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真の人間教育に基づく質的進化を

多くの大学が附属校を持つ傾向が強まる中、関西私学の雄である関西学院は、キリスト教主義教育の理念のもと、教育の質を重視した小学校の新設を進めている。その理念について、阪倉常任理事にお話を伺った。

学校法人 関西学院 常任理事 阪倉 篤秀


質的進化のための初等部新設

――2008年度から初等部をスタートされるわけですが、まず、関西学院が新たに小学校を持つことの意味、戦略等についてお聞かせください。

阪倉常任理事(以下敬称略)関西学院には五名の常任理事がおり、私はその中で、大学をはじめとして、従来ある中学部と高等部、今回始まる初等部、今後合併を予定している聖和大学および聖和短大と聖和幼稚園、さらには提携、協定関係にある高等学校等も含めて、すべてを「一貫性のあるもの」として考えていく「総合学園」という分野を担当しています。

そうした立場で近年の傾向を見ていると、大学が附属高校などを持つ際、大学入学者数を確保する「裾野拡大」という意味合いが強く、あちこちでそういう動きが目立っているのではないかと思います。

関西学院が、時代の流れと無関係というわけではありませんが、我々はそもそも拡大戦略という考え方をとっておらず、その面では特に積極的ではないと言えます。したがって、小学校を始めるといっても、必ずしも大学入学者数を増やすことが直接の目的ではありません。

現在関西学院大学には約二万人の学生が在籍していて、初等部は一学年90名で運営していくことになっているわけですから、入学者数を増やすというレベルの話でもないのです。

それよりも、学院全体の「質的進化」に主眼を置いており、学院のスクールモットーをいかに初等部の教育内容に反映していくかが、何よりも大切なことと考えています。

――数よりも質を重視されているわけですね。それ以外に、初等部新設の意義などがあればご説明ください。

阪倉 中学部や高等部には、以前から、関西学院の同窓の方々のお子様が多く入学していました。例えば、中学部は男子のみですが、父親が中学部から関西学院に通っていたから息子も入学させたいといった要望が非常に多いのです。

教育機関は、良い意味でのサービス機関でもあるわけですから、そうした声に、より良い態勢を築いて応えていくことも重要だと言えるでしょう。

また、社会全体の傾向として、当たり前のように公立小学校に入る時代ではなくなり、私立小学校への入学も有力な選択肢となっているわけですから、阪神地域において高い教育力を有する関西学院が、そうした社会の要望と正面から向き合うのも、やはり教育事業体として必要ではないかと思います。

また、関西学院の基本的な考え方として、高等部や中学部、初等部は、決して大学に附属するものとは考えていません。

そうした従属的な関係ではなく、「Mastery for Service(奉仕のための練達)」という理念、「キリスト教主義教育」という方針を共有する教育機関として、それぞれの学校が併設されているのであるということを強調しておきたいと思います。

こうした一貫性を持った関西学院の教育体系の中に、今回初等部が新たに加わることになったわけです。

独自の理念を具現化した授業体系

――初等部としての教育理念についてご説明ください。

阪倉 先ほど述べた「Mastery for Service」の考え方を、さらにわかりやすくして、「キリスト教の教えに基づくたくましい生き方の育成」「豊かな情操と国際感覚を持った世界市民の育成」「真理を探究する確かな基礎学力の育成」という三つのコンセプトを打ち立てています。

キリスト教は世界宗教の一つであり、近代社会を形成してきた文化の本源でもあります。つまり、世界中の多くの人々に受け入れられた「世界的な価値観」に基づいた考え方を、この学校で学んでいきましょうということです。

もう一歩踏み込んで表現するなら、思いやりや尊敬、友情、愛情といった「目に見えない大切なもの」に目を向けた教育方針を持って、具体的に実践していくのです。

――そうした教育理念を、どのような形でカリキュラムに反映されているのでしょうか?

阪倉 初等部のカリキュラムには、「関学タイム60」という独自のプログラムを盛り込み、児童の人間性の育成に生かしていくことになっています。関学タイム60に、まず、毎朝全児童と全教職員がチャペルに集まって礼拝をし、讃美歌を歌ったり説教をしたりする「こころの時間」があります。

次に、「風の時間」と称し、読むことや聴くことを通して蓄積した知識を、自分の言葉で表現する力を身につけていきます。続けて「光の時間」を設定していますが、ここでは、ネイティブの教員による外国語のレッスンを行います。

単に語学を学ぶのではなく、世界にさまざまな文化があることを知る窓口となるような授業にしていくことになっています。この「光の時間」の最終段階として、六年次には修学旅行でカナダのバンクーバーに行き、ホームステイを行うことが決まっています。

昼食後には「力の時間」を設けています。これは、子どもたちに推論する力や分析力を身につけさせる時間で、算数や理科を学ぶ基礎として、主として文章題を読み解く力を養成するためのものです。これら四つの時間をそれぞれ十五分ずつ、一日に合計六十分、「関学タイム」として時間割に組み込んでいます。

――「テーラーメイド教育」という方針も打ち出されていますが、具体的にご説明ください。

阪倉 子どもたちの成長にはそれぞれのスピードがあり、早く力をつける子もいれば、後からじっくり伸びてくる子もいます。「テーラーメイド教育」とは、それぞれの子どもたちが、何をどう理解しているかを教員がきちんと把握し、一人ひとりに合った形で授業を組み立てていく、その手法を意味しています。

これは、習熟度によって子どもたちを分け隔てるのではなく、可能な限り授業の中で対応し、それでも達成が難しい場合については、授業以外の部分でフォローしていこうというものです。

――最後に、関西学院初等部の最大の強みは何かを、お聞かせください。

阪倉 我々の気質として、他人を蹴落としてまで競争に打ち勝っていくという雰囲気はあまりなく、それは時に弱さだと言われることもあります。

しかし、人間存在の根幹を考えたとき、本当に大切なのは、他人を追い越し踏み越えて勝利者になることでも、無闇に金儲けをすることでもありません。そういう意味で、建学以来築いてきた、真の人間教育に取り組む姿勢そのものが、最大の強みではないかと考えています。

阪倉 篤秀 Sakakura Atsuhide

1949年生まれ。関西学院大学文学部を卒業後、同大学院文学研究科を修了。関西学院大学文学部教授。専攻は東洋史。東洋史学会、東方学会、中国社会文化学会、南京鄭和研究会などの学会に所属している。著書に『長城の中国史―中華vs.遊牧六千キロの攻防』(講談社選書メチエ)などがある。

大学改革提言誌「Nasic Release」第16号
記事の内容は第16号(2008年1月1日発行)を抜粋したものです。
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