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未来を担う若者をいかに社会全体で育てていくか

法政大学大学院
政策創造研究科教授 諏訪康雄

社会人基礎力が定義づけられ、今後はそれを実際の教育にどのように反映していくかが課題となる。若者の育成方法の改善は社会の重大な責務であり、これまでのように学校や企業が個別に取り組んでいては前に進めない。景気後退局面に当たり、改めて社会人基礎力の意義が問い直されつつある昨今、もっと大きな視野に立って、産学官が連携を深めていく時代が訪れたのである。


共通言語としての社会人基礎力

「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」という三つの要素で構成される「社会人基礎力」の考え方が浸透していくことで、様々なメリットが考えられる。
まず若者は、学校や職場、地域社会において、どのような能力が求められているかを具体的に意識できるようになる。そして、成長の各段階において、自分にその能力が身についているか自己分析しながら、自らの成長を促していくことができるであろう。また、自らの強みとして、身につけた社会人基礎力を面接試験などでアピールすることも可能となる。

企業にとっては、具体像が見えにくかった「企業が求める人材像」を、社会人基礎力の枠組みを活用することで、分かりやすく表現できるはずである。それを広く発信していけば、就職活動に取り組む若者にとって有効な情報となりえる。また、これら三つの要素は、入社後の育成システムの構築にも役立つはずであり、これを指標の一つとして、若手社員の実態を把握しながら育てていけば、定着率の向上も期待できるだろう。

これは学校においてもしかりである。正課の授業なりキャリア教育の中で、社会人基礎力が身につくようなカリキュラムを工夫すれば、しっかりした若者を育てていけるようになる。例えば、産学連携のもと、「体験」を盛り込んだプログラムをつくったり、大学の授業の中にグループワークの要素を取り入れたりすれば、学生に実行力やチームワークを身につける機会を与えることになる。社会人基礎力の概念が社会に浸透するということは、すなわち若者、企業、学校の三者が「共通言語」を持つということである。この共通言語を持たなかったがために、若者が社会で必要とされる能力を身につけるための有効な教育システムをつくれず、産学の相互理解も深まらなかったのではないだろうか。

例えば就職試験において、企業が学生を評価する際に注目する要素と、学生が企業にアピールする内容との間には、大きなギャップがある。企業は学生の人柄や可能性、入社に向けた熱意を評価しようとするが、学生はアルバイト経験も評価してほしいと考えている。つまり、学生はアルバイトを通じて何らかの能力が身につくと思っているが、企業は必ずしもそうとは考えていない、ということを意味している。こうした認識の乖離は、共通言語を持たないことが原因となって発生していると考えられるのである。

今後、社会人基礎力を共通言語として、学校と企業が「つながり」を強化していくことができれば、「職場で求められる能力」と「教育現場で身につけさせる能力」を適合させられるようになる。こうした取り組みが進むことによって、企業は本当に求めていた人材を獲得できるようになり、学生は自分に合った企業に就職できる可能性が高まることになる。

教育現場における取り組み

学校と企業の連携による体験型の育成プログラムとして、「インターンシップ」は非常に有効な手段といえる。ところが最近では、インターンシップを実施することだけが重視され、肝心の内容が二の次になっているケースも多く、効果が薄いという指摘もある。これを改善していくためには、「社会人基礎力の育成」という観点を持ち込むことが、非常に有効ではないかと考える。

例えば、具体的な実務能力をマスターすることはできなくても、会社の先輩たちに積極的に質問をしたり、明るく活発に挨拶をしたりすることを通して、「前に踏み出す力」を身につけることができる。あるいは、会議に参加したり、グループをつくって共同作業を行ったりすることを通して、チームワークの大切さに気づくこともできるだろう。さらに、インターンシップによって学生がどのように変化したかを把握・分析し、企業と大学が情報交換することで、より効果的に進化させていくことも重要なことだろう。

現在は中断しているが、ユニークなインターンシップの事例として、武蔵野大学と高知大学の取り組みを紹介しておきたい。両校は、共同事業という形で、学生だけで経営するバーチャルカンパニーを設立しており、学生は、その会社にインターンシップという形で派遣される。そこでは、学生自らが企画、運営、実施、検証といった一連の流れの中でビジネスを経験し、実社会で働いていく上で必要となる基礎力を幅広く学ぶことができるようになっている。従来の参加型のインターンシップでは、企業活動のごく一部しか体験できない可能性があったが、両校の事例では、学生自身が会社を運営することによって、社会人基礎力はもちろん、リーダーシップやアントレプレナーシップの育成につなげることもできると考えられる。

また、産学連携のもとで「プロジェクト型授業」を実施していく、という方法も大変有効である。プロジェクト型授業とは、学生自身が企業や実社会で現実に存在する様々な課題に取り組み、いかに解決していくかを考えることによって、高い教育効果を得ようとするものである。
例えば、慶應義塾大学大学院の附属研究所である「SFC研究所」では、産学連携による高度なプロジェクト型授業が実施されている。

具体的なパターンとしては、まず企業から何らかの課題がSFC研究所に委託される。これに対して、企業関係者、大学教員、学生がチームを組み、1年間かけて解決方法を研究していく。最終的にまとめられた研究成果を企業に報告・説明し、これに対して企業側が評価を行うのである。企業関係者やチームのメンバーと協力しながら実践的な研究を行うことで、学生たちは「考え抜く力」はもちろん、「コミュニケーション能力」や「チームワーク」、場合によっては「ストレスコントロール力」まで学ぶことができる。このように、社会人基礎力の醸成も兼ねた研究や授業をつくっていくことが、これからの教育機関には求められるのである。

この他、山形県立米沢工業高校では、地域の産業界によって組織された「米沢ビジネスネットワークオフィス」と連携して、ITに特化した専攻科を設けたり、長期のインターンシップを実施したりするなど積極的だ。高校在学中から実際の企業と関わりを持つことによって、生徒たちの社会人基礎力が高められることはいうまでもない。

産学官の連携強化が不可欠

若者たちが社会人基礎力を身につけていくためには、まず社会全体で共通認識を持ち、家庭、学校、企業、地方自治体、NPO等が連携しながら各段階において適切な教育を施すとともに、「気づき」を与えるような「体験」をさせていくことが重要である。

ただ、そうした育成を行うことが必ずしも目先の利益にはつながらないため、なかなか現場レベルで実践していくのが難しい。また、余力のある大きな大学や大企業の連携はある程度進んでいるが、今後は、地方の大学と地元中小企業との連携をより強化していくことが不可欠となる。さらに、様々なレベルにおける産学連携強化に向けて、行政側からも積極的に働きかけていくことが必要であろう。
世界の未来のために、社会全体で若者をしっかりと育てていく姿勢が求められているのである。

諏訪 康雄 Suwa Yasuo

1947年生まれ。70年、一橋大学法学部を卒業。イタリアのボローニャ大学に留学した後、77年に東京大学大学院法学政治学研究科博士課程の単位を取得し、満期退学。法政大学社会学部専任講師、同助教授、ニュー・サウス・ウェールズ大学客員研究員、ボローニャ大学法学部客員教授、法政大学社会学部教授などを歴任。2008年から法政大学大学院政策創造研究科教授に就任し、現在に至る。経済産業省の「社会人基礎力に関する研究会」の座長を務めた。

大学改革提言誌「Nasic Release」第19号
記事の内容は第19号(2009年6月1日発行)を抜粋したものです。
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