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個々の自立と連携なくして相乗効果は生まれず

学校法人立命館常務理事 本郷 真紹

明確な特色化と教学連携がカギに

「立命館の場合、大学の志願者数確保という点で、それほど大きな危惧は持っていません。我々としては、むしろ附属校間の相互作用によって、いかに学園全体の教育レベルを高められるかに注目しています」インタビューの冒頭で、学校法人立命館常務理事の本郷真紹氏はこう言い放った。

立命館といえば、2006年春に立命館守山高校(守山市)と立命館小学校(京都市)を開校したばかり。二大学、四高校、三中学校、一小学校を有し、学校法人としての力をさらに強化しつつある名門だ。急速な少子化が学校法人に何らかの影響を及ぼすことはすでに自明の理であり、立命館としては附属校設置に際し、より建設的な考えを打ち出し実行に移しつつある。

目的は、決して入学志願者の数を揃えるためではなく、優秀な学生を安定して招き入れるための直接的手段であるということだ。
「少子化が加速する中で学生の一定の質を確保しようとすれば、当然、入学の段階で過酷な競争原理が働きます。特に資金面、制度面で公的なバックアップの少ない私立大学にとって、その影響は大きいでしょう。

そうした状況を想定すると、学生確保の手段を一般入試に大部分依存するこれまでのやり方では、学生の質・量ともに一定レベルを維持することは困難です。我々は入学の構造について抜本的な改革が必要であることを、早くから念頭に置いていました」と本郷氏。

立命館では、理想的な入学構造を一般入試五割、特別(推薦、AO)入試三割、附属高校からの内部進学二割と設定している。当面はこの割合の維持を必至命題とし、ゆくゆくは四割、三割、三割まで比重を動かしていく方針だ。

中でも、大学へ直結する附属高校の教育力向上は大きな課題ととらえている。北海道江別市に位置する立命館慶祥高校でのみ、進路について地域性を重視した指導が必要であるとの考えから、例外的に他大学入試のためのカリキュラムも用意しているが、立命館、立命館宇治、立命館守山の各校については原則として入試対策は行わず、大学での学びに繋がる独自のカリキュラムも実施している。学園における各校の位置づけについて、本郷氏は次のように説明する。

「立命館、宇治、守山の三校は通学圏を共有しており、言葉を換えれば、三校で生徒の取り合いになる可能性は十分にあります。そうした不毛な争いを避けるためには、生徒一人ひとりに対し各校の学びの魅力をわかりやすく訴える、際立った特色づくりが不可欠なのです。

例えば立命館守山高校の場合、文系・理系を問わず、教養として科学的な知識や考え方を身につけてもらうため、理数系の科目を全員必修とします。特に理科、数学に強い関心を持ち優秀な成績を収めた生徒には、高校で取得した単位を大学入学後、大学での単位として認定する制度を整え、五年間でマスターを取得できるファストトラック制度の設置を検討しています。

自分の得意分野を早い段階ではっきり認識している生徒にとっては、このような仕組みが学ぶことに対するインセンティブとして働きますし、同時に我々にとって経営面でも合理的といえましょう。

一方、立命館高校はSSHの認定をはじめ、自然科学、法学、経営学、国際関係学など多様な学びの選択肢がある中で総合的なレベルの高度化を図っています。
立命館宇治高校の場合は、語学力のレベルの高さで群を抜いており、SELコースでは英語でさまざまな科目の授業を展開しています。

高校入学後、生徒の適性や志望と高校の方針との間に万一ミスマッチが生じた場合は、生徒の意向に応じて附属校間での転校も可能としたい。立命館では、このように各校の特色化と緊密な連携を核とする体制づくりに徹底して取り組んでおります」

下からの突き上げを原動力として

立命館では、附属校の教育力をより高めるために、大学が高校のカリキュラムの「作り込み」に参加する計画も進められている。こうした一連の取組みが功を奏せば、内部進学生のレベルアップが図られる一方、副次的な課題も浮かぶ。

現在、立命館大学の全入学者数のうち、学内進学者の占める割合は約一二%。附属校で特別な教育を受けた学生と一般入試で選抜された学生との間には、当然、大学一年次のスタートラインで「ずれ」が生じる。

その「ずれ」をいかに解消するか。本郷氏によれば、解決策は「導入期教育」にあるという。ここでいう「ずれ」とは、知識量の多寡などではなく、大学で学ぶための姿勢を身に付けているかどうか。旧来の理解の体系に問題点を見出し自分なりの解き方で再構築する、つまり物事に向き合う姿勢を一八〇度転換することこそ大学の学びに必要であることを、入学直後に集中的に指導するというものだ。

「導入期教育の現場で求められる指導者は、中学、高校の置かれた現状と課題を理解しており、かつ学生時代に自分なりに学問、研究に携わった経験をもつ高校の教員です。有能な指導者の育成とともに、大学一年次における導入期教育の体系を早期に確立していきたいと考えています。

今の教育現場には、こうした柔軟な考えで連携を進めれば解決できるであろう課題が、まだまだあるように思えてなりません。本気で高大連携による相乗的発展を目指すのであれば、まずは大学側が不要なプライドを捨て、高校の現場に具体的な要望を出すべきなのです。それで侃々諤々の議論になってもよいではありませんか。

私個人としては、学校を早く変革するには、下からの突き上げが何より有効だと考えています。大学を変えようと思えばまず高校を変える、高校を変えようと思えば中学校を変えるという具合です。一貫教育を掲げている学校の中には、下に行くほど偏差値が高くなっているケースが少なくありません。

つまり、よい生徒はすべて他校へ逃げてしまい、大学が行き場のない学生のセーフティネットになってしまっているのです。これは一貫教育の本意でもなんでもないでしょう」(本郷氏)

かつて、エリートだけを伸長させることは教育の本筋でないとして、一貫教育それ自体が非難の的になった時期もあった。話題が立命館小学校の開校に及んだ時、ちらりと氏の決意が垣間見えた。「我々立命館にとって、今後の三年が一つの勝負です。

ありがたいことに、今春開校の小学校には非常に優秀な児童が集まってくれました。その児童たちが小学校を卒業する三年後、もし立命館中学校に魅力がなければ、彼らにそっぽを向かれるわけです。立命館中・高校がこの三年で大きく変わらなければ我々立命館に未来はない――そう肝に銘じています」。

中・高校が大きく変わることで、必然的に大学も変わらざるを得ない。下からの刺激を正の作用に換え続け、学園全体の活性化に繋げてゆくというこの図式が、今後の附属校戦略の一つのプロトタイプになるかもしれない。

しばらく迷走を続けていた感のある「一貫教育」が、今後目指すべき方向とは?少なくとも立命館において、そのベクトルはクリアに見て取ることができよう。

大学改革提言誌「Nasic Release」第14号
記事の内容は第14号(2006年5月11日発行)を抜粋したものです。
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