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学生のため、大学の将来の発展に繋がる組織改革を

筑波大学
理事・副学長 吉武 博通

組織改革のエキスパートとして
1985年の「プラザ合意」以降、円高が急速に進み、経済のグローバル化が促進され、さらにバブル崩壊という流れの中で、鉄鋼業界は激しい国際競争の中に放り込まれた。
新日本製鐵株式会社に勤務していた私は、この時代、経営・組織改革に携わった。具体的には87年以降、数次にわたる「中期経営計画」の策定に関わったのである。

同計画においては、本社業務の改革や生産設備の集約・合理化、大規模なコスト削減、いわゆるホワイトカラーの大幅削減、国際会計基準等への対応、連結経営によるグループ全体の効率化などが大きなテーマであった。

このような組織改革実務のメンバーとして働いた経験を活かすため、法人化を契機として進められている筑波大学の改革に、2003年から参加することになった。

そして現在、総務・企画および国際連携の担当として、種々の業務に取り組んでいる。仕事内容について、総務としては業務の総合的な調整や、会議での実質的な審議を通じて、大学の優先的な課題を計画的に実行していくことに力を注いでいる。

企画に関しては、中期計画や年度計画などを策定するとともに、計画の一連の「PDCAサイクル」に関わる業務を担当している。さらに岩崎洋一学長の指示により、「本学の十数年後の姿を描く」という趣旨で策定を進めている「筑波大学2020ビジョン」の、実務的な取りまとめを行っている。

法人化における課題と取組み

国立大学法人化の本質は、文部科学省の一部門であった国立大学が、すべて自律的に運営しなければならなくなったということである。

したがって、それまでは国家公務員法や人事院規則で定められていたものが、各大学が個々に労働基準法に基づいて就業規則を策定し、個々の大学の責任で大学全体の予算を編成し、企業会計基準に準じる会計制度のもと、決算を行うといった業務が求められるようになった。

本来ならば、法人化というチャンスを有効に生かしてチャレンジしなければならないときに、業務量も増えてしまい、また、国の人件費削減方針もあり、成果に結びつけていくのに苦労しているというのが正直なところだ。

この事態を打開するためには、従来の業務を大幅に効率化して、できれば半分くらいに減らし、そこで生まれた余力を新しい仕事に置き換えていくことが不可欠となる。

本学の中期計画には、「事務等の効率化・合理化に関する目標を達成するための措置」として、事務組織の再編や、意思決定の迅速化、諸手続きの簡素化・情報化の推進、アウトソーシングの推進などを盛り込んでいる。

これらを総合的に推し進めていくことで効率化が図られ、筑波大学が進化していくために、より大きなエネルギーを振り向けることができるのである。

いかに組織の体質を変えていくか

国立大学の法人化に際しては、いわゆる「役所的」「役人的」体質から脱却するために、職員の意識改革を行う必要があるといった指摘を受けることがある。

こうした意見について、私も民間にいたときは同様の認識を持っていたが、現実には、意識改革という次元とは別のところに問題があるのがわかった。

まず、国立大学が長く国の機関であったために、職員は、すべて「国が決めたこと」「上の人が決めたこと」に忠実に従う形で仕事を遂行せざるを得なかった。

また、国公私立を問わず、大学では教員が中心的存在で、職員はそのサポート役であるという意識が強いことから、「職員一人ひとり自らが当事者としてリスクを負って判断する」という経験を積むことができなかったのである。

これは職員の体質や責任というよりも、彼らの立場上、そうしたトレーニングを積めなかっただけのことなのである。
この状態から脱却するためには、職員たちに自らが考えて判断する機会を数多く提供しなければならない。

判断するには判断基準が必要であり、職員たちには、「もし判断に迷ったら、学生のためになるかどうか、筑波大学の将来の発展に繋がるかどうか、社会に説明ができるかどうかという三つの基準をもとに決断してほしい」と話している。

最終的な責任は担当理事がとるという前提のもと、それぞれの職員が、それぞれの現場で判断する経験を積んでいけば、より力強い組織をつくっていけるはずだ。

もちろん大学であろうと民間企業であろうと、管理者にとって、部下に任せることは大変難しいことではある。しかし、こうした取組みを現場レベルで丁寧にやっていかなければ、本当に血の通った、息の長い、地に足がついた大学改革にはならないと考えている。

この他、「業務改善推進本部」を設置し、国立大学時代から踏襲してきた業務ルール改善にも努めている。従来、国立大学の諸々の業務は、「適正性」を最優先して、「効率性」は二の次になってきた背景がある。

例えば、政府や会計検査院からの指導を忠実に守っていくために、一つひとつの業務に仔細なルールがつくられているが、そのルール通りに処理しようとすると、作業が非常に繁雑かつ困難になり、結果的に著しく非効率的になっていたのである。

適正性を追求するあまり効率性が損なわれ、そのせいでかえって適正性が損なわれていたのでは、何のためのルールなのかわからなくなる。このあたりの仕組みや考え方が、国と民間との最も大きな違いなのだろう。

業務の進め方はできるだけ効率化して、シンプルにすることで、必ずわかりやすくなり、結果として仕事のクオリティを上げることに繋がるはずである。

筑波大学が取り組むべき課題とは

現在策定中の「筑波大学2020ビジョン」に盛り込まれている本学の今後の課題の中でも、私はまず、「教育の質の向上」が重要ではないかと考えている。

国立大学の研究力は、世界の水準から見て決して低くはないが、教育の方法・内容・システム等について、日本はまだまだ改善の余地を残していると思われるからだ。

また「国際化」に関しても、本当に国際的に開かれた大学になっているかと言えば、まだまだ不十分と言わざるを得ない。例えば海外から多くの留学生を受け入れている割に、本学から海外へ留学する学生の数は少なく、外国人教員の比率も低く、学内の掲示板は日本語でしか書かれていないといった状況であり、さらなる国際化を進める努力が必要である。

また従来、個人プレーが中心だった教育についても、カリキュラムの体系化をよりいっそう推進するために、これからはもっと組織的にマネジメントしていくことが必要になってくるだろう。

今年は法人化後4年間の取組みに対する評価が行われる年である。100年に一度と言われる新体制への移行が、大きな混乱なく進んでいることは大いに評価されるべきであるが、一方では課題も山積している。

改革成功に向けて、教員をはじめ多くの人たちの力強い協力も得ており、大学全体で力を合わせて、これからも前向きな改革に取り組んでいきたいと考えている。

吉武 博通 Hiromichi Yoshitake

1954年生まれ。77年に九州大学法学部を卒業し、新日本製鐵株式会社に入社。同社総務部組織室長、総務・組織グループリーダーなどを歴任し、同社の経営および組織改革の立案・推進を担った。2003年に筑波大学社会工学系教授となり、04年には同大学学長特別補佐、大学院ビジネス科学研究科教授となる。06年4月に同大学理事に就任し、現在に至る。1994年以降、警察大学校講師を務めるなど講演・執筆活動も行う。

大学改革提言誌「Nasic Release」第17号
記事の内容は第17号(2008年6月1日発行)を抜粋したものです。
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