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クライシス・マネジメントと大学経営改革

同志社大学長 八田 英二
聞き手 ◎ 学生情報センターグループ 代表 北澤俊和

大学は厳しい生き残り競争の中を戦っている。少子化が叫ばれて久しいが、2007年度には大学の総収容定員数と総受験者数が同じになる、いわゆる「2007年問題」が始まる。その行く手には厳しい現実が待ち構えている。

では生き残るためには何が必要なのか。大学の経営組織はどうあるべきか。どのような経営方針をもたなければならないのか。躊躇している暇などない。血の滲むような思い切った取り組みを早急に行わなければならない。

社団法人日本私立大学連盟による『学校法人の経営困難回避策とクライシス・マネジメント』を、担当理事としてまとめられた同志社大学の八田英二学長にお話を伺った。


クライシス・マネジメント

――国立大学法人はもちろん、私立大学にとっていっそう厳しい時代です。大学改革という大きな流れの中で、破綻する大学が出てくることについて、どのようにお考えですか。

八田学長(以下敬称略) 大学のクライシス・マネジメントに関して、今年の春に文部科学省がガイドラインを出しています。それによると、経営が立ちゆかなくなった大学の学生は地域の大学が受け入れ、学籍簿、成績原簿については独立行政法人日本学生支援機構(前日本育英会)が引き受けることになっています。つまり経営困難大学自体については、経営破綻しても仕方がないということです。

実際、われわれ私立大学に、破綻した大学に積極的に手を差し延べる余裕はありません。昔は、破綻しそうな団体や私立大学を吸収し、その定員分学生数を増やすという多少のメリットもありました。しかし今はもう自由に学生数を増やすことができます。医学部など特定の学部以外は、学部も自由に設置できます。したがって、私立大学にとって、他の大学を吸収することで得られる経営的メリットはまったくないのです。結局、破綻する私立大学は破綻せざるを得ません。銀行なら政府主導で救済する必要もあるでしょうが、残念ながら私立大学については、破綻するところは破綻する以外にないと私は思います。

――しかし、大学が破綻すると、保護者や学生に多大な影響を与えます。大学の責任はどうなるのでしょうか。

八田) 少子化によって需要は減少傾向にあります。となれば供給が削減されるしかない。経済理論からいって、数が多い私立大学は破綻せざるを得ないのです。そしてその際、文部科学省は基本的に破綻した大学の面倒は見ません。学生に対しても、入りやすい他の大学を間接的に斡旋するぐらいです。蕫大学選びは自己責任で﨟ということです。こうした状況の中で、学校法人の経営陣が果たすべき第一の責任は、情報を保護者や学生に積極的に公開することです。

自分たちの大学は、今、入学者が何名いる。卒業生は何名いる。授業はこうなっていて、経営状況、財務状況はこうだとはっきり数字を出していかなければならない。情報公開ということが、私はこれからの大学経営の基本的な前提事項であり、責任だと思います。同志社大学では、さらに一歩進んで、格付会社からの評価を得ました。幸いA++でしたが、単に生情報を公開するだけでは不十分です。こういう外部評価も一つの情報公開ツールとして、今後、私立大学は積極的に利用すべきだと思います。

大学の経営改革

――大学の経営基盤の確立が急務というわけですが、そのためには何が一番大切だとお考えですか。

八田) すべての教職員が危機感を持つこと。これが何より大切だと私は思います。今、多くの大学で危機感を持っているのは一部の方だけで、もしかしたら大方の教職員は、自分たちは大丈夫だと思っておられるのではないでしょうか。また、経営力強化には、経営陣のありようが重要です。特に、意思決定の手続きがますます大事になってきます。大学のガバナンス、誰がどのように責任を持って決めるか、そしてチェック体制をどうするのか。その一つの方向として、私は理事会が積極的に経営にコミットすべきだと思っています。

ある私立大学では、選挙ではなく理事会で学長を選ぶようにされたそうです。国立大学でも学長の選出方法が変わってきています。学長を選ぶシステム一つにしても、経営面を重視した方向に変わってきているわけです。従来は人気投票のような形で学長が選ばれてきました。しかし、これからは、学長は教育のトップであると同時に経営のトップでもなければなりません。経営面での資質が問われるようになるのです。もっとも、力強い大学経営のためには、学長の力だけでは不十分です。私はそれを支える職員も、専門職集団になる必要があると思っています。

――大学改革には職員の能力アップも欠かせないということですね。

八田) 大学の改革には、危機意識の共有化と経営陣の経営力の向上が欠かせません。それに加え、経営を支える職員の能力向上も必要です。大学の教員は教育、あるいは研究することが主要な業務で、大学運営に携わる時間はそうありません。それは当然のことです。そのため、職員の方々にもっと能力を発揮してもらわなければ生き残ってゆけません。職員の高い能力があって初めて学長が職を全うできるのです。それがない限り学長にいくらリーダーシップがあっても、改革はできないと思っています。

――ある私立大学が国立大学の事務方のアウトソーシングを受けるそうです。先進的な私立大学にとって、こういったことは容易なことなのでしょうか。

八田) 決して簡単なことではありません。その私立大学も、予備校出身の役職者の方を招聘して、改革を進めてこられたと聞き及んでいます。自学の教職員、つまり自前のリソースだけで大学を運営するということには、そもそも無理があると思います。同志社大学では、26、27歳くらいまでの力のある人材を採用し、育成していますが、実際のところ、それでは到底追いつきません。また、財政基盤を安定させるためには資産運用にも積極的に取り組まねばなりませんが、それは私たちの力だけでは手に負えません。やはり外部の専門的な力を活用する必要があるわけです。

――資産運用というお話が出ましたが、やはり経営基盤の確立においては、財務面の改善が欠かせませんね。

八田) ご存じのように、ほとんどの学校法人は学費収入に多くを依存しています。しかし、安定的な財政基盤の確立にはそれだけでは限界がある。外部資金の調達が必要です。例えば補助金や寄付への働きかけ、産学連携による企業からの研究費の獲得に取り組まねばなりません。一方で、コスト削減も不可欠です。特に大学の人件費は、変動ではなく完全に固定費用です。これを何とか変動費用に変えてゆく必要があります。

同志社大学は比較的職員は少ないほうですが、さらにここ10数年間減員しています。学部、大学院の増加にともない業務量が増えても、職員の数は増えていません。また、職員が政策判断に関わる高度な仕事が担当できるよう、ルーチンワークは嘱託や契約職員の方にお願いする方向に進んでいます。

教育と経営

――株式会社組織の大学も現れ、競争が激化していますが、こうした動きについてどのようにお考えですか。

八田) 大学の使命は、あくまで人を育てることにあります。とはいえ、経営が不安定であっては話になりません。だから社会的な存在、公共的な存在としての使命と経営を折り合わせることが大事なのです。ところが、株式会社組織の大学は少し違います。例えば、大学の経営には、黒字の部門だけでなく赤字の部門もあるのが普通です。そして私たちは、黒字の部門で大学としてなすべき基礎研究等いろんな不採算部門を支え、ある一定の学問的水準を維持しています。

ところが株式会社組織の大学は、黒字の分野にしか参入してきません。そのように収益性ニッチで参入されることによって、私たちの黒字部門の収益が減り、結局、大学総体として維持すべきものまで維持できなくなってしまいます。

――経営の効率化という観点だけで見ると、不採算部門は切り捨てることになります。

八田) 国立も私立も経営の効率化が求められていますので、結果としてそうなる可能性があるのは否めません。しかし、人集めのために人気のある看護学部や薬学部を無理してつくり、例えば文学部をなくしてしまえば、従来文学部が担っていた学術的・文化的な分野や幅広い人材の供給という面まで失うことになります。

本当にそれでいいのかどうか。私は理論経済学者ですから、経済原理とそのダイナミクスについては理解しているつもりですが、かといって、それらがすべて大学経営にフィットするとは思えません。大学には、それぞれに建学の精神があるはずですから、それに則った教育をしてゆくことが大事で、目先の改革だけでは成り立たないと思います。

教育改革、大学改革は、教育事業体単体の問題ではありません。それは国民全体の問題であって、わが国の将来を大きく左右するものでもあるはずです。したがって、各大学はもちろんのこと、いわば国策として教育政策を、しっかりと打ち立てて認識し、実行に移してゆかねばなりません。生き残りのための効率化の追求が、その基盤となる高等教育全体の衰退を招くとすれば、悲劇以外の何物でもありません。

八田 英二 Eiji Hatta

1949年生まれ。同志社大学経済学部卒業、同大大学院経済学研究科修了後、77年に米カリフォルニア大学(バークレー校)大学院経済学Ph.D.コースを修了。79年から同志社大学経済学部、同大学院経済学研究科の教授を歴任後、96年、同大学経済学部長を経て98年から現職。財団法人大学コンソーシアム京都理事長、社団法人日本私立大学連盟副会長。専門分野は産業組織論、計量経済学。

大学改革提言誌「Nasic Release」第13号
記事の内容は第13号(2006年1月1日発行)を抜粋したものです。
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