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いきいきと活躍できる社会のために―社会人基礎力とは何か
産業人材参事官室 課長補佐 能村 幸輝
三つの変化
経済産業省では、わが国の経済活動等を担う産業人材の確保・育成の観点から、職場等で求められる能力として「社会人基礎力」の明確化、産学連携による育成・評価のあり方について、2005年7月から「社会人基礎力に関する研究会」を開催し、検討を進めてきました。その背景には、次のような三つの環境的変化を指摘することができます。
1.ビジネス環境の変化
1990年代以降、国内市場の成熟化とITの進展により、市場ニーズの多様化、商品サイクルの短期化が顕著になると同時に、単純な作業が人の手から放れる、IT化が進んでいます。必然的に職場では、「新しい価値の創出」が重要な課題として意識され始めており、それを担う人材に期待が高まっています。
2.教育環境の変化
一方、家庭や地域社会の教育力の低下が懸念される中、大学進学率は上昇し、その選抜方法も推薦入試やAO入試などの導入によって多角化しています。つまり、大学は、より多様な若者が集まる場となっているわけです。
3.職場等で重視される能力の変化
近年、職場等において、基礎学力や専門知識に加え、「コミュニケーション能力」や「チームの中で仕事をする能力」が重視されつつある一方、若者においてはそうした能力の低下が指摘されています。
また、大学新卒者の早期離職の増加が示すように、採用時や就職後における「ミスマッチ」の問題が顕在化しています。
社会全体による新たな枠組みづくり
「コミュニケーション能力」や「チームの中で仕事をする能力」は、従来、成人への成長過程の中で、「自然と身につくもの」と考えられ、その定義や育成方法は不明確でした。
しかし、先に挙げた三つの変化に加え、人口減少社会への突入、また、若者の価値観の変化等を踏まえ、「職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行ってゆく上で必要な基礎能力」を「社会人基礎力」と定義し、企業、学校、政府等に期待される取組みを提言することが、喫緊の課題であるという結論に至りました。
つまり、「職場で求められる能力」を独立の能力として明確にするとともに、それを意識的に育成・評価してゆくための「社会全体による新たな枠組みづくり」を推進する――これが我々の狙いなのです。
社会人基礎力・三つの能力
社会人基礎力の具体的な内容を示すにあたっては、わが国社会におけるいわば「共通言語」となるよう、分かりやすく、焦点を絞ったものとすることが重要です。同時に育成・評価の指標として活用してゆくために、具体的なイメージが湧くものとすることが求められます。
そこで社会人基礎力を構成する主要な要素として、「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」という三つの能力に整理し、そこからより具体的に細分化し、一二の能力要素を定義しました。
もちろん、これら十二の要素をすべてハイレベルに身に付けなければならないというわけではありません。実際、業種や職種、企業によって、求められる社会人基礎力の度合いにはバラツキがあります(図表④)。むしろ我々はこのバラツキこそを「見える化」することが必要だと考えています。
社会人基礎力を指標として、企業はコア・コンピテンシーとマーケットでの立ち位置を鑑み、例えば「わが社は課題発見力と実行力を重視する」という採用・人材ポリシーがアナウンスできます。一方で若者も、一二の能力要素に照らし合わせて自身の強みと弱みを把握することで、就職にせよ自己成長にせよ、目標を明確にすることができるでしょう。
社会人基礎力というメルクマールを社会全体が共有することで、少なくとも採用時や就職後におけるミスマッチは、かなりの程度において解消されるはずです。見える化、共通言語化とはこのことであり、人的側面から見たわが国の競争力の向上、強化のためには欠かせないものであると考えています。
産業界と教育現場の接点
では教育機関で社会人基礎力を育成するにはどうすればよいか。
我々は一つの方法として「プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)」を構想しています。これは企業や社会の課題に対し、産業界、企業と教育機関がプロジェクト・チームを組み、半年から一年という期間で、一定の成果を確立してゆこうというものです。
もちろんこうした取組みは「産学連携」の名のもと、従来から手がけられているものであり、現在においても随所で盛んに進行しています。しかしこうした産学連携はこれまで主に理工系の学問領域で推進されてきたことですが、PBLは文科系の学問領域にも適用が可能であり、今後、我々もさらにバックアップしてゆく必要があることを認識しています。
社会における一本の柱
申すまでもありませんが、社会人基礎力は採用・就職活動のためだけのものではありません。企業内におけるヒューマン・リソースの充実、また、競争力の強化にも活用できるでしょうし、初等、中等教育の現場、さらに家庭、地域社会でも有効に機能してゆくと我々は考えています。
社会人基礎力を、社会を貫く一本の柱に据え、その育成については、それぞれの段階を通じて継続的に実施してゆくことが何よりも重要であり、我々もその実現のための努力を惜しむつもりはありません。
社会人基礎力が企業や教育機関、地域社会等で共有されることは、すべての国民がいきいきと活躍できる社会を形成してゆく上での、重要な「鍵」の一つです。
その鍵によって開かれた扉の向こうに、わが国の新たな成長が築かれてゆくにちがいない――我々はそう確信しています。(談)
記事の内容は第14号(2006年5月11日発行)を抜粋したものです。
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