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留学生30万人計画策定にあたって

「新経済成長戦略」には留学生を含めた大学のグローバル化
「オープンイノベーション」が不可欠

経済産業省 経済産業政策局長
松永和夫

産業界は、「優秀な人材の確保」というフレームで、外国人留学生に期待を寄せている。経済産業省も、グローバル化と日本の産業構造の変化に合わせ、留学生施策を含む新たな成長戦略を模索中だ。その新しい方向性とは何か、そして留学生をどう呼び込もうとするのか、松永局長にお話を伺った。


日本の成長を占う二つのキーワード
グローバリゼーションとイノベーション

2008年9月に改訂された、「新経済成長戦略」の基本戦略に示したとおり、これからの日本の成長を支えるキーワードは、グローバリゼーションとイノベーションという二つのキーワードに集約される。

グローバリゼーションの流れから孤立しては、日本という国はもはや成り立たない。あらゆる意味で、国際連携が極めて重要になる。その意味でも、海外からの留学生という形で多くの人材を受け入れることは、非常に大切なことだ。言うまでもなく、我が国は人口減少段階に差し掛かっている一方、社会保障の財源確保など、並行して財政基盤の充実を図っていかなければならないという困難な状況にある。もちろん、国内の人材をあらゆるレベルで活性化することも大事だが、ここに国際化という視点を入れることで大きな広がりが生まれる。

もう一つのキーワード、イノベーションから言えば、我が国は世界中から資源を買って、それを付加価値の高い製品に仕上げて海外に輸出することで成長してきたのであり、これは将来も変わらない。資源高時代に突入した現在においては、より一層の斬新な発想や革新が求められている。
イノベーションを推し進めることによって、世界が驚く機能や性能、低コスト構造を実現したことが、いままでの日本製品に高い競争力をもたらしてきた。しかし、それも時代が進むにつれて、だんだんと手詰まりになってくる可能性もある。このような中で注目される概念が、「オープンイノベーション」である。

企業の中でも、内部だけの発想や技術ではなく、大学との共同研究や多様な人材の確保などを通じ、外部の風を積極的に入れることで、新しいイノベーションを起こすという考え方が生まれ、実践されている。そういう観点からも、海外から優秀な留学生を招き入れることは、日本の成長戦略に大きく貢献すると考えてよく、経済産業省としても積極的に推進しなければならない政策だと言える。

産業界に求められる外国人留学生のキャリアパス

新経済成長戦略の中でも、人材の確保を重要なテーマとしてとらえ、「アジア人財資金構想」という考え方を示し、アジアを中心とした留学生、産業界、大学の交流を促進するための取り組みを行っている。

これは単に、人材不足を補うということではなく、視点の違う発想、異なる文化で生まれた人材を戦略的に雇用することによって、組織全体が活性化し、いい意味での「化学反応」を期待するということである。すでにグローバルに展開する企業をはじめ、外国人留学生を積極的に採用する企業が出てきている。企業における外国人人材や留学生を活用する成功モデルをもっと増やしていくとともに、共有情報として産業界全体でシェアをしていくことが重要だろう。

ただ、現状では企業側の受け入れ体制もさることながら、日本を目指す外国人にとっても、どこまでキャリアパスが描けるかといった不安があるだろうし、また、受け入れる側でも、定着率の問題や、社内における文化的な衝突への懸念などがあると考えられる。
そこで、経済産業省としては、企業における国際化指標を策定し、海外から人材を受け入れ、その力を活用するためにしなければならないことを指針として示し、データや資料を提供することによって企業の取り組みをバックアップしていく構想だ。すでに、有識者を招いて検討を重ねており、近々、その成果が得られるところまできている。

なお、育成される留学生について、企業側の求める人材ニーズとのマッチングを高めることも、重要な論点であると考えている。日本の学生に、いわゆる〝理科離れ〟が言われて久しいが、工学部の弱体化はとりわけ深刻である。理系に強い留学生を戦略的に育てるといった取り組みが一つ考えられるだろう。

もちろん、理系に強い日本の学生を育てることも重要であるが、日本に不足している分野の人材を海外からの留学生として受け入れ、育てていくことも、お互いのマッチングを高める一つの方法だと考えてもいいのではないだろうか。

日本の大学の国際競争力を高めることが大事

先述した、「アジア人財資金構想」は、2007年度からスタートし、約20大学の協力をいただき、すでに多くの留学生を受け入れている。次のステップとして、留学生として日本で学んだ外国人に、日本の中で活躍してもらわなければならない。

そういう意味では、2009年は、留学生30万人計画が実際に機能するかどうかを占う試金石と言えるのではないだろうか。このプログラムの初の卒業生が、就職の場を得る大事なタイミングにあたるからである。より多くの留学生が日本で活躍することで、サクセスストーリーができていけば、それがさらに次年以降の人材獲得につながっていく。

私は、日本的な家族主義の社風や、OJTを通した技術継承などの伝統的な企業マインドをもっと評価するべきだと思っている。日本の中ではむしろ、米国風のドラスティックな人事のあり方がもてはやされ、雇用の流動性が極端に高まり、この結果、企業の利潤が確保された反面、明らかに労働分配率は低下している。企業は利潤を留保してしまい、人材投資に回さず賃上げもしない。これを続けている限り、人材は定着しない。
なお、外国人の人材育成という観点では研修・技能実習制度というものがある。この制度については不適切な事例が増加しており、まず、その適正化を進めていくことが必要である。

2008年8月、私は、行き届いた環境の中で、日本伝統のOJT方式による技能実習を行っている企業の現場を視察した。ベトナム、タイの青年の表情を見たとき、非常にいきいきと目を輝かせて働いているのを見て心強く感じた。

将来有望な外国人の若者に対して、日本で研鑽を積み、活躍する場を与える取り組みをもっと続けていくことが、日本の発展だけではなく、世界への貢献という意味でも非常に重要なことだと考えている。

官民の協力で優秀な留学生を育てることが大切

そのためにも大事なのは、30万人という留学生の数ではなく、その質なのである。いま、真に日本の大学の「国際競争力」が問われている。優秀な外国人留学生が日本の大学で切磋琢磨して日本で活躍したり、母国へ帰って定職に就いたりする、そういうサクセスストーリーを政府や大学・企業が必死になってつくっていかなければならない。

日本の大学はまだまだ外国人学生の数も少なく、海外の大学に比べて国際的な魅力、競争力が劣っている。
現在、たとえば英語での授業を行うなど、外国人留学生に学びやすい環境を提供し、日本の大学の魅力を向上する取り組みが進められている。こうした施策等を通じて、大学がより戦略的・積極的に優秀な学生の獲得に乗り出していくことが期待される。

他方、我が国の産業界は、日本語でコミュニケーションがとれる優秀な人材を求めており、英語教育の充実と同様に、日本語教育の充実も今後ますます重要性を増すものと考えている。
いずれにせよ、人材を輩出する機関である大学が、留学生の獲得や、産業界の求める人材育成機能を強化する取り組みを通じ、国際競争力を向上させることが不可避になってくるのではないだろうか。

松永和夫 Kazuo Matsunaga

1952年生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省(当時)に入省。通商政策局経済協力部経済協力課経済協力企画官(88年)、日本貿易振興会ニューヨーク・センター産業調査員(90年)、資源エネルギー庁石油部流通課長(93年)、環境立地局環境政策課長(95年)、通商政策局総務課長(98年)、資源エネルギー庁石油部長(2000年)、資源エネルギー庁資源・燃料部長(01年)、原子力安全・保安院次長(02年)、原子力安全・保安院長(04年)、大臣官房総括審議官(05年)、大臣官房長(06年)を経て、08年7月より現職。

大学改革提言誌「Nasic Release」第18号
記事の内容は第18号(2009年1月1日発行)を抜粋したものです。
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