トップページ > ナジックリリース > 第14号 > 「スケール感」と「総合人間力」―電通が求める人材
「スケール感」と「総合人間力」―電通が求める人材
採用計画部 部長 紅野 伸彦
情報量と人間の質
――就職活動を行っている学生たちに対し、どのような印象を持っていますか?
紅野部長(以下、敬称略) 少なくとも自分の経験と照らし合わせてみて、情報と経験の量が、圧倒的に増えていることを感じます。
インターネットの恩恵でしょうが、学生は本当にいろんなことを知っていますし、さまざまな企業に次々とエントリーもしているようです。また、語学力にしてもTOEICスコアで700点、800点など当たり前で、さらに留学も軽くこなしていると……。
――自分を売り込む道具が、どんどん強力になっていますね。
紅野) しかし、その量がきっちりと質に転化できているのかというと、少し疑問があります。例えば留学にしても、パイオニアとして一歩踏み出すのと、「皆が行っているから私も行く」というのでは、その意義においても意識においても、全く違うと思うのです。
私たちは「人間力」という表現をよく使いますが、情報と経験の豊富さが人間力、つまり質的な部分にスイッチできている学生というのは、まだまだ多くないという印象を持っています。
「スケール感」を生むもの
――電通が求める人材とは、どのようなものですか?
紅野) 例えば、ものすごく完成された学生がいるとします。知的能力もコミュニケーション力も非常に高い。かといって、頭でっかちではなくて、NPOを立ち上げるといった行動力もきちんと備えていると。実際、このような学生はとても多く、「偉いなあ」と私などいつも感心するんですが(笑)。
こうした場合、電通としてはもちろん採用したいと考えるわけですが、一方で、環境変化がこれだけ激しい時代に、5年、10年のスパンで将来的なことを考えると、果たしてそれだけでいいのかと逡巡することもあります。むしろ、今はまだ開花していないがポテンシャルは持っていそうで、伸びしろのある人のほうが、入社後に大化けしてくれるのではないか。
というのも、「燃え尽き症候群」というものがあるでしょう。完成しているが、既にエネルギーを使い果たしてしまって、そこから全く伸びない可能性があるのです。
――最終的な決め手になるものは何ですか?
紅野) スケール感です。微妙な表現であり基準なのですが……。完成されてはいるが、どこか小さくまとまってしまっている学生と、伸びしろ、スケール感を感じさせる学生であれば、私個人としては、後者を優先するでしょう。
広告業はクライアントが多く、また、さまざまなメディアとの関係も構築しなければならず、コミュニケーションのありようが非常に多様です。従って、画一的なものの見方しかできないであるとか、聞く耳を持たないといった姿勢では、仕事が全く立ち行かないのです。
さらに、研究者のような探求力が必要な時もあれば、誰にでもかわいがってもらえるような人なつこさが必要な時もあるわけで、その意味では、人としての弾力性というのでしょうか、私たちの言葉で「総合人間力」と呼ぶものが重要になってきます。
――就職対策本によると、面接時には「コミュニケーション力のアピール」が必須のようです。
紅野) 多くの学生は勘違いをしていて、自分のことをどれだけうまく話せるか、表現できるかが、コミュニケーション力だと思っているようです。しかし、電通におけるそれは、むしろ「いかに察することができるか」「洞察することができるか」です。
広告業はクライアント・サービスであり、メディアとの価値創造を常に考えていますから、クライアントがどうしたいと思っているのか、そして最終的に消費者がどう受け止めるのか。これらを常にウォッチしながら、自分の立ち位置を決めてゆくセンスが、電通のコミュニケーション力なのです。
――相手を慮ることが、スケール感につながるということですね。
紅野) スケール感を裏打ちするのは、「他者を理解すること」だと思います。今の学生は、一定のコミュニティー、つまり「仲間内」でしかパフォーマンスが発揮できていないようで、国内であろうが、海外であろうが、とにかく「異文化交流」ができていません。
多種多様な価値観に遭遇すること。そして、それを受け容れ、時に反駁できること。失敗し挫折しても、それを乗り越えてチャンスにする。そんな境遇をクリアしてきた人には、やはり強い何かを感じますし、厳しい社会生活にあっては、そうした経験が一番の頼りになると思うのです。
学生を崖から突き落とせ
――インターンシップは導入されていますか?
紅野) 私たちの仕事には華やかなイメージがあるでしょうが、例えばクライアントとの折衝など、おそらく想像をはるかに超えた厳しさであり、日々の業務も緊迫しています。従って、「仕事を体験してもらう」といった思想とは、うまくマッチしない部分が多く、制度としてのインターンシップは行っていません。
とはいえ、私たちの仕事の一端を紹介するのは重要なことですから、「電通アドビジネスコース(昨年度までは仕事体験セミナー)」を、毎年一月から3月にかけ、東名阪地区で計30回程度、計3,000人の学生を対象に開催しています。
――大学にはどのようなことを期待されますか?
紅野) 大学の就職部やキャリア・センターの職員と話をしていて感じるのが大学の「過剰なケア」です。
大学がそこまで? と驚くことしきりで、全体的に過保護になりすぎているような気がします。いわゆる大学改革の流れの中で、「手厚いサポート」を強みの一つとして標榜したいという、各大学の意図はよく理解できるのですが……。
少子化が進む、一人っ子が多い、それゆえに家庭でも学校でも至れり尽くせり。では、社会に出て何ができますか?――何もできるわけがないと思うんです。これって、ほとんど種の絶滅のシナリオですよ(笑)。
大学の本当のサービスとは、知識、教養、学問は当然ですが、やはり、人間としての質、スケール感を向上させることだと思います。そのために何でもかんでもお膳立てするのではなく、「気づきのチャンスを与える」くらいに止めておいて、あとは自分でやらせる。思い切って若者を崖から突き落とすことも必要だと思います。
そうした「自立/自律」を学生自身が大学時代にクリアしておかないと、社会に出てから成果は上げられないし、企業も人材としての魅力を感じにくいのではないでしょうか。
記事の内容は第14号(2006年5月11日発行)を抜粋したものです。