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財務施策を駆使し、発展に導く

早稲田大学 常任理事
小林 栄一郎

創立125周年記念事業について
早稲田大学の同窓会組織である「校友会」の代表を務めていた関係で、私はまず非常勤の理事となり、さらに数年前からは財務担当の常任理事として、母校の経営、運営に携わっている。
昨年、早稲田大学は125周年を迎え、これまで種々の記念事業を展開してきた。事業の大きな柱となったのは、何といっても学校設備の充実である。

というのも、第二次世界大戦時の空襲でほとんどの校舎が壊れ、終戦直後の応急的建物が多い本学施設は老朽化が進んでいたからだ。具体的には、学生会館や複数の学部の校舎の建て替え、および大隈講堂のリニューアルなどを、記念事業の一環として行ったわけだが、これらには合計360億円の費用がかかっている。

このうち、160億円は大学が自前で用意し、残りの200億円は募金でまかなうという方針で取り組んだところ、本年3月時点で目標金額の90数パーセントまで募金が集まり、ほぼ達成する目処が立っている。各方面から多大なご協力をいただき、関係者一同心から感謝しているところである。

さらに本学では、次のステップとして、教育の中身の改革を進めていこうとしている。「教育」「研究」「国際化」「世界レベルの人材輩出」など、いくつかの命題について、より具体的に改革内容を練っているところだ。

大学経営における「運用」の重要性

このように、大学を維持する通常の運営に留まらず、さらなる発展に向けて各種の事業を展開しているわけだが、当然ながら、どんな事業を行うにも資金が必要となる。

支出が大きくなることで大学の財政を圧迫させないためにも、健全な財務基盤を確立し、これを強化していくことが、財務担当理事としての使命であると考えている。

言うまでもなく、「入るを図って出ずるを制する」のが財務の基本。幸いにして「出ずるを制する」部分については、私の前任者が「無駄な支出を省く」ことに尽力していてくれたおかげで、私が財務を見るようになった時点で、大掛かりな支出削減をする余地はなくなっていたと言える。

そこで私は、「入るを図る」部分を充実させるべく取り組んでいるわけだが、企業と違って学校は、単純に新しく儲ける方法を探すというわけにはいかない。学費を値上げするといっても、本学の場合は年間0・7パーセントの上昇幅を維持させているため、大幅な増加は望めない。こうした事情から、「入るを図る」といっても、できることは最初から限定されているのである。

そこで私は、銀行での経験を生かし、資金の運用を柱とした「資金効率の向上」に力を注いでいる。これまでさまざまな形で運用を行ってきた結果、私が理事になった当初、運用による利益、いわゆる「運用果実」は、年間で8億円程度だったのが、現在では約38億円にまで増加している。

運用というと、一見、大学の財務の仕事からは縁遠いように思われるかもしれない。ところがアメリカのハーバード大学などは、3兆円以上の資金を有し、それを20パーセント近くの利回りで運用して、なんと本学の年間経費の数倍もの果実を得ている。

日本の18歳人口はなお減少し続けており、本学に限らず、大学の経営環境が今後ますます厳しくなるのは必至という状況において、運用果実を増やしていくための施策は、どの大学にとっても重要な課題となるのではないだろうか。

資金運用と奨学金拡大施策

本学において、ここ数年で増加した運用果実は、現在二期目を務めている白井総長の打ち出した改革方針に基づき、主として「学内奨学金」を充実させるための資金源に充てている。

その成果は着実に上がっており、奨学金の受給者数は、以前よりも約3倍に増加させることができた。例えば、入学試験に合格した人のうち、成績上位二パーセントの学生の学費を無料にする「大隈記念特別奨学金」など、さまざまな名目の奨学金を新設することで、学生への支援体制強化を進めているのである。

奨学金充実の目的は、とりもなおさず優秀な学生をできるだけ多く集めるためであり、その財政面を支える運用果実の増加は、大学発展の鍵を握る重要施策と言っても過言ではない。

ここで持論を述べさせていただくと、これから先、日本の大学は、学費をある程度引き上げていく必要が生じてくるのではないかと考えている。

アメリカの大学の学費は日本の約3倍であり、学生の数を絞ってはいるが、学費が高い分、教育の中身を充実させている。日本においても、教育内容をもっともっと充実させていくことで、高くした学費に見合った教育を施し、優れた人材を育成していく必要があるはずだ。

その代わり、奨学金を従来よりも厚くし、給付対象者を増やすことで、優秀でありながら家庭の経済事情で学費を払うことが困難な若者が、受験を断念しなくても済むように計らうのである。

少子化に対応しながら大学のレベルを高め、さらに国際競争力をつけていくためには、この方法しかないのではないかと、個人的には考えている。

建設的な資金調達方法の構築が不可欠

奨学金の充実以外に、早稲田大学の改革の柱の一つとして、受け入れ留学生の人数を、向こう5年間で現在の2700人から8000人に増やしていくという目標がある。

なぜ留学生を増やすかといえば、アジア諸国から日本にやってくる留学生には優秀な人材が多いため、大学のさらなるレベルアップに不可欠と考えているからだ。

これについても、当然大きな資金がかかることは間違いない。例えば、留学生は全員住居が必要となるため、一括して寮を借り上げるとか、新たに自前で寮を建設するといった対応をしなければならない。そのためには、ごく大雑把な計算だが、留学生一人あたり約1000万円のイニシャルコストがかかることになる。

つまり留学生を5000人増やすためには、居住費だけで500億円の資金を捻出しなくてはならないのである。現在の本学の総収入から経常費を支払って残った黒字から充てるとしても、額が大きすぎてすべてをまかなうのは難しい。そこで、不足分を補うために、私募債という形で「学校債」を発行する計画も立てている。

この他、125周年記念事業の募金実績を踏まえ、今後は恒常的に募金を受け入れるシステムを構築していくつもりであり、金融関係の経験者を配置するなど、具体的な準備を進めている。主に企業、卒業生、学生の父母をアプローチの対象と考えており、特に企業からの募金が重要であると考えている。

というのも、記念事業を行った際、「CSR(企業の社会的責任)」の観点から、大学への支援を前向きに考える企業が増えてきたことがわかったからだ。

もちろん一方的に寄付を受け取るだけではなく、本学の多様な研究成果を活用して、産学連携事業を強化するなどの方法で、企業に貢献していくことが肝要であろう。

これからの大学には、財務の健全性を保ち、必要な資金を確保するために、さまざまな「建設的手法」を実行していくことが求められる。わが国を代表する私学として、こうした面でもリードしていきたいと願っている。

小林栄一郎 Eiichiro Kobayashi

1938年生まれ。61年に早稲田大学第一商学部を卒業後、株式会社協和銀行に入行。同取締役、同常務取締役を経て、94年に株式会社あさひ銀行代表取締役専務となる。97年に同代表取締役副頭取となり、98年に株式会社あさひ銀行総合研究所の代表取締役社長に就任。2002年にAIGスター生命保険株式会社の顧問となり、現在に至る。早稲田大学では常任理事として財務を担当。

大学改革提言誌「Nasic Release」第17号
記事の内容は第17号(2008年6月1日発行)を抜粋したものです。
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