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新しい社会を創造する主翼を担うのが世界トップの「行動する大学」東大の使命

東京大学総長
小宮山 宏

2005年の総長就任時に発表された「東京大学アクション・プラン」に盛り込まれた「国際化の推進」。その取り組みは一定の成果を上げているものの、日本を代表する大学として、国内外にその存在感を示し、社会への課題解決のための知の発信が求められている。新たな東大の国際化にどう対応するのか、小宮山総長にお伺いした。


国際化は時代の要諦。日本のトップ大学としての責務

――本年度が最終年度となる「東京大学アクション・プラン」には「世界の東京大学にふさわしい学生の獲得」が掲げられています。各大学がグローバル化に力を入れている中で、東京大学が目指す方向についてお考えをお聞かせください。
小宮山総長(以下敬称略) グローバル化の目的は二つ。

一つは、東大を社会の縮図にしたいということです。「東大憲章」でも多様性の受容を宣言しているとおり、国籍、ジェンダー、政治的意見など、そういった多様性をすべて受け入れる大学を目指しています。その視点で言えば、女性の割合を高めることと国際化すること、これが多様性の中で一番重要だと思っています。2008年度入学生の比率で言えば、女子学生比率は18.8%、外国人は3.1%です。

全盲全聾の福島先生を筆頭に、バリアフリー化については大変進んでいるのですが、グローバリゼーションの時代に多様性についてもあたりまえの環境にしたいと思っています。その中で、国際化は大学としてやろうと思えばできることです。国内では世界の大学ランキングで日本の大学の国際競争力が低下したなどのネガティブな報道ばかりされがちですが、たとえば、イギリスのBBC放送が2006年から行っている国際調査で「世界に最も良い影響を与えている国はどこか」という問いに対し、最も多くの票を獲得したのは3年連続で日本です。

国際化を考えるときに「好かれている」というのはすごく大事なことです。国際化の前提は英語によるコミュニケーションだと皆さんがよくおっしゃいますが、当然我々も英語の強化は必要だと思っています。「好かれている」ということの事実をマスコミも報道しないし、またその重要性を日本人自身がもっと自覚しなくてはいけないと思います。私は日本は江戸時代から先進国だったと思っています。

確かに鉄砲や黒船をつくる産業技術では遅れたが、茶道や浮世絵に代表される文化創造の面では大変な先進国で、教育にしても藩校が250ぐらいあって、まさに大学の機能を持ち、1万5000の寺子屋で基礎教育を行っていたわけです。東大もヨーロッパ型大学に組み替えたのが130年前だというだけであって、日本の歴史的な「先進性」、そして現在の日本の底力である「イノベーション」を外国人はよく理解しているということです。

――「日本は課題先進国である」というのが総長の持論ですが、太陽光発電にしても省エネ技術にしても、まさに世界の課題を先取りしています。そういう技術や研究内容を世界に発信していくべきだとお考えですか。
小宮山 そうです。先日も、韓国で開催されたワールドナレッジフォーラムにパネリストとして参加しましたが、そのテーマが「経済クライシス」です。ご存じのように、いま世界は未曽有の金融危機にさらされています。

これに対応するにはどうしたらいいか、世界の識者が集まって話をしたのですが、そこで私が提唱したのが「リアルなマーケットを開く」ということです。いまの危機は行き過ぎた金融取引依存が招いています。混乱した金融マーケットをすぐに立て直すための戦略も重要ですが、長期的に見れば、単にお金だけをやりとりする市場ではなく、本当のマーケットをつくる、すなわち、新しい産業をつくることこそ重要だと思います。では、新しい産業は何かといえば、サスティナビリティといきいきとした高齢化社会をつくるということです。これからの世界で、環境問題、資源問題を避けて通れる国は存在しません。高齢化社会も同様です。すべての国がこれから、この二つの問題に対処しなければならないし、そこに新たな巨大マーケットが誕生するはずです。もちろん金融は大事なのですが、「物やサービス」といったリアルなマーケットにどう取り組んでいくか、「課題先進国日本」の役割は大きいと思います。

留学生を受け入れる環境整備に民間の協力も必要

――ところで、海外からの留学生を受け入れるときに、現実的な問題となるのが、施設のキャパシティなどのハード面です。
小宮山 そうだと思います。日本で学びたい外国人学生は大勢いますから、30万人という数を集めるだけならば至極簡単な話です。では、それを受け入れる宿舎、外国語で対応できる病院などの公共施設、保育所をどうするかとなると、たちまち行き詰まってしまう。問題はハード面なのです。30万人の留学生を集めるというのは、日本の進んだ教育を海外に広める意味もありますが、一方では、日本に好感を持つ人を増やす意味もあります。言ってみれば、コストのかからない安全保障の面もあるのです。日本に来たい学生が日本で学び、日本を好きになって帰国する。彼らの活躍を見て、日本に好感を持つ人、日本に来たい学生が増える、というプラスの循環をどうつくるかは、本当に重要な問題です。それについては、社会全体で考える問題でもあると思います。国に資金がなければ民間との協力も必要になってくるでしょう。つい最近、イェール大学のリチャード・C・レビン学長がいみじくも、「大学の役割は『エデュケーションとリサーチ』だけではなく、もう一つある。それは『インスティテューショナルシチズン』だ」とおっしゃっていました。社会との連携の重要性を言っているわけですが、私もまったく同感で、「東大憲章」の中でも公共性として示しています。東大は社会の一員として2030年までにCO2を50%減らす「サスティナブルキャンパスプロジェクト」を始めています。

――東大としても、独自で留学生受け入れ態勢を進めていますが、現状はいかがですか。
小宮山 留学生のための総合窓口となる施設が、もうすぐ着工する予定です。いままで、留学生センターが兼ね、教育・学生支援系と国際系といったいくつかに分かれていた部署をひとまとめにしたうえで、「国際交流センター」として新たに発足し、日本語教育の強化と窓口の一本化を図ります。また、教育の中身では、英語で授業を受けられるコースを増やしています。

最も新しいコースは「サスティナビリティ教育プログラム」ですね。授業は100%英語で、2007年の秋にスタートしました。現在は23名が在籍し、うち18名は外国人です。しかも、その人たちの国際分布が広いんです。いま国際化と言っても、中国人留学生が8割ほどを占めるのが実際ですが、この教室は欧米や中南米・アフリカなど、世界中の人がまんべんなく参加しています。この要因は、留学生用の奨学金の枠を10程度設けて、来日せずに現地で試験を受けられるようにしたことで優秀な人材が入ってくるわけです。

――留学生を受け入れるために、英語による授業などの国際化政策が必要になる一方で、国際交流、文化交流を図るという意味で、日本語教育、日本文化の教育も今後重要になるという意見もありますが。
小宮山 先ほども言ったとおり、日本を好きになってもらうのが一つの目的ですから、当然、その点は重要だと思っています。もともと東大では日本語教育に力を入れており、工学部など規模の大きい学部では独自に日本語教育に取り組んでいました。

そのうえで、今回、国際交流センターを発足させて日本語教育をさらに強化するのは、理由があります。というのは、英語で授業が受けられることで留学生が増えるのですが、そうして日本に来た留学生は結局、日本語を学びたがるのです。考えてみればこれは当然で、日本文化に対する理解も深まるわけですし、日本語が話せないと普段のコミュニケーションに支障が出る。そこで、留学生を増やすためには、それぞれの国での日本語教育を促進するだけではなく、来日後に、日本語を教える体制を強化することです。中には、家族を連れてくる留学生もいて、当然、配偶者や子供たちへの日本語教育の要請も増えるでしょう。そういうニーズにも対応していきたいと思っています。

新しい社会をクリエイトする役割を持つリーダーとして

――2008年度が「アクション・プラン」最終年にあたります。この4年間を総括して、何が最も印象に残っていますか。
小宮山 新しい試みとして、東大版社会人コースと言える「エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」をスタートさせました。大学の役割は、若い人を育てることと、新しい技術や知識の元になる基礎研究を通して社会に貢献することにある。

しかし、それだけではいまの変化するスピードに合わなくなってきています。未来のリーダーを育てる、未来に花開く技術の基礎研究をするのではなく、リーダーを集めて直接教育する、いますぐ役立つ知識や技術を教育する必要性が出てきました。定員25名のところに40名の応募があり、反響の大きさに驚くほどです。

この目的は単に優秀な人材を輩出するというのではなく、極論すると、首相、社長、学長を生み出す、つまり日本のリーダーを育成する機関のモデルをつくりたいと思っているのです。

――東京大学は世界の第一級の人材を育成すべき使命があるというのは、まさにそのとおりだと思います。未来に向かって、東大はどのように変わっていくでしょうか。
小宮山 一言で言うと、「行動する大学」でしょうね。21世紀は、人類にとって未曽有の時代になる。それは、あらゆる意味で地球が小さくなったことに起因します。一昔前は資源が枯渇するなんて思いもしませんでした。環境問題もそうです。廃棄物をどんどん燃やして、あるいは海に捨てても、自然の浄化力で元に戻っていたのが、もうそのキャパシティを超えてしまった。

情報などはまさに、地球を小さくしてしまった元凶の最たるものでしょう。この地球で、どうやって人類が仲良く、ともに豊かに暮らしていけるかが、いま問われています。無限の地球の時代から有限の地球へ、若い躍動的な社会から、成熟した社会に変わりました。人類には残された時間はそうありません。その中にあって、大学も、いままでのようなトラディショナルなスタイルでは、この激しく変化する世界に対応できないのです。大学の生み出す知は間違いなく社会に貢献しなければならないが、従来型ではだめで、「知を統合」して、大学にはこういうことができるんだ、と実際に示しながら新しい社会を創造する。その主翼を担うのが「行動する大学」であり世界トップの大学だと私は思っています。そして、その役割は、やはり東大が担うべきだと思っています。

小宮山 宏 Hiroshi Komiyama

1944年生まれ。67年、東京大学工学部卒業。72年、同大学院工学系研究科博士課程修了。88年、東京大学工学部教授に就任し、2000年4月~02年3月まで同大学院工学系研究科長・工学部長。03年に副学長に就任し、05年4月より現職。専門は化学システム工学、機能性材料工学、地球環境工学。著書に、『地球持続の技術』(岩波新書)、『知識の構造化』(オープンナレッジ)、『東大のこと、教えます』(プレジデント社)、『「課題先進国」日本』(中央公論新社)など多数がある。

大学改革提言誌「Nasic Release」第18号
記事の内容は第18号(2009年1月1日発行)を抜粋したものです。
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