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海外留学生は日本の新しいイノベーションを担う大きな戦力になる

社団法人日本経済団体連合会
産業第一本部長 井上洋

人口減少社会、超高齢社会を迎え、日本の労働力は減る一方である。とはいえ、その不足した労働力の埋め合わせを外国人に頼るのではない。技術革新を通じてイノベーションを着実に進める、その触媒の役割としての高度技能を持った外国人、なかでも海外からの留学生に期待が集まっている。


留学生施策の本質はイノベーションの深化にある

先般発表した「人口減少化社会に対応した経済社会のあり方」(2008年10月14日)の中でも言及しているが、私たちが外国人に期待しているのは単なる労働力だけではない。その本質は、日本のイノベーションを推し進める触媒としての役割である。日本の人口減少分を外国人で穴埋めしようという単純な発想で「留学生30万人計画」が進められるとすれば、この政策は決してうまくいかないだろう。

最近、企業で言われるダイバーシティ・マネジメント(多様性を活かす経営)も、同様の考え方がベースとなっている。言語的・文化的背景の異なる多様な人たちが集まり、切磋琢磨することで、これまでになかったイノベーションが生まれ、それが日本の新たな成長に直結するというものだ。

私は、その一番有力な戦力、参画してもらいたい人たちが海外からの留学生だと思っている。なぜなら、留学生は自分の意思で日本に来ている。学習意欲が高く、行動力もある。そんな人たちをみすみす本国に帰してしまったり、欧米等の第三国へ取られてしまっては国益上の問題だ。産官学挙げての30万人計画を推進する価値はないと言っても過言ではない。

国、企業、大学の連携により、彼らが日本で就職し、日本で生活できるように支援することが大切である。実際、日本で就職することを望んでいる留学生は多い。世界的に見ても、日本の産業はあらゆる分野でトップレベルのものが多い。そうした卓越した技術を学ぶことは、留学生のキャリア形成に確実にプラスになる。
日本の企業、社会にとっても、インキュベーター的な可能性を秘めた彼らは大歓迎なのである。

受け入れの主体はあくまで大学、企業や国が協力する形が前提

留学生を30万人も受け入れるとなると、宿舎の問題や、地域の受け入れ体制などのハード面が問題になる。これにはコストがかかるので、企業にも協力を求めたいところだが、その役割は、第一義的には大学にあることをまず認識いただきたい。

なぜなら、留学生が払う授業料や入学金はまず大学に入るからである。それに見合う勉学の環境、生活の環境を整えるのは、やはり大学が主体的に行うべきだ。ただし、大学は基本的に非営利であり、潤沢な資金があるわけではない。かと言って国からの交付金・助成金は減らされている。

その一つの試金石となるのが、アジア人財資金構想だ。周知のとおり、これは、産学が連携してコンソーシアム(共同体)を形成し、企業ニーズを踏まえた専門教育、日本語研修、インターンシップなどの就職支援をパッケージで行うものだ。

このプログラムで、留学生にも一定額の支援金が支払われるようになった。ただ、それでも、対象になったのはわずか300名である。加えて、その300名相手のプログラムをつくるのでさえ、実は40億円以上の経費がかかっているのが現状だ。
そこで、ある程度ノウハウが確立できたら、国主体ではなく、大学独自でこの仕組みを応用するようにしていただきたい。大学単体で取り組むのが難しいのであれば、複数の大学で連合体をつくり、自治体や地域の企業も参加し、基金をつくるといった方法もとれるだろう。

留学生を受け入れるにあたって克服すべき三つの課題

ただ、留学生の受け入れには、当然克服しなければならない課題がある。
一つは、中国人学生の占める割合があまりにも多すぎることだ。多様性ということでは、これほど一国に偏ってしまっては意味がない。他のアジア諸国、欧米はもちろん、東欧、北欧、中南米、ロシア、中近東、こういった地域の学生の割合がもっと増えなければ、成功と言えない。

二つ目は、日本語能力をはじめとする、日本で暮らすための知識が不足していることだ。外国人を企業で受け入れる際に、企業が決まって問題視するのは、「意思の疎通に時間がかかる」ということだ。これは、単なる言葉の問題だけではない。たとえば、社会常識の前提が違うため、納得して仕事をしてもらうまで、ひと苦労することが多いのだと言う。企業側も、最初の1、2年は我慢して育てようとしているが、大学も、日本の習慣や文化等の教育にもっと力を入れてほしい。

三つ目は、同じ出身国でグループをつくってしまい、日本人と交流しない留学生が多いことである。いつも仲間同士で固まっているので、日本の風習や文化も知らないまま、母国とあまり変わらない生活環境の中で暮らし続ける。いざ日本企業に就職すると、カルチャーショックの波が押し寄せ、孤独にも耐えられず、やめてしまう者も少なくない。迎え入れる日本企業側も、彼らのもたらすイノベーションを求めているのであるから、そういう事情を加味したうえで、お互い歩み寄り、試行錯誤を繰り返して解決の道を探っていくしかないだろう。

留学生を大学はどう教育すべきか

企業が留学生に求めている条件は、即戦力としての能力である。単に知識があるだけでなく、社会人としての常識、仕事に取り組む姿勢など、大学時代に習得しておかなければ即戦力にはならない。すなわち、大学で相当高いハードルを設けて教育しないと、企業社会では通用しないということだ。

留学生の日本語コミュニケーション能力について付け加えると、一部では、「日本企業も国際化しているのだから、必ずしも日本語ができなくてもいいはずだ」といった論調も見受けられるが、これは現実を踏まえていない。

仮に職場の中で英語中心であったとしても、一歩外に出たら日本語ができないと生活ができない。そのためにも、大学の留学生センターの役割は非常に重要だが、現状では必ずしも十分に機能していないのではないだろうか。

留学生センターでは、教員が授業や研究を行いながら兼任して担当しているうえに、職員も必ずしも留学生の相談に乗る各種スキルを十分に備えていない。結果、留学生たちは、留学生センターに相談に行かず、同郷の仲間で固まることになってしまうのではないだろうか。
とは言え、専門職員を常駐させるためにはコストがかかる。そこで、大学単位ではなく複数大学で協力し、企業と自治体も支援する形で、留学生をサポートする体制を共同運営していくような取り組みが早急に必要になってくるだろう。

井上洋 Hiroshi Inoue

1980年、早稲田大学商学部卒、同年経団連へ。93年、産業基盤調査役。2002年、社会本部総合企画グループ長として、経団連の新ビジョン「活力と魅力あふれる日本を目指して」のとりまとめを行う。03年、外国人受け入れ問題プロジェクトリーダーとして、「外国人受け入れ問題に関する提言」のとりまとめを行う。04年、総務本部秘書グループ長として、奥田碩会長秘書を担当。06年より現職。

大学改革提言誌「Nasic Release」第18号
記事の内容は第18号(2009年1月1日発行)を抜粋したものです。
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