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グローバル化は福澤諭吉の建学の精神そのもの

グローバル化は福澤諭吉の建学の精神そのもの
原点に帰って世界の雄を目指す

慶應義塾
国際連携担当常任理事
坂本達哉

慶應義塾が創立されてから150年、2008年11月8日に天皇皇后両陛下をお迎えして、盛大に記念式典が行われた。「オープン&グローバル」のスローガンを掲げ、さらなる国際化へ向けて舵を切った慶應義塾。坂本国際連携担当常任理事に、慶應義塾のいまと未来を語っていただいた。


――国際化推進に向けて、「世界最高水準の教育・研究・社会貢献をグローバル社会において展開する」という理念を掲げています。慶應義塾が目指す国際化とは、どのようなものでしょうか。


坂本常任理事(以下敬称略) 慶應義塾の名を知らない日本人はいないでしょう。しかし、世界的には決してそうではありません。やはり、これからの時代は、各国のトップたる大学は、国際的にも知られ、評価される大学でなければなりません。慶應義塾はその使命感を強く持つべき大学です。福澤諭吉が建学の精神に示した「独立自尊」の言葉の中に、「真にグローバルな学塾たれ」という意味が込められています。

グローバル化したいまの社会でこそ、原点に帰って見直されるべき精神だと言えます。狭い社会から飛び出してグローバルな取り組みが求められる新しい時代に日本が向かっているときに、グローバル社会に求められる人材教育を担うのは、慶應義塾の使命とも言えます。

――留学生を受け入れるに当たって、具体的にどのような政策を展開していますか。
坂本 2005年1月に国際連携推進機構を学内に設置し、同年6月、文科省の国際戦略本部強化事業に採択された頃から、本格的な取り組みをしているわけですが、特に留学生の増大を大きな目標に掲げています。2001年には486名だった留学生が、現在は934名に達しています。もちろん、いたずらに数を競うのではなく、慶應らしい独自の取り組みを目指します。

留学生の出身地域が多岐にわたることも一つの特徴です。留学生だけに限らず国際化のあらゆる面で、アジア、北米、ヨーロッパの主要三地域のバランスを重視する政策をとってきたからです。今後も、地域的多様性を保持しながら、留学生を増やしていく考えで、当面の目標としては、2015年までに1500名、2020年までに3000名を目指しています。学部生・大学院生を合わせた学生総数が約3万2000人ですから、その10%の水準ということになります。

――具体的な取り組みとして、宿舎や奨学金などの受け入れ体制の整備はどのようになっていますか。
坂本 留学生を受け入れるためには、基本的に、国の政策との連携が不可欠だと思いますが、慶應義塾独自の取り組みで言いますと、宿舎は現在約500人分を確保してあります。つまり、留学生の約半分です。これは今後、当然、増やしていかなければなりません。目安として、留学生の半分に対して何らかの形で宿舎を提供できる体制の維持を目標にしています。すると、3000人になれば1500室という膨大な数が必要になりますから、いまからその手だてをうっています。奨学金についてですが、現在でも公的私的合わせ約9億円の奨学金が留学生に払われております。これは、一人当たり年額100万円近い額になります。

これに加えて、新しい仕組みとして、未来先導国際奨学金を創設しました。卒業生を中心に創立150年記念の募金でいただいたお金のうち30億円を基金化したもので、うち10億円を留学生専用としております。この使い方を工夫しまして、修士課程の留学生の中から、毎年優秀者五名に限って与えられる特別の奨学金としました。いわゆるフルスカラーシップと呼ばれるもので、学費は全額免除、そのうえで、毎月20万円の生活費補助を支給する。アメリカのトップの大学で優秀な学生に提供しているのと同じ制度です。まだ小規模ではありますが、今後も、従来の生活支援の奨学金の拡充を図りつつ、このような特色のある奨学金制度を順次導入していく考えです。

私立大学の財務基盤の強化が急務

――留学生を受け入れるためには、基本的に、国の政策との連携、協力が不可欠だとおっしゃいましたが、どういった形での取り組みが考えられますか。
坂本 まずはなんといっても、国による政策の転換を訴えたい。日本の大学が世界の大学と競争するうえで、特にアメリカのトップ大学とでは、財務力に圧倒的な違いがあります。その中で、国からの補助金が年間総予算の半分を占める法人化大学(旧国立大学)はまだしも、私立の財政状況は厳しい。慶應義塾で言えば、国の補助金は年間収入の8%しかありません。

日本の高等教育の課題は、とりわけ私立大学の財務基盤を強化することだと思います。そのために、まずは、国による高等教育への支援を先進国並みにしてほしい。高等教育機関への補助金の対GDP比は、OECDの平均で1%なのに、対して日本は0.5%です。これでは国際競争力が保てません。まずは公私含めた補助金総額を先進国並みの倍にする。そのうえで、公私の格差を是正すべきです。

ただし、私立大学なのですから、自分たちで財務基盤を安定させていく努力も一方では大切です。アメリカの私立大学が裕福なのも、補助金頼みではありません。いわゆる「エンダウメント」(基金)が豊富なのです。その豊富な資金をもとに、ファンドで運用して巨額の運用益を上げています。

かく言う慶應義塾は、日本の私立大学の中では資金も豊富で運用実績も高いと言われていますが、アメリカのそれとは比べものになりません。アメリカのある大学では年間予算3000億円に対してエンダウメントはなんと4兆円と言われています。国立大学も法人化されましたから、財務的な独立を国から求められているわけで、やはり財務基盤の確立が、今後、共通の課題になるでしょう。それでは、財務基盤の確立は何かといえば寄付です。するとやはり、寄付に対する税制上の優遇措置が必要だという話になり、これも国の政策転換が求められます。

――大学同士の横のつながりで連携を深め、協力し合うという方向性は考えられませんか。
坂本 力を合わせることも必要でしょう。実際に、他大学では共同で土地を管理して、国際学生寮を建てようという動きがあったり、奨学金のファンドを共同でつくろうという話が出てきたりします。こういう取り組みはありえると思います。ただし、個々の大学による自力での財務基盤の強化が同時に求められると思います。なぜなら、弱い者が集まって強くなるかと言うと、そうではないからです。民間企業の再編でも、強い者同士が連携していくことでの生き残りが図られています。やはり、基本は個々の大学の努力だと思います。

混沌とした時代を救う世界のリーダーを輩出する学校へ

――留学生を受け入れる際に課題となっているのが言葉の問題です。日本語教育もすべきですし、英語による授業も増やさなければならず、各大学とも対応に追われているようです。
坂本 慶應では、日本語・日本文化教育センターを中心に、留学生に1年間の日本語教育を行っています。大変な人気で常に定員オーバーの状態です。同時に、国際化のために英語による授業も増やしています。英語で授業を行う国際プログラムの強化は1990年代から取り組み、現在では、英語だけで学位が取れるプログラムが五つあります。

また、慶應はダブルディグリーの拠点と言われるほどこの分野で先駆けており、すでにいま四つのダブルディグリープログラムがあり、かつ、近々さらに二つのプログラムを追加予定です。これも授業はすべて英語で行われています。すなわち、英語のみによって学位が取れるプログラムの整備と、日本語教育の強化の両立を同時並行で進めているわけですが、どちらも捨てることができない重要な課題であり、慶應ならではの国際化に避けては通れない点だと認識しています。

留学生は卒業すると、日本に留まって就職・進学する人と、母国に帰る人、第三国にわたって就職・進学する人に分かれます。
この場合、留学期間の間だけ、普段の生活で困らない程度の会話ができれば十分という留学生と、本格的に日本語教育を必要とする留学生と二つに分けて、それぞれに適切な日本語教育を行うことが不可欠です。2007年の秋からカリキュラムを抜本的に改革して、慶應が伝統的に行ってきたハイレベルな日本語教育とともに、ベーシックな日本語をゼロから教えるカリキュラムも別途用意して、留学生ニーズに応じて教育しています。

――受け入れ体制について伺ってきましたが、卒業後の就職のサポートは、どのようにお考えですか。
坂本 それがいままさに課題になっています。「独立自尊」が慶應の精神であり、就職の場面でも学生の自己責任とする考え方が徹底されています。もちろん、慶應でも学生総合センターで必要なサポートは適切に行っています。実際、留学生の就職状況は比較的恵まれているというのが現実ですし、日本人学生も伝統的に就職に強いと言われていることもあって、それほど危機感はないのかもしれません。

ただ、厳しい社会状況の中で、いつまでもそのような時代が続くとは限りません。特に外国人留学生については、人脈や情報が限られますから、日本企業への就職を希望する留学生へのスペシャルニーズの提供も含めて大学としてサポートしなければと思っています。

――今後、イノベーションの進化とグローバリゼーションの進化によって、日本も世界も大きく変わるかもしれません。その中で、慶應義塾はどのように変わっていくと思いますか。

坂本 慶應義塾は、福澤諭吉の思想精神がバックボーンであり、それは今後も変わらないでしょう。ただ、環境は否応なく変化しますから、リニューアルが絶えず求められる。封建社会の中で支配されていた庶民が学問を身につけることで自立する、というのが当時の時代背景の中での独立自尊です。グローバルの時代のいまでいうなら、それは、世界の枠組みが変わろうとする中で、「オープン&グローバル」という思想です。国際的にも、そしてあらゆる面で開かれた大学にしようとすることです。

たとえば慶應の学問によって独立自尊の精神を身につけた外国人の卒業生が母国に帰って指導者になってもおかしくないわけで、実際に中国の西安交通大学の鄭南寧学長は、慶應の卒業生です。そういう人がこれからもどんどん出てくるでしょう。日本のリーダーを輩出してきた慶應が、これからは世界のリーダーを輩出する学校になるべく、私たちは努力していこうとしています。それは福澤思想の原点に帰ることでもあるのです。

坂本 達哉Tatsuya Sakamoto

1955年生まれ。79年慶應義塾大学経済学部卒業。81年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。82年同大学経済学部助手、84年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。84年9月~86年8月、日本学術振興会海外特別研究員(英国グラスゴー大学)、89年慶應義塾大学経済学部助教授、96年同大学経済学部教授。2003年~05年、大学国際センター所長および大学日本語・日本文化教育センター所長を歴任。博士(経済学)。

大学改革提言誌「Nasic Release」第18号
記事の内容は第18号(2009年1月1日発行)を抜粋したものです。
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