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「財テク」から「経営課題」へ
主任研究員 片山英治
フロー・ベースの受け身運営
日本の大学(私立大学)は従来、財務マネジメントにおいていわゆる「自己資金原則」に則ってきた。
つまり、学校運営が始まってから資金の獲得に腐心しなくて済むよう、あらかじめ寄付の形で充分な資金を蓄えた上で学校を設立せよということである。
従って、学生数が右肩上がりで増加している局面においては、何もしなくても、さらに授業料を引き上げなくても、入ってくるキャッシュは増加するわけであり、当然、年度末の消費収支差額、いわゆる余剰金はプラスになる。そして、それを教育研究に先行投資できる。
学校の場合は企業と違い、配当などの形でステーク・ホルダーに還元してゆく必要がないので、すべてを内部留保として翌年度に回すことができる。要するに、学生数が右肩上がりの状況では、「フロー・ベースの受け身運営」で事足りるというわけだ。
それは、「単に管理をすればよい」ということであり、「ストックを活用しよう」という考えとは無縁ということである。
ストック・ベースの財務戦略
ところが、学生数が減少する局面においては、時として年度末の収支が実質的に赤字に転じることがあるかもしれない。これはすでに、一部の学校法人が直面している問題である。そうした中で、場合によっては基本金の一部を取り崩す必要に迫られる。当然そういった状況では、教育研究の資金も不充分となり、それがさらに教育研究水準の低下をもたらし、ますます学生が集まらないという悪循環を産み出しかねない。
だからこそ「自己資金原則」の転換、つまり「ストック・ベースの財務戦略」が、今こそ求められているのである。それは、財務戦略の巧拙が、端的に大学の格差拡大につながってゆくということでもある。
収入手段の多様化
さて、学校における資金運用は、何も今に始まったわけではない。バブル期には「財テク」という名のもと、多くの学校法人が資金運用を手がけた。ところが、今は、その資金運用がまったく違う観点で捉えられている。
今、学校法人の収入が、授業料+補助金+運用収益+寄付金・事業収入(産学連携を含む収益事業や病院収入)だとすると、少子高齢化、国・地方自治体の財政赤字の悪化などにともなって、授業料と補助金という大きなパーセンテージを占めてきた二つが減少する局面に来ている。従って、収入を維持するためには、残りの二つ、運用収益と寄付金・事業収入を増やしてゆく必要がある。
つまり、資産運用管理の高度化や寄付募集、収益事業等の強化といった「収入手段の多様化」が、今まさに「経営課題」となるのである。資金運用に関していえば、ひと昔前の財テクから、経営課題という位置付けへと変わってきているということである。
資金運用で教育研究を下支えするアメリカの大学
ここで日米の大学の財務データを比較してみよう。
東京大学の総資産規模は約1.3兆円。スタンフォードが約2兆円。ハーバードが6.6兆円である。しかし、ここでは規模ではなく、貸借対照表の内容に注目してほしい。
東京大学の資産合計のうち、94.9%が有形固定資産である。有形固定資産とは、いわゆる土地、建物、森林(演習林)等のことである。もちろん国立大学の場合は、そもそもの資本の中味を実物で出資しているので、有形固定資産が多くなるのは当然のことである。
さて、この有形固定資産が、教育研究の向上に貢献していることは事実であろうが、一方で、これらが即、キャッシュ・フローを産み出しているかというと、必ずしもそうではない。
スタンフォードでは資産合計のうち、七一・九パーセントが投資有価証券である。これを資産運用に回すことによって、キャッシュ・フローをもたらすことが明確に現れている(収入の13.1%が資産運用収入)。
ハーバードの資産運用収入は全収入の35.6%を占めるまでになっており、資金運用が教育研究を下支えしていることが明確に現れている。
アメリカの現状
アメリカの大学の資金運用管理の現状を紹介しよう。
図表②はアメリカの大学の運用資産ランキングである。これによると、ハーバード大学が約2.8兆円、イエール大学が約1.7兆円という具合に以下バージニア大学の3,500億円まで続いている。ちなみに日本で一番多いのが私立では日本大学であるが、その日大が2,500億円程度であるから、実に10倍以上の差があるということである。
一方、アメリカの大学の平均運用資産構成を見てみると、公開されている株式が58.5%、債券が21.5%、オルタナティブが15.1%であり、うち、ヘッジファンド、不動産、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、天然資源と、さまざまなものが含まれている。
オルタナティブが増加傾向
運用資産規模別資産構成を、私立・州立に分けて見てゆこう。横軸に株式、債券、キャッシュ、オルタナティブと並んでおり、縦軸に全体の2005年と2004年、そしてその差、資産規模別、経営主体別(私立・州立)と、概ねこの一覧で全体図を見て取ることができる。
まず資産規模別の特徴として、オルタナティブといわれるものが最近急激に増えており10億ドル超。1ドル=100円で換算して1,000億円以上、38.4%がオルタナティブで占められているという状況になっている。
特に顕著なのがヘッジファンドである。これは、2000年頃、アメリカの株式市場が低迷した時期に、マーケットニュートラルなど株式市場の影響を受けずに一定の絶対リターンを追求する投資スタイルであることから拡大してきたものであるが、最近はプライベート・エクイティ、いわゆる未公開の株式も増えつつある。
興味深いのは、資産規模が2500万ドル以下、25億円以下になると、オルタナティブの比率が減ってくるが、傾向としては規模の小さい大学においてもファンド・オブ・ファンズなどの形で、少しずつ組み入れが増える傾向にあるということである。
ではそれが、私立も州立も同じかというと、私立のほうが若干リスクを取る傾向があるにせよ、株式中心のポートフォリオであるということは共通している。
このように、株式中心で、最近は未公開のものを含めてオルタナティブといわれるものが増加傾向にある――これがアメリカの大学の資産運用の特徴である。
中・長期のタイム・ホライズン
ここまでで強調しておきたいのは、アグレッシブな運用を行っている一方で、投資対象の分散が図られているということである。分散投資ということは収益を追求しつつ、同時に安全性の確保にも充分に目配りしているということである。
図表⑤は、トータルリターンの推移である。2001年から2003年にかけてパフォーマンスは良くなかったが、その後、回復している。トータルリターンが1年単位のリターン、3年、5年、10年と列記されている。1年でも好調だが、3年、5年でも決して悪くはない。
実はこのパフォーマンスが低迷した時期にアメリカに行き、「パフォーマンスが悪いが、アメリカの大学の理事会ではどういう反応で受け止められているのか」と尋ねたことがある。すると「確かにリターンは悪いが三年、五年の単位で見れば、プラスのリターンが出ているではないか」――つまり、今、パフォーマンスが低下していることの何が悪いのか、というのである。
このように、アメリカの大学の理事会では、1年単位のパフォーマンスを見るのではなく、3年、5年、10年という中・長期の時間軸で資産運用を見ている。株式等で運用しているのは、中・長期的に見てパフォーマンスが良いという過去の経験則に従って、株式を組み入れるという判断があるのである。
アメリカの大学は確かにアグレッシブに運用をしているが、その運用を司っている理事会の理事や学長といった経営陣は、中・長期のタイム・ホライズンで資産運用を見ているというのが特徴である。
同時にそれは、学校にとってリスクを追求すると同時に、運用管理体制という体制づくり(リスク管理体制)も、かなり綿密に構築されているということでもある。当然、運用規定も周到に用意されている。
では、アメリカの大学がなぜ資金運用に注力するのか――その背景については稿を改めて述べる。(以下、次号)
※本稿はインタビューをもとに編集部で再構成したものです。
記事の内容は第14号(2006年5月11日発行)を抜粋したものです。
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