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女子教育の真価が問われる時代

共学か女子か――
18歳人口の減少と大学数の増加の中女子大学は今、岐路に立たされている。
女子大学の存在意義や今後の方向性について日本女子大学、椙山女学園大学、神戸女学院大学の名門3女子大学の学長・理事長に話を伺った。

女子大学を取り巻く環境

18歳人口の減少を主な要因とする大学の生き残り競争の中で、「女子大離れ」という問題が浮上している。これに先行する形で「短大離れ」の結果として、多くの短期大学が姿を消した現状を考えれば、女子大学が抱える事態も深刻である。

戦前の高等教育では、大学は男性にしか開放されず、女性の高等教育の機会は女子専門学校がほとんどを占めていた。戦後は男女平等の方針のもと女子教育の目標が転換され、数多くの女子専門学校が女子大学として認可された。1960年代以降、女性の高等教育への進学率は急増したが、80年代半ば頃から女性の共学志向、実学志向が強くなり、現在、女子大学全体としては志願者を減少させている。

存在意義の再構築

わが国において女性が置かれている社会的環境を見ると、男女間の賃金格差が依然として大きいこと、女性の労働力率が低いこと 、また、大学全体での女性教員比率が低いことなど、さまざまな場面で、いまだ男女格差が残っていると言える。

女子大学が自らの存在意義を再構築していくためには、こうした女性が抱える問題に対して、大学が果たせる役割を認識し、その具体的な方法を、広く社会に告知していくことが必要であろう。

女子大学が単なる「女性だけしか入学できない大学」から脱却し、真の意味で「女性のための大学」として機能していくことが今、求められているのである。今号で取材した日本女子、椙山女学園、神戸女学院、三校とも共学化は当面のところ視野には入れていないという。

「信念徹底・自発創生・共同奉仕」(日本女子)、「人間になろう」(椙山女学園)、「愛神愛隣」(神戸女学院)という、それぞれの教育理念、モットーのもと、「人間教育」を中心とした教養教育を重視している点が共通項として挙げられる。

また、地域や社会への貢献を重視していることも特徴的だ。地域、社会における女性の役割の重要性を認識しながら、公開講座はもちろんのこと、生涯学習機会の提供や同窓会組織との連携など、さまざまな形での共生を図っている。

もちろん三校のトップは皆、女子大学全体の厳しい現状は認めている。そうした中にあって、存続からさらなる発展への方策を、どのように見出しているのか――3校に共通する部分、また、各校に特徴的な取組み、それらのすべてから、女子大学の将来が見えてくるのかもしれない。

女性の能力と可能性を最大限に開花させる

日本女子大学 学長 後藤祥子

1961年、日本女子大学文学部国文学科卒業。63年、東京大学大学院人文科学研究科国語国文学専攻修士課程修了、67年、同専攻博士課程単位取得満期退学。
日本女子大学一般教育課程助教授、文学部助教授などを経て、86年に文学部教授となる。2001年、日本女子大学学長・学校法人日本女子大学理事長に就任。文部科学省国立大学法人評価委員会委員、社団法人日本私立大学連盟理事ほか。


――女子大学の意義をどのようにお考えですか?

後藤学長(以下、敬称略) 全入時代の到来が叫ばれ、共学化を進めた女子大学が何校もありますが、私はその必要はないと考えています。学問的に明らかですが、男女では知識や教養を受けとめるスタンスに違いがあります。

女性の場合、体験の反復による指導が効果を発揮する傾向が強く、その点、本学は附属幼稚園から大学院博士課程までを備えた一貫教育機関であるという強みがあります。

これまでの社会を振り返って、女性が伸びることによって改革がなされたのだとすれば、そのことに全く無自覚なまま、男女同権を唱えても始まりません。ここに至るまでにどれだけ大変だったか、その努力を今後も維持しなければならないことを、自覚的に教育する必要があります。

社会をよくするために女性がもっと進出することが求められるのであれば、その目的を最も効果的な方法で達成するには、女子大学というスタイルがふさわしいのではないでしょうか。

――特徴的な取組みは?
後藤 創立当時から続いているのが、各学部必修「教養特別講義」です。各分野で活躍している方を講師として招き、実務家から現場の生の声を聞くことで社会を広い視野で眺め、自分が、ひいては人類がどう進んでいくべきかを考える契機とするものです。

また、文部科学省の「戦略的国際連携支援」に採択された「アジアの女性高等教育とエンパワーメント」があります。これは、アフガニスタンの女性教育支援に始まり、サウジアラビアやベトナムと広がって、アジアの女性教育を支援するものです。

このプロジェクトの伏線として2002年には、お茶の水、津田塾、東京女子、奈良女子と本学の五女子大学で、アフガニスタン女性教育支援のコンソーシアムを締結しています。さらに「女性研究者マルチキャリアパス支援モデル」「子どもの安全確保のための大学院教育の構築」「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」などが採択されています。

これらは、現代を生きる女性にとって、とても重要な課題ばかりです。本学で学び、体得した可能性の芽が、現代のニーズに繋がっていくと考えています。

――今後の抱負は?
後藤 女性が輝かなければ、社会はよくなりません。女性が持つしなやかな能力と可能性を、最大限に開花させる教育・研究環境をさらに整備したいと思います。内から輝くことができるように知識と教養を身につけ、人類と社会の発展に貢献できる女性を育てていきたいと考えています。

女性が直面する課題を解決するリーダーを育成

椙山女学園大学 学長 泉 有亮

1957年、東京大学理学部化学科卒。徳山曹達株式会社(現:株式会社トクヤマ)研究部研究員、主任研究員、主席研究員を経て、78年、名古屋大学工学部教授、96年、名古屋大学大学院工学研究科教授、98年、名古屋大学名誉教授。98年、椙山女学園大学生活科学部教授に就任。2004年4月から椙山女学園大学学長。工学博士。専門は触媒化学。99年、紫綬褒章受章。


――女子大学の現状は厳しいと言われていますが。
泉学長(以下、敬称略) 大学というものが、必ず共学であらねばならないという理由はないと思います。選択肢の一つとして女子大学というものがあっても、不自然ではないでしょう。

というのも、男女平等、機会均等は、むろんそうあってしかるべきですが、現実のありようは、そうした崇高な理念とはかけ離れているように感じています。社会のあらゆる部分で、女性にばかり負担がかかっていることが、いまだに少なからずあるのです。

そうしたさまざまな問題を、男性ばかりで解決するのは難しい。女性の感性で応じたほうがはるかに効果的なことがたくさんあると思います。女性のリーダーシップを養成できることは、女子大学の大きな特徴の一つですが、中でも女性が社会で直面する課題に対し、その解決のためのリーダーシップをとれる人材を育成するには、やはり女子大学が適していると考えています。

――就職率の高さは特筆に値します。
泉 卒業生1,000人以上の女子大学の中で、卒業者総数に対する就職決定者の割合という指標で、4年連続トップになることができました。

高い就職実績を支えるものとしては、「地元優良企業からの高い評価」「低学年から意識づけを行う積極的なサポート」「個人面談を重視したキャリアサポート体制」「就職活動を支える多数の卒業生」が挙げられます。「就職の椙山」という一つの伝統は堅持し、一人でも多くの女性の夢を叶えられるよう、きめ細かくサポートしています。

――どのような改革を進めていますか?
泉 2007年に教育学部を開設し、本学は女子大学としてはわが国最大の六学部を擁する総合大学となったのですが、受験生や保護者の方々、あるいは大学基準協会からも、学部の名称や教育内容の差異が、若干わかりづらいというご指摘をいただいています。

2004年に設置した「大学改革審議会」では、教養教育と学部再編を大きなテーマに掲げてきました。学士課程教育の見直し、教養教育の充実とともに、学部のあり方についても改善の余地があるかもしれません。

――今後の抱負を。
泉 戦争、テロ、家庭内暴力、幼児虐待……毎日の新聞やテレビニュースにこんな言葉が飛び交う今だからこそ、人間らしさを問う本学の教育理念「人間になろう」の意義の大きさを実感せざるを得ません。

本学での勉学や経験を通じて、知識やスキルを超えた、本当の知性を身につけた女性、「人間らしい人間」が数多く巣立ってくれることを願っています。

視野を広げ、自ら学ぶ自立した女性へ

神戸女学院大学 学長 川合真一郎

1943年生まれ。京都大学農学部水産学科卒業。71年、京都大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士。大阪市立環境科学研究所研究員を経て88年4月、神戸女学院大学教授に就任。教務部長、大学研究所長、人間科学部長などを歴任。2006年4月から学長。神戸女学院大学・山本義和教授との共著『明日の環境と人間――地球を守る科学の知恵』(化学同人)は『21世紀に残したい環境の本100冊』にも選ばれるなど好評で、版を重ねている。


――どのような教育を目指していますか?
川合学長(以下、敬称略) 本学では建学以来、「愛神愛隣」の標語のもと、人間の生き方を探りながら、女性に必要な自主的かつ国際的な思考力や判断力、語学力の育成に努めてきました。

その根幹となるのが、「リベラルアーツ&サイエンス」です。こうした教養教育を重視できるのは女子大学ならではの利点であり、実践の場としての少人数教育も徹底しています。さらにこうした考えを具体化する形で、2007年度後期から、「女性のライフステージに応じたキャリア教育プログラム」(現代GPに採択)として、「副専攻制度」を導入しました。

コースは「メディア・コミュニケーション」「アート・マネジメント」「ホスピタリティ・マネジメント」「ボディ・サイエンス」の4つで、いずれも三学部五学科の学問領域を横断するバラエティに富んだ科目を、バランスよく配置しています。

この制度では、専門分野にかかわる多彩な教養や知見を広げ、学生の総合的・全人的な成長を促すことを目指しています。

――地域と女子大学の関わりは?
川合 地域貢献はいまや、いずれの大学にも必須の責務でしょうが、本学でも重要課題の一つとし、積極的に取り組んでいます。女性の就職率は高くなっていますが、30歳以上の就業人口を見ると、やはり男性より少ないのが現実です。

つまり多くの女性は一度は家庭に入るわけで、必然的に地域とのつながりが男性より強くなると思うのです。当然、地域を支える女性の役割は大きく、そうした地域の活性化に、本学の卒業生が大いに活躍してくれることを期待しています。

――『女性を幸せにする大学』という本を出版されました。
川合 NHKアナウンサーの武内陶子さんや有働由美子さんをはじめ、さまざまな分野で活躍する卒業生たちが、大学で何を学び、本学の美しいキャンパスで過ごした時間がどのように人生に影響したかなどを紹介しています。

本学の卒業生の多くが、キャンパスライフでの最大の収穫として、「自分の本当の能力を見つけることができたこと」を挙げます。女性が「本当の自分らしさ」を見つけることができるのも、女子大学の大きな意義だと考えています。

――今後の抱負をお聞かせください。
川合 学生には大きな可能性が秘められています。たとえ一人ではできないことでも、教職員、そして友人に支えられて成せることがきっとあるはずです。

私たちは学生一人ひとりの未来に広がる、無限の可能性を信じ、しっかりと支えていこうと思っています。

大学改革提言誌「Nasic Release」第16号
記事の内容は第16号(2008年1月1日発行)を抜粋したものです。
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