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生徒本位の大改革―都立高校再生の歩み
東京都教育委員会 教育長 中村正彦
近年躍進著しい都立高校は、いかにして復活の道をたどったのか――。
教育長として手腕をふるう中村氏に、高校改革の要諦について語っていただいた。
都立高校改革の背景
――1998年度から10年間かけて都立高校を改革された背景は?
中村教育長(以下敬称略) かつて都立高校は学力レベルが高く、各校それぞれに特色があると言われた時代がありました。
ところがいつの間にかそれが崩れ、私立高校のほうが高く評価されるようになっていった。税金で運営している都立高校が、納税者である都民の方々のお子様方にとって魅力ある学校になっていなかったのでは大変申し訳ないことであり、そうした状況を打破するために、長期的な視野に立った改革を行ってきました。
――改革の骨子をご説明ください。
中村 各学校に特色を持たせるとともに、都内の学区を取り払うことで、生徒たちが自分の希望や能力に合った高校を自由に選べるようにしました。
というのも、中学を卒業する生徒のうち、97パーセントが高校へ進学しているわけですが、その中には学力の高い生徒もいれば、そうでない生徒もいます。
そのため学区で区切っていた時代は、必然的に幅広い学力レベルの生徒が一つの高校に集まっていました。学校としては、中間層に合わせた授業を行う必要性が生じ、結果的に、学力の高い生徒には物足りない、そうでない生徒にはついていけないレベルの教育内容にならざるを得なかったのです。
現在、特色ある学校に自由に進学できる制度を整えたことにより、難関大学を目指す生徒は進学教育を重視する学校を、部活動に熱心な生徒は部活動が盛んな学校を、職業教育を受けたい生徒は希望の分野の学校を選べるようになりました。
さらに、今まで力を発揮しきれなかった生徒のための学校も用意し、一人一人の生徒が有意義な高校生活を送れるよう工夫してきたのです。また、各学校とも、少人数指導や体験学習といった指導方法を導入し、教育効果を高めていける取組みも推進しています。
改革の具体的内容と成果
――どのような高校をつくられたのか、例を挙げてご説明ください。
中村 以前から進学指導に組織的に取り組んでいる学校をピックアップし、「進学指導重点校」に指定しました。
こちらでは国公立および難関私立大学への進学実績向上を目指して、7時間授業や始業前・放課後の講習、土曜日や長期休業日の講習など、充実した進学指導プログラムを用意しています。
工業高校の進化形である「アドバンスト・テクニカル・ハイスクール」では、工業教育の専門性を維持しながら、生徒の適性や希望に対応した教育課程を構築しています。
理工系大学進学を目指す生徒を育てる「スペシャリスト型」、工業技術の習得に重点を置いた「テクニカル型」、ものづくりへの関心が高い生徒向けの「マイスター型」という三つのタイプの高校から選択できます。
工業系の高校には、「東京版デュアルシステム」を設置しているところもあります。デュアルシステムとは、一定の期間、企業で就業訓練を行って各種の技術を習得する仕組みのことで、生徒が育てられるばかりではなく、受け入れ先の企業からも、自社の従業員教育にも効果が高いという評価をいただいています。
このほか、「総合学科高校」では、普通科目のほかに、工業、商業、情報、美術など、幅広い専門科目を学ぶことができます。続々と増えつつある「中高一貫教育校」では、6年間を見通したプログラムをつくり、効果的な学習を行っています。
さらに、不登校や中途退学を経験した生徒に自分の目標を見つけてもらうための「チャレンジスクール」、小中学校で能力を発揮できなかった生徒を手厚く支援して育てる「エンカレッジスクール」が設置されました。
これら以外にも、さまざまな特色を持った高校で、生徒たちの多様な希望に対応できるよう努めているところです。
これらの改革を進めた成果として、進学指導重点校では、徐々に進学実績が上がってきています。また、全国高校サッカー選手権大会に2年連続で都立高校が出場しましたが、これなども、特色ある高校をつくってきた成果の一つと言えます。
――生徒の人格教育やしつけについては、どのような取組みを?
中村 最も特徴的なのは、すべての都立高校で「奉仕」という教科を必須とし、社会奉仕を実際に体験させていることでしょう。
単なる労働力の提供に終わるのではなく、なぜ世の中に奉仕が必要なのか、奉仕活動を通してどのように社会に役立つことができるのか、といったことを考える機会を与えています。例えば、奉仕をした後、相手の方から「ありがとう」「ご苦労様」と声をかけてもらえることで、非常に感激する生徒もいます。
精神的に「自己否定」の状態に陥り、「自分は誰からも愛されていない」「誰にも相手にされない」と思い込んでいた生徒が、奉仕を通して人から感謝され、「自分が世の中のためになっている」ことを実感して、生きがいを見つけるケースもあり、一定の教育効果が得られているものと考えています。
――改革を進める際、忙しい現場の先生方の足並みをそろえ協力を得るのに、大変なご苦労があったと思われますが。
中村 そもそも教育の現場においては、管理職である校長と教頭以外の先生方は、全員「横一線」に並んでいて平等な立場にあるという意識があります。
そのため教員同士で問題を指摘し合ったり、あるいは校長や教頭の指示を一人一人の教員に徹底させるのに難しい面がありました。特に今回のような大きな改革を断行するには、学校が組織として一体となり動くことが不可欠であり、まず先生方の意識改革が重要な要素となりました。
そこで、学校の組織改革の一環として、都立高校では2003年度から「主幹制度」を導入しました。主幹は、教頭と教諭との間にあって、教頭の補佐をしながら、教諭の指導・監督も担当します。さらに主幹を中心にして、学校をどう改革していくかという、教員間のベクトルを一致させることにおいて、改革推進の大きな力となりました。
未来を見据えた大学改革を
――都立高校の改革を進めてこられた立場から、近年の大学改革のありようについてご意見を。
中村 第一に、自分の学校の現状をよく見て、疑問や不安材料をあぶり出し、改革を力強く実行していくという動機づけが大切ではないかと思います。
20年後、30年後には、必ず産業構造や就業構造が変化していますから、今の教育内容のままではやがて通用しなくなるわけで、そう考えると、何らかの手を打たなければいけないと思えるようになるはずです。
もちろん高等学校においても、例えば商業高校で昔ながらの伝票の書き方を教えていればいいというわけではなく、時代に対応したコンピュータ教育の導入はもとより、生産から流通まで学び、社会に貢献する産業人を育てる学校を設置するなどの改革を進めています。
また、大学の組織について詳しくは存じ上げませんが、例えば国立大学などを見ていると、独立行政法人化されたにも関わらず、組織構造が旧態依然としているのか、一つひとつの意思決定に非常に時間がかかっているように感じられます。そうした組織面の改善も含めて、未来社会をしっかりと見据えながら、有意義な大学改革を進めていただきたいと思います。
中村正彦 Masahiko Nakamura
1946年生まれ。71年に東京都庁職員となり、総務局副主幹、住宅局副主幹、労働経済局副参事、財務局主計部予算第二課長、同主計部議案課長、同経理部総務課長、住宅局参事、政策報道室広報部長、総務局知事室長、教育庁人事部長、同総務部長、危機管理監などを歴任。2005年6月、都議会の同意を得て東京都教育委員会委員に就任し、同時に定例教育委員会にて教育長に任命され、現在に至る。
記事の内容は第17号(2008年6月1日発行)を抜粋したものです。
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