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大学改革の現在と未来
大学審議会が『大学教育の改善について』を答申したのが1991年。いわゆる大学設置基準の大綱化(規制緩和)である。設置・運営の自由度が広がると同時に、自己点検・自己評価が義務づけられるなど、「護送船団」から「自己責任」への転換が図られ、「大学改革」の進行が一気に加速度を増すこととなった。
2004年には国立大学が法人化され、国公私立、境界なしの競争が激化。大綱化から15年以上を経た現在もなお、「大学改革」のチャレンジと模索は続いている。
本特集ではまず、わが国の高等教育政策立案と推進の最高責任者である清水潔氏(文部科学省高等教育局長)に、日本の高等教育政策の現状と将来について伺った。
そして、法政大学改革で大きな成果を上げた清成忠男氏(法政大学学事顧問)には、大学改革における「成功の条件」を伺った。
大学改革の進むべき方向を、それぞれの視点と見識で、両氏は明快に示してくださった。
新しい改革の潮流をつくる
文部科学省
高等教育局長 清水 潔
国公私立すべてを見渡し、少子化時代を切り抜ける生き残り的改革から、より発展的な改革に誘導すべく、文部科学省は次代に向けた政策づくりを進めている。高等教育局長・清水潔氏に話を伺った。
国立大学法人の改革の方向性
――2004年に国立大学が法人化され、また私立大学でもさまざまな改革が進められるなど、近年日本の大学は大きな変革期にあります。こうした現状をどのようにお考えでしょうか。
清水局長(以下敬称略) 約10年の間に、わが国の大学の状況は大きく変化しています。まず学部レベルの大学の数で見ると、国立大学は82校、公立大学は73校、私立大学が573校あり、全体数としては、1996年から07年までの間に、私立を中心に150校以上増加して、728校となっています。
一方、短期大学に関しては、96年には593校あったのが391校と、200校近くも減少しました。少子化の流れの中で、短期大学から4年制大学への転換が進んだのです。
そうした状況下、国公私立を問わず、各大学は多様な改革を進めてきました。国立大学にしても統合を進め、97校から現在の82校となりました。そして多くの私立大学では、自らの生き残りをかけて、入試制度を含めた多様な改革に取り組んでいます。
各々の大学が、今後も少子化が進行する中でどのような特色を出して改革を進めていくべきなのかということについて言えば、「機能および役割の分化」を考慮していくべき時期にさしかかっているのではないかと考えています。文部科学省としても、基本的にはこの「大学の機能と役割の分化」という課題に対し、どう支援し、指導するかといった観点で、行政を司っていくことになるでしょう。
――具体的には、どのような機能、役割の分化を想定し、また期待されているのでしょうか。
清水 例えば、大学の主な役割は教育と研究ですが、世界を視野に入れた教育・研究の拠点となるか、国内に目を向けた拠点となるか、地域に密着した拠点となるかといった棲み分けも必要でしょう。
また、高度専門職業人の養成に特化した教育か、幅広い教養を持った職業人の養成に対応できる教育かという分化も考えられますし、特定の専門分野に特化するとか、逆に幅広い総合的な教養教育を行う学校があってもいいと思います。あるいは地域の生涯学習を担っていくこと、産学連携等の社会貢献機能を強化していくことなども、今後の大学の目標となり得るでしょう。
――国立大学法人において、そうした役割分化、機能分化は、組織的に進められているのでしょうか。
清水 国立大学を法人化した狙いの一つに、各大学が自らのミッションを明確にして、そのミッションを果たしていくための経営、ガバナンスを構築するということがあります。ただし現時点で、82ある国立大学が、「機能や役割の分化」を明確にして運営されているわけではなく、まだその前段階にあると言えます。
法人化の成果として、例えば数年単位の期間を区切って具体的目標を設定し、実行した上で評価し、さらに改善を加えていくという、いわゆる「PDCAサイクル」の中で、大学を組織として経営する基礎づくりは、ほぼ達成されつつあります。
しかし、そもそも大学とは「ゆるやかな組織体」であり、組織全体での目標をあえて明確にせずに運営させてきた面がありますから、例えば教員一人ひとりまでコンセンサスをいかに取りつけるかなど、乗り越えなければならない課題はまだまだ残っています。
ただ、少なくとも経営体制として見た場合、各大学の学長が自らの役割をより明確に意識し、強いリーダーシップを発揮していく方向に向かっています。その結果、意思決定のシステムが、全学的な求心力を持つものに変化し、意思決定のスピードも確実に速くなってきました。
運営費交付金と競争的資金のバランス
――国立大学法人が、機能と役割分化に向けた改革を戦略的に進めるためには、相応の資金が必要になると思われます。ところが現状では、国立大学法人への運営費交付金の削減が進められており、今後どのように対応されていくのかお聞かせください。
清水 ご指摘の通り、大学が教育・研究改革の戦略を自ら立てて、自らの責任のもとにおいて遂行していける裏づけとなるのは、財政にほかなりません。しかしながら、国立大学を法人化してからは、運営費交付金の効率化係数を設定し、毎年一パーセントずつ減らしていくことになっていますし、病院を持つ大学には、経営改善を明確な数字で求めるようになりました。
相対的な比較において、どの大学が財政的に豊かで豊かでないとか、あるいは私学に比べてどうなのか、といった議論はあるにせよ、従来どおりの十全な教育・研究費が確保できるかと言えば、それにはやはり予算的制約が生じてくるものと認識しています。
一方で、国公私立大すべてを対象とした「競争的な資金」を拠出しており、総額で650億円に達しています。その競争的資金をもとに、優れた教育、研究を実践して、実績をあげた大学や、国際的に通用するポテンシャルを持つ大学院などに対して、重点的に助成を行っているのです。
一部紹介すると、従来実施していた「特色ある大学教育支援プログラム」と「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」を発展的に統合した「質の高い大学教育推進プログラム」を、新たに創設しました。また、最もよく知られている「21世紀COEプログラム」の成果を踏まえて、世界的に卓越した教育・研究拠点を支援していく「グローバルCOEプログラム」もスタートしています。
その他、「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」「大学教育の国際化加速プログラム」「大学病院連携型高度医療人養成推進事業」など、大学改革に対する支援を充実させているところです。
――そうした支援策は、どのような効果をもたらすとお考えでしょうか。
清水 例えば「グローバルCOEプログラム」等に選ばれることによって、その大学は、資金を獲得すると同時に、いい意味での「ラベリング効果」を得ることにもなります。
したがって、それらを獲得するために、各々の大学において、自らの優れた部分を明確にし、それをさらに強化しようという動きが生まれるでしょう。そうなると必然的に、学内の資源をそこへ重点的に充てる必要が生じ、経営面における「選択と集中」が促されます。
競争的資金は、そうしたインセンティブとしても非常に有効であると考えているのです。そして、資源の「選択と集中」が行われた結果、各々の大学の「機能や役割の分化」がより明確になり推進されていくでしょう。このように、各々の大学の実績やポテンシャルを評価して助成することによって、国公私立大学の指導を進めていこうというのが、文部科学省としての考え方なのです。
ちなみに、基礎的な経費である、国立大学法人への運営費交付金および私立大学への私学助成の拡充を目指しつつ、各種の競争的な資金を組み合わせて支援していくことを、私どもは「デュアルサポート」と呼んでおり、この手法によって、わが国の大学の教育と研究の質を高めていこうとしているわけです。
私立大学をいかに支援していくか
――私立大学のお話が出ましたが、私学の現状は非常に厳しく、今後経営が立ち行かなくなるところも出てくるでしょう。私立大学の振興という面では、どのように考えておられますか。
清水 大学数、学生数ともに、全体の7割以上を占める私立大学をいかに支援していくかは、私どもにとって大変重要な政策課題となっています。現在私立大学は、少子化の影響を大きく受けて年々入学者が減り、定員割れの状況が拡大しつつあり、経営状態に関しても、赤字の大学が増えています。
ただし、より精緻に見てみると、これには地域間格差があり、都市部の大規模な法人に関しては、経営収支は概ね黒字の状態ですが、地方の小規模な法人になると、大きく定員を割り、赤字で経営が難しくなった大学が出始めています。真に生き残りをかけ私立の各大学は、学部学科の改組・再編や、さまざまな経営努力をされています。
文部科学省の支援としても、例えば税制上の特例措置を講じたり、大学の体制について、「教育を中心にする」「研究に重点を置く」「地域への貢献に重点を置く」というように、各々の大学が独自の方向性を選択するよう支援していくことや、各々の大学が小規模化し、教員の人数および分野が限定されている状況の中、国公私立の枠組みを超えて、複数の大学が各々特色のある教育プログラムを持ち寄って連携して教育内容を充実させるといった、新しい形の連携を推進していくことも考えています。
同じ地域で競争し合うだけでなく、お互いの資源を最大限に生かせるようにしようという考え方での制度づくりに向けて検討を進めているところです。
留学生30万人時代に向けて
――83年に「留学生10万人計画」が打ち出され、すでに実現されましたが、留学生の受け入れに関して、今後どのように取り組んでいくべきだとお考えでしょうか。
清水 本年の福田総理の施政方針演説において、新たに「留学生30万人計画」が盛り込まれ、国をあげて留学生の受け入れ拡大を進めていくことになりました。したがって、留学生を受け入れる大学にとっては、社会のグローバル化に適応しながら、従来以上に受け入れ態勢を強化していくことが求められます。
留学生受け入れに関する世界の流れは、単に何人受け入れるかではなく、国際的な枠組みの中でどれだけ大学の質を高め、いかにして優秀な留学生を数多く獲得していくかという国際的な競争時代に突入しており、さらなるレベルアップが不可欠です。もちろん、住居や医療等の生活支援の問題も含めて、留学生には日本人学生よりも手厚いケアが必要です。
また、留学生が授業を受ける上で、すべてのカリキュラムについてこれるのか、言語の問題はどうなのかといった課題に対応していくことも重要です。新しい傾向としては、海外の大学と協同してカリキュラムを運営する「ジョイントディグリー」「ダブルディグリー」といった国際間連携が世界的に広がってきており、日本では、東京工業大学と中国の清華大学とのタイアッププログラムなどが注目されています。
現在日本全体で受け入れている12万人の留学生に対して、国費留学生や私費留学生への一部支援を合わせても、約2万人しか支援をしていないという現状です。文部科学省としても各行政機関とともに、留学生に関する解決すべき数多くの課題に取り組んでいるところです。
清水 潔 Kiyoshi Shimizu
1975年、東京大学法学部卒業後、文部省(当時)に入省。初等中等教育局教科書課長(92年)、教育助成局地方課長(95年)、高等教育局大学課長(97年)、大臣官房会計課長(99年)、大臣官房審議官〈高等教育局担当〉(2000年)、文部科学省大臣官房審議官〈高等教育局担当〉(01年)、研究振興局長(04年)を経て、06年より高等教育局長。
記事の内容は第17号(2008年6月1日発行)を抜粋したものです。
- 大学改革と教育の可能性 (独立行政法人 産業技術総合研究所 理事長 吉川弘之)
- 大学改革の現在と未来 (文部科学省 高等教育局長 清水 潔)
- リスクを超えて進まねば成功には至らない (法政大学学事顧問 清成 忠男)
- 女性を生涯にわたって応援し続ける大学を目指して (昭和女子大学 学長 坂東 眞理子)
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- 費用対効果を見極め、選択と集中を (広島大学 理事 清水敏行)
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- 第1回大阪大学・京都大学・神戸大学連携国際シンポジウム
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