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「ジャパン・モデル」で世界一を目指す

東京大学総長 小宮山 宏

東京大学が国立大学法人として生まれ変わって一年が経過した2005年4月、小宮山宏氏が第二八代総長に就任した。小宮山氏は理事や副学長の数を従来の九名から七名にスリム化するなど、就任当初から「東大改革」に全速力で着手。スピード感溢れる手腕により、早くも随所で成果が現れ始めている。
小宮山氏は本郷キャンパスを見下ろす本部棟・総長室で、「自律分散協調系」をキーワードに、時に厳しく冷静に、時にユーモアとジョークを交え、最高学府・東京大学のビジョンを熱く語った。

聞き手◎学生情報センターグループ 代表 北澤俊和


「課題解決先進国」ニッポン

――2007年問題に端的なように、大学にとって「生きづらい時代」です。たとえ東京大学といえども、その埒外ではありません。
小宮山総長(以下敬称略) 18歳人口が減っている日本は大変だというけれど、問題は世界的に同じですよ。バース・レートは小さくなり、多くの国で若年人口が減少しているわけですから。

例えば「国際社会」におけるわが国、そして本学のあり様を模索する際、わが国の特徴を改めて考えてみれば、進むべき道は見えてきます。
つまり、国土は狭く、エネルギー資源がない。そこに1億3000万人もの人間がいて、なおかつ先進国だっていうんでしょう。これって、もうすぐ地球全体の姿じゃないですか。

――地球全体が日本化すると。
小宮山) ひと昔前まで世界一の石油産出国で輸出国でもあったアメリカが、いまや六割以上を輸入に頼っている。要するに、アメリカに限らず多くの先進国が、わが国の来し方をトレースしているわけで、その意味で私は、日本を「課題先進国」と位置付けています。
しかし、課題があるということは、「必要は発明の母」の言葉の通り、チャンスなのであって、課題先進国であると同時に、「課題解決先進国」を目指し展開してゆく――これこそが「国際戦略」だと思うのです。

「小宮山・東大」の設計図

――大学に対するニーズが多様化していますが、その一つ「産学連携」をどのようにお考えですか?
小宮山) 産学、産官学、最近はそれでもうまくいかないから「産官学地」ですか? しかし言葉だけつくっても詮ないわけで、例えば「東京大学と連携を」といったところで、誰に何を、と具体的にイメージできますか。

問題はどこにあるのか。知識が爆発的に増大し、学術も高度に細分化しており、「全体」が誰にもわからなくなってしまったんです。

本学には4,000名の教員がいますが、それぞれが細分化し、先端を切って学問を探究しています。最先端の学問領域というのは針で岩に穴を開けるようなもので、さらに、その岩の穴を一つ一つは見ていられないのが現状であるわけです。しかし、それが見えなければ、連携も何もないでしょう。

――つまり、自律的かつ決定不能的に分散する「個」を、いかに捉えられるかということですね。
小宮山) 大学とは、その構成員である教員が自らの確信に基づいて行動する場です。その確信が時には崩れ変化することもあるのですが、その変化も他からの強制ではなく自律的に為されねばならない。

それが知の創造の場、最高教育研究機関として不可欠な条件であることを、人類は歴史の教訓から学んだのです。
しかし、一方において、組織として充分効率的に機能しているか否かを、大学は社会から鋭く問いかけられてもいるわけです。これに対し、世界の大学人が明快な答えを出しているとは、私には思えないのです。

――総長が考える明快な答えとは?
小宮山) 「自律分散協調系」という、生命体を表現する概念があります。例えば心臓や肝臓は体内に分散して存在し、それぞれ自律的に動いていますが、それら要素の総体としては協調的に機能し、生命が営まれています。これはまさに大学のあるべき姿を象徴していると思うのです。しかし、現在の大学は「自律分散」だけが強調され、「協調」が薄らいでいるかのように私の眼には映るのです。

「協調」の仕組みを導入できれば、大学全体としての研究や教育の機能が飛躍的に向上することは間違いありません。自律分散協調の実現に成功した大学は、二十一世紀の新しい大学のモデルを提供することになり、世界のリーディング・ユニバーシティとしての評価を獲得することになるでしょう。

――それが東京大学だと。
小宮山) 4,000名の教員が互いに理解を深め、大学で行っていることを社会に見てもらう、つまり説明責任を果たすには「知識が形として表現されること」が大事です。
こうした「知の構造化」は、細分化した知識を相互に関連づける営為であり、先端と基礎との距離を短縮する教育を実現するものです。それはひとえに、拡大してしまった学術と人との間の距離を短縮することでもあるのです。

基礎と先端を結ぶ仕掛け

――自律分散協調系の実現のため、具体的にはどのようなことを?
小宮山) まず、ユニバーシティ・ディベロップメント・プロジェクトというものを始めました。これは「協調」の思想に基づき、「もっとお互い分かり合いましょう」という努力だといえます。例えばセミナーを共催しようとします。

その時に、東京大学にはどのような先生がいるんですか? こんな相談にも応じていこう、このゼミナールではこのような人材が育っています、というようなことも発信していこうというものです。東京大学と社会の間をインターフェースする機能の中で、特に遊軍的な部分を、新設した「渉外本部」に託したわけです。

――基礎と先端の距離を短縮する教育というのは?
小宮山) これは大学における学術の陰と陽と言えるかもしれませんが……。陽は、東京大学には素晴らしい先生方がおられて、さまざまな体験ができるということ。
陰は、私も学生時代に感じたことなのですが、先生が授業で教えてくれることと、新聞などで見る先端的な研究や技術との距離、自分の将来を考えた時の大学と社会のギャップですね。

そのギャップは我々の時代より今はもっと大きくなっています。東大生になって初めて聴く講義は、昔とそれほど変わらない、いわゆる基礎です。基礎は言うまでもなく重要だけれども、基礎と先端の距離がものすごく広がっていると思うんです。

駒場で、以前から同じ数学の試験を学生たちに受けさせて統計を取っていますが、得点は下降しています。しかし、私はある程度は当然のことだと思っています。だって、我々の頃にはなかったゲノムや情報科学など、別の基礎がたくさん誕生しているわけですから。我々が行うべきことは、この距離を何とかして縮めることです。そのために、教養の再構成にも勇気をもって取り組む必要があるでしょう。

――新たに始まった「学術俯瞰講義」はその端緒ですね。
小宮山) 一年次の夏学期と冬学期、そして二年次の夏学期で、二つの分野ずつ計六つの分野を網羅し、学術を俯瞰する講義を行うものです。小柴昌俊先生(東京大学特別栄誉教授・ノーベル物理学賞受賞)にも講義していただきましたが、私も「眼からウロコ」の連続でしたよ。

――まさに「リベラル・アーツ」の復権とも思えるのですが、異なる専門分野の学生にとっても刺激的でしょうね。
小宮山) 実は私も登壇したのですが、物質についての講義に、おそらく二割程度は文科系の学生が出席していたのではないでしょうか。
この「学術俯瞰講義」は、いわば学術の地図を学生に与えるためのものです。もちろん地図を手にしたからといってすべてが解決するわけではないし、講義の内容が理解できなくても構わないのです。

幸いにして情報技術も進化していますから、講義の内容をホームページにアップロードすれば、学生は容易に何度でも見ることができます。まだまだ手探りの状態ではありますが、こうした試みは世界的に見てもおそらく初めてのことでしょうから、最低限、英語と中国語に翻訳して発信するつもりです。

人真似ではない東大独自の道を

――グローバル化する熾烈な大学間競争の中で、言うまでもなくトップを目指す東京大学。その方策は?
小宮山) 一八六八年に近代国家が成立した百年後、1968年にわが国のGDPは世界第二位になりました。どういうことかと言うと、百年で西洋化=人真似のキャッチ・アップは終わったということです。にもかかわらず、以降四十年弱、日本、そしてわが国の大学は、アメリカ中心の人真似から脱却できていません。

アメリカ、ヨーロッパ、アジア……世界のリーディング・ユニバーシティのことは熟知しているつもりです。それは東京大学総長としての重要な責務の一つですから。しかし、私は真似はしません。人真似の時代はとうの昔に終わっているのです。

人材育成の場として、未来を牽引する研究の場として、社会との間で知が交叉する創造の場として、どの大学が二十一世紀をリードするのか。

大学の使命は、言うまでもなく教育と研究にあります。さらに、社会の知が結集して新しい概念を産み出す場となることにあります。従って、優秀な若者に、トップクラスの研究者に、問題意識を抱くすべての人々に、いかに魅力のある環境を提供できるか――これが大学の競争力の本質です。

それに加え、知識の洪水に流されない「本質を捉える知」、独善に陥らない「他者を感じる力」、そして「先頭に立つ勇気」。これらを具備した人材を輩出し、「知の復権」を成し遂げることが、私の決意であると同時に、世界一の総合大学たる東京大学の使命だと確信しています。

小宮山 宏 Komiyama Hiroshi

1944年生まれ。67年、東京大学工学部卒業。72年、同大学院工学系研究科博士課程修了。
88年、東京大学工学部教授に就任し、2000年4月~2002年3月まで同大学院工学系研究科長・工学部長。
03年に副学長に就任し、05年4月より現職。著書に『動け! 日本』(日経BP社)、『地球持続の技術』(岩波新書)、『理系のためのサバイバル英語入門』(共著・講談社)、『バイオマス・ニッポン』(共編著・日刊工業新聞社)など多数がある。専門は化学システム工学、機能性材料工学、地球環境工学。

学生の「ため」ではなく学生の「立場」で

中央大学理事長 鈴木 敏文

名経営者が学校法人の経営に乗り出した――2005年11月、セブン&アイホールディングスの鈴木敏文氏が中央大学の理事長に就任。「消費は経済学ではなく心理学で考えなければならない」「買い手市場の時代の最大の競争相手は変化する顧客のニーズに他ならない」など、鈴木流経営学は国内のみならず世界のビジネス・パーソンが常に注目していることは周知の通りである。

氏が率いるセブン-イレブンは、日本の小売業全体の総売上げランキングでトップを維持、店舗数も一万店を突破している。「顧客の立場で考えれば、やるべきことは決まってくる」という氏の経営哲学は、顧客を「学生」に置き換えても充分に生きるほど普遍性を持っている。鈴木氏が見抜く、大学経営における「本当のようなウソ」とは――。

創立125周年に向けて

――大学における「経営」の視点が重要視される中で、世界に名だたる経営者が中央大学の理事長に就任され、その手腕に教育界全体が注目しています。
鈴木理事長(以下敬称略) 「経営」というものに対する考え方は、時代、時代によって多少の変化があるのでしょうが、だからといって、「学校法人経営は企業経営と全く別だ」という考え方が正しいとは私には思えません。母校である中央大学の理事長に就任するにあたって、このあたりの既成概念を変えてゆくことが、微力ながら私にできることだろうと思っています。

――基本的な経営姿勢は?
鈴木) 「事業を遂行するために必要な資金を確保する」「事業内容について全学で充分に話し合い、情報の共有化を進めながら理解を深める」「実行すべき事業内容のプライオリティーを明確にして、着実・確実に遂行する」という三つを据えています。さらに、経営のプライオリティーについても、三つの要素に絞りました。

第一に「創立125周年記念事業募金活動のさらなる推進と展開」です。本学は2010年に創立125周年を迎えますが、その記念事業の万全な推進のためには、これまでの体制・方法を可能な限り刷新し、新たな展開を図る必要があると考えています。
次に「財政構造の改革、効果的な財政計画の立案」として、管理会計制度の導入の可能性や予算運営の見直し、収益事業等の推進を図ってゆきます。

そして「管理運営体制の見直し」で寄付者や父母等の主要ステーク・ホルダーに対し、本学の現状や情報を的確に開示し、その上で全学的なコンプライアンスやリスクマネジメントを担保します。

――具体的な事業としては、どのようなものを構想されていますか?
鈴木) まず、都心新施設の整備を考えています。しかし、本学の都心展開の目的は、多摩の教育研究機能のすべて、または一部を移転させることではなく、大学院を中心とした教育研究機能を充実させることにあります。一方で、研究者養成機能を多摩キャンパスで展開することを前提として、21世紀館(仮称)の建設推進を構想しています。これは、中央大学の社会的役割、国際的コンソーシアムの展開、学部教育の文理融合を図るための情報環境整備等を視野に入れた多様な施設とすることを目指す事業です。

また、スポーツ振興支援のさらなる推進にも注力してゆきます。スポーツの振興は、本学の存在を世間に広くアピールするのみならず、本学関係者が一体感を持って大学全体を盛り立てることができる事業だからです。さらに、ビジネススクール設置の具現化を前向きに検討しています。社会に知を還元するためには、実務に基づく専門教育をさらに充実させてゆくこと。特に、専門職大学院の充実が必要だと考えています。ビジネス界に対し、実務に基づく専門教育を受けた人材を多く輩出して初めて、総合的に本学の知が社会に還元されます。そのためにも具体的な検討機関を早急に設置し、取り組んでゆかねばならない事業です。

大学経営の原理・原則

――企業経営者から見る、大学経営の原理・原則とは、どのようなものですか?
鈴木) やはり、学生を中心に据えてものを考え、一番勉強がしやすい、中央大学に入ってよかったと言ってもらえるような環境を作ってゆくことではないでしょうか。私も卒業生として強く思うのですが、仲間にも家族にも誇れる大学、自慢できる大学であるということが、大学にとっても一番わかりやすい評価ですから、そうあるために我々が何をしなければならないかを考えることが重要だと思います。

――「学生のため」の視点が必要だと。
鈴木) 小売業でも同じなのですが、今の時代に本当に必要なのは、「顧客のため」「学生のため」ではなく、「顧客の立場」「学生の立場」で考えることです。「ため」も「立場」もその人たちのことを考えているように見えますが、決定的な違いがあります。これが「本当のようなウソ」の一つです。
「ため」は自分の経験が前提になるのに対し、「立場」で考える時は、自分の経験をいったん否定しなければならないからです。

――理事長の表現を借りれば、「過去の成功体験を捨てろ」ということですね。
鈴木) 過去に縛られるのは、成功体験がその人、あるいは組織にとって、非常に心地のよいハッピーなものだからです。だから、難局になればなるほどそれを思い出して、もう一度同じようなことをしてしまう。過去の成功体験から抜けきれない人間は、当然、顧客や学生、市場の変化に対応できません。しかし、困ったことに、当の本人がそれに気づいていないことが多いのですが……。

私が常々言っているのは、自分たちが商売の主体になってはいけないということです。人間は自分が主体になると、一歩下がって考えることができなくなります。「顧客とは、学生とはこういうものだ」という思い込みを絶対に持たず、常に自分を白紙の状態に置かねばなりません。

――しかし、それはとても難しいことです。
鈴木) 今は完全な買い手市場の時代です。顧客が求める新しくて価値のある商品を次々と投入しなければなりません。今日の顧客が求めていたものは、明日には飽きられてしまう。こうしたことがすべてそうだとは言いませんが、大学にとっても当てはまる部分は多いはずです。

とかく自分の経験を優先しがちになると、今来ている顧客、学生にばかり目が向いてしまいます。それでは、よくて現状維持、たいていは縮小均衡になり、拡大、発展の方向には絶対につながらないのです。

――最近の大学改革の頭打ち感と困難を見抜いた、鋭いご意見です。

推進力としての「仮説」

――理事長は「仮説を立てる」ことの重要性を常に指摘されています。
鈴木) 仮説を立てることに、理屈や特別なスキル、能力が必要かといえば、そうではありません。簡単な話、「立てようと思うかどうか」です。不可抗力的な何かのせいにして妥協したら、それで終わりです。
「どうすればいいのか」と自分なりに仮説を立ててみようと思ったら、競合のこともしがらみも何も考えず、過去の常識にもとらわれず、常に頭の中を白紙にして、なぜ、どうしてなのかとクエスチョンを発し続けることです。

もし、一所懸命やって成果が上がらないのなら、それは自分たちの方法にどこか問題があることを表している。そこで、その原因は何なのか……と問い、さらに新たに仮説を立ててゆけば、やるべきことは自ずから見えてくるものです。この繰り返しによってしか、仕事の推進力は生まれないと思います。

――次の一手はマーケットに聞くのではなく、自分で見出すということですね。
鈴木) ニーズが刻々と変わる変化の時代には、明日求められる新しいものは目に見えません。それが見えれば誰も苦労しませんよ(笑)。今日の顧客にどのような新しい商品がほしいかアンケートを取っても、今ないもの、見たことがないものについては誰も答えられないのです。

例えば、セブン―イレブンで発売した『こだわりおむすび』にしても、「200円近い高級おにぎりをコンビニで買いますか?」と事前にアンケートや消費者調査を行ったら、ほとんどの人が「ノー」と答えていたでしょう。
顧客は現物を提示されて初めて、「こんなものがほしかった」と気づきます。だからこそ、自分で仮説を立てることが非常に重要になってくるのです。

素直に考え当たり前のことをやる

――理事長のリーダーシップのもと、今後の発展が楽しみです。
鈴木) リーダーシップ云々の議論がありますが、それも「本当のようなウソ」ではないでしょうか。企業も大学も、それぞれの分野の専門家の集まりです。その方たちのがんばりがあってこそ、トップの信念やリーダーシップも生きてくるのです。

従って、私にできることは、風通しのいい環境、素人の意見でもいいから、それが出やすい雰囲気を作ってゆくことでしょう。というのも、言われたからではなく、自分で物事を決定し動いていると実感していただくことが何よりも重要だからです。現場の活力を生むのは、やらされているのではなく、自分でやっているという「自己統制感」です。

目の前の課題を一つひとつ解決してゆきたいと考えています。もちろん、将来的な目標を見据えてひたすらに邁進するという行き方もあるでしょう。ただ、目の前の石垣を一つひとつ積んでゆかねば、いくら先を眺めても仕方がない。とはいえ、そんなに頭をひねって考えたり、悩み抜いているわけではなく、どちらがいいか、何が必要かを素直に考え、当たり前のことを当たり前にやっているだけなのです。

鈴木 敏文 Suzuki Toshifumi

1932年生まれ。56年、中央大学経済学部卒業。同年、東京出版販売に入社。
63年、伊藤ヨーカ堂(現・イトーヨーカ堂)に入社。71年、取締役、77年、常務、83年、専務、85年、副社長を経て92年、社長に就任。2003年、会長兼CEOとなる。この間、78~92年まで、セブン―イレブン・ジャパン社長を兼務し、のちに会長。2005年、イトーヨーカ堂、セブン―イレブン・ジャパン、デニーズジャパンなどで持株会社セブン&アイホールディングスを設立し、会長兼CEOに就任。

「財テク」から「経営課題」へ

野村證券株式会社 金融経済研究所
主任研究員 片山英治

フロー・ベースの受け身運営

日本の大学(私立大学)は従来、財務マネジメントにおいていわゆる「自己資金原則」に則ってきた。
つまり、学校運営が始まってから資金の獲得に腐心しなくて済むよう、あらかじめ寄付の形で充分な資金を蓄えた上で学校を設立せよということである。

従って、学生数が右肩上がりで増加している局面においては、何もしなくても、さらに授業料を引き上げなくても、入ってくるキャッシュは増加するわけであり、当然、年度末の消費収支差額、いわゆる余剰金はプラスになる。そして、それを教育研究に先行投資できる。

学校の場合は企業と違い、配当などの形でステーク・ホルダーに還元してゆく必要がないので、すべてを内部留保として翌年度に回すことができる。要するに、学生数が右肩上がりの状況では、「フロー・ベースの受け身運営」で事足りるというわけだ。
それは、「単に管理をすればよい」ということであり、「ストックを活用しよう」という考えとは無縁ということである。

ストック・ベースの財務戦略

ところが、学生数が減少する局面においては、時として年度末の収支が実質的に赤字に転じることがあるかもしれない。これはすでに、一部の学校法人が直面している問題である。そうした中で、場合によっては基本金の一部を取り崩す必要に迫られる。当然そういった状況では、教育研究の資金も不充分となり、それがさらに教育研究水準の低下をもたらし、ますます学生が集まらないという悪循環を産み出しかねない。

だからこそ「自己資金原則」の転換、つまり「ストック・ベースの財務戦略」が、今こそ求められているのである。それは、財務戦略の巧拙が、端的に大学の格差拡大につながってゆくということでもある。

収入手段の多様化

さて、学校における資金運用は、何も今に始まったわけではない。バブル期には「財テク」という名のもと、多くの学校法人が資金運用を手がけた。ところが、今は、その資金運用がまったく違う観点で捉えられている。

今、学校法人の収入が、授業料+補助金+運用収益+寄付金・事業収入(産学連携を含む収益事業や病院収入)だとすると、少子高齢化、国・地方自治体の財政赤字の悪化などにともなって、授業料と補助金という大きなパーセンテージを占めてきた二つが減少する局面に来ている。従って、収入を維持するためには、残りの二つ、運用収益と寄付金・事業収入を増やしてゆく必要がある。

つまり、資産運用管理の高度化や寄付募集、収益事業等の強化といった「収入手段の多様化」が、今まさに「経営課題」となるのである。資金運用に関していえば、ひと昔前の財テクから、経営課題という位置付けへと変わってきているということである。

資金運用で教育研究を下支えするアメリカの大学

ここで日米の大学の財務データを比較してみよう。
東京大学の総資産規模は約1.3兆円。スタンフォードが約2兆円。ハーバードが6.6兆円である。しかし、ここでは規模ではなく、貸借対照表の内容に注目してほしい。

東京大学の資産合計のうち、94.9%が有形固定資産である。有形固定資産とは、いわゆる土地、建物、森林(演習林)等のことである。もちろん国立大学の場合は、そもそもの資本の中味を実物で出資しているので、有形固定資産が多くなるのは当然のことである。

さて、この有形固定資産が、教育研究の向上に貢献していることは事実であろうが、一方で、これらが即、キャッシュ・フローを産み出しているかというと、必ずしもそうではない。
スタンフォードでは資産合計のうち、七一・九パーセントが投資有価証券である。これを資産運用に回すことによって、キャッシュ・フローをもたらすことが明確に現れている(収入の13.1%が資産運用収入)。
ハーバードの資産運用収入は全収入の35.6%を占めるまでになっており、資金運用が教育研究を下支えしていることが明確に現れている。

アメリカの現状

アメリカの大学の資金運用管理の現状を紹介しよう。
図表②はアメリカの大学の運用資産ランキングである。これによると、ハーバード大学が約2.8兆円、イエール大学が約1.7兆円という具合に以下バージニア大学の3,500億円まで続いている。ちなみに日本で一番多いのが私立では日本大学であるが、その日大が2,500億円程度であるから、実に10倍以上の差があるということである。

一方、アメリカの大学の平均運用資産構成を見てみると、公開されている株式が58.5%、債券が21.5%、オルタナティブが15.1%であり、うち、ヘッジファンド、不動産、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、天然資源と、さまざまなものが含まれている。

オルタナティブが増加傾向

運用資産規模別資産構成を、私立・州立に分けて見てゆこう。横軸に株式、債券、キャッシュ、オルタナティブと並んでおり、縦軸に全体の2005年と2004年、そしてその差、資産規模別、経営主体別(私立・州立)と、概ねこの一覧で全体図を見て取ることができる。

まず資産規模別の特徴として、オルタナティブといわれるものが最近急激に増えており10億ドル超。1ドル=100円で換算して1,000億円以上、38.4%がオルタナティブで占められているという状況になっている。
特に顕著なのがヘッジファンドである。これは、2000年頃、アメリカの株式市場が低迷した時期に、マーケットニュートラルなど株式市場の影響を受けずに一定の絶対リターンを追求する投資スタイルであることから拡大してきたものであるが、最近はプライベート・エクイティ、いわゆる未公開の株式も増えつつある。

興味深いのは、資産規模が2500万ドル以下、25億円以下になると、オルタナティブの比率が減ってくるが、傾向としては規模の小さい大学においてもファンド・オブ・ファンズなどの形で、少しずつ組み入れが増える傾向にあるということである。

ではそれが、私立も州立も同じかというと、私立のほうが若干リスクを取る傾向があるにせよ、株式中心のポートフォリオであるということは共通している。
このように、株式中心で、最近は未公開のものを含めてオルタナティブといわれるものが増加傾向にある――これがアメリカの大学の資産運用の特徴である。

中・長期のタイム・ホライズン

ここまでで強調しておきたいのは、アグレッシブな運用を行っている一方で、投資対象の分散が図られているということである。分散投資ということは収益を追求しつつ、同時に安全性の確保にも充分に目配りしているということである。

図表⑤は、トータルリターンの推移である。2001年から2003年にかけてパフォーマンスは良くなかったが、その後、回復している。トータルリターンが1年単位のリターン、3年、5年、10年と列記されている。1年でも好調だが、3年、5年でも決して悪くはない。

実はこのパフォーマンスが低迷した時期にアメリカに行き、「パフォーマンスが悪いが、アメリカの大学の理事会ではどういう反応で受け止められているのか」と尋ねたことがある。すると「確かにリターンは悪いが三年、五年の単位で見れば、プラスのリターンが出ているではないか」――つまり、今、パフォーマンスが低下していることの何が悪いのか、というのである。

このように、アメリカの大学の理事会では、1年単位のパフォーマンスを見るのではなく、3年、5年、10年という中・長期の時間軸で資産運用を見ている。株式等で運用しているのは、中・長期的に見てパフォーマンスが良いという過去の経験則に従って、株式を組み入れるという判断があるのである。

アメリカの大学は確かにアグレッシブに運用をしているが、その運用を司っている理事会の理事や学長といった経営陣は、中・長期のタイム・ホライズンで資産運用を見ているというのが特徴である。

同時にそれは、学校にとってリスクを追求すると同時に、運用管理体制という体制づくり(リスク管理体制)も、かなり綿密に構築されているということでもある。当然、運用規定も周到に用意されている。
では、アメリカの大学がなぜ資金運用に注力するのか――その背景については稿を改めて述べる。(以下、次号)

※本稿はインタビューをもとに編集部で再構成したものです。

いきいきと活躍できる社会のために―社会人基礎力とは何か

経済産業省 経済産業政策局
産業人材参事官室 課長補佐 能村 幸輝

三つの変化

経済産業省では、わが国の経済活動等を担う産業人材の確保・育成の観点から、職場等で求められる能力として「社会人基礎力」の明確化、産学連携による育成・評価のあり方について、2005年7月から「社会人基礎力に関する研究会」を開催し、検討を進めてきました。その背景には、次のような三つの環境的変化を指摘することができます。

1.ビジネス環境の変化
1990年代以降、国内市場の成熟化とITの進展により、市場ニーズの多様化、商品サイクルの短期化が顕著になると同時に、単純な作業が人の手から放れる、IT化が進んでいます。必然的に職場では、「新しい価値の創出」が重要な課題として意識され始めており、それを担う人材に期待が高まっています。

2.教育環境の変化
一方、家庭や地域社会の教育力の低下が懸念される中、大学進学率は上昇し、その選抜方法も推薦入試やAO入試などの導入によって多角化しています。つまり、大学は、より多様な若者が集まる場となっているわけです。

3.職場等で重視される能力の変化
近年、職場等において、基礎学力や専門知識に加え、「コミュニケーション能力」や「チームの中で仕事をする能力」が重視されつつある一方、若者においてはそうした能力の低下が指摘されています。
また、大学新卒者の早期離職の増加が示すように、採用時や就職後における「ミスマッチ」の問題が顕在化しています。

社会全体による新たな枠組みづくり

「コミュニケーション能力」や「チームの中で仕事をする能力」は、従来、成人への成長過程の中で、「自然と身につくもの」と考えられ、その定義や育成方法は不明確でした。
しかし、先に挙げた三つの変化に加え、人口減少社会への突入、また、若者の価値観の変化等を踏まえ、「職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行ってゆく上で必要な基礎能力」を「社会人基礎力」と定義し、企業、学校、政府等に期待される取組みを提言することが、喫緊の課題であるという結論に至りました。
つまり、「職場で求められる能力」を独立の能力として明確にするとともに、それを意識的に育成・評価してゆくための「社会全体による新たな枠組みづくり」を推進する――これが我々の狙いなのです。

社会人基礎力・三つの能力

社会人基礎力の具体的な内容を示すにあたっては、わが国社会におけるいわば「共通言語」となるよう、分かりやすく、焦点を絞ったものとすることが重要です。同時に育成・評価の指標として活用してゆくために、具体的なイメージが湧くものとすることが求められます。

そこで社会人基礎力を構成する主要な要素として、「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」という三つの能力に整理し、そこからより具体的に細分化し、一二の能力要素を定義しました。

もちろん、これら十二の要素をすべてハイレベルに身に付けなければならないというわけではありません。実際、業種や職種、企業によって、求められる社会人基礎力の度合いにはバラツキがあります(図表④)。むしろ我々はこのバラツキこそを「見える化」することが必要だと考えています。

社会人基礎力を指標として、企業はコア・コンピテンシーとマーケットでの立ち位置を鑑み、例えば「わが社は課題発見力と実行力を重視する」という採用・人材ポリシーがアナウンスできます。一方で若者も、一二の能力要素に照らし合わせて自身の強みと弱みを把握することで、就職にせよ自己成長にせよ、目標を明確にすることができるでしょう。

社会人基礎力というメルクマールを社会全体が共有することで、少なくとも採用時や就職後におけるミスマッチは、かなりの程度において解消されるはずです。見える化、共通言語化とはこのことであり、人的側面から見たわが国の競争力の向上、強化のためには欠かせないものであると考えています。

産業界と教育現場の接点

では教育機関で社会人基礎力を育成するにはどうすればよいか。
我々は一つの方法として「プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)」を構想しています。これは企業や社会の課題に対し、産業界、企業と教育機関がプロジェクト・チームを組み、半年から一年という期間で、一定の成果を確立してゆこうというものです。

もちろんこうした取組みは「産学連携」の名のもと、従来から手がけられているものであり、現在においても随所で盛んに進行しています。しかしこうした産学連携はこれまで主に理工系の学問領域で推進されてきたことですが、PBLは文科系の学問領域にも適用が可能であり、今後、我々もさらにバックアップしてゆく必要があることを認識しています。

社会における一本の柱

申すまでもありませんが、社会人基礎力は採用・就職活動のためだけのものではありません。企業内におけるヒューマン・リソースの充実、また、競争力の強化にも活用できるでしょうし、初等、中等教育の現場、さらに家庭、地域社会でも有効に機能してゆくと我々は考えています。

社会人基礎力を、社会を貫く一本の柱に据え、その育成については、それぞれの段階を通じて継続的に実施してゆくことが何よりも重要であり、我々もその実現のための努力を惜しむつもりはありません。
社会人基礎力が企業や教育機関、地域社会等で共有されることは、すべての国民がいきいきと活躍できる社会を形成してゆく上での、重要な「鍵」の一つです。

その鍵によって開かれた扉の向こうに、わが国の新たな成長が築かれてゆくにちがいない――我々はそう確信しています。(談)

「チャレンジ精神」と「多様性」―松下電器産業が求める人材

松下電器産業株式会社
グループ採用センター 所長 国土真也

グローバル化に対応できる能力

――経済産業省は「社会人基礎力」の能力要素として「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」を指摘しています。これらは松下電器が求める人材像に副ってますか?

国土所長(以下、敬称略) 松下電器は経営理念に、「世界文化の進展に寄与すること」を謳っています。その理念の下、「Panasonic ideas for life」というコンセプトを掲げ、全社員が人々の豊かな暮らしや社会の発展に、価値あるアイデアを提供する使命を自覚して活動しています。

そうした願いを実現してゆくための「意欲ある人材」としては、「社会人基礎力」に示す要素は望まれるところですね。松下電器ではそれを独自に、まずベースに「チャレンジ精神」があること、そして、それに付随して「顧客本位」「起業家意識」「自主自立」という三つの資質を具えることを求めています。

――「チャレンジ精神」とは具体的にどのようなものですか?
国土) 松下電器が置かれている環境と関係しています。昨今ではマーケットがボーダレス化し、海外市場がさらに拡大しつつあります。また、競合も日系企業だけではありません。さらに、ITの普及で情報入手が容易になる環境が作られてくると、「スピード」が重要なキーワードになってきます。

こうした環境の中では、フィールドにとらわれず未知の領域に自ら考えて踏み出してゆける人、しかも他の人よりも早く着手し成果を上げられる人材が要求されます。そうした行動を起こさせるベースが、「チャレンジ精神」です。

――「顧客本位」「起業家意識」「自主自立」とは、具体的にどのようなものですか?
国土) 「チャレンジ精神」がすべてのベースだとすれば、これら三つは「仕事を進めてゆく時」のベースになるものです。「顧客本位」は、相手の立場に立つというだけではなく、誠実で正直であるとともに、お客様に伝えねばならないことはきっちり伝えるという心得。それはお客様に対してだけではなく、社内の人に向けても必要な姿勢です。

「起業家意識」とは、単に業を立ち上げる気概を持てという精神論ではありません。実際に仕事に携わる時は、他のメンバーを巻き込み、「やりたいこと」を理解・共感してもらい、大きな成果に結びつけることが大切です。三つ目の「自主自立」は、自分で考えて行動する主体性や積極性のことであり、これはいつの時代にも求められる資質でしょう。

「優秀な人」よりも「成果を上げられる人」に

――そういった資質を、採用時にはどう評価されるのでしょうか。
国土) それらは、一般に「知識」や「スキル」、また「やる気」であったりするのですが、それをただ持っているだけではなくて、いかに活用し実際の行動に移しているかが大切です。

一つの例に「留学」がありますが、ただ異文化を肌で感じてきただけでは意味がない。留学先でどのように自分を変え、コミュニケーションをとり、苦労し、いかなるアクションを起こしてきたかによって、その体験は評価されるのです。

私たちは「学業成績が優秀であること」と「仕事で成果を上げられること」の間に、高い相関関係があるとは感じていません。学生には優等生であるよりも、「成果を上げられる人」を目指してほしいのです。

――そうした人材を、大学ではどのように育成すればよいのでしょう。
国土) 昔から大学は自ら学ぶところであるといわれています。講義というのは一般的に教える側から教わる側へと一方的であることが多いのですが、以前はそれを踏まえて自分なりにアクションを起こす学生が多かったように感じます。

しかし、最近の学生気質では、講義を聞いて知識を増やすだけという「受け身タイプ」が増えているのではないでしょうか。
そういう意味からは、自分で考えさせるような授業のあり方、例えば意見交換が双方向になるようなゼミ形式の授業や、自らの考えを発表する場のある授業を増やしていただくのも一つの方法かもしれません。

仕事を好きになる努力も必要

――経産省は人材確保や採用のミスマッチを防ぐため、企業側からの積極的な情報発信を望んでいます。
国土) 松下電器では以前からすでに学生にどのような人材を求めているのかを正しく発信する行動を起こしています。

その一つが「Road To Panasonic」と題した大規模なセミナーです。これは松下電器という会社で、どんな人が働いていて、どんな仕事があり、どんな魅力を感じられるのかということを分かっていただく場です。松下電器の若手社員100名が参加して、職種別にエリアを設け、学生に仕事内容を説明したり質問を受けたりするという双方向の取組みを行います。

もう一つは「松下電塾」という小規模のセミナーです。こちらは私たちが全国津々浦々にまで出かけ、会社の説明はもとより、例えば「社会人基礎力」の中の一つにある「コミュニケーション力」などをテーマにディスカスするセミナーです。さらにインターンシップ制度も導入し、毎年150名の学生を受け入れ、現場のプロジェクトチームに実際に加わってもらっています。

――採用段階から入社後の人材育成までの一貫性も大切ですね。
国土) 最近の学生の傾向として、自分で自分のキャリアを築いてゆく意識が、いい意味で強くなっています。しかし、それはともすれば、自分のやりたいことは積極的にやるが、嫌なことはやらないということにもなりかねない。しかし、会社に入ると、自分が好きではない仕事に携わらなければならないこともあります。

そんな時、端から拒絶するのではなく、ある意味で天命として与えられたものと思い、その仕事を好きになる努力をしてみることも大切だと考えています。
松下電器では、「チャレンジ」と「コミュニケーション」をキーワードに掲げ、パナソニックというフィールドの中で自分を実現してもらえるようにさまざまな選択肢を用意しています。
企業環境は今後、ますますグローバル化やボーダレス方向に進みますから、それに対応できる新たな能力――

「多様性(ダイバーシティー)」という価値観・行動力――が必要になります。企業内の人材が、能力、組織、国籍、文化等さまざまに多様化することによって、より望ましいフレキシブルなお客様への対応が生まれるとともに、世界のニーズに適った製品・活動を提供してゆくことが可能になり、正に社会に役立ち、社会から求められる企業風土が培われるのです。

「スケール感」と「総合人間力」―電通が求める人材

株式会社電通 人材開発局
採用計画部 部長 紅野 伸彦

情報量と人間の質

――就職活動を行っている学生たちに対し、どのような印象を持っていますか?
紅野部長(以下、敬称略) 少なくとも自分の経験と照らし合わせてみて、情報と経験の量が、圧倒的に増えていることを感じます。

インターネットの恩恵でしょうが、学生は本当にいろんなことを知っていますし、さまざまな企業に次々とエントリーもしているようです。また、語学力にしてもTOEICスコアで700点、800点など当たり前で、さらに留学も軽くこなしていると……。

――自分を売り込む道具が、どんどん強力になっていますね。
紅野) しかし、その量がきっちりと質に転化できているのかというと、少し疑問があります。例えば留学にしても、パイオニアとして一歩踏み出すのと、「皆が行っているから私も行く」というのでは、その意義においても意識においても、全く違うと思うのです。

私たちは「人間力」という表現をよく使いますが、情報と経験の豊富さが人間力、つまり質的な部分にスイッチできている学生というのは、まだまだ多くないという印象を持っています。

「スケール感」を生むもの

――電通が求める人材とは、どのようなものですか?
紅野) 例えば、ものすごく完成された学生がいるとします。知的能力もコミュニケーション力も非常に高い。かといって、頭でっかちではなくて、NPOを立ち上げるといった行動力もきちんと備えていると。実際、このような学生はとても多く、「偉いなあ」と私などいつも感心するんですが(笑)。

こうした場合、電通としてはもちろん採用したいと考えるわけですが、一方で、環境変化がこれだけ激しい時代に、5年、10年のスパンで将来的なことを考えると、果たしてそれだけでいいのかと逡巡することもあります。むしろ、今はまだ開花していないがポテンシャルは持っていそうで、伸びしろのある人のほうが、入社後に大化けしてくれるのではないか。

というのも、「燃え尽き症候群」というものがあるでしょう。完成しているが、既にエネルギーを使い果たしてしまって、そこから全く伸びない可能性があるのです。

――最終的な決め手になるものは何ですか?
紅野) スケール感です。微妙な表現であり基準なのですが……。完成されてはいるが、どこか小さくまとまってしまっている学生と、伸びしろ、スケール感を感じさせる学生であれば、私個人としては、後者を優先するでしょう。

広告業はクライアントが多く、また、さまざまなメディアとの関係も構築しなければならず、コミュニケーションのありようが非常に多様です。従って、画一的なものの見方しかできないであるとか、聞く耳を持たないといった姿勢では、仕事が全く立ち行かないのです。

さらに、研究者のような探求力が必要な時もあれば、誰にでもかわいがってもらえるような人なつこさが必要な時もあるわけで、その意味では、人としての弾力性というのでしょうか、私たちの言葉で「総合人間力」と呼ぶものが重要になってきます。

――就職対策本によると、面接時には「コミュニケーション力のアピール」が必須のようです。
紅野) 多くの学生は勘違いをしていて、自分のことをどれだけうまく話せるか、表現できるかが、コミュニケーション力だと思っているようです。しかし、電通におけるそれは、むしろ「いかに察することができるか」「洞察することができるか」です。

広告業はクライアント・サービスであり、メディアとの価値創造を常に考えていますから、クライアントがどうしたいと思っているのか、そして最終的に消費者がどう受け止めるのか。これらを常にウォッチしながら、自分の立ち位置を決めてゆくセンスが、電通のコミュニケーション力なのです。

――相手を慮ることが、スケール感につながるということですね。
紅野) スケール感を裏打ちするのは、「他者を理解すること」だと思います。今の学生は、一定のコミュニティー、つまり「仲間内」でしかパフォーマンスが発揮できていないようで、国内であろうが、海外であろうが、とにかく「異文化交流」ができていません。

多種多様な価値観に遭遇すること。そして、それを受け容れ、時に反駁できること。失敗し挫折しても、それを乗り越えてチャンスにする。そんな境遇をクリアしてきた人には、やはり強い何かを感じますし、厳しい社会生活にあっては、そうした経験が一番の頼りになると思うのです。

学生を崖から突き落とせ

――インターンシップは導入されていますか?
紅野) 私たちの仕事には華やかなイメージがあるでしょうが、例えばクライアントとの折衝など、おそらく想像をはるかに超えた厳しさであり、日々の業務も緊迫しています。従って、「仕事を体験してもらう」といった思想とは、うまくマッチしない部分が多く、制度としてのインターンシップは行っていません。

とはいえ、私たちの仕事の一端を紹介するのは重要なことですから、「電通アドビジネスコース(昨年度までは仕事体験セミナー)」を、毎年一月から3月にかけ、東名阪地区で計30回程度、計3,000人の学生を対象に開催しています。

――大学にはどのようなことを期待されますか?
紅野) 大学の就職部やキャリア・センターの職員と話をしていて感じるのが大学の「過剰なケア」です。
大学がそこまで? と驚くことしきりで、全体的に過保護になりすぎているような気がします。いわゆる大学改革の流れの中で、「手厚いサポート」を強みの一つとして標榜したいという、各大学の意図はよく理解できるのですが……。

少子化が進む、一人っ子が多い、それゆえに家庭でも学校でも至れり尽くせり。では、社会に出て何ができますか?――何もできるわけがないと思うんです。これって、ほとんど種の絶滅のシナリオですよ(笑)。

大学の本当のサービスとは、知識、教養、学問は当然ですが、やはり、人間としての質、スケール感を向上させることだと思います。そのために何でもかんでもお膳立てするのではなく、「気づきのチャンスを与える」くらいに止めておいて、あとは自分でやらせる。思い切って若者を崖から突き落とすことも必要だと思います。

そうした「自立/自律」を学生自身が大学時代にクリアしておかないと、社会に出てから成果は上げられないし、企業も人材としての魅力を感じにくいのではないでしょうか。

人事革命で一貫教育の未来を拓く

学校法人東海大学
法人企画調整機構 学務局
初等中等教育部部長 杉 一郎

人事制度改革こそが救世主

東海大学は、2004年度より他大学に大きく先んじて教職員人事の新システム「教員総合人事制度」を試行、2006年度より本格実施に踏み切った。人事制度については、これまでも国公立・私立ともにその必要性が認識され議論の対象となってきたにもかかわらず、いざ実施の段になると多くの学校が及び腰になってしまう状況が続いた。

その理由は、評価の正当性に対する懐疑、旧来の凝り固まった人事体制への諦めといった障害に対して、時間制限を設けてまで取り組もうという危機感を募らせた責任者が現れなかったからではなかろうか。
同大学・杉一郎部長は、学園全体の未来を拓くためには一貫教育の価値を認めてもらうこと――つまり、入学から卒業までに生徒がいかに高い付加価値を得ることができるか――を生き残りのための最重要課題に置き、全教員の能力の底上げを喫緊の課題とした。そのための最良の策が、教員総合人事制度であるという。

「東海大学の人事制度の特徴は、教員を成長させるための環境づくりを第一義としている点にあります。今さら教員の指導力向上など当たり前のことではないかと思われるかもしれませんが、実際に抜本的な対策を講じて結果を出している学校は少ないように思います。

我々は、人事考課制度、資格制度、給与制度、能力開発制度といった四制度を柱に用い、教員が自発的に能力開発に取り組む仕掛けを作り上げようとしているのです」(杉氏)
もちろん、初等中等教育機関における教育力の底上げと並行して、同大学への進学率増加のための対策も求められる。

東海大学では、付属高校からの選抜メンバーと同大学教授が合宿を通じて学問の醍醐味を知る「東海大学学園オリンピック」の実施、大学への体験留学を前提に高校を二学期制とするなど、独自性の高い取組みに積極的だ。

仕組みは緻密に実行は大胆に

前述の四制度は、いずれも教員総合人事制度を推し進めるには欠くことのできない歯車である。人事考課制度は、自己申告と業績評価により目標を設定した後、教員と考課者が面接等を行い、個人の能力開発と組織の活性化を図るためのものである。また、資格制度を設けることで独自の昇格審査が可能になり、関連する給与制度に則して資格に応じた給与を付与する仕組みが整う。

能力開発制度では、資格等級や役職に応じた研修会、また、考課者研修を年に約20回の頻度で行い、評価する側とされる側のレベル向上を怠らない。

「ただし、これらの制度を効果的に運営していくためには、制度以外の施策も必要になります」と杉氏。「中でも特に大切なのが、学校の規模や教員の年齢構成、専任・特任・非常勤教員の比率など各校園の特質を把握し、教員数の適性化を図ることです。適時に適材を適所に配置してはじめて、教員総合人事制度は有効に機能すると考えています」

それでなくとも、私立校は公立校に比べて教員の異動が少ない。中には教員の定年を70歳近くに設定している学校もあるというのだから、人事面での風通しがよいとは決して言えない状況だ。杉氏は、人材の流れが「澱んだ」私立校の現状に警鐘を鳴らす。

「新たな人事制度を導入する目的は、教員が互いに『育ち、育てる関係』を築くことにあるわけですから、教師としての経験はもちろん、専門性や雇用形態等について著しい偏りがあると、新たな関係性が育ちにくいのです。特に私立校は、給与等の処遇も含めて人材活用の悪しき常識に一石を投じる時機に来ています。すでに本学では、必要とあらば付属校間の教員の異動を奨励し、各校園にとって最良の教員構成を常に評価・検討しています」

教員の危機感が明暗を分ける

「私立校の、さらに言えば一貫教育のウリとは何でしょうか。授業の進め方に常に工夫があること、行き届いた生活指導を行うことを二本柱とし、何より独自性の高い教育を実施できることでしょう。
こうしたパフォーマンスができない教員には、時間制限を設けたうえで課題に取り組んでもらい、他の教員、保護者、学生からの評価を受けながら一定の成果を要求します。

その意味では、いったん校長の任に就いた教員であっても、いち学校の長として結果を残せなければ速やかに役職を降りていただくことにためらいはありません。すべての教員が必死に取り組む環境が必要なのです。それができない学校に、未来はないと思っています」(杉氏)

全国に四幼稚園、一小学校、六中学校、15高等学校、3短期大学(部)、3大学を有する同学では、幼稚園から高校までの教員だけで総数800人に上る。一人あたり一時間近くをかけて行うという面接を考えただけでも、正当な評価のために膨大な時間と労力が必要であることは想像に難くない。

「教育力の向上」という古くて新しい課題に対し、「人材活用」という高い合理性を持った観点で改革を推し進める東海大学。杉氏の「他の学校が真似できるような制度をつくって実践しても、大きな成果は望めない」との言葉には、他大学から一歩抜きんでんとする強い意思と、すでに成果を見晴るかしたかのような自信が感じられる。同学の新たな試みは着手されたばかりだが、今後の一貫教育のありかた、当事者の意識に波紋を投げかける事例となり得るか、その前途は注目されねばならない。

個々の自立と連携なくして相乗効果は生まれず

学校法人立命館常務理事 本郷 真紹

明確な特色化と教学連携がカギに

「立命館の場合、大学の志願者数確保という点で、それほど大きな危惧は持っていません。我々としては、むしろ附属校間の相互作用によって、いかに学園全体の教育レベルを高められるかに注目しています」インタビューの冒頭で、学校法人立命館常務理事の本郷真紹氏はこう言い放った。

立命館といえば、2006年春に立命館守山高校(守山市)と立命館小学校(京都市)を開校したばかり。二大学、四高校、三中学校、一小学校を有し、学校法人としての力をさらに強化しつつある名門だ。急速な少子化が学校法人に何らかの影響を及ぼすことはすでに自明の理であり、立命館としては附属校設置に際し、より建設的な考えを打ち出し実行に移しつつある。

目的は、決して入学志願者の数を揃えるためではなく、優秀な学生を安定して招き入れるための直接的手段であるということだ。
「少子化が加速する中で学生の一定の質を確保しようとすれば、当然、入学の段階で過酷な競争原理が働きます。特に資金面、制度面で公的なバックアップの少ない私立大学にとって、その影響は大きいでしょう。

そうした状況を想定すると、学生確保の手段を一般入試に大部分依存するこれまでのやり方では、学生の質・量ともに一定レベルを維持することは困難です。我々は入学の構造について抜本的な改革が必要であることを、早くから念頭に置いていました」と本郷氏。

立命館では、理想的な入学構造を一般入試五割、特別(推薦、AO)入試三割、附属高校からの内部進学二割と設定している。当面はこの割合の維持を必至命題とし、ゆくゆくは四割、三割、三割まで比重を動かしていく方針だ。

中でも、大学へ直結する附属高校の教育力向上は大きな課題ととらえている。北海道江別市に位置する立命館慶祥高校でのみ、進路について地域性を重視した指導が必要であるとの考えから、例外的に他大学入試のためのカリキュラムも用意しているが、立命館、立命館宇治、立命館守山の各校については原則として入試対策は行わず、大学での学びに繋がる独自のカリキュラムも実施している。学園における各校の位置づけについて、本郷氏は次のように説明する。

「立命館、宇治、守山の三校は通学圏を共有しており、言葉を換えれば、三校で生徒の取り合いになる可能性は十分にあります。そうした不毛な争いを避けるためには、生徒一人ひとりに対し各校の学びの魅力をわかりやすく訴える、際立った特色づくりが不可欠なのです。

例えば立命館守山高校の場合、文系・理系を問わず、教養として科学的な知識や考え方を身につけてもらうため、理数系の科目を全員必修とします。特に理科、数学に強い関心を持ち優秀な成績を収めた生徒には、高校で取得した単位を大学入学後、大学での単位として認定する制度を整え、五年間でマスターを取得できるファストトラック制度の設置を検討しています。

自分の得意分野を早い段階ではっきり認識している生徒にとっては、このような仕組みが学ぶことに対するインセンティブとして働きますし、同時に我々にとって経営面でも合理的といえましょう。

一方、立命館高校はSSHの認定をはじめ、自然科学、法学、経営学、国際関係学など多様な学びの選択肢がある中で総合的なレベルの高度化を図っています。
立命館宇治高校の場合は、語学力のレベルの高さで群を抜いており、SELコースでは英語でさまざまな科目の授業を展開しています。

高校入学後、生徒の適性や志望と高校の方針との間に万一ミスマッチが生じた場合は、生徒の意向に応じて附属校間での転校も可能としたい。立命館では、このように各校の特色化と緊密な連携を核とする体制づくりに徹底して取り組んでおります」

下からの突き上げを原動力として

立命館では、附属校の教育力をより高めるために、大学が高校のカリキュラムの「作り込み」に参加する計画も進められている。こうした一連の取組みが功を奏せば、内部進学生のレベルアップが図られる一方、副次的な課題も浮かぶ。

現在、立命館大学の全入学者数のうち、学内進学者の占める割合は約一二%。附属校で特別な教育を受けた学生と一般入試で選抜された学生との間には、当然、大学一年次のスタートラインで「ずれ」が生じる。

その「ずれ」をいかに解消するか。本郷氏によれば、解決策は「導入期教育」にあるという。ここでいう「ずれ」とは、知識量の多寡などではなく、大学で学ぶための姿勢を身に付けているかどうか。旧来の理解の体系に問題点を見出し自分なりの解き方で再構築する、つまり物事に向き合う姿勢を一八〇度転換することこそ大学の学びに必要であることを、入学直後に集中的に指導するというものだ。

「導入期教育の現場で求められる指導者は、中学、高校の置かれた現状と課題を理解しており、かつ学生時代に自分なりに学問、研究に携わった経験をもつ高校の教員です。有能な指導者の育成とともに、大学一年次における導入期教育の体系を早期に確立していきたいと考えています。

今の教育現場には、こうした柔軟な考えで連携を進めれば解決できるであろう課題が、まだまだあるように思えてなりません。本気で高大連携による相乗的発展を目指すのであれば、まずは大学側が不要なプライドを捨て、高校の現場に具体的な要望を出すべきなのです。それで侃々諤々の議論になってもよいではありませんか。

私個人としては、学校を早く変革するには、下からの突き上げが何より有効だと考えています。大学を変えようと思えばまず高校を変える、高校を変えようと思えば中学校を変えるという具合です。一貫教育を掲げている学校の中には、下に行くほど偏差値が高くなっているケースが少なくありません。

つまり、よい生徒はすべて他校へ逃げてしまい、大学が行き場のない学生のセーフティネットになってしまっているのです。これは一貫教育の本意でもなんでもないでしょう」(本郷氏)

かつて、エリートだけを伸長させることは教育の本筋でないとして、一貫教育それ自体が非難の的になった時期もあった。話題が立命館小学校の開校に及んだ時、ちらりと氏の決意が垣間見えた。「我々立命館にとって、今後の三年が一つの勝負です。

ありがたいことに、今春開校の小学校には非常に優秀な児童が集まってくれました。その児童たちが小学校を卒業する三年後、もし立命館中学校に魅力がなければ、彼らにそっぽを向かれるわけです。立命館中・高校がこの三年で大きく変わらなければ我々立命館に未来はない――そう肝に銘じています」。

中・高校が大きく変わることで、必然的に大学も変わらざるを得ない。下からの刺激を正の作用に換え続け、学園全体の活性化に繋げてゆくというこの図式が、今後の附属校戦略の一つのプロトタイプになるかもしれない。

しばらく迷走を続けていた感のある「一貫教育」が、今後目指すべき方向とは?少なくとも立命館において、そのベクトルはクリアに見て取ることができよう。

新しい学術都市の形成に向けて

生まれ変わるポートアイランド

人工島の街開きを華々しく飾ったポートピア博覧会(1981年)から四半世紀。3月に開港した神戸空港『マリンエア』のいわば門前町となるポートアイランド(神戸市中央区)が今、変わろうとしている。「未来都市」と呼ばれたポートアイランドも少子高齢化が進み、市立港島小学校の児童数はピーク時の91年には1781人いたが、現在は646人。

一方、65歳以上の高齢者の比率は、90年はポートアイランド住民の5%に過ぎなかったが、2005年末には20%近くにまで上昇している。
ポートアイランドの若返りと活性化は急務の課題であるが、政府も神戸市も手を拱いているわけではない。

政府は、都市再生緊急整備地域として「ポートアイランド西地域コンテナバース跡地再開発」に着手。神戸市も「神戸産業医療都市構想」を大々的に掲げ、ともにポートアイランドにスポットを当てているというわけだ。

神戸市の課題と展望

阪神・淡路大震災から十年以上が経過したが、神戸市の経済状況は依然として全盛期の水準には達しておらず、神戸経済の本格復興と活性化は市政の最重要課題の一つと捉えられている。

そうした中、今後の飛躍的な成長が期待されている医療関連産業の集積を図ることが不可欠であるという認識のもと進行しているのが「神戸産業医療都市構想」である。

この構想は、ポートアイランド第二期開発とも連携して、最先端の医療技術の研究開発の場が整備され、国内外の医療関連企業が集い、新しいビジネスが産み出される環境を作り、活気ある神戸経済に貢献することを目的としている。

また、最先端医療に関する研究開発を行うため、国内外の大学・研究機関や市内の病院・診療所と連携し、共同研究を進めることにより新しい医療サービスを普及させることも視野に入れている。将来的には、海外、特にアジア諸国の医療技術の向上に貢献できる拠点作りを目指しているという。

構想の中核機能は、先端医療センター、メディカルビジネスサポートセンター、トレーニングセンターが担う。中でも、先端医療センターでは、医療関連産業等の民間企業と、京阪神等の大学・研究機関の研究者が、実際の医療の現場(神戸市立中央市民病院等)と協力しながら研究開発を進めることで、質とスピードの向上が期待されている。

新しい学生街へ

さらにポートアイランドは学生街への「リフォーム」も進めている。神戸産業医療都市構想、併せて「神戸際都キャンパス構想」とも関連する形で、三校が進出する予定で、すでに一部は着工している。進出するのは神戸学院大の一部と、新設される兵庫医療大、神戸夙川学院大の三校。既設の神戸女子短大の敷地にも、系列の神戸女子大が四年制の健康福祉学部を開設する。

兵庫医療大は、学校法人兵庫医科大学が設置し、薬、看護、リハビリテーションの三学部をつくる。神戸夙川学院大は、西宮市に短大、中高などがある学校法人夙川学院が開設。福祉・医療系の資格も取得できる新しい形態の観光分野の単科大となる。

兵庫医科大と夙川学院は共同で約75,600平方メートルを約66億円で購入。校舎は別々に建てるが、食堂などの厚生施設の共同利用を計画している。両大学とも文部科学省に設置認可の申請中である。

なお、神戸学院大の北側には、学生たちの実習の場にもなる介護施設を備えた分譲住宅約190戸、学生や教職員向けの賃貸住宅約550戸も建設され、「職住近接」の新たな街が生まれることになる。今号では学校法人兵庫医療大学の新家荘平理事長と、神戸夙川学院大学の学長予定者・吉岡濟氏に話を伺った。

チーム医療・先端医療を実現する~兵庫医療大学~
兵庫医科大とのシナジー効果

兵庫医療大学
新家 荘平 理事長

――― 平成十九年四月に兵庫医療大学(仮称)を開設される予定です。
新家理事長(以下、敬称略) 神戸産業医療都市構想に連携しつつ、三学部構成(薬学部、看護学部、リハビリテーション学部)で開設します。

教育や運営に関しては、医師養成や地域医療に多くの実績を持つ兵庫医科大学が全面的にバックアップしてゆきます。

――― 兵庫医科大のリソースをもってすれば、学部の増設でもよかったと思うのですが、なぜ、大学に厳しいこの時期に、新大学なのですか?

新家) 確かに、学校法人にとっては厳しい時代だと言われていますが、そうであればこそ、増設ではなく、大学自体の新設に意味があると考えました。改組・再編、増設という発想では、さまざまな制約や配慮すべき事項などに、どうしても囚われがちになります。

しかし、人への奉仕・愛・科学的理解という本学園の建学の精神に照らし合わせてみれば、われわれに躊躇する理由はありません。兵庫医科大学との「シナジー効果」を発揮し、教育、医療の総合事業体として、よりダイナミックに教育、研究、診療を展開することが、何よりも求められているのです。

全人的・社会密着型医療を目指す

――― どのような大学づくりを?
新家) 現在、医療の多くの分野が高度に専門化し、職種も多様化する中で、患者の心や社会的背景を大事にした「全人的医療」や「社会密着型医療」が求められています。

新大学では兵庫医科大の西宮、篠山キャンパスとの緊密な連携のもと、三学部と医学部をボーダレスにすることで、「チーム医療」の確立と向上、そしてチーム医療による社会への貢献を目指してゆきます。チーム医療を柱とする全人医療の確立は、本学園創設者・森村茂樹先生の切なる願いでもあるのです。

――― ポートアイランドが医療を軸とした新しい学術都市として再生することが期待されます。
新家) 新大学は神戸市立中央市民病院に隣接しますし、兵庫医科大学には附属病院もあります。

両機関ともに連携を図ることで、基礎と臨床を体系的に学ぶには最高の教育・研究環境となるはずです。また、産業医療都市構想の中核を担う先端医療センターや兵庫医科大学の先端医学研究所と協同することで、わが国、いや、全世界の最先端医療研究を実現させることも、そう難しいことではないでしょう。

兵庫医療大学は、兵庫医科大学と緊密に連携し、自身の専門性を高めることはもちろん、兵庫医科大学医学部との交流や他学部との合同授業などを通じて他の分野についても理解を深め、チーム医療の一員としての行動力やコミュニケーション能力を身につけた人材を世に送り出すことが使命だと考えています。

ひとえに医療は「人」、大学も「人」だと私は考えています。良い教員、良い学生が集い、「こころが通う医療」を実践できる、人間性や倫理性の豊かな医療人を涵養する場であり続けることが、兵庫医科大学と兵庫医療大学、そして、私の強い願いなのです。