未来を担う若者をいかに社会全体で育てていくか