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早稲田大学全体をグローバル化し世界の「WASEDA」を目指す

早稲田大学副総長
内田勝一

2005年、外国人留学生へのサービス向上や海外大学との提携強化を図るため「留学センター」を開設するなど国際化推進に力を入れてきた早稲田大学。すでに留学生数は約2800人に達し、次の目標として留学生8000人を打ち出し、具体的な受け入れ準備に入っている。その目指すところを伺った。


留学生を増やすことが目的ではなく大学のグローバル化が真の狙い

――外国人留学生の拡大に向けた取り組みが官民一体となって進められていますが、留学生を8000人にまで増やす取り組みをしている早稲田大学の存在感が高まっています。その意義と戦略はどのようなものでしょうか。

内田副総長(以下敬称略) もともと早稲田大学は国際的に開かれた大学で、1899年には清国や朝鮮半島から留学生の受け入れを始めていました。19世紀末から20世紀の初めまでの時期は、学生の2割が留学生だったというほどです。ただ、今回の取り組みにおいては、早稲田大学では留学生を増やすことそれ自体を主たる目的としているのではなく、大学のすべてのシステムをグローバルに対応させようというのが基本的な考えです。日本の産業界の中でも、日本国内では圧倒的なシェアを持っていても、世界に出るとまったく通用しない産業がありますが、大学もそうです。

日本の大学はいいものを持っているにもかかわらず、海外から留学生を集めて、教育によって国際社会に貢献する、あるいは外国人の力を日本に役立てるといったことをほとんど考えてこなかった。しかし、これからの時代は、日本の中でトップの大学を目指すのではなく、アジアの中で、あるいは世界の中でトップランクの大学になることが極めて重要です。

もともと、外国の学生の間でも、日本のビジネスや科学技術への関心は高かったのですが、問題は言葉でした。日本語を学習する機会に恵まれた人でなければ、日本の大学に来られなかったのです。これに対して、ほとんどの国の高校で英語を教えていますから、英語で授業をするだけで、潜在的な学生の母集団が決定的に違ってくるのです。

受け入れのためには、充実した英語のカリキュラムが必須になってきます。本学の大学院の授業を英語にしたところ、海外から優秀な大学院生がたくさん入ってきて、学生のレベルが非常に上がった例があります。

――アジアの優秀な学生はいま、ヨーロッパやアメリカを目指しています。その目を日本に向けさせることが必要なのですね。
内田 そのとおりです。そういう意味で言うと、日本の大学は欧米の主要大学に比べて後れをとっています。特にアメリカは、教育レベルが総じて高く、学習システムもしっかりしています。少人数教育をし、年度を細かく区切って集中的にカリキュラムを消化していく。いわゆるリベラルアーツを中心としたアメリカのトップ大学はいま、みんなこういうスタイルをとっている。こういう大学と、これからは競争していかなければならない。そのためには、授業を英語にすることではなく、大学全体をグローバル化しなければならないでしょう。

ハードやソフトを含めて、あらゆるものが対象になるわけですが、とりわけ大学にとって重要なものは、研究のレベルです。研究のレベルが低ければ、学生はやはり魅力を感じません。そこで、海外の大学とのジョイントで研究を進めたり、早稲田で学べば海外のトップ大学の学位を同時に取れる「ダブルディグリープログラム」といった取り組みを始めています。さらにこの先も、教育システムやカレンダーを含めて徹底的に変えていかなければならないでしょう。

異文化の凝集された空間を寮やキャンパスで実現

――留学生8000人という数字があがっているわけですが、トータルな政策が必要になります。
内田 学部は4万5000人、大学院で9000人、合わせて5万4000人に対して現時点で留学生は約2800人。ということは、あと5千数百人の学生が増えることになります。当然、それだけの人数を受け入れる体制は一気にできません。段階的に環境を整えていくことになります。一つの問題は寮。現在は、日本人学生を含めて1000人に提供していますが、順次増設していきます。

まず、2008年に田無(現・西東京市)と西早稲田に二つの新しい寮をつくり、西早稲田は外国人を中心に160人、田無では混住にしています。これには意味があって、日本人と外国人を混住させることで、今後留学生が増加することを想定し、起こりうる問題をあらかじめシミュレーションしようとしています。ここで得た経験をもとに、大規模な寮の拡充を実施する計画です。寮は住むだけではなく教育の場であり、寮での日本人学生との共同生活を通じて、日本をより深く知ってもらう。ある意味で全人教育の場として、寮を考えています。

もう一つの問題は、奨学金。日本の大学は入学後に奨学金を出す仕組みだったため、裕福ではないが、極めて優秀な学生を獲得できていなかった。海外の大学は、優秀な学生に対して「うちの大学に来てくれたらこれぐらいの奨学金を出しますよ」と誘っているわけです。
そこで早稲田でも、アジア特別奨学金を設け、アジアのトップの大学と手を結んで、入学前の選抜で優秀な学生については授業料と生活費を支援するプログラムを始め、今後も強化していきます。

卒業後の就職については、2008年3月に卒業した国際教養学部の進路を見ると、就職にしても進学にしても順調で、問題はなさそうです。一つ問題があるとすれば、日本で就職する場合に、学んだ分野の仕事に就かないとビザがおりにくいという問題があります。この点は国の理解が必要でしょう。また、日本語能力至上主義的な考え方が根強い企業がまだ多く、この点でもう少し進んだ理解を求めたいと思っています。
――外国人留学生に対して、文化的な軋轢、マナーに対する認識の問題などはありませんか。

内田 少なくとも寮の中では大きな問題はありません。それに、かつてはアジアからの留学生というと、貧しいというイメージがありましたが、いまはもう様変わりしています。国際教養学部の外国人学生の中にも、大きいマンションにお付きの人と住んでいる人もいれば、入学後に高額の寄付をしてくれた親御さんもいる。逆に言えば、よりきめ細かい対応がこれから必要になってくるということが言えるかもしれません。たとえば、中東のイスラム圏の学生が多く入ってくれば、礼拝のスペースを準備しなければなりませんし、学内で提供する食べ物も彼らの習慣に配慮しなければならないでしょう。

ただ、考えようによっては、これからの日本人はいまよりもっと頻繁に外国に出ていくはずですし、日本への移民も増えるのは確実です。そうした異文化の混在する状況を大学の寮の中で先取りして体験することは、日本の学生にとっても留学生にとっても意味のあることです。
早稲田大学としても、学生を海外の大学に送り込むことを積極的にやっており、全学生にその機会を与えたいのです。

これは、外国に行くと、学生の意識ががらりと変わるからです。向こうで出会うほかの国から来た留学生は、国の期待を一身に背負ってくる人が多いわけで、彼らの母国を思う心に刺激を受けたりするわけです。それを狙って海外の大学に行かせているわけですけれども、早稲田の中で多国籍化した世界が実現するということは、なにも海外に出さなくても、大学の中で一つのミクロコスモスが実現することになります。

さまざまなバックグラウンドを持ったさまざまな国の人が早稲田大学でともに学ぶ、という状況をつくることが、とても大きな意味を持つのです。いろいろな視点といろいろな経験を持った人たちが集まって、お互いに切磋琢磨する場として早稲田大学は存在してきたのであり、そうした早稲田の伝統をよりいっそう発展させた形態としてのグローバル化があるのだと思います。

早稲田のアイデンティティーをさらに磨き日本の地域のよさをアピール

――日本の大学が、ヨーロッパやアメリカの大学に比して魅力を持つためには、逆に、日本ならではのものを提供できるかという視点も必要だと思いますが。
内田 おっしゃるように、早稲田大学が学生や研究者を集めるためには、グローバル化をめざす一方で、中国やアメリカの大学と違う魅力を示さなければなりません。そういう意味で、早稲田のアイデンティティー、研究・教育を提供する環境が非常に素晴らしいという評価を得ることが重要になります。一方で、早稲田で学ぶということは日本という社会の中にいるわけですから、家族の重要性だとか地域の結びつきとかはグローバル化しても失ってはいけないものだと思います。

たとえば、いま日本に来ているアジアの学生が日本の大学を選んだ大きな理由の一つが「安全」です。「社会」や「経済」、国全体の魅力を同時に上げていかないと、日本へ優秀な留学生を多く集めることはできません。
――海外留学生を受け入れる体制の構築に向けて、他にどのような課題がありますか。

内田 もう一つ問題なのはお金がないことです(笑)。早稲田大学に限らず、日本の私立大学の学費はアメリカの大学に比べると三分の一ほど。アメリカでは、数兆円の資産を使って年利7%ほどで運用していて、約3000億円の運用資金を稼ぎ出している大学もあるそうです。これに対して、早稲田大学の年間予算は1000億円、国立大学でも東大で2000億円強です。

GDPに対する高等教育費の国家支出で、日本はOECD平均の半分以下。もちろん、日本の場合は初等、中等教育に比重があるからというのも一つの要因であり、それ自体は間違っていると思いません。しかしながら、知識を基盤とした社会においては、大学の役割はその国の発展に非常に重要です。

文教予算が他国に比べて圧倒的に少ない現状で、日本の国際競争力が保てるのか疑問です。国の競争力の基盤は、科学技術力ですから、そのための研究教育機関である大学に対する予算を、少なくともOECDの平均並みには引き上げるべきです。そうすれば日本の大学の在り方は様変わりするでしょう。それはなにも財政から補助金を支出することだけではなく、税制の改正によって企業や個人が寄付をしやすくする工夫などを含みます。そうして、予算がとりやすくなれば、日本の教育の姿は大きく変わる、私はそう思います。

内田勝一 Katsuichi Uchida

1946年生まれ。70年早稲田大学法学部卒。72年同大学院法学研究科修士課程修了。75年同研究科博士後期課程修了。77年法学部専任講師、79年同学部助教授、84年同学部教授、2004年国際教養学術院教授就任。専攻は民事法学。国際教育センター所長、別科国際部長、国際教養学部長などを歴任。

大学改革提言誌「Nasic Release」第18号
記事の内容は第18号(2009年1月1日発行)を抜粋したものです。
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