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留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業 (独立行政法人 大学評価・学位授与機構長 木村 孟)

留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業

独立行政法人 大学評価・学位授与機構長
木村 孟

政府が打ち出した「『留学生30万人計画』の骨子」に基づく具体的方策の検討(とりまとめ)が2008年7月に中央教育審議会大学分科会留学生特別委員会より発表された。座長としてとりまとめに当たったのが、大学評価・学位授与機構長の木村孟氏である。

留学生の受け入れは、日本が担うべき知的な国際貢献であり、我が国が安定した国際関係を築くうえでの基礎となる、というのが持論だ。計画発足の背景、そして達成に向けた課題について伺った。


国際貢献と安全保障としての留学生の受け入れの意義

――「『留学生30万人計画』の骨子」のとりまとめの中で、どのような議論があったのでしょうか。
木村機構長(以下敬称略) 外国人留学生に名を借りた不法就労が社会問題化している背景があり、数年来、留学生の数を増やすことについては賛否両論がありました。

それでも「数を増やそう」という方針となった理由は、まず一つは我が国の国際貢献という視点です。世界第二位の経済大国であり、世界一と言ってよい技術立国である日本が、他国の人材育成のお手伝いをすることはいわば当然のことです。日本が受け入れている留学生は現在約11万8000人。これは国力に見合った規模であるとは言えないでしょう。

もう一つは、安全保障政策としての留学生の受け入れです。私は1960年代にグラスゴー、70年代にケンブリッジと二度英国で研究生活を送りました。

当時は第二次世界大戦の影響がいまだ残っていて、英国南部の人たちの反日感情が特に強いと言われていたのですが、実際はロンドンや南部など、日本人と接触する機会の多い地域では反日感情が弱く、北へ行くほど、日本人を知る機会がないためか、反日感情が強いということがロンドン大学の調査で明らかになりました。

つまり「知らない」ということは反目を促す危険性を孕みますし、反対に「知っている」ということは親しみと理解を促す可能性を生むということです。

そういう意味で、国力に見合うだけの数の留学生を受け入れるということは、日本のナショナル・セキュリティーに大きく貢献することだと考えます。2003年の中教審答申では「こうした人的ネットワークは、わが国が安定した国際関係を築く上での基礎となるものである」と述べています。

留学生の質を上げ量を増やすには大学の改革、国際化が必要

――「2020年までに留学生を30万人に」ということは、約10年で現在の三倍近くまで増やすことになります。政策から実際の受け入れまでさまざまなハードルが予想されます。
木村 政策上の課題から言いますと、近年大分縮まってきていますが、日本から留学で出て行く学生と日本に来る学生の間に数の面でアンバランスがあります。それとご承知のように、日本に来ている留学生の9割はアジアからで、中国がその中でも圧倒的に多い。

日本からはアメリカ、ヨーロッパに7割近く出て行っているので、ここにも大きなアンバランスがあります。数も増やしながら質も上げるにはまず日本の高等教育の質を上げる、そして日本の大学を国際化することが必要です。そのために私が提案しているのが、日本版ブリティッシュ・カウンシルの創設です。

ブリティッシュ・カウンシルはイギリス政府が運営する文化交流機関で、100カ国近くに大使館とは別にオフィスを設け、大学の情報提供や留学希望者向けの試験、留学前のサジェスチョンなどにワンストップで対応しています。

日本人の学生がイギリスに留学したいと希望する場合には、ブリティッシュ・カウンシルへ行けば、そこですべての情報を得られるという仕組みになっています。それに倣って、日本の留学生政策や各大学の政策、高等教育の状況など、留学生に必要な情報を一元管理する機関をつくろうということです。

では、受け入れる日本の大学の側に留学生を増やすキャパシティがあるのかというと、大学で非常に熱心に留学生をトレーニングしているのは工学、理学、医学、農学など主として自然科学系の学部です。丁寧にケアしている分、現実にはこれ以上、留学生を増やすのは難しいという声があがっています。ですから、私たちは自然科学系の分野については、大学院に特化して受け入れを増やす道を模索しています。

日本は自然科学系の学問が強く、2008年もノーベル賞受賞者が物理学から三人、化学から一人出ました。現在は9割がアジアからの留学生ですが、日本は自然科学系分野でこれだけの強さがあるのですから、欧米各国からの留学生増も期待できます。アメリカとヨーロッパの学生を日本の自然科学分野に、戦略的分野(Strategic Field)として、留学してもらう政策を徹底して検討していくつもりです。

アジアに対しては、アジア地域の11カ国が参加する大学間協定である「シードネット」というプログラムが、いまとてもいい動きをしています。これは、ODA資金を使った途上国援助の一環として行っているもので、工学系学部の修士以上の課程を対象にしています。修士課程については、日本を除く加盟国同士なら、どこの国の大学に行っても日本政府が留学資金を援助するというものです。

博士課程については日本の大学に短期または長期に滞在しなければなりません。2001年からスタートして2008年で第一期が終了しますが、修士は数百人、ドクターも100人近く輩出しています。いまこのようなネットワークが、アジア地域だけでも多数出てきています。

たとえば、元香港科学技術大学チア・ウェイ・ウー学長が提唱した「東アジア研究中心大学連合」もその一つです。日本、中国、台湾、韓国の理科系の研究で名のある一流大学が連携し、定期的に研究交流、学生交流を進めていこうという試みです。こういうものを積極的に活用し、日本にアジアの優秀な留学生を呼ぶための仕組みとして機能させていくことも一つの道でしょう。

専門学校、語学学校に対するサポートも重要です。専門学校は学位が取れないために留学生の関心が薄いのですが、日本には非常に優秀な専門学校があります。実践的技術や即戦力としての人材を必要とする国からの留学生の数は増えるはずです。それから語学学校、とりわけ日本語学校を充実させていかなければなりません。

現在も、特に中国人留学生の多くが、日本語学校で日本語を習得して大学に入学しているのです。留学生の質を高め、かつ数を増やすために日本語学校を整備することは、優秀な留学生が大学へ入学することにつながります。ただし、これにはビザの問題があります。留学生がらみの事件が過去に起きたために、就学ビザと留学ビザの区別をなくすことは容易ではないでしょうが、しかるべき所管機関を設置するなどして将来的には実現するべきでしょう。

留学生に関する政策は、法務省、外務省、文科省、厚労省などさまざまな省庁がかかわるため、「30万人計画」の実現には、省庁間の連携を深めることが大変重要です。しかし最も重要なことは、日本の大学を魅力的にすることと、日本の社会を魅力的にすることです。大学の改革、国際化とともに企業にも、留学生に対する意識を変えていただきたいと思います。毎年、留学生のうち、約1万人もの学生が日本で就職しています。驚くべき数字です。

しかし、就職先のほとんどが従業員300人以下の中小企業で、大企業は留学生の採用に対して積極的とは言えません。留学生としてきちんと学問を修めた人たちは、能力も人格も優れていると見てよいでしょう。大企業も留学生の採用に積極的になり、日本での就職の門戸がさらに大きく開かれるということは、日本の社会がより魅力的になるということでもあります。

また、留学生の住居の問題も重要です。大学もしくは公的な寮に入っている留学生は全体の20%強で、80%弱は民間の住居で暮らしています。現在の日本はGDPの150%近い借金を抱える国です。留学生受け入れのための官の援助はすぐには期待できません。これからは民間の努力がぜひとも必要です。民間の力を借りてリーズナブルな価格で外国人留学生向けに宿舎を提供することなどは、とても効果的で必要なスキームだと思います。

外国人を「知る」ことがよりよい社会につながる

――留学生を積極的に受け入れようと、主要な大学はプログラムの充実などさまざまな対策を講じています。
木村 大学の環境整備における喫緊の課題は、まず英語を話せる事務局員を育てることです。英語が話せて、面倒見がよくて、留学生からセカンド・マザー、セカンド・ファーザーのように慕われる事務局員が、それぞれの大学にいなくてはいけません。国立大学法人への移行等で人事の自由度が増して、主要な大学は外国語のできる人、留学生に関する仕事が好きな人を積極的に採用しています。これからそのような大学の動きを増やしていきたいところです。

また、英語による講義を増やす必要もあるでしょう。「せっかく日本に来ているのに、英語で授業するのはいかがなものか」という議論はあります。しかし、すべての講義や生活を英語でサポートするということではありません。生活では日本語を使い、日本文化に触れてもらえるよう支援しながら、主要な講義は英語で行うという態勢を整えていく。漢字の分からない国々からの留学生を増やすには、これは必須の改革でしょう。
――では、留学生を受け入れる側として、私たちはどのような心構えが必要でしょうか。
木村 たとえば日本人学生に目を向けると、最近の学生は留学生との交流に対して全体的に消極的なようです。私たちが学生の頃は留学生に限らず誰かれなしに周りの人の面倒を見ていたというのが私の実感です。その意味でも、留学生だけの宿舎はつくらず、日本人と混住させるという文部科学省の方針は正しいと思います。留学生が増えて、留学生との接点が増えるにつれて、日本人学生の意識も開けてくることを期待したいものです。

あるとき、マレーシアからの留学生の賃貸アパート探しを手伝ったのですが、後日、わざわざ大家さんから電話があり、「本当に素晴らしい学生たちだ」と大変な喜びようでした。思わず私も目頭が熱くなるほどでした。この他にも同じような経験がいくつもあります。大家さんは最初、留学生だと聞いて少し抵抗があったものの、彼らをよく「知る」につれ理解と親しみが生まれてきたのだと思います。

このように、少しずつではありますが、留学生にとっての日本の環境は、よい方向へと変わってきています。公の仕組みがさらに充実していけば、留学生がより学びやすく、より暮らしやすい社会に変わっていくことと思います。そして、それは、我々日本人にとってもよりよい社会になっていくということだと確信しています。

木村 孟 Tsutomu Kimura

1938年生まれ。61年、東京大学工学部土木工学科卒業。東京大学大学院数物系研究科土木工学修士課程修了。東京工業大学教授、同工学部長を経て、93年、東京工業大学学長に就任。98年より現職。文部科学省中央教育審議会副会長を兼務。ケンブリッジ大学チャーチルカレッジフェロー。

新しい社会を創造する主翼を担うのが世界トップの「行動する大学」東大の使命 (東京大学総長 小宮山 宏)

新しい社会を創造する主翼を担うのが世界トップの「行動する大学」東大の使命

東京大学総長
小宮山 宏

2005年の総長就任時に発表された「東京大学アクション・プラン」に盛り込まれた「国際化の推進」。その取り組みは一定の成果を上げているものの、日本を代表する大学として、国内外にその存在感を示し、社会への課題解決のための知の発信が求められている。新たな東大の国際化にどう対応するのか、小宮山総長にお伺いした。


国際化は時代の要諦。日本のトップ大学としての責務

――本年度が最終年度となる「東京大学アクション・プラン」には「世界の東京大学にふさわしい学生の獲得」が掲げられています。各大学がグローバル化に力を入れている中で、東京大学が目指す方向についてお考えをお聞かせください。
小宮山総長(以下敬称略) グローバル化の目的は二つ。

一つは、東大を社会の縮図にしたいということです。「東大憲章」でも多様性の受容を宣言しているとおり、国籍、ジェンダー、政治的意見など、そういった多様性をすべて受け入れる大学を目指しています。その視点で言えば、女性の割合を高めることと国際化すること、これが多様性の中で一番重要だと思っています。2008年度入学生の比率で言えば、女子学生比率は18.8%、外国人は3.1%です。

全盲全聾の福島先生を筆頭に、バリアフリー化については大変進んでいるのですが、グローバリゼーションの時代に多様性についてもあたりまえの環境にしたいと思っています。その中で、国際化は大学としてやろうと思えばできることです。国内では世界の大学ランキングで日本の大学の国際競争力が低下したなどのネガティブな報道ばかりされがちですが、たとえば、イギリスのBBC放送が2006年から行っている国際調査で「世界に最も良い影響を与えている国はどこか」という問いに対し、最も多くの票を獲得したのは3年連続で日本です。

国際化を考えるときに「好かれている」というのはすごく大事なことです。国際化の前提は英語によるコミュニケーションだと皆さんがよくおっしゃいますが、当然我々も英語の強化は必要だと思っています。「好かれている」ということの事実をマスコミも報道しないし、またその重要性を日本人自身がもっと自覚しなくてはいけないと思います。私は日本は江戸時代から先進国だったと思っています。

確かに鉄砲や黒船をつくる産業技術では遅れたが、茶道や浮世絵に代表される文化創造の面では大変な先進国で、教育にしても藩校が250ぐらいあって、まさに大学の機能を持ち、1万5000の寺子屋で基礎教育を行っていたわけです。東大もヨーロッパ型大学に組み替えたのが130年前だというだけであって、日本の歴史的な「先進性」、そして現在の日本の底力である「イノベーション」を外国人はよく理解しているということです。

――「日本は課題先進国である」というのが総長の持論ですが、太陽光発電にしても省エネ技術にしても、まさに世界の課題を先取りしています。そういう技術や研究内容を世界に発信していくべきだとお考えですか。
小宮山 そうです。先日も、韓国で開催されたワールドナレッジフォーラムにパネリストとして参加しましたが、そのテーマが「経済クライシス」です。ご存じのように、いま世界は未曽有の金融危機にさらされています。

これに対応するにはどうしたらいいか、世界の識者が集まって話をしたのですが、そこで私が提唱したのが「リアルなマーケットを開く」ということです。いまの危機は行き過ぎた金融取引依存が招いています。混乱した金融マーケットをすぐに立て直すための戦略も重要ですが、長期的に見れば、単にお金だけをやりとりする市場ではなく、本当のマーケットをつくる、すなわち、新しい産業をつくることこそ重要だと思います。では、新しい産業は何かといえば、サスティナビリティといきいきとした高齢化社会をつくるということです。これからの世界で、環境問題、資源問題を避けて通れる国は存在しません。高齢化社会も同様です。すべての国がこれから、この二つの問題に対処しなければならないし、そこに新たな巨大マーケットが誕生するはずです。もちろん金融は大事なのですが、「物やサービス」といったリアルなマーケットにどう取り組んでいくか、「課題先進国日本」の役割は大きいと思います。

留学生を受け入れる環境整備に民間の協力も必要

――ところで、海外からの留学生を受け入れるときに、現実的な問題となるのが、施設のキャパシティなどのハード面です。
小宮山 そうだと思います。日本で学びたい外国人学生は大勢いますから、30万人という数を集めるだけならば至極簡単な話です。では、それを受け入れる宿舎、外国語で対応できる病院などの公共施設、保育所をどうするかとなると、たちまち行き詰まってしまう。問題はハード面なのです。30万人の留学生を集めるというのは、日本の進んだ教育を海外に広める意味もありますが、一方では、日本に好感を持つ人を増やす意味もあります。言ってみれば、コストのかからない安全保障の面もあるのです。日本に来たい学生が日本で学び、日本を好きになって帰国する。彼らの活躍を見て、日本に好感を持つ人、日本に来たい学生が増える、というプラスの循環をどうつくるかは、本当に重要な問題です。それについては、社会全体で考える問題でもあると思います。国に資金がなければ民間との協力も必要になってくるでしょう。つい最近、イェール大学のリチャード・C・レビン学長がいみじくも、「大学の役割は『エデュケーションとリサーチ』だけではなく、もう一つある。それは『インスティテューショナルシチズン』だ」とおっしゃっていました。社会との連携の重要性を言っているわけですが、私もまったく同感で、「東大憲章」の中でも公共性として示しています。東大は社会の一員として2030年までにCO2を50%減らす「サスティナブルキャンパスプロジェクト」を始めています。

――東大としても、独自で留学生受け入れ態勢を進めていますが、現状はいかがですか。
小宮山 留学生のための総合窓口となる施設が、もうすぐ着工する予定です。いままで、留学生センターが兼ね、教育・学生支援系と国際系といったいくつかに分かれていた部署をひとまとめにしたうえで、「国際交流センター」として新たに発足し、日本語教育の強化と窓口の一本化を図ります。また、教育の中身では、英語で授業を受けられるコースを増やしています。

最も新しいコースは「サスティナビリティ教育プログラム」ですね。授業は100%英語で、2007年の秋にスタートしました。現在は23名が在籍し、うち18名は外国人です。しかも、その人たちの国際分布が広いんです。いま国際化と言っても、中国人留学生が8割ほどを占めるのが実際ですが、この教室は欧米や中南米・アフリカなど、世界中の人がまんべんなく参加しています。この要因は、留学生用の奨学金の枠を10程度設けて、来日せずに現地で試験を受けられるようにしたことで優秀な人材が入ってくるわけです。

――留学生を受け入れるために、英語による授業などの国際化政策が必要になる一方で、国際交流、文化交流を図るという意味で、日本語教育、日本文化の教育も今後重要になるという意見もありますが。
小宮山 先ほども言ったとおり、日本を好きになってもらうのが一つの目的ですから、当然、その点は重要だと思っています。もともと東大では日本語教育に力を入れており、工学部など規模の大きい学部では独自に日本語教育に取り組んでいました。

そのうえで、今回、国際交流センターを発足させて日本語教育をさらに強化するのは、理由があります。というのは、英語で授業が受けられることで留学生が増えるのですが、そうして日本に来た留学生は結局、日本語を学びたがるのです。考えてみればこれは当然で、日本文化に対する理解も深まるわけですし、日本語が話せないと普段のコミュニケーションに支障が出る。そこで、留学生を増やすためには、それぞれの国での日本語教育を促進するだけではなく、来日後に、日本語を教える体制を強化することです。中には、家族を連れてくる留学生もいて、当然、配偶者や子供たちへの日本語教育の要請も増えるでしょう。そういうニーズにも対応していきたいと思っています。

新しい社会をクリエイトする役割を持つリーダーとして

――2008年度が「アクション・プラン」最終年にあたります。この4年間を総括して、何が最も印象に残っていますか。
小宮山 新しい試みとして、東大版社会人コースと言える「エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」をスタートさせました。大学の役割は、若い人を育てることと、新しい技術や知識の元になる基礎研究を通して社会に貢献することにある。

しかし、それだけではいまの変化するスピードに合わなくなってきています。未来のリーダーを育てる、未来に花開く技術の基礎研究をするのではなく、リーダーを集めて直接教育する、いますぐ役立つ知識や技術を教育する必要性が出てきました。定員25名のところに40名の応募があり、反響の大きさに驚くほどです。

この目的は単に優秀な人材を輩出するというのではなく、極論すると、首相、社長、学長を生み出す、つまり日本のリーダーを育成する機関のモデルをつくりたいと思っているのです。

――東京大学は世界の第一級の人材を育成すべき使命があるというのは、まさにそのとおりだと思います。未来に向かって、東大はどのように変わっていくでしょうか。
小宮山 一言で言うと、「行動する大学」でしょうね。21世紀は、人類にとって未曽有の時代になる。それは、あらゆる意味で地球が小さくなったことに起因します。一昔前は資源が枯渇するなんて思いもしませんでした。環境問題もそうです。廃棄物をどんどん燃やして、あるいは海に捨てても、自然の浄化力で元に戻っていたのが、もうそのキャパシティを超えてしまった。

情報などはまさに、地球を小さくしてしまった元凶の最たるものでしょう。この地球で、どうやって人類が仲良く、ともに豊かに暮らしていけるかが、いま問われています。無限の地球の時代から有限の地球へ、若い躍動的な社会から、成熟した社会に変わりました。人類には残された時間はそうありません。その中にあって、大学も、いままでのようなトラディショナルなスタイルでは、この激しく変化する世界に対応できないのです。大学の生み出す知は間違いなく社会に貢献しなければならないが、従来型ではだめで、「知を統合」して、大学にはこういうことができるんだ、と実際に示しながら新しい社会を創造する。その主翼を担うのが「行動する大学」であり世界トップの大学だと私は思っています。そして、その役割は、やはり東大が担うべきだと思っています。

小宮山 宏 Hiroshi Komiyama

1944年生まれ。67年、東京大学工学部卒業。72年、同大学院工学系研究科博士課程修了。88年、東京大学工学部教授に就任し、2000年4月~02年3月まで同大学院工学系研究科長・工学部長。03年に副学長に就任し、05年4月より現職。専門は化学システム工学、機能性材料工学、地球環境工学。著書に、『地球持続の技術』(岩波新書)、『知識の構造化』(オープンナレッジ)、『東大のこと、教えます』(プレジデント社)、『「課題先進国」日本』(中央公論新社)など多数がある。

公平で真に世界に開かれ、国際的に卓越した研究教育拠点を目指す (京都大学総長 松本 紘)

公平で真に世界に開かれ、国際的に卓越した研究教育拠点を目指す

京都大学総長
松本 紘

創立以来111年、京都の地において自主自立の精神を涵養し、世界に知られる著名な研究者を数多く擁する京都大学。第25代総長に就任した松本総長は、大学は世界レベルの人材と研究成果を生み出す大地であるべきとの「大学大地論」を展開する。留学生を含めた京大の戦略的課題をお伺いした。


拙速な留学生拡大に走るより基盤整備の充実を

――京都大学は、基本理念の中で「国際的に開かれた大学」を標榜し、実際、種々の国際交流を積極的に推進されています。ますます進む国際化の中で、留学生の問題についてどのようなお考えをお持ちですか。

松本総長(以下敬称略) 個人的な考えを含めて言うと、単に留学生の数を増やせばいいという風潮は、少々問題があると感じています。数を増やせば母数が大きくなりますから、総体的に優秀な学生が増えるのは確かかもしれません。しかし数的目標をあげて、期間を設定すると、えてして悪い側面が先行する可能性があります。留学生30万人計画の中でも議論されたことではありますが、留学生の質にも留意する必要があるでしょう。

また、留学生出身国についてのバランスを図ることも大切だと考えます。アジアからの優秀な留学生をスカウトする一方で、もっと欧米諸国からの優秀な留学生を増やしたいと思います。京都大学が競うべき欧米の世界トップレベルの大学、それこそハーバード大学やケンブリッジ大学では、世界中の優秀な学生が学んでいます。

たとえば、京大の卒業生でハーバードやケンブリッジの大学院で学ぶ学生はいますが、その逆はあまり聞かないですよね。これはなぜか。京大の先生方は国際化に大変熱心ですし、世界トップクラスの研究者も多数いるにもかかわらずです。
その理由は、もしアメリカから留学生が来て、向こうの大学で整備されているような環境を用意できているかと言えば、できていないからなのです。私も若い頃アメリカの大学に行きましたが、研究室にはラボ・テクニシャンがいて、研究者は研究のみに専念できるシステムが整っている。留学生向けの奨学金や宿舎に加えて、教育・研究が自由にできる周辺整備が欧米はできているが、日本はそこまで到達していません。そういった教育・研究環境の魅力を高めて、クオリティの高い留学生に来てもらい、それによって大学の活力が増すようにしたいものです。
――留学生を30万人も受け入れる体制をつくる前提としては、どのような施策が必要でしょうか。

松本 国の教育への支援体制から考え直すべきでしょう。よく言われることですが、高等教育への予算を、GDP比でせめてOECD諸国並みに引き上げることですね。それらの国の大学と競争していくわけですから、条件が違う中では競えない。教育や研究のレベルを上げるというのは教育機関として当然ですし、「この研究室に入りたいから」と海外から来てくれる優秀な学生もいますが、まだ少数です。30万人という話になったら、もっとシステマチックな部分で考えないといけないでしょう。

大学はいま、痩せた土地を一生懸命耕しているようなものです。畑というのは、どんないい苗を植えても土地に養分がないといい作物は育ちません。ところが、いまの政策は、本来必要な肥料や水をどんどん減らし、無駄な研究を減らして、大学を競争させて、生産性のいい部分に特化すればいいと考えている。しかし、学問というのは裾野が広がっていないとできません。すなわち、広い肥沃な大地があって、初めていい芽がたくさん育ちます。

私はこれを「大学大地論」と言っています。留学生30万人計画も確かに養分の大きな一つですが、一見無駄と思える大学の基盤である土地の元気を取り戻さないといけないのです。

民間との連携は、20年先を見据えたビジョンが必要

――京大は産学連携も積極的に取り組んでいます。そのようなネットワークを利用して、留学生の受け入れに民間活力を活用するという方向性は考えられないでしょうか。
松本 それは、私たちにも、企業にも、どこまでやる気があるかによると思います。企業の採用ニーズに合わせて私たちが留学生をしっかり育てて、卒業した学生を企業が受け入れてくれる、そういうスキームを20年かけて一緒に築きましょうというのであれば、それは大変に意義があります。

また、民間に協力してもらって、学生寮を建て、研究環境を整えるのもとてもいいことです。民間の投資が促進され、大学を中心に街も活気づくという展望があればいい。しかし、大学にいま資金がなくなってきていて、土地が痩せてきています。それでもやっているのは、日本人の勤勉さ、真面目さなのですが、そこに競争的資金という肥料や水を少し融通されても、土地全体は潤いません。このような政策では学問は進みません。
――企業では、高度な専門性を持った優秀な留学生を積極的に採ろうという動きを活発化させていますが。

松本 それは、日本人の学生も頼りないですからね(笑)。下手な日本人学生を採用するより、優秀な外国人学生を採りたいと企業が思うのは当然でしょう。ただ、いい学生は、みんなが狙っているわけですから、そこに競争が生まれます。京大でも、外国の方を職員として採用していろいろな大学を回ってもらい、先生方にも現地で学生と面接するなどの地道な活動を通して、いい学生が少しずつ入ってくるようになりました。しかし、そのような動きはごく一部分に過ぎません。

いい学生を世界中から集めようとしたら、国全体で取り組むべきものでしょう。魅力のない国には留学生が来るでしょうか。いま、日本の存在感が世界で薄くなっている現状を何とか変えていかなければいけないのです。

若手からシニアまで公平で一貫した研究支援の取り組みを強化

――京大は、「探検大学」と評されるほど、パイオニア精神に溢れていて、若手研究者を育てるのに熱心だという印象があります。大学間の国際化競争の中で、先駆者としての立場が有利に働くのではないでしょうか。

松本 確かに、一生懸命に若手を育ててきた自負はあります。ただ、それが京大の専売事項だと思うのは大間違いでしょうね。次の世代を育てるのは、大学にとって生命線ですから、どこの大学でも熱心に取り組んでいるでしょう。もちろん、他の大学があまり触手を伸ばしていない研究分野に京大は積極的に挑戦し、成果を挙げてきた強みはあるでしょう。

そういった地位を失わないためにも、さらなる新しい取り組みをしていく必要があります。具体的には、各種の研究支援を強化しています。
まず、若手で言えば、「スタートアップ研究費」があります。研究をスタートしたばかりの時は実績がないので、科学研究費や競争資金がなかなか取れません。そこで、初期投資の資金を支援するという制度です。そしてスタートしたもののなかなか芽が出ず、頓挫したのでは、最初にかけた資金が無駄になる。そこで、次の段階として「ステップアップ研究費」として支援をする仕組みをつくりました。

次に、研究成果が出始めた段階です。研究費の原資は競争資金ですから、毎年申請していると何年かに一回の確率で取れないときがある。研究室も中堅になると、10人、20人のグループを抱えている。そこで、中堅を支援する「シニア・コア研究者バックアップ研究費」を独自に運営しています。

さらに、脂がのりきっている中高年層。彼らはすでに世界でも認められた研究者で資金は潤沢でも、お金は必要です。なぜかと言えば、そういう人たちは世界と競い合っている。たとえば、資金が1億円足りないために、一つの機材を買うのを諦め、結果、競争に負けてしまうということがある。それなら、その足りない資金を融資しましょうということで、学校内融資を始めました。

そして今後、第一線を退いたシニア研究者にも支援プログラムをつくりたいと考えています。大学は組織である以上、定年といった人事の枠組みがあります。しかし、研究者としての能力がそこで終わるわけではありません。そこで、名誉教授に対する支援として、「シニア研究者サポートプラン」というのもスタートさせたいのです。つまり、これからスタートする若手、もうすぐ芽が出る準若手、コア研究者、ベテラン研究者、シニア研究者まで、一連の支援プログラムがこれで完成することになります。

ここで最も重要なことは、平等と公平は違うということです。「これらの資金は平等に配れ」という意見もよくあるのですが、平等にしたらベストにはならないのです。慎重に検討して公平にかつ「断ずべくして断ぜざれば後に悔いあり」と思ってやっています。

大学が人生の基軸となる時代の到来

――今後10年、20年後、大学をとりまく環境は大きく変化していくのは確実です。大学はどのように変わっていくべきだとお考えでしょうか。
松本 京大は京都という街に大きく支えられ、街に溶け込み、ともに発展することで、お互いが文化を高めあってきました。本学の経営協議会委員でもある山田啓二府知事がおっしゃっていたことですが、「京都は歴史があり、文化度も高い都市だが、一方で、革新的な気質もあり、新興企業をたくさん生み出してもいる。その源流が京都大学にある」ということでした。

京都大学の前身は第三高等学校ですが、大阪にあった三高の前身を、当時の京都府は、予算の2割を用意して誘致した経緯があるのです。当時の記録を見てみますと、大変な議論があったようですが、大学を呼んでこそ京都は伸びると当時の知事が英断されたそうです。

私は「大学基軸論」を提唱し、大学が人生の基軸にならないといけないのではないか、というより、なるべきなのだと話しています。大学で過ごす期間は短いですが、そこでの人間関係は一生続きます。人生の節目で困ったとき、やりなおしたいとき、大学に何度も戻ってくる、そこには、ともに学んだ仲間がいて、あるいは、そこから社会に広がっているネットワークがあって、お互いに支えあい、助けあう。大学を基軸として一つのファミリーを形成していく、そんな場所であるべきだと思っています。

少なくとも、京都大学に縁のあった方が、ここは人生の基軸になりうると思ってもらえるようなサービスを提供したいですし、そして、20年後にはすべての大学が、そこにかかわった人の一生の拠り所になるような、そんな時代になることを願っています。

松本 紘 Hiroshi Matsumoto

1942年生まれ。65年、京都大学工学部卒。67年、大学院工学研究科修士課程修了。同年、京都大学工学部助手、工学部附属電離層研究施設助教授、超高層電波研究センター教授、同センター長、宙空電波科学研究センター教授、宙空電波科学研究センター長・評議員、生存圏研究所教授・所長、理事、副学長を経て、2008年10月より現職。

日本とアジアの「大いなる架け橋」となることが九州大学の国際的使命 (九州大学総長 有川節夫)

日本とアジアの「大いなる架け橋」となることが九州大学の国際的使命

九州大学総長
有川節夫

アジア地域と歴史的につながりが深く、独自の文化交流を行ってきた福岡。この地にあり、対アジアについての国際化では1日の長があるのが九州大学である。留学生政策もやはり、アジア地域でのプレゼンスを最大限に活用する考えだ。


留学生政策は、産官学+民(地域)が一体となった取り組みが必要

――九州は歴史的にアジア地域との交流が盛んで、九州大学も独自の国際化戦略を推進しています。そんな中で、政府の留学生30万人計画が持ち上がりましたが、この施策をどのようにとらえていますか。

有川総長(以下敬称略) 現在、日本には約12万人の留学生がいます。それが30万人になるということは、おおよそ三倍になるということですから、ごく単純に言えば、九州大学では、現在1300人いる留学生が約4000人になる計算になります。これだけの数となると、やはり現在行っている戦略の拡大の延長線上というわけにはいきません。あらゆることを想定し、体制を整備しなければなりません。

大学としては、まず教育プログラムを充実しなければなりません。英語で行う講義の拡充、新しいコースの設定などをすでに開始しています。ただ、こうした大学の対応だけでは不十分です。卒業後の受け入れ先である産業界においても、これだけ多くの留学生が来るのであれば、大企業だけでなく、中小企業や地場産業においても受け入れ体制が必要となります。

では、そういう体制が企業側にあるのか、受け入れるとしたら条件は何なのか、といったことも考えておく必要があります。官はもちろん、地元財界などと連携した、産学官での取り組みが欠かせません。
さらに言えば、最も大事なのが「民」です。九州大学が、アジア展開で一定の実績を出すことができているのは、地元自治体の協力、地元市民の理解が大きいのです。これは、この地域が歴史的にアジア地域と深い交流があったことと無縁ではありません。

キャンパス担当理事の経験からわかるのですが、大学にとっては、地域との関係が極めて重要であり、それなくして大学は成り立たないとさえ言えると感じています。また、同時に、地域も大学の重要性を強く認識し始めています。たとえば、4000人の留学生がいるということは、大学の中で勉強するだけではなく、地域に住み、買い物をし、地域の人々と交流するわけです。それを地域の人々が受け入れる用意があるのか、それによって地域はどう変わっていくのかを考えなければなりません。これは大学だけで考えればいいことではなく、大学と地域が一体となった取り組みが必要だということです。

――留学生の宿舎など、ハードの整備が気になるところです。
有川 そうですね。ただし、国立大学の法人化によって、大学としても積極的に取り組めるようになりました。現在の伊都キャンパスの宿舎は、PFIという枠組みのもとで、民間の技術的能力などを活用してできた学生寮第一号と言っていいでしょう。

現在の宿舎は、総戸数が約250ですが、家族で住めるタイプも建設中です。これからもさらに整備を進めますが、それだけでは不十分ですので、民間や自治体の協力が必要です。日本人学生を含めて、入学後の最初の1年間は宿舎を優先的に割り当てますが、2年目からは新入生のために空けていただきます。その代わり、自治体の協力で、公営住宅を格安で提供いただいています。このような取り組みをさらに大規模に進めていく必要があるでしょう。

アジアと環境で独自の地歩を築いてきた強みを生かす

――九大は、特にアジア地域で、環境問題に対するプロジェクトを大々的に進めています。アジア地域ではこれから、環境対策が大きな課題となり、またビジネスにもなります。そういった意味で、アジアと環境という二つの点で優位に進めることができると思うのですが。

有川 おっしゃるとおりです。すでに九州大学は、近未来の水素利用技術に関する世界的な研究拠点になっていますし、さらに、次の時代を見据えて核融合関係にも力を入れています。これらはエネルギー面の研究成果として高い評価を得ると同時に、環境問題に強い人材を輩出しています。加えて、もう一つ重要なのが炭素資源です。

九州大学では、今年度より、新炭素資源学という新しい領域がグローバルCOEプログラムとして立ち上がりました。時代遅れと思われるかもしれませんが、新エネルギー開発が進む一方で、特にアジアでは、依然として石油、石炭などの化石燃料に大きく依存している現状があります。新エネルギーへの転換だけではなく、現在使用されている化石燃料をクリーンに利用する技術も求められています。

ところが、どの国でもこの道の専門家が不足してきており、知識や技術が急速に失われつつあります。この点、九州大学は、近隣に炭鉱があったこともあって、昔から石炭研究については強い大学でした。研究が途切れる前にグローバルCOEプログラムとして立ち上げることができてよかったと思っています。

環境問題はすでに国境を越えています。中国から黄砂が飛んでくるのはいまに始まったことではありませんが、近年ではこれにさまざまな化学物質が混じってきています。もはや、環境は、東アジア共通の問題として認識されています。中国や韓国の大学からも共同研究の打診があり、2007年には「東アジア環境問題プロジェクト」を立ち上げ、国際的な産学官の研究のネットワークも構築されています。今後「エネルギーと環境の九州大学」が国際的にも認知され、海外との共同研究や研究者・学生の交流もさらに活発になるでしょう。
――現在では、世界的に優秀な学生の争奪戦になっていますが、そういう意味でも、環境問題に対する九大の先駆性は大きなプレゼンスになっているのですね。

有川 環境に関する知識や技術で存在感を示していくことは、日本の取る道であることは確かです。地球が人間の住めない星になってしまえば大学も企業も存在できないわけです。したがって環境問題は、大学として取り組んでいかなければならない使命の一つでしょう。
また、優秀な学生の争奪戦になっているとのことですが、私は、現在の若者は皆、優秀であると思っています。確かに入学当初は頼りなく見えることもありますが、学んでいく過程で、めきめき力をつけていく姿をこれまで何度も目の当たりにしています。

結局は育て方に帰結することで、教育機関であれば、「優秀な学生がほしい」ではなく、「優秀な学生に育てる」ということが基本だと思います。これに加えて、世の中が求めていること、また、学生が求めていることに対応できるプログラムに基づいた教育を行うことも必要です。学ぶ知識が世の中でどう活かされ、必要とされていくのかという摺り合わせも、現在では必ずしも十分ではありません。もちろん、いまはどのような応用ができるかわからない基礎研究分野に対しても、数十年先のことを考えた投資を怠ってはいけません。

イノベーションとは、えてして「役に立つかどうかはわからないが、とにかくやってみたい」という純粋な好奇心から生まれるものです。「役に立つこと」と「夢の実現」の二つを同時にバランスよくやっていかねばなりません。

――九大は、産学連携を積極的に展開していますね。
有川 九州大学の産学連携は順調です。大学から働きかけ、民間の技術を体系化し提供することも、大学の重要な役割の一つです。民間においては、経験や失敗に基づく知識やノウハウがあっても、そういうものを体系化して教育していくシステムを構築するのはなかなか大変です。一方、大学では、民間で一般化している経験や技術を知らずに、学生に現実と乖離した教育を行うことを避けなければなりません。そこに、産学連携の大きな意味が出てくるのです。

アジアにもEUレベルの諸国連合を築く好機

――これから、大学をとりまく環境は大きく変わり、大学も変化していかなければならないと思います。九大の未来像をどのようにお考えですか。
有川 世界第一級の教育・研究と診療活動を展開し、「アジアに開かれた知の世界的拠点大学」「西日本を代表する基幹総合大学」「都市と共に栄え、市民の誇りと頼りになる大学」を目指します。また、そのための戦略として、前総長の時代から「4+2+4アクションプラン」を掲げて取り組んでいます(図を参照)。このうち、重要なポイントが、「二つの方向性」です。

大学としては、新しい科学を創造していくのは当然であり、これは普遍的な使命と言えるでしょう。では、その方向と言えば、やはりアジアに向かうだろうと思います。九州はアジアと歴史的なつながりが深いですし、地理的な距離も近いです。福岡と釜山の距離が250キロ弱で、この距離は中継点なしに海底ケーブルを引ける限界ですし、ソウルにも福岡空港から直行便が出ています。

数年前、関西空港からソウルに行きましたが、福岡からの便に比べて、かなり時間がかかり、改めて「九州はアジアに近いんだな」と実感しました。これまでもアジア諸国とさまざまな取り組みを行ってきましたが、近年はこれらの国々も力をつけてきており、真のパートナーになってきました。そろそろアジアでも、EUレベルの諸国連合を視野にいれ、AUとでも言われてもいい時代になってきたのではないかと思います。その架け橋になる九州大学でありたいですね。

近い将来で言うと、特に、中国、インドとの取り組みを強化していきたいと思います。両国は人口も多く、関係を強化することで、こちらもパワーをいただくこととなります。そういう意味では、これからの成長の可能性を秘めた国が多いアフリカも注目しており、アジアから世界へと関係を深めていきたいと考えています。

有川節夫 Setsuo Arikawa

1941年鹿児島県生まれ。理学博士。専門は情報科学。66年、九州大学大学院理学研究科数学専攻修士課程修了。同年、九州大学理学部助手就任。京都大学数理解析研究所助手などを歴任した後、九州大学に戻り、大型計算機センター長、大学院システム情報科学研究科教授、附属図書館長、理事・副学長、国立情報学研究所客員教授などを経て、2008年10月より現職。

地域の特性を生かし、海外留学生のニーズに響く教育を (中央大学総長・学長 永井和之)

地域の特性を生かし、海外留学生のニーズに響く教育を

中央大学総長・学長
社団法人 学術・文化・産業ネットワーク多摩会長
永井和之

国公私41大学と九自治体や企業が加盟し一都ニ県にまたがる我が国最大の産官学連携組織である学術・文化・産業ネットワーク多摩。会長で、中央大学総長・学長の永井和之氏に、地域と大学のあり方を含めたその国際戦略をお伺いした。


留学生30万人計画の問題点

――政府が発表した「留学生30万人計画」について、いかに優秀な外国人学生を集めるかが焦点、という声が多いようですが、ネットワーク多摩会長として、また中央大学総長・学長のお立場も含めて、どのようなお考えですか。

永井総長・学長(以下敬称略) 前提として、私はこの計画には二つの点で乗り越えなければならない課題があると思っています。一つ目は、この計画が出た背景を見ていると、根本には経済政策があることに気づきます。つまり、日本が少子高齢化していく中で、労働力をどう確保するかの解決策であり、ある程度の教養と技術を兼ね備えた人材を日本社会に受け入れていくのがその主眼です。誤解を恐れずに言うと、一種の移民政策と言っていいでしょうね。

経済政策としてなら、むしろ一定の評価をしてもいいと思うのですが、純粋に文教政策としてとらえた場合は問題点があると感じています。文教政策、即ち日本人の学生のレベルを上げるのであれば、日本人学生を30万人、海外に出して鍛えていく政策の方が、人材養成という観点から効果があると考えています。中央大学学長としての立場からしますと、あえて言うなら出す方に重点を置きたいと考えているわけです。

受け入れることを否定しているわけではなく、本来のあるべき姿で言うと、二つ目の課題は日本で何を教えるのかということです。多くの留学生を受け入れるための方法論として、英語による授業、あるいは、英語だけで学位が取れるプログラムの充実が言われます。なるほど、日本語の障壁がなくなれば、留学生は増えるかもしれません。

でも、それで異文化を理解したうえでの国際人を養成することにつながるのでしょうか。
現在どこの国でも留学生獲得競争が行われていて、そこでは英語で単位が取れ、世界から教員を集め、無国籍的な教育プログラムが行われています。それが本当の意味での国際化時代の人材養成なのか、非常に疑問がありますね。

外国に行く目的は、とりもなおさず異文化に接することです。異文化に遭遇して、ショックを受けたり、感激したりすることによって、国際人に脱皮していくのであり、そういうものを与える教育内容でなければ、むしろ留学生の興味を惹かないのではないでしょうか。この二つの点が、いまの留学生政策に対して私が抱いている問題意識であり、この課題を明確にするのが先決でしょう。

その地域、その大学でなければ学べない教育の提供が大切

――それでは、日本でどのような教育内容を構築し、受け入れ体制をつくっていくことが望ましいとお考えですか。
永井 やはり、大学で教える学問だけではなく、その地域の人々や企業との関わりによって得られる、そこでしか学べないものを提供することでしょう。そういう意味で、この多摩という地はさまざまな可能性を持っています。

たとえば、首都圏の中でも極めて少子高齢化が進んでいるエリアであり、多摩ニュータウンの一部の地域の平均年齢は、なんと私と同じ63歳です(笑)。かつ、広大な地域で交通機関のネットワークも南北にはなく、交流が難しいこの地に留学生を受け入れる場合、どうすればいいのかを考えておかねばなりません。

――それらは海外留学生にとってマイナス要因にも思えますが。
永井 それが違うんです。産業でも、近代的産業もあれば伝統産業もあるという地域です。「留学生30万人計画」では企業での受け入れ、就職支援にも力点が置かれていますが、留学生の就職状況は非常に厳しいものがあります。

この地域の企業には先端産業もありますが、多くの地場企業ではアナログな技術がいまだに現役で稼働しています。これらの技術は日本人の知恵とノウハウの結集ですから、専門職として母国で活躍する留学生には大いに役立つ技術になるでしょう。
また、多摩には、多くの特色を持った大学が集まっていることでも、多様な留学生ニーズへの対応が可能になります。

トップクラスの人材だけを狙うのではなく、バラエティに富んだ専門的、職業的ニーズに対応することが肝心なのです。ネットワーク多摩には、このような多様な留学生を受け入れる可能性が十分にあるのです。
さらにもう一つ、いま、留学生を受け入れる宿舎をどうするかが問題になっていますが、近年、多摩ニュータウンに相当な数の空き部屋が出ていることを逆手に取り、留学生の宿舎として活用する案が出ています。

少子化問題と宿舎問題を逆転の発想で解決するアイデア

――それは非常に大きなメリットですね。どこの大学でも宿舎の問題には苦慮しているようです。
永井 しかも、この案のいいところは、単に宿舎が格安で確保されるということだけではありません。さきほど申しましたが、住民の大半はシニアなのです。

これはもちろんまだ構想の段階ですが、シニアの人が学生といろいろな形で触れ合い、世話係を買って出てくれれば、日本文化のよい先生になる。この地域のシニアというのは、企業に長年勤めた人ですから、豊富な経験を積んできているうえ、教養の高い方々が揃っています。
そういう人が、留学生と地域活動の中で交わることによって、日本文化が伝えられる。地域にとっても、若い留学生をコミュニティに迎えることは、いろいろな意味で活性化につながります。

――日本の生活習慣や気質、あるいはマナーなどを留学生にどう伝えるかも大きな課題ですが、とてもいい解決策になりそうです。
永井 そうなんですよ。団地の管理組合に入り、住民と共同体を形成していくことは非常にいい勉強になるはずです。日本の企業に就職する段になっても、生活習慣の違いにとまどうことも少なくなるでしょうし、日本人との付き合い方も学べます。生きた会話を通じて日本語の上達にも役立つでしょう。

中央大学でも日本語教育には力を入れていますが、しかし、座学の勉強だけでは生きた日本語はなかなか覚えられません。手っ取り早いのは、ネイティブと日常的に触れ合うことですよ。

私がアメリカのスタンフォードのロースクールに留学していたときに、現地のお世話係のような人がボランティアでついてくれました。これは、「イングリッシュアクション」という、留学生支援のためのプログラムで、リタイアしたシニアのアメリカ人がパートナーとして留学生一人ひとりについてくれる。子供の学校の世話から買い物の仕方、病院の紹介などさまざまな日常生活の相談に乗ってくれ、とても助かった思い出があります。

現地でのお父さん、お母さんになってくれて、生活に慣れるまでサポートしてくれる。実はこれが、多摩ニュータウンに住むシニアと留学生の交流というアイデアのもとになっています。留学生もすごく助けられますし、リタイアした地域の方にとっても、充実感が持てます。
ホームステイとして一緒に生活するまではできなくても、買い物に付き合ったり、生活の知恵や習慣を教えたり、地域の集まりに一緒に参加するといったことなら、教養と経験を兼ね備えたシニアの方々なら、喜んで引き受けてくれる人は多いはずです。

日本語も社会常識も、地域とのふれあいで身につく

――企業からの要望としても、大学で日本の社会常識や基本的なマナーを身につけさせてほしいという声も多いので役立ちそうです。
永井 実を言うと日本人の学生も同じ問題があるんですけどね(笑)。いまの新入生は社会をまったく理解していない。だから、1年生に対してまず何を教えるかというと「社会で生きていくというのはどういうことか」ということなんです。働くとはどういうことで、生きるとはどういうことかを考えさせる。実はこれが、キャリア教育の原点なんです。

本来、大学は、社会人になるための教育をする場であり、自分はどうやって生きていくか、何を目指していくのかを掴ませなくてはならない。それは、日本人でも外国人でも一緒で、インターンシップもその一環です。

――受け入れ側の企業も手間がかかるなどで、インターンシップが形骸化しているとも言われていますが。

永井 そこが問題です。形式的なインターンシップのプログラムなどをつくると、実態が見えにくくなる。その企業が、どのように社会に役立っている仕事をしているかは、入ってみないとわからない。
重要なのは、感じることなのです。実学というのは問題を問題として感じるところから始まるので、感じなければ始まらないのです。学生には「ありのままの企業を見てこい」とアドバイスしています。

地場産業の中小企業でも、インターンシップを受け入れてくれる会社は結構あります。幸い、当大学はOBも多いので、いろいろな産業に従事しており、受け入れ先の確保はだいたいできています。
また、留学生向けのイベントもOB会が主体になって運営してくれています。自分たちの勤めている企業を訪問させるイベントなど、頻繁に開催してくれていますね。

またこの間、上海で国際シンポジウムを開催してきましたが、上海白門会では現地勤務の日本人OBと中国人留学生のOBがともに活動するなど、海外にもネットワークが広がっています。そういう人的なネットワークが、中央大学という名前を広げるのに大きな役割を果たしています。
結局、グローバル化というのは、多様性を受け入れることだと思います。外国の異文化を理解する、あるいは受け入れ、許容する、そういうオープンな心を日本人が持つことが真の国際化につながる、私はそう考えます。

永井 和之 Kazuyuki Nagai

1945年生まれ。68年、中央大学法学部法律学科卒。同大学法学部助手、助教授、米国スタンフォード大学ロースクール客員研究員を経て、81年より中央大学法学部教授。99年同学部長、2005年11月中央大学学長、同年12月学校法人中央大学総長を兼任。専門は会社法、商法。社団法人日本私立大学連盟常務理事、文部科学省大学設置・学校法人審議会委員。

早稲田大学全体をグローバル化し世界の「WASEDA」を目指す (早稲田大学副総長 内田勝一)

早稲田大学全体をグローバル化し世界の「WASEDA」を目指す

早稲田大学副総長
内田勝一

2005年、外国人留学生へのサービス向上や海外大学との提携強化を図るため「留学センター」を開設するなど国際化推進に力を入れてきた早稲田大学。すでに留学生数は約2800人に達し、次の目標として留学生8000人を打ち出し、具体的な受け入れ準備に入っている。その目指すところを伺った。


留学生を増やすことが目的ではなく大学のグローバル化が真の狙い

――外国人留学生の拡大に向けた取り組みが官民一体となって進められていますが、留学生を8000人にまで増やす取り組みをしている早稲田大学の存在感が高まっています。その意義と戦略はどのようなものでしょうか。

内田副総長(以下敬称略) もともと早稲田大学は国際的に開かれた大学で、1899年には清国や朝鮮半島から留学生の受け入れを始めていました。19世紀末から20世紀の初めまでの時期は、学生の2割が留学生だったというほどです。ただ、今回の取り組みにおいては、早稲田大学では留学生を増やすことそれ自体を主たる目的としているのではなく、大学のすべてのシステムをグローバルに対応させようというのが基本的な考えです。日本の産業界の中でも、日本国内では圧倒的なシェアを持っていても、世界に出るとまったく通用しない産業がありますが、大学もそうです。

日本の大学はいいものを持っているにもかかわらず、海外から留学生を集めて、教育によって国際社会に貢献する、あるいは外国人の力を日本に役立てるといったことをほとんど考えてこなかった。しかし、これからの時代は、日本の中でトップの大学を目指すのではなく、アジアの中で、あるいは世界の中でトップランクの大学になることが極めて重要です。

もともと、外国の学生の間でも、日本のビジネスや科学技術への関心は高かったのですが、問題は言葉でした。日本語を学習する機会に恵まれた人でなければ、日本の大学に来られなかったのです。これに対して、ほとんどの国の高校で英語を教えていますから、英語で授業をするだけで、潜在的な学生の母集団が決定的に違ってくるのです。

受け入れのためには、充実した英語のカリキュラムが必須になってきます。本学の大学院の授業を英語にしたところ、海外から優秀な大学院生がたくさん入ってきて、学生のレベルが非常に上がった例があります。

――アジアの優秀な学生はいま、ヨーロッパやアメリカを目指しています。その目を日本に向けさせることが必要なのですね。
内田 そのとおりです。そういう意味で言うと、日本の大学は欧米の主要大学に比べて後れをとっています。特にアメリカは、教育レベルが総じて高く、学習システムもしっかりしています。少人数教育をし、年度を細かく区切って集中的にカリキュラムを消化していく。いわゆるリベラルアーツを中心としたアメリカのトップ大学はいま、みんなこういうスタイルをとっている。こういう大学と、これからは競争していかなければならない。そのためには、授業を英語にすることではなく、大学全体をグローバル化しなければならないでしょう。

ハードやソフトを含めて、あらゆるものが対象になるわけですが、とりわけ大学にとって重要なものは、研究のレベルです。研究のレベルが低ければ、学生はやはり魅力を感じません。そこで、海外の大学とのジョイントで研究を進めたり、早稲田で学べば海外のトップ大学の学位を同時に取れる「ダブルディグリープログラム」といった取り組みを始めています。さらにこの先も、教育システムやカレンダーを含めて徹底的に変えていかなければならないでしょう。

異文化の凝集された空間を寮やキャンパスで実現

――留学生8000人という数字があがっているわけですが、トータルな政策が必要になります。
内田 学部は4万5000人、大学院で9000人、合わせて5万4000人に対して現時点で留学生は約2800人。ということは、あと5千数百人の学生が増えることになります。当然、それだけの人数を受け入れる体制は一気にできません。段階的に環境を整えていくことになります。一つの問題は寮。現在は、日本人学生を含めて1000人に提供していますが、順次増設していきます。

まず、2008年に田無(現・西東京市)と西早稲田に二つの新しい寮をつくり、西早稲田は外国人を中心に160人、田無では混住にしています。これには意味があって、日本人と外国人を混住させることで、今後留学生が増加することを想定し、起こりうる問題をあらかじめシミュレーションしようとしています。ここで得た経験をもとに、大規模な寮の拡充を実施する計画です。寮は住むだけではなく教育の場であり、寮での日本人学生との共同生活を通じて、日本をより深く知ってもらう。ある意味で全人教育の場として、寮を考えています。

もう一つの問題は、奨学金。日本の大学は入学後に奨学金を出す仕組みだったため、裕福ではないが、極めて優秀な学生を獲得できていなかった。海外の大学は、優秀な学生に対して「うちの大学に来てくれたらこれぐらいの奨学金を出しますよ」と誘っているわけです。
そこで早稲田でも、アジア特別奨学金を設け、アジアのトップの大学と手を結んで、入学前の選抜で優秀な学生については授業料と生活費を支援するプログラムを始め、今後も強化していきます。

卒業後の就職については、2008年3月に卒業した国際教養学部の進路を見ると、就職にしても進学にしても順調で、問題はなさそうです。一つ問題があるとすれば、日本で就職する場合に、学んだ分野の仕事に就かないとビザがおりにくいという問題があります。この点は国の理解が必要でしょう。また、日本語能力至上主義的な考え方が根強い企業がまだ多く、この点でもう少し進んだ理解を求めたいと思っています。
――外国人留学生に対して、文化的な軋轢、マナーに対する認識の問題などはありませんか。

内田 少なくとも寮の中では大きな問題はありません。それに、かつてはアジアからの留学生というと、貧しいというイメージがありましたが、いまはもう様変わりしています。国際教養学部の外国人学生の中にも、大きいマンションにお付きの人と住んでいる人もいれば、入学後に高額の寄付をしてくれた親御さんもいる。逆に言えば、よりきめ細かい対応がこれから必要になってくるということが言えるかもしれません。たとえば、中東のイスラム圏の学生が多く入ってくれば、礼拝のスペースを準備しなければなりませんし、学内で提供する食べ物も彼らの習慣に配慮しなければならないでしょう。

ただ、考えようによっては、これからの日本人はいまよりもっと頻繁に外国に出ていくはずですし、日本への移民も増えるのは確実です。そうした異文化の混在する状況を大学の寮の中で先取りして体験することは、日本の学生にとっても留学生にとっても意味のあることです。
早稲田大学としても、学生を海外の大学に送り込むことを積極的にやっており、全学生にその機会を与えたいのです。

これは、外国に行くと、学生の意識ががらりと変わるからです。向こうで出会うほかの国から来た留学生は、国の期待を一身に背負ってくる人が多いわけで、彼らの母国を思う心に刺激を受けたりするわけです。それを狙って海外の大学に行かせているわけですけれども、早稲田の中で多国籍化した世界が実現するということは、なにも海外に出さなくても、大学の中で一つのミクロコスモスが実現することになります。

さまざまなバックグラウンドを持ったさまざまな国の人が早稲田大学でともに学ぶ、という状況をつくることが、とても大きな意味を持つのです。いろいろな視点といろいろな経験を持った人たちが集まって、お互いに切磋琢磨する場として早稲田大学は存在してきたのであり、そうした早稲田の伝統をよりいっそう発展させた形態としてのグローバル化があるのだと思います。

早稲田のアイデンティティーをさらに磨き日本の地域のよさをアピール

――日本の大学が、ヨーロッパやアメリカの大学に比して魅力を持つためには、逆に、日本ならではのものを提供できるかという視点も必要だと思いますが。
内田 おっしゃるように、早稲田大学が学生や研究者を集めるためには、グローバル化をめざす一方で、中国やアメリカの大学と違う魅力を示さなければなりません。そういう意味で、早稲田のアイデンティティー、研究・教育を提供する環境が非常に素晴らしいという評価を得ることが重要になります。一方で、早稲田で学ぶということは日本という社会の中にいるわけですから、家族の重要性だとか地域の結びつきとかはグローバル化しても失ってはいけないものだと思います。

たとえば、いま日本に来ているアジアの学生が日本の大学を選んだ大きな理由の一つが「安全」です。「社会」や「経済」、国全体の魅力を同時に上げていかないと、日本へ優秀な留学生を多く集めることはできません。
――海外留学生を受け入れる体制の構築に向けて、他にどのような課題がありますか。

内田 もう一つ問題なのはお金がないことです(笑)。早稲田大学に限らず、日本の私立大学の学費はアメリカの大学に比べると三分の一ほど。アメリカでは、数兆円の資産を使って年利7%ほどで運用していて、約3000億円の運用資金を稼ぎ出している大学もあるそうです。これに対して、早稲田大学の年間予算は1000億円、国立大学でも東大で2000億円強です。

GDPに対する高等教育費の国家支出で、日本はOECD平均の半分以下。もちろん、日本の場合は初等、中等教育に比重があるからというのも一つの要因であり、それ自体は間違っていると思いません。しかしながら、知識を基盤とした社会においては、大学の役割はその国の発展に非常に重要です。

文教予算が他国に比べて圧倒的に少ない現状で、日本の国際競争力が保てるのか疑問です。国の競争力の基盤は、科学技術力ですから、そのための研究教育機関である大学に対する予算を、少なくともOECDの平均並みには引き上げるべきです。そうすれば日本の大学の在り方は様変わりするでしょう。それはなにも財政から補助金を支出することだけではなく、税制の改正によって企業や個人が寄付をしやすくする工夫などを含みます。そうして、予算がとりやすくなれば、日本の教育の姿は大きく変わる、私はそう思います。

内田勝一 Katsuichi Uchida

1946年生まれ。70年早稲田大学法学部卒。72年同大学院法学研究科修士課程修了。75年同研究科博士後期課程修了。77年法学部専任講師、79年同学部助教授、84年同学部教授、2004年国際教養学術院教授就任。専攻は民事法学。国際教育センター所長、別科国際部長、国際教養学部長などを歴任。

グローバル化は福澤諭吉の建学の精神そのもの (慶應義塾 常任理事 坂本達哉)

グローバル化は福澤諭吉の建学の精神そのもの

グローバル化は福澤諭吉の建学の精神そのもの
原点に帰って世界の雄を目指す

慶應義塾
国際連携担当常任理事
坂本達哉

慶應義塾が創立されてから150年、2008年11月8日に天皇皇后両陛下をお迎えして、盛大に記念式典が行われた。「オープン&グローバル」のスローガンを掲げ、さらなる国際化へ向けて舵を切った慶應義塾。坂本国際連携担当常任理事に、慶應義塾のいまと未来を語っていただいた。


――国際化推進に向けて、「世界最高水準の教育・研究・社会貢献をグローバル社会において展開する」という理念を掲げています。慶應義塾が目指す国際化とは、どのようなものでしょうか。


坂本常任理事(以下敬称略) 慶應義塾の名を知らない日本人はいないでしょう。しかし、世界的には決してそうではありません。やはり、これからの時代は、各国のトップたる大学は、国際的にも知られ、評価される大学でなければなりません。慶應義塾はその使命感を強く持つべき大学です。福澤諭吉が建学の精神に示した「独立自尊」の言葉の中に、「真にグローバルな学塾たれ」という意味が込められています。

グローバル化したいまの社会でこそ、原点に帰って見直されるべき精神だと言えます。狭い社会から飛び出してグローバルな取り組みが求められる新しい時代に日本が向かっているときに、グローバル社会に求められる人材教育を担うのは、慶應義塾の使命とも言えます。

――留学生を受け入れるに当たって、具体的にどのような政策を展開していますか。
坂本 2005年1月に国際連携推進機構を学内に設置し、同年6月、文科省の国際戦略本部強化事業に採択された頃から、本格的な取り組みをしているわけですが、特に留学生の増大を大きな目標に掲げています。2001年には486名だった留学生が、現在は934名に達しています。もちろん、いたずらに数を競うのではなく、慶應らしい独自の取り組みを目指します。

留学生の出身地域が多岐にわたることも一つの特徴です。留学生だけに限らず国際化のあらゆる面で、アジア、北米、ヨーロッパの主要三地域のバランスを重視する政策をとってきたからです。今後も、地域的多様性を保持しながら、留学生を増やしていく考えで、当面の目標としては、2015年までに1500名、2020年までに3000名を目指しています。学部生・大学院生を合わせた学生総数が約3万2000人ですから、その10%の水準ということになります。

――具体的な取り組みとして、宿舎や奨学金などの受け入れ体制の整備はどのようになっていますか。
坂本 留学生を受け入れるためには、基本的に、国の政策との連携が不可欠だと思いますが、慶應義塾独自の取り組みで言いますと、宿舎は現在約500人分を確保してあります。つまり、留学生の約半分です。これは今後、当然、増やしていかなければなりません。目安として、留学生の半分に対して何らかの形で宿舎を提供できる体制の維持を目標にしています。すると、3000人になれば1500室という膨大な数が必要になりますから、いまからその手だてをうっています。奨学金についてですが、現在でも公的私的合わせ約9億円の奨学金が留学生に払われております。これは、一人当たり年額100万円近い額になります。

これに加えて、新しい仕組みとして、未来先導国際奨学金を創設しました。卒業生を中心に創立150年記念の募金でいただいたお金のうち30億円を基金化したもので、うち10億円を留学生専用としております。この使い方を工夫しまして、修士課程の留学生の中から、毎年優秀者五名に限って与えられる特別の奨学金としました。いわゆるフルスカラーシップと呼ばれるもので、学費は全額免除、そのうえで、毎月20万円の生活費補助を支給する。アメリカのトップの大学で優秀な学生に提供しているのと同じ制度です。まだ小規模ではありますが、今後も、従来の生活支援の奨学金の拡充を図りつつ、このような特色のある奨学金制度を順次導入していく考えです。

私立大学の財務基盤の強化が急務

――留学生を受け入れるためには、基本的に、国の政策との連携、協力が不可欠だとおっしゃいましたが、どういった形での取り組みが考えられますか。
坂本 まずはなんといっても、国による政策の転換を訴えたい。日本の大学が世界の大学と競争するうえで、特にアメリカのトップ大学とでは、財務力に圧倒的な違いがあります。その中で、国からの補助金が年間総予算の半分を占める法人化大学(旧国立大学)はまだしも、私立の財政状況は厳しい。慶應義塾で言えば、国の補助金は年間収入の8%しかありません。

日本の高等教育の課題は、とりわけ私立大学の財務基盤を強化することだと思います。そのために、まずは、国による高等教育への支援を先進国並みにしてほしい。高等教育機関への補助金の対GDP比は、OECDの平均で1%なのに、対して日本は0.5%です。これでは国際競争力が保てません。まずは公私含めた補助金総額を先進国並みの倍にする。そのうえで、公私の格差を是正すべきです。

ただし、私立大学なのですから、自分たちで財務基盤を安定させていく努力も一方では大切です。アメリカの私立大学が裕福なのも、補助金頼みではありません。いわゆる「エンダウメント」(基金)が豊富なのです。その豊富な資金をもとに、ファンドで運用して巨額の運用益を上げています。

かく言う慶應義塾は、日本の私立大学の中では資金も豊富で運用実績も高いと言われていますが、アメリカのそれとは比べものになりません。アメリカのある大学では年間予算3000億円に対してエンダウメントはなんと4兆円と言われています。国立大学も法人化されましたから、財務的な独立を国から求められているわけで、やはり財務基盤の確立が、今後、共通の課題になるでしょう。それでは、財務基盤の確立は何かといえば寄付です。するとやはり、寄付に対する税制上の優遇措置が必要だという話になり、これも国の政策転換が求められます。

――大学同士の横のつながりで連携を深め、協力し合うという方向性は考えられませんか。
坂本 力を合わせることも必要でしょう。実際に、他大学では共同で土地を管理して、国際学生寮を建てようという動きがあったり、奨学金のファンドを共同でつくろうという話が出てきたりします。こういう取り組みはありえると思います。ただし、個々の大学による自力での財務基盤の強化が同時に求められると思います。なぜなら、弱い者が集まって強くなるかと言うと、そうではないからです。民間企業の再編でも、強い者同士が連携していくことでの生き残りが図られています。やはり、基本は個々の大学の努力だと思います。

混沌とした時代を救う世界のリーダーを輩出する学校へ

――留学生を受け入れる際に課題となっているのが言葉の問題です。日本語教育もすべきですし、英語による授業も増やさなければならず、各大学とも対応に追われているようです。
坂本 慶應では、日本語・日本文化教育センターを中心に、留学生に1年間の日本語教育を行っています。大変な人気で常に定員オーバーの状態です。同時に、国際化のために英語による授業も増やしています。英語で授業を行う国際プログラムの強化は1990年代から取り組み、現在では、英語だけで学位が取れるプログラムが五つあります。

また、慶應はダブルディグリーの拠点と言われるほどこの分野で先駆けており、すでにいま四つのダブルディグリープログラムがあり、かつ、近々さらに二つのプログラムを追加予定です。これも授業はすべて英語で行われています。すなわち、英語のみによって学位が取れるプログラムの整備と、日本語教育の強化の両立を同時並行で進めているわけですが、どちらも捨てることができない重要な課題であり、慶應ならではの国際化に避けては通れない点だと認識しています。

留学生は卒業すると、日本に留まって就職・進学する人と、母国に帰る人、第三国にわたって就職・進学する人に分かれます。
この場合、留学期間の間だけ、普段の生活で困らない程度の会話ができれば十分という留学生と、本格的に日本語教育を必要とする留学生と二つに分けて、それぞれに適切な日本語教育を行うことが不可欠です。2007年の秋からカリキュラムを抜本的に改革して、慶應が伝統的に行ってきたハイレベルな日本語教育とともに、ベーシックな日本語をゼロから教えるカリキュラムも別途用意して、留学生ニーズに応じて教育しています。

――受け入れ体制について伺ってきましたが、卒業後の就職のサポートは、どのようにお考えですか。
坂本 それがいままさに課題になっています。「独立自尊」が慶應の精神であり、就職の場面でも学生の自己責任とする考え方が徹底されています。もちろん、慶應でも学生総合センターで必要なサポートは適切に行っています。実際、留学生の就職状況は比較的恵まれているというのが現実ですし、日本人学生も伝統的に就職に強いと言われていることもあって、それほど危機感はないのかもしれません。

ただ、厳しい社会状況の中で、いつまでもそのような時代が続くとは限りません。特に外国人留学生については、人脈や情報が限られますから、日本企業への就職を希望する留学生へのスペシャルニーズの提供も含めて大学としてサポートしなければと思っています。

――今後、イノベーションの進化とグローバリゼーションの進化によって、日本も世界も大きく変わるかもしれません。その中で、慶應義塾はどのように変わっていくと思いますか。

坂本 慶應義塾は、福澤諭吉の思想精神がバックボーンであり、それは今後も変わらないでしょう。ただ、環境は否応なく変化しますから、リニューアルが絶えず求められる。封建社会の中で支配されていた庶民が学問を身につけることで自立する、というのが当時の時代背景の中での独立自尊です。グローバルの時代のいまでいうなら、それは、世界の枠組みが変わろうとする中で、「オープン&グローバル」という思想です。国際的にも、そしてあらゆる面で開かれた大学にしようとすることです。

たとえば慶應の学問によって独立自尊の精神を身につけた外国人の卒業生が母国に帰って指導者になってもおかしくないわけで、実際に中国の西安交通大学の鄭南寧学長は、慶應の卒業生です。そういう人がこれからもどんどん出てくるでしょう。日本のリーダーを輩出してきた慶應が、これからは世界のリーダーを輩出する学校になるべく、私たちは努力していこうとしています。それは福澤思想の原点に帰ることでもあるのです。

坂本 達哉Tatsuya Sakamoto

1955年生まれ。79年慶應義塾大学経済学部卒業。81年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。82年同大学経済学部助手、84年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。84年9月~86年8月、日本学術振興会海外特別研究員(英国グラスゴー大学)、89年慶應義塾大学経済学部助教授、96年同大学経済学部教授。2003年~05年、大学国際センター所長および大学日本語・日本文化教育センター所長を歴任。博士(経済学)。

日本の社会を国際化に導く「静かなる社会革命」 (文部科学省高等教育局長 徳永 保)

日本の社会を国際化に導く「静かなる社会革命」

文部科学省高等教育局長
徳永 保

留学生ではなく、「外国人学生」を増やす――文部科学省の目指すところは、日本社会全体をグローバルに対応させるために、その先鞭として大学から国際化を果たしていくこと。そのための「留学生30万人計画」であり、「留学生の数そのものを増やすだけの政策ではない」と言う。文部科学省の真の狙いはどこにあるのか。


日本を無理のない自然な形で国際的な社会にステップアップ

「留学生30万人計画」の骨子は、各大学関係者も十分認識していると思う。しかしながら、この計画に対する根本的な理解のところで、若干誤解があるように感じられる。よく、留学生にかかわる議論として、人材育成を通じた国際貢献や、知日派を増やすことによる安全保障面でのメリットが語られている。もちろん、そうした側面も重要だが、計画を発案した当時の福田康夫内閣の発想は違うところにある。

前総理の狙いを一言で表すと、「静かなる社会革命」ということではないかと私はとらえている。すなわち、日本という国を、無理のない自然な形で国際的な社会にステップアップさせていく、というビジョンが背景にある。今後、世界がグローバル化する中で、いずれ日本も自分と違う文化と向き合うことになる。

その先鞭となるのが大学であり、特別な存在として留学生を迎え入れるのではなく、大学の中にいろいろな国の人たちが自然と溶け込んでいる姿を実現する。留学生の増加は、そうしたきっかけづくりとなり、ひいては、将来それが社会全体の形に反映されていくという考え方だ。すなわち、これは、厳密な意味で言うと、「留学生」ではなく、「外国人学生」を増やすという考え方が背景になっている。留学生と外国人学生は、似て非なる言葉であり、ここを混同すると計画の全体像を見誤ってしまうだろう。

我が国の大学のあり方を世界標準に近づけていく

留学生を増やすのではなく、外国人学生を増やすのだと考えれば、計画の目指す本当の姿が見えてくるはずである。
たとえば、国際化の拠点となる大学では「外国人の教員の数を全教員の10%程度までにする」あるいは、「英語の授業を増やし、英語だけで学位が取得できるようにする」といったプランに対して、「教師も外国人で、英語だけで学位が取れたら、何のための日本への留学かわからない」といった疑問の声がある。しかし、学生は自らを高め社会をよくするために必要な専門知識や技術を身につける目的で大学で学ぶわけである。

日本語が必要であれば日本語をマスターするだろうが、ライフサイエンス系の学問とか物理学などは英語で論文を書いている人が大半である。
要は日本だけの独り善がりの制度ではなく、国際的に通用する大学に変えるという大きなインパクトを持つものだと理解いただきたい。奨学金などで優秀な学生を集めるという考え方では、もはや限界がある。むしろ、ちゃんと授業料を払ってくれる学生を世界中からたくさん集めるようにするにはどうしたらいいかを考えることが必要だ。

我が国の大学のあり方そのものを、世界標準に近づけていくことが主題となっている。それがなければグローバルで勝ち残れないという発想が根底にある。日本の大学教育が、国際競争力を持たなければ、日本人の学生でさえ、「これからの世の中で活躍していくためには日本の大学ではだめだ」、という話になりかねないだろう。それがグローバル時代である。

事実、私がNSF(米国国立科学財団)にいた頃でさえ、全学生の出身国別比率は一位インド、二位が日本だった。次いで、中国、韓国などと続き、アメリカはなんと六番目であった。もちろん、ほとんどが私費留学生だ。

学位プログラムを透明性の高いものに

アメリカでは、インターナショナルハウスがあるぐらいで、それ以外の留学生への配慮は特段何もない。それでも優秀な学生が山のようにやってくるのである。本質的な意味で、各大学が取り組まなければならないのは、国際的にも、教育の質を高め魅力あるものにすることであり、具体的には、学位プログラムを透明性の高いものにしていくことだと思う。

アメリカの大学の評価が高いのは、学位プログラムの設定が明確で、そのための授業構成、コースワークが組み立てられているところにある。履修した結果、具体的にどういう知識と技術が身につくかがあらかじめ明示されているから、外国人学生にとってもわかりやすく魅力がある。大学のブランド名への憧れではなく、学生の目的は極めて明確なのである。

我が国の大学の場合は、必ずしもそうなっていない。もちろん、学科名どおりの授業はしているのだが、特に外国人から見ると、どんな知識や技術を習得できるのかわかりにくい。

これは意外に知られていないが、私が審議官のときに、大学院設置基準を改正して、各大学院の専攻ごとに育成すべき人材像と習得すべき知識・技術を定め、公表するというルールを新たに設けた。2008年4月1日から新基準が発効しているが、この基準も一連の構想の一環として導入したもので、大学の評価を高め国際競争力をつけることを目的としたものがある。

個別大学の戦略性が多様化していくことがポイント

日本の大学は今後、アメリカやヨーロッパ、アジアの各大学とあらゆる意味で競争しなければならない。もちろん、世界の各大学も同様のことを考えており、そこで勝ちぬくためには、特に2009年度概算要求で要求している「グローバル30」(国際化拠点整備事業)に選ばれる大学には極めて戦略的な対応が求められる。

一つには、国際間の大学連携などの取り組みがポイントになるのではないだろうか。たとえば、慶應義塾大学で、北米からの留学生が比較的多いのは、ニューヨーク校を持っているからであるし、筑波大学北アフリカ研究センターでは、JICAなどとのつながりを活用してチュニジアからも毎年数十人という学生を受け入れている。

このように、特定の地域と強いパイプをつくるなどの取り組みは有効だろう。あるいは、いま早稲田大学が、北京大学と学部大学院の共同設置のプロジェクトを進めているが、このような、外国の大学との個別でユニークな連携も今後さらに進んでいくはずだ。
また、短期留学を繰り返す形での留学制度など、さまざまな形態のプログラムが編み出されるだろう。また、多様な国から留学生を受け入れるための大学間連携が深まるなど、個別大学の戦略性が極めて重要になってくる。

限られた資産を官民合わせて有効活用

文部科学省としても、そうした大学側の取り組みを、可能な限りサポートしていかなければならないが、基本的には、限られた資源を官民あわせて有効活用することが基本テーマになるだろうと考えている。

企業側にも変化の兆しが見られる。ある大手電機メーカーも、ASEAN域内採用を増やしていこうとしている。今後は、大学側とも、インターンシップなどを活用した外国人留学生と企業間の積極的な交流が望ましいのではないか。これだけ経済の先行き見通しが厳しい中、大学は国際社会の中で競争していかなければならない。個別に対応していくこともあるだろうが、やはり、日本の総力を挙げて取り組むべき命題だろう。「グローバル30」で留学生を数多く受け入れる大学にはインターンシップを組み入れてもらおうと考えているが、大学はインターンシップなどを活用して、外国人留学生の国内での雇用を進めてほしい。

教育施設や宿舎についても、私が以前に研究振興局にいたとき、国土交通省を通じて、全国共同利用研究施設制度をつくったが、こういうものを利用し、学生支援施設の全国共同利用を制度化していこうと考えている。

留学生宿舎の問題などは、こういう形での解決が望ましいのではないだろうか。隣接する大学同士で、共同宿舎を設けるなどし、その事業に対して文部科学省として支援をするような方向性は十分あると思う。実際に、早稲田大学のイスラム地域研究所などがそうだ。
これが単に私学の建物だったら、文科省としては予算の三分の一までしか補助できないところだが、前年に登録しておけば全国どこの大学関係者でも利用が可能になっているため、施設の賃借料の全額を補助している。

こうした例は、限られた資産の中で有効な施策を講じる好例と言えるだろう。今後の大学行政の方向性は、このような取り組みに変わってくるだろう。

徳永 保 Tamotsu Tokunaga

1952年生まれ。76年初等中等教育局特殊教育課。体育局スポーツ課係長、官房総務課審議班審議第二係長・審議第一係長、三重県教育委員会指導課長、初等中等教育局中学校課補佐・コンピュータ教育専門官、高等教育局大学課補佐、官房総務課副長、官房企画官(米国国立科学財団出張)、北九州市教育長・企画局長、教育助成局地方課長・財務課長、官房会計課長、総括会計官、筑波大学事務局長、高等教育局官房審議官(高等局担当)、研究振興局長を経て現職。

留学生30万人計画策定にあたって (経済産業省 経済産業政策局長 松永和夫)

留学生30万人計画策定にあたって

「新経済成長戦略」には留学生を含めた大学のグローバル化
「オープンイノベーション」が不可欠

経済産業省 経済産業政策局長
松永和夫

産業界は、「優秀な人材の確保」というフレームで、外国人留学生に期待を寄せている。経済産業省も、グローバル化と日本の産業構造の変化に合わせ、留学生施策を含む新たな成長戦略を模索中だ。その新しい方向性とは何か、そして留学生をどう呼び込もうとするのか、松永局長にお話を伺った。


日本の成長を占う二つのキーワード
グローバリゼーションとイノベーション

2008年9月に改訂された、「新経済成長戦略」の基本戦略に示したとおり、これからの日本の成長を支えるキーワードは、グローバリゼーションとイノベーションという二つのキーワードに集約される。

グローバリゼーションの流れから孤立しては、日本という国はもはや成り立たない。あらゆる意味で、国際連携が極めて重要になる。その意味でも、海外からの留学生という形で多くの人材を受け入れることは、非常に大切なことだ。言うまでもなく、我が国は人口減少段階に差し掛かっている一方、社会保障の財源確保など、並行して財政基盤の充実を図っていかなければならないという困難な状況にある。もちろん、国内の人材をあらゆるレベルで活性化することも大事だが、ここに国際化という視点を入れることで大きな広がりが生まれる。

もう一つのキーワード、イノベーションから言えば、我が国は世界中から資源を買って、それを付加価値の高い製品に仕上げて海外に輸出することで成長してきたのであり、これは将来も変わらない。資源高時代に突入した現在においては、より一層の斬新な発想や革新が求められている。
イノベーションを推し進めることによって、世界が驚く機能や性能、低コスト構造を実現したことが、いままでの日本製品に高い競争力をもたらしてきた。しかし、それも時代が進むにつれて、だんだんと手詰まりになってくる可能性もある。このような中で注目される概念が、「オープンイノベーション」である。

企業の中でも、内部だけの発想や技術ではなく、大学との共同研究や多様な人材の確保などを通じ、外部の風を積極的に入れることで、新しいイノベーションを起こすという考え方が生まれ、実践されている。そういう観点からも、海外から優秀な留学生を招き入れることは、日本の成長戦略に大きく貢献すると考えてよく、経済産業省としても積極的に推進しなければならない政策だと言える。

産業界に求められる外国人留学生のキャリアパス

新経済成長戦略の中でも、人材の確保を重要なテーマとしてとらえ、「アジア人財資金構想」という考え方を示し、アジアを中心とした留学生、産業界、大学の交流を促進するための取り組みを行っている。

これは単に、人材不足を補うということではなく、視点の違う発想、異なる文化で生まれた人材を戦略的に雇用することによって、組織全体が活性化し、いい意味での「化学反応」を期待するということである。すでにグローバルに展開する企業をはじめ、外国人留学生を積極的に採用する企業が出てきている。企業における外国人人材や留学生を活用する成功モデルをもっと増やしていくとともに、共有情報として産業界全体でシェアをしていくことが重要だろう。

ただ、現状では企業側の受け入れ体制もさることながら、日本を目指す外国人にとっても、どこまでキャリアパスが描けるかといった不安があるだろうし、また、受け入れる側でも、定着率の問題や、社内における文化的な衝突への懸念などがあると考えられる。
そこで、経済産業省としては、企業における国際化指標を策定し、海外から人材を受け入れ、その力を活用するためにしなければならないことを指針として示し、データや資料を提供することによって企業の取り組みをバックアップしていく構想だ。すでに、有識者を招いて検討を重ねており、近々、その成果が得られるところまできている。

なお、育成される留学生について、企業側の求める人材ニーズとのマッチングを高めることも、重要な論点であると考えている。日本の学生に、いわゆる〝理科離れ〟が言われて久しいが、工学部の弱体化はとりわけ深刻である。理系に強い留学生を戦略的に育てるといった取り組みが一つ考えられるだろう。

もちろん、理系に強い日本の学生を育てることも重要であるが、日本に不足している分野の人材を海外からの留学生として受け入れ、育てていくことも、お互いのマッチングを高める一つの方法だと考えてもいいのではないだろうか。

日本の大学の国際競争力を高めることが大事

先述した、「アジア人財資金構想」は、2007年度からスタートし、約20大学の協力をいただき、すでに多くの留学生を受け入れている。次のステップとして、留学生として日本で学んだ外国人に、日本の中で活躍してもらわなければならない。

そういう意味では、2009年は、留学生30万人計画が実際に機能するかどうかを占う試金石と言えるのではないだろうか。このプログラムの初の卒業生が、就職の場を得る大事なタイミングにあたるからである。より多くの留学生が日本で活躍することで、サクセスストーリーができていけば、それがさらに次年以降の人材獲得につながっていく。

私は、日本的な家族主義の社風や、OJTを通した技術継承などの伝統的な企業マインドをもっと評価するべきだと思っている。日本の中ではむしろ、米国風のドラスティックな人事のあり方がもてはやされ、雇用の流動性が極端に高まり、この結果、企業の利潤が確保された反面、明らかに労働分配率は低下している。企業は利潤を留保してしまい、人材投資に回さず賃上げもしない。これを続けている限り、人材は定着しない。
なお、外国人の人材育成という観点では研修・技能実習制度というものがある。この制度については不適切な事例が増加しており、まず、その適正化を進めていくことが必要である。

2008年8月、私は、行き届いた環境の中で、日本伝統のOJT方式による技能実習を行っている企業の現場を視察した。ベトナム、タイの青年の表情を見たとき、非常にいきいきと目を輝かせて働いているのを見て心強く感じた。

将来有望な外国人の若者に対して、日本で研鑽を積み、活躍する場を与える取り組みをもっと続けていくことが、日本の発展だけではなく、世界への貢献という意味でも非常に重要なことだと考えている。

官民の協力で優秀な留学生を育てることが大切

そのためにも大事なのは、30万人という留学生の数ではなく、その質なのである。いま、真に日本の大学の「国際競争力」が問われている。優秀な外国人留学生が日本の大学で切磋琢磨して日本で活躍したり、母国へ帰って定職に就いたりする、そういうサクセスストーリーを政府や大学・企業が必死になってつくっていかなければならない。

日本の大学はまだまだ外国人学生の数も少なく、海外の大学に比べて国際的な魅力、競争力が劣っている。
現在、たとえば英語での授業を行うなど、外国人留学生に学びやすい環境を提供し、日本の大学の魅力を向上する取り組みが進められている。こうした施策等を通じて、大学がより戦略的・積極的に優秀な学生の獲得に乗り出していくことが期待される。

他方、我が国の産業界は、日本語でコミュニケーションがとれる優秀な人材を求めており、英語教育の充実と同様に、日本語教育の充実も今後ますます重要性を増すものと考えている。
いずれにせよ、人材を輩出する機関である大学が、留学生の獲得や、産業界の求める人材育成機能を強化する取り組みを通じ、国際競争力を向上させることが不可避になってくるのではないだろうか。

松永和夫 Kazuo Matsunaga

1952年生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省(当時)に入省。通商政策局経済協力部経済協力課経済協力企画官(88年)、日本貿易振興会ニューヨーク・センター産業調査員(90年)、資源エネルギー庁石油部流通課長(93年)、環境立地局環境政策課長(95年)、通商政策局総務課長(98年)、資源エネルギー庁石油部長(2000年)、資源エネルギー庁資源・燃料部長(01年)、原子力安全・保安院次長(02年)、原子力安全・保安院長(04年)、大臣官房総括審議官(05年)、大臣官房長(06年)を経て、08年7月より現職。

留学生を親日家・知日家に育て日本の国益につなげることが必要 (外務省広報文化交流部長 門司 健次郎)

留学生を親日家・知日家に育て日本の国益につなげることが必要

外務省広報文化交流部長
門司 健次郎


留学生受け入れは、外交上非常に重要かつ有効な政策

外国人が日本の学習環境の中で日本人とともに学び、日本社会に溶け込んで長期間生活するということは、日本に対するより深い理解を外国人に与えることができる。これは、親日家、知日家を多く誕生させる非常に有効な手段であると言える。

私自身のことを言えば、高校生のとき、自分の中ではあこがれの地であったアメリカに渡り、交換留学生として1年間学んだ。この経験が、その後の人生に大きな影響を与えてくれている。

また、開発途上国との関係で言えば、人づくりを通じて国づくりに協力し、彼らの開発を支援することにつながる。留学生を積極的に受け入れることは、外交上非常に有効であり、外務省も極めて重要視している。

「入口」と「出口」の部分で留学生を支援

留学生の受け入れのため、具体的に外務省が行っていることは、日本に来る前段階の情報提供や受け入れ準備、そして、母国に帰ったあとのフォローという、いわば入口と出口の支援である。

まず、日本に来る前の段階だが、留学情報の提供、国費留学生の募集、選考を各国の在外公館で行っている。日本留学についての情報提供の取り組みとして、主な大使館に「留学アドバイザー」を設置している。これは留学生として日本で学んだ経験があったり、日本の留学事情に詳しい人を、世界の48公館に配置し、日本の留学情報、生活情報などの提供やアドバイスを行っている。

今後は、まさにワンストップで日本の留学事情をすべて情報提供できる体制を構築すべく「留学生アドバイザー」の機能強化を図っていきたい。また国費留学生の一次選考は各在外公館のスタッフが、その国の人材育成にどのように貢献すべきか、将来のその国との友好関係構築に資する人材であるか等の観点を踏まえて行っており、その結果を日本に送って最終選考が行われている。このように「入口部分」に当たる在外公館の役割は非常に大きい。

次に、「出口部分」として、日本で学んだ帰国留学生の会に支援を行っている。現在、世界約160の地域に留学生帰国者の会がある。その活動を支援するとともに、会が設立されていない地域では設立支援を行っていく。

元留学生のネットワークを生かし、新規留学生を獲得

帰国留学生にかかわる取り組みとしては、この他に、ASEAN諸国の元留学生会の横断的組織である「ASCOJA(アスコジャ=元日本留学生ASEAN評議会)」と協力し、ASCOJAが派遣した留学生に対して奨学金を提供する事業を行っている。また、本国に帰った留学生は母国ではエリートとして重要な仕事を任されることも多いが、そうした元留学生を改めて日本に招待し、日本の産学官との人脈形成を促進する事業も行っている。

その他、途上国の人材育成のための事業として、それぞれの国の若手行政官などの人材育成奨学計画を無償資金により支援しており、2008年度は10カ国の266名の留学生を受け入れた。また、外務省およびJICAは、2003年度より国連大学を通じ、途上国出身の私費留学育英資金貸与事業を実施しており、対象者は、累計730名(2008年11月時点)に上る。さらに、インドネシアやタイ、マレーシアに対しては、円借款による留学費用の支援を行っている。

これらは、「留学生30万人計画」以前から、「人材育成を通じて途上国の国づくりを支援していく」方針のもと、外務省として取り組んできた事業であり、今後とも取り組んでいきたい。

日本のポップカルチャー人気も積極的に活用

外務省の広報文化交流部はまさに我が国の広報および文化外交を担う部門で、海外での日本のイメージを向上させることで政治・経済だけでなく、広く国益全般を増進させることを目的としている。とりわけ日本への興味のベースとなる日本語の普及については、独立行政法人国際交流基金が中心になり、「さくらネットワーク」という日本語普及の海外拠点を、いまの世界31カ国40拠点から100拠点に増やそうとしている。

また、麻生総理が外務大臣時代に提案し創設された「国際漫画賞」「アニメ文化大使」も当部の事業。2008年9月に第二回「国際漫画賞」の授賞式があったが、46の国と地域から368の作品の応募があった。「アニメ文化大使事業」では、103カ国において「ドラえもん」映画を順次上映している。さらに、民間で行っている国際マンガサミットや、世界コスプレサミットも外務省で後援している。

世界コスプレサミットは世界13カ国で予選会を開き、そこで勝ち抜いた人が日本に集結するという大がかりなイベントであり、予選段階の観客数が各国総計で40万人を超えるという。

これらは、一見すると教育とは関係なさそうだが、外務省は、マンガやアニメに対する関心の高まりは、日本の理解を深めてもらう好機ととらえている。特に、若者が中心となるわけで、これら日本文化紹介事業と留学情報提供事業との連携を考えている。
日本を知る人が増えるということは、外交政策上、非常に素晴らしいことであり、留学生事業も大変重要な取り組みとして、あらゆる機会をとらえて積極的にかかわっていきたい。

好感を持たれることが国益につながる

留学生ではないが、語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)も好調だ。1987年のスタート当初は英語圏の四カ国だったのが、2008年度は38カ国、約5000人の外国人教員が全国の中学校、高等学校で、単に英語のみでなく他言語での語学補助教員や国際交流支援要員として活躍している。

また2020年、観光客2000万人計画が展開されており、これからの日本社会が真の意味で国際化してくる時期がきたと考えている。これらのプログラムに共通した最も重要なことは、日本に対し「好感」やよい印象を持って本国に帰ってもらうことだ。

総合的に見ると、海外から日本への評価は非常に好意的だと考えていいのではないだろうか。経済的に豊かであり、文化も栄えている。古い伝統文化に加えて、最近では、それこそマンガやアニメなどの新しいポップカルチャーが世界を席巻している。さらに、平和国家であり、ある意味、国連憲章の前文に書かれている国家のモデルのような国と言っても過言ではない。国際貢献の実績も高い評価を受けているし、世界の中での日本の好感度は非常に高い。

これは、国の事業もそうだし、民間の交流においても、地道で誠実な対応が深く浸透していった結果だと思う。こうした取り組みを積み重ねていけば、自然と日本に対する評価がより一層広がり、海外留学生の増加といった結果に複合的につながる。そうした流れこそ、真に国益をもたらしていくのだ、と確信している。

門司 健次郎 Kenjiro Monji

1952年生まれ。75年東京大学法学部卒業、外務省入省。広報文化交流部長として、外国の国民、世論を対象とする広報文化外交を担当。外務省では、フランスで研修の後、国際協定課長、安全保障政策課長など専ら条約と安全保障を担当。在外は、オーストラリア、ベルギー、英国、EU代表部(在ベルギー)に勤務。2003年より条約局審議官、防衛庁(現 防衛省)防衛参事官(国際担当)を経て、07年3月より08年7月まで在イラク大使としてバグダッドに勤務。08年7月より現職。

「留学生30万人計画」成功の鍵は何か (明治大学 国際日本学部教授 横田雅弘)

「留学生30万人計画」成功の鍵は何か

世界は留学生の争奪戦とも言える大変な時代に突入している。これは、ヨーロッパ諸国において、EU統合に向けて人材を域内全体で育てようというところから始まった大きなうねりであるが、日本は長らくこの動きを傍観し、乗り遅れてしまった観がある。日本が再び勢いをとり戻すには、何よりも大胆なトップダウンによる改革が求められている。

明治大学 国際日本学部教授
特定非営利活動法人 国際教育交流協議会 副会長
横田雅弘


世界は留学生争奪戦時代に

いまから25年ほど前、ちょうど「留学生10万人計画」が打ち出された頃、アジアの諸国では、経済が勃興してきて、さらなる発展のために人材育成に目を向けていた。そのときに、同じアジアの中で突出して発展していた日本には、留学生をひきつける十分なプル要因があり、入国管理政策による増減はあったものの、2003年には目標の10万人を突破した。

そのときのコンセプトも、アジアの中で経済発展を達成した国の責任として、同じアジアの人材教育を支援するというのが基本的なスタンスであった。
現在、日本の国内経済は伸び悩み、少子化によって市場も飽和状態である。そのような状況下、大学の数は700を超え、大学間のサバイバル時代に突入している。にもかかわらず、留学生を受け入れる戦略的な仕組みを導入しようという動きは鈍い。

私学では、助成を受けるために、あるいは定員を充足するために受け入れなければならないというところもあり、旧国立大学は、独立行政法人化以前の日和見的な体質から抜け切れていない。

しかし、これからは大学が主体的に自らの経営戦略、教育方針に則って、留学生を積極的に受け入れるという認識がなければ生き残っていけない時代になる。なぜなら、国際的に魅力のない大学は、留学生が来ないというだけではなく、自国の学生からの評価も低下してしまうからだ。

「30万人」という数字の意味

日本の大学の多くは、いまだに旧来の留学生受け入れパラダイムから抜け切れていない。その意味で、「留学生30万人計画」は、非常に象徴的であり、また目標数値として絶妙である。と言うのは、日本の大学の留学生政策がいまのコンセプトのままなら、この数値の達成はほぼ不可能だからだ。

いままでのコンセプトとは、すなわち、留学生とはマイノリティであり、特殊な存在であるという位置づけである。本来、大学全体のカリキュラムを、世界と共通性のある仕組みに変えることを目指すべきだった。たとえば、グレード・ポイント・アベレージ(GPA)という成績評価のシステムなど、世界と共通の仕組みをつくり、海外のトップ大学と単位を互換できるようにしたり、大学を国際化して、英語で行う授業を増やすなどの取り組みをもっと早くから進めてもよかったのである。

最近になってようやく、いままでの感覚で留学生を扱っていたのではいけないと気づき、各大学は国際化を打ち出しているが、すでに世界では高度人材留学生の争奪戦が始まっている。日本が国際的に競争力を発揮するためには、いまや大学の意思決定の仕組みまで含めて、あらゆることで方向転換が必要なところまできている。そういう意味で、30万人という数値は、いまのままのやり方では到底達成不可能で、否応なく大きな改革を迫るくらいの数字なのである。

我々が調査したところ、このまま推移すれば、2020年の留学生数は20万人弱がほぼ限界である。すでに、中国は留学生数50万人を目指しているし、留学生5万人政策を打ち出し、期日前にクリアした韓国も、すでに目標を10万人に切り替えている。さらに、オーストラリア、シンガポール、マレーシアも留学生の受け入れでしのぎを削っている。傍観している間に、アジア、オセアニアにおける力関係がすっかり変わってしまっていた。

トップダウンによる大胆な改革を

2020年には世界で留学生が600万人に上ると予測されており、30万人という数字はその5%に相当する。現時点での日本の留学生数は12万人、世界シェアでは5%を少し切っている水準であり、2020年においても5%を維持しようとすれば、留学生の受け入れが最も多かった1990年代後半の年率20%増以上のペースを達成せねばならない。

この増加は、1996年頃からの、大学の自己管理を前提とした法務省の入国管理の規制緩和が背景にあった。しかし大学の自己管理は不十分で、再び厳格化されるや、受け入れはたちどころに停滞した。
30万人を受け入れる主体的な計画には、入口から出口までのストーリーづくりが欠かせない。

海外での留学生のリクルートから始まり、入国、日本語学校を経て大学に迎え、卒業して就職するまで、そして、その先の移住、移民政策まで含めた対応である。もちろんこれは、大学だけで解決できる問題ではなく、国、地域、企業との連携・協働が不可欠だ。

入口で言えば、米国の大学のように在留在籍管理ができる専門家を大学に配置したり、世界中の日本語を勉強している学生に対し、大学自らアプローチし、リクルーティングしてくることも必要だろう。
もう一つ大きいのは出口の部分。卒業しても、なかなか日本企業に就職できず、不満をくすぶらせている留学生が数多くいる。一方の企業側は、留学生に興味はあるものの、まだ慎重な姿勢を崩していない。この問題を解決するには、インターンシップを積極化することがよかろう。仕事は実際に経験してみるのが手っ取り早く、学生および企業にとっても有意義な方法である。

このように留学生に対する入口から出口までのストーリーづくりを行い、「留学生30万人」という大きな構想を実現するには、各大学がトップダウンで改革を推進するしかない。トップが大きな意思決定をし、その意思を浸透させ、万難を排して実行しない限り、グローバル時代に対応した大学改革は達成できないだろう。

横田雅弘(よこた・まさひろ)

1953年生まれ。77年、上智大学(心理学専攻)卒。84年、ハーバード大学教育学部大学院修士課程修了。2008年東京学芸大学学術博士。1987年、一橋大学商学部専任講師に就任。同留学生センター教授を経て現職。

海外留学生は日本の新しいイノベーションを担う大きな戦力になる (社団法人日本経済団体連合会 井上洋)

海外留学生は日本の新しいイノベーションを担う大きな戦力になる

社団法人日本経済団体連合会
産業第一本部長 井上洋

人口減少社会、超高齢社会を迎え、日本の労働力は減る一方である。とはいえ、その不足した労働力の埋め合わせを外国人に頼るのではない。技術革新を通じてイノベーションを着実に進める、その触媒の役割としての高度技能を持った外国人、なかでも海外からの留学生に期待が集まっている。


留学生施策の本質はイノベーションの深化にある

先般発表した「人口減少化社会に対応した経済社会のあり方」(2008年10月14日)の中でも言及しているが、私たちが外国人に期待しているのは単なる労働力だけではない。その本質は、日本のイノベーションを推し進める触媒としての役割である。日本の人口減少分を外国人で穴埋めしようという単純な発想で「留学生30万人計画」が進められるとすれば、この政策は決してうまくいかないだろう。

最近、企業で言われるダイバーシティ・マネジメント(多様性を活かす経営)も、同様の考え方がベースとなっている。言語的・文化的背景の異なる多様な人たちが集まり、切磋琢磨することで、これまでになかったイノベーションが生まれ、それが日本の新たな成長に直結するというものだ。

私は、その一番有力な戦力、参画してもらいたい人たちが海外からの留学生だと思っている。なぜなら、留学生は自分の意思で日本に来ている。学習意欲が高く、行動力もある。そんな人たちをみすみす本国に帰してしまったり、欧米等の第三国へ取られてしまっては国益上の問題だ。産官学挙げての30万人計画を推進する価値はないと言っても過言ではない。

国、企業、大学の連携により、彼らが日本で就職し、日本で生活できるように支援することが大切である。実際、日本で就職することを望んでいる留学生は多い。世界的に見ても、日本の産業はあらゆる分野でトップレベルのものが多い。そうした卓越した技術を学ぶことは、留学生のキャリア形成に確実にプラスになる。
日本の企業、社会にとっても、インキュベーター的な可能性を秘めた彼らは大歓迎なのである。

受け入れの主体はあくまで大学、企業や国が協力する形が前提

留学生を30万人も受け入れるとなると、宿舎の問題や、地域の受け入れ体制などのハード面が問題になる。これにはコストがかかるので、企業にも協力を求めたいところだが、その役割は、第一義的には大学にあることをまず認識いただきたい。

なぜなら、留学生が払う授業料や入学金はまず大学に入るからである。それに見合う勉学の環境、生活の環境を整えるのは、やはり大学が主体的に行うべきだ。ただし、大学は基本的に非営利であり、潤沢な資金があるわけではない。かと言って国からの交付金・助成金は減らされている。

その一つの試金石となるのが、アジア人財資金構想だ。周知のとおり、これは、産学が連携してコンソーシアム(共同体)を形成し、企業ニーズを踏まえた専門教育、日本語研修、インターンシップなどの就職支援をパッケージで行うものだ。

このプログラムで、留学生にも一定額の支援金が支払われるようになった。ただ、それでも、対象になったのはわずか300名である。加えて、その300名相手のプログラムをつくるのでさえ、実は40億円以上の経費がかかっているのが現状だ。
そこで、ある程度ノウハウが確立できたら、国主体ではなく、大学独自でこの仕組みを応用するようにしていただきたい。大学単体で取り組むのが難しいのであれば、複数の大学で連合体をつくり、自治体や地域の企業も参加し、基金をつくるといった方法もとれるだろう。

留学生を受け入れるにあたって克服すべき三つの課題

ただ、留学生の受け入れには、当然克服しなければならない課題がある。
一つは、中国人学生の占める割合があまりにも多すぎることだ。多様性ということでは、これほど一国に偏ってしまっては意味がない。他のアジア諸国、欧米はもちろん、東欧、北欧、中南米、ロシア、中近東、こういった地域の学生の割合がもっと増えなければ、成功と言えない。

二つ目は、日本語能力をはじめとする、日本で暮らすための知識が不足していることだ。外国人を企業で受け入れる際に、企業が決まって問題視するのは、「意思の疎通に時間がかかる」ということだ。これは、単なる言葉の問題だけではない。たとえば、社会常識の前提が違うため、納得して仕事をしてもらうまで、ひと苦労することが多いのだと言う。企業側も、最初の1、2年は我慢して育てようとしているが、大学も、日本の習慣や文化等の教育にもっと力を入れてほしい。

三つ目は、同じ出身国でグループをつくってしまい、日本人と交流しない留学生が多いことである。いつも仲間同士で固まっているので、日本の風習や文化も知らないまま、母国とあまり変わらない生活環境の中で暮らし続ける。いざ日本企業に就職すると、カルチャーショックの波が押し寄せ、孤独にも耐えられず、やめてしまう者も少なくない。迎え入れる日本企業側も、彼らのもたらすイノベーションを求めているのであるから、そういう事情を加味したうえで、お互い歩み寄り、試行錯誤を繰り返して解決の道を探っていくしかないだろう。

留学生を大学はどう教育すべきか

企業が留学生に求めている条件は、即戦力としての能力である。単に知識があるだけでなく、社会人としての常識、仕事に取り組む姿勢など、大学時代に習得しておかなければ即戦力にはならない。すなわち、大学で相当高いハードルを設けて教育しないと、企業社会では通用しないということだ。

留学生の日本語コミュニケーション能力について付け加えると、一部では、「日本企業も国際化しているのだから、必ずしも日本語ができなくてもいいはずだ」といった論調も見受けられるが、これは現実を踏まえていない。

仮に職場の中で英語中心であったとしても、一歩外に出たら日本語ができないと生活ができない。そのためにも、大学の留学生センターの役割は非常に重要だが、現状では必ずしも十分に機能していないのではないだろうか。

留学生センターでは、教員が授業や研究を行いながら兼任して担当しているうえに、職員も必ずしも留学生の相談に乗る各種スキルを十分に備えていない。結果、留学生たちは、留学生センターに相談に行かず、同郷の仲間で固まることになってしまうのではないだろうか。
とは言え、専門職員を常駐させるためにはコストがかかる。そこで、大学単位ではなく複数大学で協力し、企業と自治体も支援する形で、留学生をサポートする体制を共同運営していくような取り組みが早急に必要になってくるだろう。

井上洋 Hiroshi Inoue

1980年、早稲田大学商学部卒、同年経団連へ。93年、産業基盤調査役。2002年、社会本部総合企画グループ長として、経団連の新ビジョン「活力と魅力あふれる日本を目指して」のとりまとめを行う。03年、外国人受け入れ問題プロジェクトリーダーとして、「外国人受け入れ問題に関する提言」のとりまとめを行う。04年、総務本部秘書グループ長として、奥田碩会長秘書を担当。06年より現職。

グローバルな人材の獲得が企業の命運を分ける時代 (パナソニック株式会社 柿花 健太郎)

グローバルな人材の獲得が企業の命運を分ける時代

パナソニック株式会社 グループ採用センター
チームリーダー 柿花 健太郎

社名を改め、名実ともにグローバル企業として躍進するパナソニック株式会社。「GP3」と称するグローバル戦略を推し進め、外国人留学生はもちろん、グローバルな人材採用に力を入れている。人事体制や仕組みも、グローバルを軸に積極的な見直しが進められているところだ。


グローバル戦略で人材の獲得を強化

当社は、2007年から2009年までの三カ年計画として、Global ProgressGlobal ProfitGlobal Panasonicsをキーワードに、「GP3」と呼ばれるグローバル戦略を進めている。

採用においては、1980年代よりすでに欧米系の学生を中心に外国人の採用を行ってきたが、さらに2003年からはそれ以外の地域にも採用の網を広げ、欧州、米州、中国、アジアにリクルート拠点を開設し、日本本社を加えた世界五拠点で採用をサポートする体制を整え、グローバルに優秀な人材を確保する仕組みづくりを行ってきた。

そして、海外法人や、海外拠点での現地採用も推進し、日本での外国人採用に関しても、通常の定期採用の他に、世界の大学より現地の学生を一定期間職場で受け入れるグローバルインターンシップや、経済産業省と文部科学省が進めているアジア人財資金構想にも積極的に取り組んでいる。

グローバル企業としての体制と仕組みづくり

外国人の採用を強化してきた背景には、当社のグローバル戦略がある。当社は、売上の半分が海外販売であるが、これはグローバルで事業をする企業としてはまだ決して高いとは言えない状況だと考えている。

世界のグローバル企業と言われる企業は、世界を舞台に競い合っており、このような中、パナソニックがまさにグローバルエクセレントになる挑戦権を得るためには、日本と海外でさまざまな体制や仕組みを見直さなければならない。

人事体制や仕組みもグローバルを軸に見直しを進め、現地会社の経営や商品の設計の現地化も進めるとともに、国内でも、外国人の採用を拡大するなどして内なる国際化を図っている。まさにグローバルでいかに優秀な人材を確保できるかを日々考え、取り組んでいるところである。

その国の人がその国の製品をつくるのが理想

グローバルに通用する商品を生み出し、事業を行うには日本人だけではなく、グローバルで多様な人材を獲得し、世界中の人たちの英知を集めることが大事だと考える。

文化や教育の背景がまったく異なる人材が集まって、膝をつき合わせて喧々囂々と議論する中から、日本人だけでは生まれない新しい発想が創造される。

まさに異なる教育、文化に育った者同士が互いに「知恵の輪」を結び、各々の知恵を出し合い続け、新たな技術や商品、サービスを無尽蔵にスピーディーに生み出すことが、このグローバル競争で勝っていくための条件になるといえる。

先述の通り、いままでは、多くの海外向けの商品は日本を主体に各地域向けの設計を行い、それぞれの仕様に合わせた商品を開発してきた。しかし、その国で販売する製品は、やはりその国の文化や生活習慣を体得した人が商品を設計し、販売していくのがベストだと考える。

幸いにも昔と比べて、現地の部品メーカーの技術力やモノづくりの生産力・精度は格段と向上しており、優秀な技術者も育っている。そうした環境変化を活かし、現地の部品メーカーから質のいい部品を調達し、現地の人が現地の好みに合わせた商品を設計する方が、結果としてコストも安く、早くよい商品がお客様にお届けできるはずである。

実際に、中国で2005年に発売したドラム式洗濯機のケースは、中国人スタッフだけで開発した製品でヒットした。
中国現地法人の「くらし研究所」というセクションに所属している技術者の女性スタッフが、中国の家庭を調査し、洗濯機を置く場所、使っている水の質、洗い物の量や素材といったことを徹底的に調べ上げ、現地の開発設計技術者と連携しつくりあげた商品である。

実は、調査を担当した女性スタッフも、設計した技術者も、ともに日本に留学し、日本の高い技術を習得した経験があった人だったのだ。

人事慣行の違いは必ず乗り越えられる

グローバル採用を積極化していく中で、いくつかの課題も浮き彫りになってきている。
たとえばその一つにキャリアアップの考え方に、大きな隔たりがあることだ。日本採用の外国人社員にとって、日本的な長期的視点でのキャリアプランを考えることはなかなか難しい。

パナソニックでは入社してから数年は、徹底的に実務の経験や現場の経験というステップを踏む。しかし、外国人社員の中には「すぐに実績を出して、早くマネージメント職に携わりたい」と希望する社員も多くいる。当社としては人材育成の基本精神は守らなければならないし、またキャリアを重視するグローバルスタンダードも蔑ろにすることもできない。

また外国人社員には、できれば60歳の定年まで働いてほしいところだが、中には、将来的には、日本で技術を習得して自分の国の産業育成に貢献したいという社員もおり、こうした想いも、ある意味大切にしたいと思う。そして母国に戻ったとしても、ぜひパナソニックの現地会社に就職してほしいと思うのだ。そうすれば、彼らが日本の技術のキャッチャー役になれるし、高い技術を移植すれば、日本人が出向していかなくても、彼らが設計図を書き、日本で学んだモノづくりの精神を伝えてくれるはずだからだ。

お客様の「お役立ち企業」としてさらなる展開を

端的に当社の目指すところをまとめてみると、大坪文雄社長の言葉で「入り交じる」ということにつきるかと思う。赤は赤、青は青、それぞれの色を持ちながら、互いを認め合い、各々の強みや個性を生かしていく。

これが、グローバル化の効用であり、それぞれの文化や考え方が入り交じり、新しい付加価値が創出され、世界の中で33万人の社員が同じパナソニックのバッジのもと、求心力をつけ世界のお客様のお役立ちに貢献していくのだと確信している。

柿花 健太郎 Kentaro Kakihana

1990年、松下電器入社。91年~93年、海外トレーニーとしてアメリカに留学。93年、松下通信工業株式会社本社人事部国際人事チーム配属。96年、同社AVシステム事業部労政・福祉担当主任。98年、松下電器産業株式会社欧州本部人事課主事。2003年、同社国際人事センター欧州本部・北米本部・中南米本部人事担当参事。05年、同社本社グループ採用センターグローバル採用チームチームリーダー、(兼)定期採用課長。07年より現職。