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国際社会のオンリーワン大学を目指す

世界屈指の規模を誇りながら、きめ細かい双方向教育を通じて国際社会のオンリーワン大学を目指す

日本大学総長
酒井健夫

120年の歴史と伝統を誇り、日本最大規模の学生数と学部・学科数を有する日本大学。学部間や海外との相互交流を積極的に進め、専門領域の多様性とスケールメリットを活かした独自の教育改革を展開している。経済危機や環境問題がグローバルに起きている今、日本大学はどのような大学像を描いているのか。酒井健夫総長にお話を伺った。


意識改革と少人数教育で「自主創造」の精神を

――日本大学が建学の精神として掲げている「自主創造」する人材を育成すべく、どのような取り組みをされていますか。
酒井総長(以下敬称略) 今おっしゃった「自主創造」とは、自ら目標や課題を持ち、自ら道を切り拓いていく精神です。学生諸君にその精神を養うためにまず必要なことは、教職員自身が自らの意識を変えることです。

授業や研究の指導の中で、学生諸君を信頼し、親身になって褒めて、叱って、そして時には失敗もさせてみる。失敗を許すには教職員の勇気と我慢が必要ですが、失敗の体験は学生にとって貴重な経験となります。日本大学は実践教育を重視してきましたので、経験から学習することも重視しています。近年はややもすると教員がサラリーマン化する傾向にありますから、教員自身が自主創造を続けるという意識改革も重要だと考えています。

日本大学は学生数が日本で最も多く、世界的にも有数の規模でありながら、少人数教育に力を入れています。1年生の「サブゼミ」や「研究室制度」、また自然科学系では「フィールドサイエンス実習」という体験学習で、教員が学生とフェイス・トゥー・フェイスで教育をしています。現代の学生にぜひ身につけてもらいたい力は、コミュニケーション能力と判断力です。それを養うには、教員と学生が少人数で双方向に対話していく教育がぜひとも必要です。その双方向の教育の中で、学生が多くのことに気づいて、自主創造の力を身につけてくれるものと信じています。

大学と学生、大学と地域学部と学部の双方向教育が大切

――日本大学はスケールメリットを活かし、学部間の相互交流など時代のニーズに即した改革を進めていますね。
酒井 大学全入時代である今日、学生は、資質やモチベーションが昔とは異なっています。その学生側の変化に対応するために必要なのが、一方向の教育から双方向の教育への変革です。授業の様式を双方向にするだけではなく、日本大学の教育システム全体を双方向へと変革していく必要があります。

例えば、学生による授業評価を授業改善につなげたり、学生の単位履修歴を参考にしてシラバスを改善したり、またそれらの結果の分析をもとに学生に問題点を投げかけ、その回答を改革に活かすなど、様々な教育改革を推進しています。

これら改革の発展型として、オフィスアワーの設定を抜本的に改めようと考えています。かつての大学には教える側が主体だという先入観がありましたが、今は「何を学びたいか」という学生の意欲が主役でなくてはなりません。ですから、学生が知りたい、相談したいと思ったときにいつでも対応できるオフィスアワーの活用を推進してほしいと教職員には伝えています。

今は100年に一度の経済危機に見舞われています。しかし、この時代に応えて、社会の求める人材を養成するのが日本大学の使命であり、私も含めて教職員がそういう気概と自信、そしてプライドを持って、これらの改革を進めているところです。

スケールメリットという点では、先ほど申し上げた規模はもちろんのこと、専門分野は14学部、83学科あり、国公立を含めて、これだけ幅広く専門領域を持つ大学は、他にはありません。「工学部に入学したが、芸術学部の授業も学びたい」といった学生の意欲に応えるために、相互履修制度を設けています。この制度は、他の学部の授業を履修しても、60単位まで単位として認定するというものです。学生の自主的な勉学意欲や知的好奇心を、これだけ幅広い専門領域で満たせるのは、日本大学にしかない強みであると自負しています。

遠隔授業にも力を入れています。日本大学はキャンパスが広域にわたりますから、相互履修制度を利用したくても、地理的な制約があります。そこで、テレビを活用した遠隔授業で、距離の離れた学部の授業も受講できるようにしています。学生は、講義室のモニターを前に受講しますが、ネットを通じて教員と双方向にコミュニケーションできます。

この双方向教育は、学部や学科のみではありません。日本大学の付属中高に目を向けますと、付属高等学校が11校、2009年4月に神奈川県藤沢市に新たに中学校が開校し、付属中学校は六校となりました。

各学部と付属中高、また地域との双方向のコミュニケーションも重要です。市民公開講座を開講したり、科目等履修生という形で授業を受講してもらったり、キャンパスを地域で利用してもらったり、大学のリソースを地域の発展に役立てていただく。また地域の方々にも学部や中高の発展を支えていただく。双方向のコミュニケーションを豊かにしながら、大学は地域との信頼関係と互恵関係を強めていきたいと考えています。

地域のみならず、学生・生徒のご父母や卒業生である校友との双方向の信頼関係も大切にしたい。今は大学にも「安全と安心」が求められる時代になりました。特に地方から上京した新入生とその保護者には、様々な面で心配があると思います。そういう意味では、大学の管理能力も向上させていかなくてはなりません。ただ質のよい授業を提供するだけでなく、授業以外の私生活の面でも、大学が学生をサポートし、バックアップする必要があります。例えば、アルバイトやインターンシップも、大学が提携している企業や校友企業から斡旋していただく。

ダブルスクールでも、日本大学が連携している学校を紹介する。このような学生生活の4年間あるいは6年間をトータルで支援することも検討しています。

日本大学の卒業生は、2009年3月の卒業式で100万人を超えました。100万人というと、日本人のおよそ100人に一人が日本大学出身者だということです。しかも日本大学のネットワークは国内外に広がっています。国内は言うに及ばず世界的に見ても、他にはない日本大学の校友ネットワークを活用すれば、卒前教育と卒後教育の一体化が十分実現可能だと思っています。

――これまで日本大学は50件の研究活動で、文部科学省の私立大学学術研究高度化推進事業の選定を受けています。今後どのような展望のもとに研究拠点づくりを進めていくのでしょうか。

酒井 大学の研究には、二つあります。一つは、研究成果を社会に発信していくということ。もう一つは、研究成果を教育に還元していくということです。「よりよい教材を確保するためには、よりよい研究をすることが必要だ」というのが私の持論です。今後、教育、そして社会に還元するための研究を、質と量ともに高めていきたいと考えています。それによって社会に貢献することが、日本大学が研究拠点づくりで目指しているものです。

高度化推進事業を進めることで、教員と大学院学生の研究成果が著しく向上してきたと感じています。また、大学院の入学者数が、この10年で1000名ほど増えています。これは、研究の面白さが、学生に伝わっているからだと思います。また研究の質が向上し、科研費採択率や獲得額もこの約10年で飛躍的に増えました。また、私の研究室に七人の博士課程の大学院学生が在籍していますが、大学院学生が身近にいることは、学部学生にとって大きな刺激になっています。大学院学生が増えることで、よりよい教材と教育の提供という面で、好ましい循環が生まれているのです。

多領域の英知を結集し「地球益」を追求する

――政府は「留学生30万人計画」を打ち出していますが、大学のグローバル化に関するお考えや取り組みをお聞かせください。
酒井 一部の大学だけでなく、日本のすべての大学がグローバル化に対応する努力を行い、留学生の増加が日本の国力のボトムアップにつながるものでなければなりません。

日本大学も、世界に開かれた大学として、受け入れ体制を充実すべく、学生寮の検討などを進めています。26カ国108大学と提携していますので、その交流活動の活性化も図っています。留学生が学びやすいシステムの工夫も必要です。一つは英語で行う授業を増やすことですが、同時に日本語教育も重要でしょう。大学側は留学生が学びやすい環境を提供しつつ、留学生には日本をより深く知るために日本語や日本の文化を学んでもらう。大学のグローバル化においても、そのような双方向性が肝要でしょう。

日本大学では、学生を海外に派遣する海外研修も行っています。私自身も、現在JICA(ジャイカ=国際協力機構)のプロジェクトでウガンダの家畜衛生改善事業に携わっており、毎年、ドクターコースの学生四人を現地に派遣しています。日本のように設備が整っておらず、機材が故障してもなかなか修理できない。そういう環境の中で、自分たちで知恵を絞る体験をした学生は、やはり帰国してからが違います。経験はまさに財産です。大学の使命の一つである人材育成において、海外との交流は重要な要素です。

これまでに経験したことのない経済危機といわれている今、日本大学の学祖・山田顕義が、前身の日本法律学校を設置した1889年も日本は明治維新という大転換の時代にありました。しかし、視野を日本から世界へと広げると、現在は、明治維新以上の危機と大転換の時代であるかもしれません。今の時代、私たちは、日本の国民であると同時に、「地球人」としての意識を持たなくてはなりません。

個人、企業、国という範疇を超えて、人類の幸福と地球の発展という「地球益」を追求するために、我々は何をしなければならないのか、それを真剣に考えなくてはならない時代です。経済問題、人口問題、食糧問題、環境問題など、様々な分野の問題を解決していかなければ、地球が安定して持続的に発展していくことができなくなっています。

これまで人類は地球を開発し利用することを優先してきました。近年、「環境保全」という言葉が生まれましたが、もはや保全ではなく、「環境修復」が必要となっています。これまでにない新しい学問体系の中、総合的なアプローチで問題を解決していかなくてはならないのです。
この時代においては、日本大学のような幅広い専門領域を持つ総合大学こそが、大きな役割を果たしていけるのです。

あえていうとナンバーワンの大学という安易な道ではなく、国際社会におけるオンリーワンの大学を目指して、日本大学はこれからも邁進していきたいと考えています。

酒井 健夫 Takeo Sakai

1943年生まれ。66年、日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)獣医学科卒。93年より同学部教授、2005年より生物資源科学部長、日本大学理事、副総長を歴任後、08年9月より第12代総長、短期大学部学長に就任。その他、農林水産省獣医審議会長、日本産業動物学会長などを歴任。獣医師、医学博士。

大学改革提言誌「Nasic Release」第19号
記事の内容は第19号(2009年6月1日発行)を抜粋したものです。
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