トップページ > ナジックリリース > 第13号 > 知の源泉たる大学の使命と改革 (文部科学省 技術移転推進室長 伊藤学司)
知の源泉たる大学の使命と改革
知的財産本部設置の背景と狙い
資源の乏しいわが国が、厳しい国際競争の中で活力ある社会を維持してゆくには、知的財産立国を目指さねばなりません。
そしてその実現のためには、新しい知を生み出す「研究」と、次の世代にその知を伝える「教育」の両面における知の源泉である大学が、自ら生み出した知を、適切に社会や国民の生活に還元できるようにすることが必要です。
しかし、これまで大学は、そうした知の社会への還元が十分にできていませんでした。それというのも、知の蕫活用﨟の面がスムーズに行われていなかったからです。一部の大学の先生は、これまで独自に研究して得た成果をライセンスし、産業界に活用いただいてきました。しかし大学の知は、そもそも基礎研究が多く、そのまま使える特許はそう多くありません。もとよりライセンス料を稼ぎ出すいわゆる「ホームラン特許」もそう出ません。
つまり、こうしたやり方だけでは大学の成果が十分に活用されないのです。そこで、産業界の意向も踏まえつつ2人3脚で取り組むことが必要になります。そうすれば、その後の活用が円滑に行われるのみならず、異なるミッションを持った大学と産業が融合することで、かつてない新たなものも発見されやすくなります。
また従来、大学の先生の発明は原則先生個人に帰属し、それを使うも使わないも先生の自由でした。しかしそれでは、せっかくの知がともすると死蔵され、活用が進まなくなってしまいます。
それを防ぐには、やはり先生方の意向を尊重しながらも、大学が組織としてしっかりとバックアップし活用を図ってゆく必要があります。しかし、日本の大学はそうした取組みにあまり慣れていません。ある日突然、個人帰属ではなく機関帰属にするから大学でしっかり管理活用しなさいといったところで、なかなかできないでしょう。
つまり、これからの大学には、主体性を保ちつつ産業界と手を携えた知の探求と活用を行うとともに、機関帰属となる大学の知の管理と活用をしっかりと促進してゆく新たな組織作り、体制作りが強く望まれるのです。知的財産本部整備事業の背景、狙いはまさにここにあります。
飛躍を期すスーパー産官学連携本部
知的財産本部整備事業を通じ、2003、04年度の2カ年で、知的財産の管理活用体制はある程度できてきました。しかしそれだけではまだ不十分です。さらに長期的に産業界と連携を図ることができる強い体制作りへと進める必要があります。
そこで、知財本部をさらにパワーアップするスーパー産学官連携本部の設置を2005年度から推進しています。大学の知的財産の充実は、特許の件数で計れるものではありません。それが産業界を通じて活用され、国民の生活にまで還元されることが大事なのです。
アメリカの大学ではこういう体制が非常によくできています。日本の大学も産学連携に関して、そうしたアメリカのトップ大学に伍する体制を作ってゆくことが求められます。そして日本の産業界が、日本の大学ではなくアメリカの大学にどんどん研究費を流すようなことがないようにしていかなければなりません。もっとも、こうした取り組みは、私どもが中心ではあまり意味はないでしょう。各大学が主体性を持ち、各大学の方針に基づいて行うのが基本だと思います。
大学ごとに、知財戦略を大学の経営戦略として採用するかどうか、そこに資源を投入するかどうかを判断し、主体的に取り組んでいただくことが望ましいのです。例えば私立大学では、人文社会科学系しかない大学も多くあります。そうなると、知財を生むといってもいわゆる特許はほとんど出てきません。
特定の先生が、しかも年間に1、2件の特許しか出さないとなれば、人を雇用して新たな体制を作るのは必ずしも得策ではないでしょう。組織としてコストをどの程度かけ、どういう体制を作るかを、それぞれの大学が自らじっくりと考える必要があります。
その際、当然のことながら、単に「儲かるから」ということではなく、大学の社会貢献の面や大学の評価や信用力のアップという面等も勘案すべきでしょう。そういうことも加味しながら、コストというものも意識しつつ、どういう体制を作ってゆくかを、各大学は是非十分に検討いただきたいと思います。
今後の取り組みと大学に期待すること
知的財産本部の整備事業に加え、新しい取り組みとして2006年度から知財を核とした共同研究の推進を目指した「産学共同シーズイノベーション化事業」を進めてゆくことにしています。
共同研究をする場合には、両者が応分の資金を出し合うのが普通です。とはいえ大学はあまりお金を持っていません。多くの場合、企業に全額負担してもらうことになります。しかしそうなると、3000万円とか5000万円などの大型の共同研究はなかなかできません。
そこで新しい事業では、1年目はフィージビリティースタディ[feasibility study:実行可能性]を大学と企業で十分話し合っていただく。例えば、蕫マーケット調査によればこういう市場があるから、今後3カ年あるいは5カ年の計画をしっかり立て、こういう共同研究に入ってゆきましょう﨟という準備をしっかりしてもらう。それを踏まえて国が半分支援させていただく。
そして真のイノベーション創出につなげてゆこうと考えています。今回、この取組みについては全体で30億円の予算要求を行っています。大学と産業界が連携する1番のメリットは、両者の視点が異なっているという点だと思います。双方にとってお互いの視点は非常に新鮮で、それが交差する中で、思いもよらぬ発想も出てきます。そしてこのメリットを生かすには、常日頃からお互いに率直に意見交換できる関係を築くことが求められます。
大学は、産業界の視点、批判を大いに参考とし、正すべきは正さねばなりません。しかしそれは、決して産業界の言う通りにするということではありません。その声に耳を傾けつつもそれに一喜一憂せず、大学としてのポリシーをしっかりと持ち、さらなる知の創造に取り組むということです。
産学共同シーズイノベーション化事業では、国はもとより企業も一定の資金を出すことになります。当然、研究成果が出ない場合、ただしょうがないだけでは済まされません。大学には、成果を出すためのマネジメントをしっかり行うことが求められます。
また、企業にお金を投じてもらうためには、先生方個人の力に加え組織のバックアップが不可欠です。さらに研究である以上、結果が思い通りに出ないこともあります。その場合に蕫今こうなっている﨟あるいは蕫ここまでやっているがあと3カ月では成果が出ないかもしれない﨟という情報の発信が大切です。
その点からも大学は体制整備に取り組まねばならないと思います。
これからは特に大学の先生方と大学の本部や産学連携の組織がしっかり手を携えて行ってゆく必要があります。そしてこうした取組みが成功することで、わが国は国際的な立場を高めつつさらに新たな繁栄を築いてゆくことができるのです。(談)
記事の内容は第13号(2006年1月1日発行)を抜粋したものです。