トップページ > ナジックリリース > 第13号

学生、若者、日本人にロマンを! 首都大学東京学長 西澤 潤一

学生、若者、日本人にロマンを!

首都大学東京学長 西澤 潤一
聞き手 ◎ 学生情報センターグループ 代表 北澤俊和

東京都立大学・東京都立科学技術大学、東京都立保健科学大学・東京都立短期大学を統合し、2005年度に新生なった首都大学東京。

統合による人的・物的資産を活かしシナジー効果を発揮すべく学部構成を大胆に再構築(都市教養学部・都市環境学部・システムデザイン学部・健康福祉学部)するなど、新時代の公立大学のありようを模索している。
その首都大学東京の初代学長に就任したのが、東北大学総長、岩手県立大学学長を務めた西澤潤一氏である。

氏は、PiN光通信ダイオード、静電誘導トランジスタなどの発明で名高いワールドクラスの半導体研究者。一方で「強い頭と速い頭」「日本人らしさ」「ロマン」などのキーワードを元に独自の論を展開する教育者でもある。東京・八王子にある南大沢キャンパスの学長室で、西澤氏は熱く語り始めた。

何を考え、何をするか

――大学は、国公私立を問わず、厳しい経営環境にあります。そうした中で、首都大学東京として新たなスタートを切られました。まずはどのようなビジョンをお持ちなのかをお聞かせください。
西澤学長(以下敬称略) これまで私は、岩手県立大学で、新しい大学のあり方を目指して様々な取り組みを行ってきました。その中には大きな成果が上がったものもありましたが、一方で、地方では難しい面もありました。

そうした折に石原慎太郎都知事から声がかかり、「東京でやったほうが遙かに世の中に対して影響が大きい。だから、どうせやるなら東京でやったらどうだ」と説得され、学長を引き受けることにしたわけです。教育方針、大学教育のあり方については、岩手でやってきたことと変わっていません。ただ、東京は首都であり一番大きな場所。「本当の教育のあり方」を実践するには、素晴らしい舞台が与えられたと感じています。

教育のビジョンですが、私は常々、日本人には人格が欠けているのではないかと考えています。憲法を読んでも、個人の身分保障については書いてありますが、「日本人としていかに生きるべきか」については、まったく書かれていない。これがいろんな意味で、大きな問題を引き起こす原因になっているのではないかと思っています。

実際に今の日本人を動かしているのは競争心です。幼い頃から日本人は、この競争心をさんざん仕込まれています。例えば、偏差値が出る年齢になった途端、親たちは目の色を変えて子供の偏差値を上げようと尻を叩く。そのため子供たちは、幼いうちから偏差値を上げることが、勉強の一番の目的と思ってしまう。そしてこの競争心の猛烈な者たちが世の中の一番上に集まる。

つまり、ただ競争心が旺盛なだけで、「日本人としていかに生きるべきか」ということを何ら持たない人たちが国のトップになるのです。これでは国としての方針もおかしくなってしまいます。人間というのは競争するために生きているのではありません。

一番大事なことは「その人間が何を考え、何をするか」です。そして、そもそも教育はその人格の確立のためにあります。本学のビジョンもここに立脚しなければならないと思っています。

――「中期目標」の「基本的な考え方」でも、画一的な人材を育成しようとするシステムが制度疲労を起こしていると指摘されています。
西澤) 昔の学士の卒業資格は「一人前としてやれること」を前提としていました。だからこそ「士」という言葉が使われています。「士とは使して師をはずかしめず」、つまり、言われてやっても親分を辱めないだけの仕事がちゃんとできる。できないことはできないと自分で言えるということです。

しかし、今の学生は生兵法のくせに、えらく自信だけ持っている。「世の中で一番偏差値が良いのだ」と自信過剰になっています。だから平気な顔をして事故を起こしてしまう。自分が完全にマスターしているわけではないと思っていたら「これでいいのか?」と絶えず思い続けることが大事で、「行いて恥ずるあり」。そういう謙虚な気持ちが今の日本人からは抜けてしまっているのではないでしょうか。この点をしっかりと教育し、士たるにふさわしい人材を社会に送り出してゆきたいと私は思っています。

一業に徹すれば一般に通ず

――首都大学東京という名の通り、都市に焦点を当てた、きわめて個性的な学部構成です。差別化という点では得策でしょうが、従来の幅の広さを失うことは、経営マネジメントのリスクになるのでは?

西澤) 都市ばかりやろうというのは、ほんの一部に過ぎないじゃないかという声がありますが、決してそうではありません。都市をどんどん突き詰めてゆくと非都市部にも援用できる考え方が出てきます。
例えば、田舎とは「都会のカウンターバランス」であって、都会のことを調べてゆけば「田舎は如何にあるべきか」も研究する必要が出てくる。

「一業に徹すれば一般に通ず」の通り、学問というのは、ある一定の研究を深めることで、全てのことが理解できるようになっているのです。したがって、それはリスクではない。
現実から足を離すと、抽象的で毒にも薬にもならぬ展開になりがちです。
新たな発見、あるいは学問というのは、やはり身近な現場、本学であれば都市、そこに取り組む中から生まれてくると自信を持っています。

自分の仕事に対する畏れ

――首都大学東京の開学とは、すなわち統合大学の大改革に他なりません。しかし改革には少なからず抵抗がつきものですし、急激な改革には歪みも生じます。この点についてどうお考えですか。

西澤) 昔は、毎年変えたんです。例えば東京大学に入ったと思ったら、翌年には大学が解散になったということもありました。長くてもせいぜい二年で、大学の名前なんて何回変わったかわかりません。

悪い点があったらさっさと変える。良い点を変えないことは結構ですが、今は変えること自体を恐れて悪い点まで変えようとしない。これでは何も良くなりません。考え方を変えて、思い切って「変えるべきは変えねばならない」のではないでしょうか。

基本的に今の人間教育は教養部で行われています。しかしそれだと少し年を取りすぎている。人間が一番伸びるのは、ちょうど異性を意識し始めた時。その時期に人間教育を行うべきです。
さらに、そもそもいろんな性格を持った人間を、全部同じに仕上げること自体がおかしな話で、向き不向きを調べ、個性に応じた教育を行わなければなりません。そういうことをよく研究しながら教育のあり方の手直しをどんどんしてゆく必要があると私は思っています。

――いわゆる「事務方改革」の必要性も叫ばれています。
西澤) 職員に限らず教員もそうですが、やはり自分の仕事に責任を持つこと。これが大切だと思います。例えば入学試験にしても、若者の人生を支配してしまうわけです、合否あるいはミスの有無によって。そうした、ある意味で非常に緊迫した仕事を手がけているのだという心構え、畏れと言ってもいいかもしれない、これがあまり見受けられないように思うんです。

確かに戦後から近年まで教官メインで物事を進めてきたことは否めません。
しかし、それが現在の制度疲労を招く要因の一つでもあったわけですから、職員の方々に「自分の仕事に対する畏れ」を持っていただくことが急務であることは確かだと思います。

ロマンが若者を集める

――経営体質のスリム化・強化は、どの大学でも優先順位の高い課題です。
しかし、だからといって、必要なものまで削減してしまっては本末転倒です。ここが難しいところだと思うのですが……。

西澤) 確かに、人件費の削減ということで、じゃあ語学教官を大幅に減らしましょうといったって、何も良いことはありません。中学校・高等学校の英語と、大学の英語は内容が違いますから。
私も身に覚えがありますが、大学の英語というのは、一面、イギリスの文化史のようなものでした。つまり大学ならではの語学教育があるのです。

しかし、まずはどうしても経済的に成り立ってゆかなければいけません。高いお金を払ってでもその講義を聴きたいという人がいれば、それはそれでやれるでしょう。しかしそれは現実的に難しい。
そこで、よその大学にお願いできるものはお願いし、あるいは外国語そのものであれば外部委託をするというかたちで急場を切り抜けようとしているわけです。決して今が理想的な状態ではありません。

――今、大学にとっては、質と効率の両立をいかに図るかが鍵だと思いますが、そのためには何をなすべきだとお考えですか。
西澤) 基本はやはり「良い先生を集める」ということです。いくら難しいことを知っていても、学生と一緒になってやってくれるような先生でなければ質を上げることはできません。良い先生がいてはじめて良い学生が育つのです。

一方、効率ですが、本来、教育ほど効率的なものはありません。一人の先生から何人もの学生が育ちます。教官の定年まで考えると、育つ人材の数は相当なものになります。
結局、質と効率の両立は、いかに良い先生を集めるかにかかっていると思います。

全て本質を見直し、一番大事な方法に戻る必要があります。核になる部分をしっかりと支え、育成してゆくことが、最終的には大学の未来、ひいては日本の将来を築くことになるのです。
大学経営においてはもちろんそろばん勘定も大事です。しかし、一番大事なのはロマンを持つことです。ロマンを持って取り組んでゆけば、必ずそれに共鳴する若者が出てきます。私はそう信じています。

西澤 潤一 Junichi Nishizawa

1926年生まれ。東北大学工学部電気工学科卒業、同大大学院第2期特別研究生修了後、62年に同大学の教授に就任。68年、財団法人半導体研究振興会半導体研究所所長を経て90年に東北大学名誉教授に就任、同年から96年まで総長を務める。
98年より岩手県立大学学長。05年から現職。99年には日本人初のエジソンメダルを受章。02年、IEEEはJ.ニシザワメダルを制定。日本原子力産業会議会長、日本工学アカデミー会長を歴任。工学博士。専門分野は電気通信工学、電子工学、半導体工学。

クライシス・マネジメントと大学経営改革 (同志社大学長 八田 英二)

クライシス・マネジメントと大学経営改革

同志社大学長 八田 英二
聞き手 ◎ 学生情報センターグループ 代表 北澤俊和

大学は厳しい生き残り競争の中を戦っている。少子化が叫ばれて久しいが、2007年度には大学の総収容定員数と総受験者数が同じになる、いわゆる「2007年問題」が始まる。その行く手には厳しい現実が待ち構えている。

では生き残るためには何が必要なのか。大学の経営組織はどうあるべきか。どのような経営方針をもたなければならないのか。躊躇している暇などない。血の滲むような思い切った取り組みを早急に行わなければならない。

社団法人日本私立大学連盟による『学校法人の経営困難回避策とクライシス・マネジメント』を、担当理事としてまとめられた同志社大学の八田英二学長にお話を伺った。


クライシス・マネジメント

――国立大学法人はもちろん、私立大学にとっていっそう厳しい時代です。大学改革という大きな流れの中で、破綻する大学が出てくることについて、どのようにお考えですか。

八田学長(以下敬称略) 大学のクライシス・マネジメントに関して、今年の春に文部科学省がガイドラインを出しています。それによると、経営が立ちゆかなくなった大学の学生は地域の大学が受け入れ、学籍簿、成績原簿については独立行政法人日本学生支援機構(前日本育英会)が引き受けることになっています。つまり経営困難大学自体については、経営破綻しても仕方がないということです。

実際、われわれ私立大学に、破綻した大学に積極的に手を差し延べる余裕はありません。昔は、破綻しそうな団体や私立大学を吸収し、その定員分学生数を増やすという多少のメリットもありました。しかし今はもう自由に学生数を増やすことができます。医学部など特定の学部以外は、学部も自由に設置できます。したがって、私立大学にとって、他の大学を吸収することで得られる経営的メリットはまったくないのです。結局、破綻する私立大学は破綻せざるを得ません。銀行なら政府主導で救済する必要もあるでしょうが、残念ながら私立大学については、破綻するところは破綻する以外にないと私は思います。

――しかし、大学が破綻すると、保護者や学生に多大な影響を与えます。大学の責任はどうなるのでしょうか。

八田) 少子化によって需要は減少傾向にあります。となれば供給が削減されるしかない。経済理論からいって、数が多い私立大学は破綻せざるを得ないのです。そしてその際、文部科学省は基本的に破綻した大学の面倒は見ません。学生に対しても、入りやすい他の大学を間接的に斡旋するぐらいです。蕫大学選びは自己責任で﨟ということです。こうした状況の中で、学校法人の経営陣が果たすべき第一の責任は、情報を保護者や学生に積極的に公開することです。

自分たちの大学は、今、入学者が何名いる。卒業生は何名いる。授業はこうなっていて、経営状況、財務状況はこうだとはっきり数字を出していかなければならない。情報公開ということが、私はこれからの大学経営の基本的な前提事項であり、責任だと思います。同志社大学では、さらに一歩進んで、格付会社からの評価を得ました。幸いA++でしたが、単に生情報を公開するだけでは不十分です。こういう外部評価も一つの情報公開ツールとして、今後、私立大学は積極的に利用すべきだと思います。

大学の経営改革

――大学の経営基盤の確立が急務というわけですが、そのためには何が一番大切だとお考えですか。

八田) すべての教職員が危機感を持つこと。これが何より大切だと私は思います。今、多くの大学で危機感を持っているのは一部の方だけで、もしかしたら大方の教職員は、自分たちは大丈夫だと思っておられるのではないでしょうか。また、経営力強化には、経営陣のありようが重要です。特に、意思決定の手続きがますます大事になってきます。大学のガバナンス、誰がどのように責任を持って決めるか、そしてチェック体制をどうするのか。その一つの方向として、私は理事会が積極的に経営にコミットすべきだと思っています。

ある私立大学では、選挙ではなく理事会で学長を選ぶようにされたそうです。国立大学でも学長の選出方法が変わってきています。学長を選ぶシステム一つにしても、経営面を重視した方向に変わってきているわけです。従来は人気投票のような形で学長が選ばれてきました。しかし、これからは、学長は教育のトップであると同時に経営のトップでもなければなりません。経営面での資質が問われるようになるのです。もっとも、力強い大学経営のためには、学長の力だけでは不十分です。私はそれを支える職員も、専門職集団になる必要があると思っています。

――大学改革には職員の能力アップも欠かせないということですね。

八田) 大学の改革には、危機意識の共有化と経営陣の経営力の向上が欠かせません。それに加え、経営を支える職員の能力向上も必要です。大学の教員は教育、あるいは研究することが主要な業務で、大学運営に携わる時間はそうありません。それは当然のことです。そのため、職員の方々にもっと能力を発揮してもらわなければ生き残ってゆけません。職員の高い能力があって初めて学長が職を全うできるのです。それがない限り学長にいくらリーダーシップがあっても、改革はできないと思っています。

――ある私立大学が国立大学の事務方のアウトソーシングを受けるそうです。先進的な私立大学にとって、こういったことは容易なことなのでしょうか。

八田) 決して簡単なことではありません。その私立大学も、予備校出身の役職者の方を招聘して、改革を進めてこられたと聞き及んでいます。自学の教職員、つまり自前のリソースだけで大学を運営するということには、そもそも無理があると思います。同志社大学では、26、27歳くらいまでの力のある人材を採用し、育成していますが、実際のところ、それでは到底追いつきません。また、財政基盤を安定させるためには資産運用にも積極的に取り組まねばなりませんが、それは私たちの力だけでは手に負えません。やはり外部の専門的な力を活用する必要があるわけです。

――資産運用というお話が出ましたが、やはり経営基盤の確立においては、財務面の改善が欠かせませんね。

八田) ご存じのように、ほとんどの学校法人は学費収入に多くを依存しています。しかし、安定的な財政基盤の確立にはそれだけでは限界がある。外部資金の調達が必要です。例えば補助金や寄付への働きかけ、産学連携による企業からの研究費の獲得に取り組まねばなりません。一方で、コスト削減も不可欠です。特に大学の人件費は、変動ではなく完全に固定費用です。これを何とか変動費用に変えてゆく必要があります。

同志社大学は比較的職員は少ないほうですが、さらにここ10数年間減員しています。学部、大学院の増加にともない業務量が増えても、職員の数は増えていません。また、職員が政策判断に関わる高度な仕事が担当できるよう、ルーチンワークは嘱託や契約職員の方にお願いする方向に進んでいます。

教育と経営

――株式会社組織の大学も現れ、競争が激化していますが、こうした動きについてどのようにお考えですか。

八田) 大学の使命は、あくまで人を育てることにあります。とはいえ、経営が不安定であっては話になりません。だから社会的な存在、公共的な存在としての使命と経営を折り合わせることが大事なのです。ところが、株式会社組織の大学は少し違います。例えば、大学の経営には、黒字の部門だけでなく赤字の部門もあるのが普通です。そして私たちは、黒字の部門で大学としてなすべき基礎研究等いろんな不採算部門を支え、ある一定の学問的水準を維持しています。

ところが株式会社組織の大学は、黒字の分野にしか参入してきません。そのように収益性ニッチで参入されることによって、私たちの黒字部門の収益が減り、結局、大学総体として維持すべきものまで維持できなくなってしまいます。

――経営の効率化という観点だけで見ると、不採算部門は切り捨てることになります。

八田) 国立も私立も経営の効率化が求められていますので、結果としてそうなる可能性があるのは否めません。しかし、人集めのために人気のある看護学部や薬学部を無理してつくり、例えば文学部をなくしてしまえば、従来文学部が担っていた学術的・文化的な分野や幅広い人材の供給という面まで失うことになります。

本当にそれでいいのかどうか。私は理論経済学者ですから、経済原理とそのダイナミクスについては理解しているつもりですが、かといって、それらがすべて大学経営にフィットするとは思えません。大学には、それぞれに建学の精神があるはずですから、それに則った教育をしてゆくことが大事で、目先の改革だけでは成り立たないと思います。

教育改革、大学改革は、教育事業体単体の問題ではありません。それは国民全体の問題であって、わが国の将来を大きく左右するものでもあるはずです。したがって、各大学はもちろんのこと、いわば国策として教育政策を、しっかりと打ち立てて認識し、実行に移してゆかねばなりません。生き残りのための効率化の追求が、その基盤となる高等教育全体の衰退を招くとすれば、悲劇以外の何物でもありません。

八田 英二 Eiji Hatta

1949年生まれ。同志社大学経済学部卒業、同大大学院経済学研究科修了後、77年に米カリフォルニア大学(バークレー校)大学院経済学Ph.D.コースを修了。79年から同志社大学経済学部、同大学院経済学研究科の教授を歴任後、96年、同大学経済学部長を経て98年から現職。財団法人大学コンソーシアム京都理事長、社団法人日本私立大学連盟副会長。専門分野は産業組織論、計量経済学。

マネジメント力の徹底強化で自立を期す (京都大学副学長・理事 本間 政雄)

マネジメント力の徹底強化で自立を期す

京都大学副学長・理事 本間 政雄
聞き手 ◎ 学生情報センター 副社長 西尾 謙

国の庇護のもとにあった国立大学も、昨年の法人化により、自らの知恵と努力で厳しい自由競争の中を生き残ってゆかなければならなくなった。今、まさに国立大学は大きな岐路に立たされている。

すべての国立大学が、経営のための組織構築、人材育成、財務改善等、数多くの取り組むべき課題を抱えている。しかもそれらの課題をいかに早急に解決し、さらなる成果をあげてゆくか――厳しい競争社会は、時間の猶予など与えてくれない。文部科学省が求める効率化係数の達成も年々厳しさを増す。

時代の流れに即応し、適時適切な経営判断を下し、自立した歩みが強く求められているのである。
京都大学の経営の健全化に取り組むとともに、職員の育成も視野に入れて国立大学マネジメント研究会を立ち上げた本間氏にお話を伺った。

マネジメントの不在

――――国立大学が法人化されて1年半が経ちました。まずは国立大学が抱える問題について率直にお聞かせください。

本間副学長(以下敬称略)法人化の取組みの中で私が危機的に感じているのは、何より経営の中枢であるべき組織が十分に機能していないことです。例えば、現在国立大学には経営トップである学長を補佐するために、全体で400人ほどの理事がいます。しかし、そのおよそ3分の2は自学出身の教員であり、専門外の人が財務等の担当になるケースもみられます。

また、その教員も任期がたいてい2~3年ですから、マネジメントに100パーセントエネルギーを投入しようと思っている人は少ない。学長ですら選挙で選ばれ、3年なら3年だけ、にわか経営者になるのです。これでは、長期的ビジョンに立った経営などできません。そもそも経営トップである学長の選任は、専門の学識よりむしろ経営能力の観点から選ばれるべきなのですが、実際にはそうなっていません。

――では、現状はどうであると?

本間) 全国の学長は、皆さん立派な研究者や学者であり、これまでの研究実績等を評価されて選ばれた方が多いと思います。中には、学部長などを経験された、とりまとめ能力のある方が選ばれるケースもありますが、この「とりまとめる」という能力は意見を聞いて落としどころを見つける、言わば調整能力。しかし、これからの大学経営は、調整能力さえあれば通用するような生やさしいものではありません。そう考えると、大学の将来について暗澹たる思いがこみ上げるのです。

――経営の主要素は「ヒト、モノ、カネ」と言われます。中でも「ヒト」が最重要課題ですが、人材育成についてどうお考えですか?

本間) 実際のところ、事務方の現場職員の意識は未だ低いと言わざるを得ません。指示された日常的な事務をこなすだけであって、自分たちが大学を支えるとか、教員と連携して何かを変えようという発想がないのです。教員側も諦めており、マネジメントについて彼らを頼ろうとはしません。そうした現状を毎日見るにつけ、「これではいけない。事務職員の力を高め、教員が今行っているマネジメント的な業務を、事務職員がもっと高い専門性をもって支えてゆけるようにする必要がある」と感じています。
さらに、学生支援や教育に関しても事務職員の知識や見識を向上させ、教員の負担を減らし、いずれはアメリカの大学のように教員が教育研究に専念できるようにしなければならないと思っています。

喫緊の経営課題と対策

――国立大学が取り組むべき経営課題は多岐にわたりますが、中でも喫緊の課題とは?

本間) 何より予算や資源が縮小する中で、限られた資源を大学としての重点分野に集中して投資し、いかに教育・研究機能を充実させるかが最も重要だと思います。現在、経営の効率化を前提に、年間に1パーセントずつ運営経費が削減されていますが、その一方で大学の研究・医療活動は大型化、高度化し続けており、その他にも情報化、国際交流への対応、施設の老朽化対策など必要経費は増えるばかりです。

どこの大学も、いかに限られた資源を戦略的に配分するかが死活問題になってゆくことは間違いありません。さらに言えば、私は現段階で1パーセントの効率化係数が、来年度から倍になると予測しています。そうなれば、より大きな改革を迫られます。
例えば職員全員の給料を数パーセント下げれば、新たな経営資源が生まれます。これなど、私は有効策だと思いますが、組合との関係や手続き等の対処といった、より厳しい経営判断が求められることは必至でしょう。

――状況によってはこれまでになく厳しい経営判断が必要である一方、すぐに着手すべき対策というと?

本間) 私は3つの方法があると考えています。1つは、1人ひとりの生産性を高める。例えば、これまで10の仕事をしていた人が11の仕事をする。生産性が10パーセント上がれば、職員の数が10パーセント減ってもやってゆくことができます。当然ながら、無駄な仕事の削減や事務処理規則の簡素化など、民間企業並みの合理化と改善にも着手する必要があります。

2つ目は、意思決定のスピードアップです。例えば事務組織には係員、主任、係長、補佐、課長、部長がいます。法人化後、理事が加わったため、全七段階でそれぞれ意志決定をしなければなりません。これでは決定に時間がかかるばかりか、責任の所在がぼやけてしまう。こうした体制を見直さなければ、組織の機動力は向上しません。

3つ目は、職員を適切に配置すること。国立大学はそもそも官僚組織であったため、ともすると一旦得たポストは絶対に放さないという意識になりがちです。
その悪習を捨て、どこにどんな人を配置すべきかを柔軟に検討するとともに、適材適所を実現しなければなりません。

国立大学という組織の中には、「ある日これがなくなっても困らない」という無駄な部分がまだまだあります。これを見直して改善するとともに、教員も自分たちのことを棚に上げるのではなく、自ら進んで改革に取り組んでこそ、自立した真の大学経営が実現できると思います。

国立大学マネジメント研究会の意義

――国立大学マネジメント研究会を発足、会長に就任されました。研究会の性格について、例えば国立大学協会との違いは何ですか?

本間) 法人化後、文部科学省は大学の運営についてはほとんど関与をしなくなりました。法人化した以上、それぞれの大学が抱える問題は、独力で解決していかなければならないというわけです。しかし、多くの経営資源を有する旧帝大は独力でやれるとしても、他の大学はそうはいきません。

そうした状況を考えると、今後も国立大学協会の力を一層高め、大学間の情報共有を支援するとともに、人材育成のための研修事業を強化する必要があります。ただ、国立大学協会の研修は幹部クラスの方を対象としており、現場の実務人材の育成は各大学に任せられています。当研究会を設立したのは、「上からの」研修だけでなく、職員1人ひとりの自発的な資質向上努力が重要と考えたからです。

また、法人化後、各大学がどういうことに取り組んでいるのか、実態が分かりにくくなっています。どこかの大学が合理化のために旅費規則を変えたとか、大手旅行会社と新たな取組みを行ったということを私たちは新聞等で初めて知ります。つまり、大学同士で情報がまったく共有されていない。

――情報を共有することにより、迅速な対応が可能になると。

本間) そういうことです。例えば、九州大学に優秀な財務部長がおられて旅費規則の見直しを行われましたが、その際には教員の説得1つをとってもいろいろな問題が起こったはずです。こうした本当は必要な情報は、なかなか手に入りません。ここに、マネジメント研究会設立の大きな狙いがあります。先行事例、革新事例、特にマネジメントに関するイノベーションで、ある大学が成功したのであれば、そうした事例は支障のない範囲で広く公開し共有すべきです。
当研究会では、そうした理由から情報共有媒体として月刊誌「国立大学マネジメント」を発刊し、会の重要な活動と位置づけています。

――研究会の今後の展望は?

本間) 会員は400名を数え、賛助会員も22社、1国立大学、1独立行政法人の計24となりました。事務職員もようやく雇うことができ、徐々に組織としての基盤ができつつあります。まずは緊要の課題として、月刊誌に徹底的に現場で役立つ実務についての情報を掲載し、内容のクオリティを高めなければならない。また、近い将来、研究会、交流会の立ち上げも考えています。

企業から法人化後の大学経営の課題等について情報がほしいという声を聞きますが、現状ではなかなか機会がない。そうした場を研究会、交流会を通じてつくってゆきたいと思います。
さらに具体的な目標としては、年内に50社500名、そして早い時期に1000名規模の組織を目指します。英国では、AUA(Association of University Administrators)という組織があり、約6000名の会員がいますが、ここではアドミニストレーターの検定試験を実施しています。

当研究会でも、会員数がある程度の規模に達したら、同様に検定試験の実施を検討したいと考えています。
日本のすべての国立大学が、内的・外的変化への対応を強く迫られています。まっとうな経営組織たるため、真に自立するためには、まさに今がマネジメント力強化の正念場。
それができない大学は、厳しい競争環境の中で脱落せざるをえなくなる
――そうした時代に、もう入っているのです。

本間 政雄 Masao Honma

1948年生まれ。名古屋大学法学部政治学科卒業後、71年に文部省入省。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院(英国)での2年間の留学を経て83年、在仏大使館一等書記官に就任。89年から文部省の各局各長を歴任し、97年、横浜国立大学事務局長。99年、文部省大臣官房総務審議官(政策調整担当)。2001年、京都大学事務局長。法人化に伴い、04年4月から理事・副学長(総務・人事・広報担当)、05年10月から非常勤理事・副学長(事務改革担当)。04年に国立大学マネジメント研究会を立ち上げ、会長に就任。専門分野は行政学、高等教育論、欧米高等教育政策論。

拝啓大学殿~国際基督教大学編~ (学務副学長 森本 光生)

拝啓大学殿~国際基督教大学編~

往信

●1年次から英語での講義を行われていると聞いていますが、バイリンガルでない一般の学生でも、講義内容を十分理解することはできますか? また、特にどの学問分野において、英語での講義を重視されているのですか?

●貴校では、外国人教員をどのくらい採用されていますか? また、どこの国の方が多いのですか?

●卒業生の進学・就職状況について教えてください。貴校は、米国の大学に見られるように、四年間で教養的な知識と素養を幅広く身につけ、その後、専門性の高い学問を習得させるというイメージがあります。やはり、大学院進学や海外留学を選択する学生が多いのでしょうか?

●学問は、学際化とともに専門化が進んでいます。貴校が取り組まれているリベラルアーツ教育により、十分な専門性を身につけることは可能ですか? 特に高度な専門知識と技術を必要とする理科系分野については、どのような対策をとっておられますか?

●ユニークで質の高い教育をされており、今後も大学における蕫国際教育﨟の旗頭であっていただきたいと思っております。ただ、関西の高校においては知名度が十分とは言えず、志望する生徒が少ないのが現状です。知名度アップを図るための対策を考えておられますか?

・浦和明の星女子高等学校 清宮 宏先生
・横浜雙葉高等学校 鈴木幸憲先生
・東京都立国立高等学校 矢作俊郎先生
・大阪星光学院高等学校 野出明敬先生
アンケートより作成

返信
アカデミックな議論が可能な英語力が身につきます

国際基督教大学教授 学務副学長
森本 光生

国際基督教大学(以下ICU)は、1953年の開学以来、真の国際性を有する人材を育成するため、当時、世界共通言語として認知されていた英語の教育に並々ならぬ力を注いできました。そのイメージからか、入学当初に高いレベルの英語力を持った学生でなければ授業についてゆけないのではないか、といったご質問をよくいただくのですが、決してそのようなことはありません。 

本学の英語教育の大きな特徴は、「英語『を』学ぶ」だけではなく、「英語『で』学ぶ」ことを目的としている点にあります。所属学科にかかわらず、全学生が1年次の大半と2年次の1部を使って22単位にも相当する英語教育プログラム(ELP:English Language Program)を履修し、大学での学びに必要な英語能力を習得します。

その先にあるのは、英語「で」学問をすること。卒業までに最低九単位の「英語での講義」をICUや海外の提携校で受けることが必修となっています。本学で開講される「英語での講義」には、例えば「シェイクスピアを英語で読解し、議論する」といった比較的スタンダードなものから「日本の民芸を英語で学ぶ」のように独創的なものまで様々な内容の科目があり、学生はこれらの授業を英語「で」学ぶことになります。

つまり、ICUの英語教育の目的は、ただ英語を話せるようになればよいというのではなく、英語を使って、様々な学問分野についてアカデミックな議論を行うことができる力を身につけることにあるのです。なお、本学では全教員のうち約30%を外国籍の教員が占めており、特にELPに関しては、その割合が50%にのぼります。世界中から広く採用を行っていますが、現時点ではアメリカ国籍の方が最も多数です。

主に1年次で英語の素地を作り、その後、より深い英語力が身につくよう段階的なカリキュラムを組んでいますので、たとえ高校卒業の時点で英語を十分習得できていなくても、英語でのコミュニケーションに意欲がある方であれば、尻込みせず、ぜひICUの門を叩いてみてください。

7通りの入試選考で、多彩なバックグラウンドを持つ学生を募集します

ICUでは、他大学が実施しているような大掛かりな広報活動を行っていません。そのせいもあり、関東方面ではある程度、知名度が確立されているとはいえ、特に関西以西においてはご質問にある通り、本学の特色や長所を十分にアピールできていないのが現状です。そこで、2000年から広報活動の範囲を日本全国へと拡大してPRに努めるとともに、これまで以上に多様な受験生を受け入れることができるよう入試選考を整えてきました。

これまでは、教養学部において創造的な学習ができるかどうかを試験する「学習能力考査」を基本とした本学独自の一般入学試験を中心に、本学が指定したキリスト教主義の高校を対象とした推薦制度や帰国生の特別入試といった選考を行っていました。

昨年度からはそれらに加え、AO入試(ICU特別入学選考)を開始し、今年度からは大学入試センター試験を導入します。昨年実施したAO入試は、第1回目にもかかわらず定員20名に対して212名の出願をいただき、大きな成果をあげました。この他にも社会人特別入学試験および9月入試を併せると、全部で7通りの入学選考を設けており、様々なバックグラウンドを持つ学生を受け入れるべく態勢を整えています。

国内外を問わず、大学院への進学率が高いのが特徴です

ICUの卒業生のうち、約20%が国内外の大学院に進学します。これは、他大学と比べても高い割合と言えるでしょう。
本学では、すべての学生が海外経験を持つことを目標に、2005年度で21カ国・56大学と交換留学に関する協定を結んでいます。海外の大学院へ進学する学生の中には、かつて留学した大学への進学を希望するパターンも多く見られます。

一方で、就職希望者の就職率についても例年、ほぼ100%を達成しています。特にマスコミ業界への就職者数が10%前後と多いこと、また卒業者の約10%が海外に在住していることも特徴です。進学と就職、いずれの進路を選んだ場合にも言えることですが、学部の4年間で得られる知識量には限りがあります。

では、それぞれの道を進んでゆくうえで必要とされることは何かというと、それは常に問題意識を持ち、自分で考え行動する力であり、また、異文化にある相手とのコミュニケーション(プレゼンテーション)能力であると思います。光栄なことですが、進学先や就職先の担当者からは、ICUの卒業生はこうした能力に優れた人材が多いという評価をいただいています。

リベラル・アーツが目指すのは、「責任ある地球市民」の育成です

長引く不況と就職難を反映してか、昨今は、すぐに役立つ、あるいは資格取得に結びつきやすい技術の習得が優先されています。それに付随するかたちで学問や教育分野においても細分化、専門化を是とする風潮が見られ、各大学は総じてリベラル・アーツを放棄しつつあります。

リベラル・アーツは物事を広く浅く学ぶ教育方針であると捉えられがちですが、本来の目的は、社会の諸問題について自発的に考え、責任を持って行動できる人材を育成することにあったはずです。旧来の社会の枠組みから脱却し、新しい視野に立って行動する――ICUは、そうした自由人の知識基盤を築くために、引き続きリベラル・アーツを堅持し続けます。

理科系分野において、果たしてリベラル・アーツにより十分な専門性を担保できるのかというご質問をいただいていますが、一般教養科目との両立で、専門分野の学習が疎かになることはありません。むしろ、広範な知識基盤の上に専門教育を受けた学生たちは、異分野を専門とする相手とも円滑にコミュニケーションを行うことができる、優れた専門家に育ってゆきます。

ICUでは、講義を進めるにあたり、各教員が「小道具」を用います。例えば、学生が毎回、授業内容に対する疑問や意見をまとめるコメントシート(質問表)、教員が教室内を歩き回り、学生から意見を引き出しやすくするためのタブレット式机(一人用の折畳み式机)など。

これらの小道具が、講義において活発な議論を生む引き金となり、学生のクリティカル・シンキング(批判的/批評的に物事を考える力)を養うためのツールになるのです。また、学生指導について、特筆すべきは「アドヴァイザー制度」の存在でしょう。1人の教員が約30人の学生を受け持ち、学習の進捗状況から進路希望まで、個々の相談にきめ細かく対応します。

教員が受け持つ学生は、所属が全六学科にわたっており、興味の対象も様々です。
例えば、「韓国の文化に関心がある」と相談に来た学生に対して、「まずは中国の文化が韓国にどう影響しているか調べてみては?」と多角的な見方を提案する、韓国の提携大学校への留学を勧めるといったアドヴァイスを行うことはもちろん、より専門性の高い質問があれば、適切な教員を紹介するなどのフォローも行います。

その他、語学科と国際関係学科、理学科と教育学科というように、2つ以上の領域にまたがった学科間専攻も推奨しています。ICUの学生は、こうした仕組みの中で学科や専修の枠を越え、自らの関心に応じた学問を追究してゆくのです。

高校生の皆さんには、早い段階で進路を限定してしまうことなく、大学へ入学してから出合う未知の選択肢も含めて、自分が本当に究めたい物事を確実に選び取ってほしいと思います。
ICUであれば、その選択肢は多様に存在していますし、またそこから、真にリベラルな地球市民として生きる素養が身につくこともお約束します。

知の源泉たる大学の使命と改革 (文部科学省 技術移転推進室長 伊藤学司)

知の源泉たる大学の使命と改革

文部科学省 技術移転推進室長 伊藤学司

知的財産本部設置の背景と狙い

資源の乏しいわが国が、厳しい国際競争の中で活力ある社会を維持してゆくには、知的財産立国を目指さねばなりません。

そしてその実現のためには、新しい知を生み出す「研究」と、次の世代にその知を伝える「教育」の両面における知の源泉である大学が、自ら生み出した知を、適切に社会や国民の生活に還元できるようにすることが必要です。

しかし、これまで大学は、そうした知の社会への還元が十分にできていませんでした。それというのも、知の蕫活用﨟の面がスムーズに行われていなかったからです。一部の大学の先生は、これまで独自に研究して得た成果をライセンスし、産業界に活用いただいてきました。しかし大学の知は、そもそも基礎研究が多く、そのまま使える特許はそう多くありません。もとよりライセンス料を稼ぎ出すいわゆる「ホームラン特許」もそう出ません。

つまり、こうしたやり方だけでは大学の成果が十分に活用されないのです。そこで、産業界の意向も踏まえつつ2人3脚で取り組むことが必要になります。そうすれば、その後の活用が円滑に行われるのみならず、異なるミッションを持った大学と産業が融合することで、かつてない新たなものも発見されやすくなります。
また従来、大学の先生の発明は原則先生個人に帰属し、それを使うも使わないも先生の自由でした。しかしそれでは、せっかくの知がともすると死蔵され、活用が進まなくなってしまいます。

それを防ぐには、やはり先生方の意向を尊重しながらも、大学が組織としてしっかりとバックアップし活用を図ってゆく必要があります。しかし、日本の大学はそうした取組みにあまり慣れていません。ある日突然、個人帰属ではなく機関帰属にするから大学でしっかり管理活用しなさいといったところで、なかなかできないでしょう。

つまり、これからの大学には、主体性を保ちつつ産業界と手を携えた知の探求と活用を行うとともに、機関帰属となる大学の知の管理と活用をしっかりと促進してゆく新たな組織作り、体制作りが強く望まれるのです。知的財産本部整備事業の背景、狙いはまさにここにあります。

飛躍を期すスーパー産官学連携本部

知的財産本部整備事業を通じ、2003、04年度の2カ年で、知的財産の管理活用体制はある程度できてきました。しかしそれだけではまだ不十分です。さらに長期的に産業界と連携を図ることができる強い体制作りへと進める必要があります。

そこで、知財本部をさらにパワーアップするスーパー産学官連携本部の設置を2005年度から推進しています。大学の知的財産の充実は、特許の件数で計れるものではありません。それが産業界を通じて活用され、国民の生活にまで還元されることが大事なのです。

アメリカの大学ではこういう体制が非常によくできています。日本の大学も産学連携に関して、そうしたアメリカのトップ大学に伍する体制を作ってゆくことが求められます。そして日本の産業界が、日本の大学ではなくアメリカの大学にどんどん研究費を流すようなことがないようにしていかなければなりません。もっとも、こうした取り組みは、私どもが中心ではあまり意味はないでしょう。各大学が主体性を持ち、各大学の方針に基づいて行うのが基本だと思います。

大学ごとに、知財戦略を大学の経営戦略として採用するかどうか、そこに資源を投入するかどうかを判断し、主体的に取り組んでいただくことが望ましいのです。例えば私立大学では、人文社会科学系しかない大学も多くあります。そうなると、知財を生むといってもいわゆる特許はほとんど出てきません。
特定の先生が、しかも年間に1、2件の特許しか出さないとなれば、人を雇用して新たな体制を作るのは必ずしも得策ではないでしょう。組織としてコストをどの程度かけ、どういう体制を作るかを、それぞれの大学が自らじっくりと考える必要があります。

その際、当然のことながら、単に「儲かるから」ということではなく、大学の社会貢献の面や大学の評価や信用力のアップという面等も勘案すべきでしょう。そういうことも加味しながら、コストというものも意識しつつ、どういう体制を作ってゆくかを、各大学は是非十分に検討いただきたいと思います。

今後の取り組みと大学に期待すること

知的財産本部の整備事業に加え、新しい取り組みとして2006年度から知財を核とした共同研究の推進を目指した「産学共同シーズイノベーション化事業」を進めてゆくことにしています。
共同研究をする場合には、両者が応分の資金を出し合うのが普通です。とはいえ大学はあまりお金を持っていません。多くの場合、企業に全額負担してもらうことになります。しかしそうなると、3000万円とか5000万円などの大型の共同研究はなかなかできません。

そこで新しい事業では、1年目はフィージビリティースタディ[feasibility study:実行可能性]を大学と企業で十分話し合っていただく。例えば、蕫マーケット調査によればこういう市場があるから、今後3カ年あるいは5カ年の計画をしっかり立て、こういう共同研究に入ってゆきましょう﨟という準備をしっかりしてもらう。それを踏まえて国が半分支援させていただく。

そして真のイノベーション創出につなげてゆこうと考えています。今回、この取組みについては全体で30億円の予算要求を行っています。大学と産業界が連携する1番のメリットは、両者の視点が異なっているという点だと思います。双方にとってお互いの視点は非常に新鮮で、それが交差する中で、思いもよらぬ発想も出てきます。そしてこのメリットを生かすには、常日頃からお互いに率直に意見交換できる関係を築くことが求められます。

大学は、産業界の視点、批判を大いに参考とし、正すべきは正さねばなりません。しかしそれは、決して産業界の言う通りにするということではありません。その声に耳を傾けつつもそれに一喜一憂せず、大学としてのポリシーをしっかりと持ち、さらなる知の創造に取り組むということです。

産学共同シーズイノベーション化事業では、国はもとより企業も一定の資金を出すことになります。当然、研究成果が出ない場合、ただしょうがないだけでは済まされません。大学には、成果を出すためのマネジメントをしっかり行うことが求められます。

また、企業にお金を投じてもらうためには、先生方個人の力に加え組織のバックアップが不可欠です。さらに研究である以上、結果が思い通りに出ないこともあります。その場合に蕫今こうなっている﨟あるいは蕫ここまでやっているがあと3カ月では成果が出ないかもしれない﨟という情報の発信が大切です。
その点からも大学は体制整備に取り組まねばならないと思います。

これからは特に大学の先生方と大学の本部や産学連携の組織がしっかり手を携えて行ってゆく必要があります。そしてこうした取組みが成功することで、わが国は国際的な立場を高めつつさらに新たな繁栄を築いてゆくことができるのです。(談)

大学の知が経済を活性化させる! (経済産業省 産業技術環境局 中西 宏典)

大学の知が経済を活性化させる!

経済産業省 産業技術環境局
大学連携推進課長 中西 宏典

TLO(技術移転機関)への取り組み

現在経済産業省では、経済の活性化の観点から、TLO(技術移転機関)を中心として、大学の研究成果を社会に役立てることに取り組んでいます。
TLOの活動は、簡単に言えば、大学にあった知的資産を特許化し、それを民間企業に移転しようというものです。すでに41のTLOができるとともに、昨年度は30億円弱のロイヤリティー収入もあり、着実に成果を生みつつあります。

技術の移転については、必ずしも即商品に関わるものだけではありません。企業はこの10年くらい景気が悪く、大企業も含め従来やってきた基礎的な研究をやめざるを得なくなってきていました。

しかし、基礎的な研究もやはり続けなければなりません。そこで、基礎研究を大学との共同研究で行おうという動きもかなり出てきています。さらに、大学の知的活動の成果物についても、TLOを通じ産業界で使える可能性を模索しております。

経済産業省では1998年に法律を作り、TLOをサポートしながら大学の知的な発明を特許化し、それを民間企業に移転を促進するということに取り組んできましたが、また同様の取り組みとして大学経営の観点から知的財産本部ができてきました。大学内に設けられた知的財産本部に関しては、1部にそれができたことでTLOと重複しているという話が聞かれます。

国立大学が独立法人化されたために、従来は6対4くらいの割合で先生個人に特許が帰属していたものが、原則、大学が機関として管理することとなり、知財を管理するための知財本部が設けられました。企業と先生の間に大学つまり知財本部が介在するようになったため重複していると見られることがあります。

もっとも我々としては、大学の職員の方がこれまで経験もない民間企業とのロイヤリティーのレートの交渉など、技術移転の交渉をするよりも、その部分については経験のあるTLOを使っていただいたほうがいいように思っています。つまり我々としては、協力して取り組んでゆくほうがさらに大きな成果につながると考えています。

大学発ベンチャーの推進

2005年の3月末で、大学発ベンチャーは1112社になりました。売上げで約1600億円、1万1000人の雇用が生まれていると推計しています。ともすると大学発のベンチャーはあまりうまくいっていないとの認識があるかもしれませんが、マクロな面で見れば、大学発のベンチャーからもそうした成果が出ているのです。

もっとも、必ずしもうまくいっていないところがあるのは事実です。1112社の方にアンケート調査をした結果、戻ってきたのが約350社でした。回答があったうちの半分強は、「まだ製品を世の中に出していない」ということでした。つまりまだ1円のお金も稼げていないわけです。この面では普通のベンチャーに比べるとかなり厳しい状況です。

とはいえ、1112社の内の12社がすでに株式公開をしています。また公認会計士を入れて株式公開の準備をしているというところが20社弱あると聞いています。通常のベンチャーより成長性が高いと考えられます。

3年間で大学発ベンチャーを作るということについてはまずまずうまくいったと思います。経済産業省としても少しばかりですが、大学発ベンチャーの研究開発への支援を行ってきました。

しかし今後は、数というよりも、質のほうに転換をしてゆく必要があると考えています。
例えば、我々が一つひとつの大学発ベンチャーを支援するということは、かなり数が増えてきた現在、とても難しくなってきています。

そこで、我々としては、それぞれのベンチャーを支援するというのではなく、大学発ベンチャーを様々な角度から支援するようなネットワークづくりに力を入れたいと考えています。2005年よりネットワークの形成事業として約1億円の予算を組んでいます。ベンチャーを支援する制度、仕組み、ネットワークがあれば、ベンチャーのさらなる成長、発展が促されるはずです。

産学官連携関連の新たな挑戦

今後の新たな取り組みとしては、マッチングファンドがあります。これは企業と大学が共同で研究をする際には3分の2を国が支援するという施策です。それはもちろん大学発ベンチャーであっても構いません。

要は大学の研究成果が民間企業に移転する、実用化することを支援するためであり、我々としては31億円という予算を組んでいます。それから、大学のドクター保持者やドクターコースで学んでいる方に対するフェロー制度を整備することも考えています。従来は研究開発をやるための人材をフェローとして雇って派遣するものでした。それを研究ではないエリアでも活躍できるようにキャリアパスを多様化しようというわけです。

そういう経験をしていただくことで、仮にその研究者が大学に戻って研究を続けても民間企業と上手く連携ができるようになるという効果も期待できます。どうしても従来の産学連携というと、共同研究のハードの面に偏ったところがありました。しかしこれからは人材育成の面にも力を入れなければならないと思います。

最近、産業界からは、大学で即戦力になるような学生が育っていないのではないかという声もあって、経済産業省としては、そうした人材育成にもつながる施策も是非展開したいと考えているのです。

その1つのやり方として製造業において中核となる人材を育成する事業をスタートしました。これは、産業ごとの人材ニーズを明確にした上で大学と複数の企業がコンソーシアムを作り、大学は教材やカリキュラム、さらにはコースを設けたりします。

実践的な力をつけるために産業界の現場を使わせてもらってインターンシップの実施や、現場で経験を積めるようにもします。そうして企業が必要とするような人材を輩出できるようなプログラムを作ってゆくというわけです。これに対して23億円の予算を付け2005年度から始めているところです。

大学の知の成果が社会の発展、繁栄に役立つことを、社会もたいへん望んでいると思います。もちろんそこには手間暇もコストもかかりますが、社会全体としては絶対にプラスになることです。

これは社会貢献の一環であり、各大学には、教育、研究に次ぐ大きなミッションの1つであると認識いただき、積極的に取り組んでいただきたいと思います。

大学のシーズに市場価値を (関西TLO株式会社)

大学のシーズに市場価値を

関西TLO株式会社

1998年、「大学等技術移転促進法」施行。2004年、「特定分野重点技術移転(スーパーTLO)事業」始動。そして2005年9月現在、促進法に定められた要件を備えた承認TLO(Technology Licensing Organization)の数は41に達した。

ここ10年足らずの間に、技術移転に関する施策が相次ぎ実施された背景には、わが国の大学等が保有する膨大な研究リソースが、技術開発に有効活用されてこなかった反省がある。大学のシーズと企業のニーズを的確に結びつけるためのシステムとは――。 

本誌では、今後、知財立国という国策の一端を担ってゆくであろう技術移転機関(TLO)の中から、特に地域TLOに注目。1998年に全国初の地域TLOとして設立された関西TLO株式会社・技術移転事業部長の鈴木氏に、技術移転事業の現状および課題について伺った。

得意分野を活かしたダイレクトマーケティング

――技術移転スキームと特色をお聞かせください。

鈴木氏(以下敬称略) 関西TLOでは、技術移転業務を円滑に行うために会員制の「関西TLO技術情報クラブ」を設け、大学単位で数えると50数大学、200社余りの企業に参加いただいています。

大学は原則として研究者単位での登録となり、その8割方を関西の大学の先生が占めます。企業も約7割が在関西、あるいは関西の窓口でコンタクトを取られる企業です。

研究者会員には、研究活動の支援から成果の権利化・活用まで一連のサポートを行い、さらに大学発ベンチャーの起業・育成支援等も受け付けます。企業会員へは研究情報等の提供と斡旋のほか、特許情報の3カ月間の優先開示や講演会を通して、常に最新の技術情報を提供しています。

――ライセンスアソシエイトは?

鈴木) 専属で6名、非常勤で20名。それぞれの専門分野を活かしながら、状況に応じて一人あるいは複数人で案件に応じます。
なお、研究成果が活用された場合のロイヤリティー収入は、必要経費を控除した後、発明者(研究者)、大学、弊社で3分の1ずつ配分する形をとっています。ただし、大学からの受託案件の場合は、大学との契約及び学内規程によります。

――研究分野によって登録件数の多寡はありますか?

鈴木) 我々の場合、いわゆるナノテクやライフサイエンス関連の案件が半数近くを占めます。京都リサーチパーク誧と共同で支援しているベンチャー企業も、医療バイオ系の企業の起業実績もあります。このあたりは我々の得意分野と言ってもよいでしょう。

――いわば、散在するシーズをニーズといかに的確にマッチングさせるかがTLOの成否のポイントだと思うのですが、関西TLOのマーケティング戦略は?

鈴木) ホームページ等を通じて特許情報をリストアップする方法は、最新の情報を広く発信できる利点はある一方、我々は反応を「待つ」しかない。弊社では、アソシエイトがシーズの持つ性格に応じて対象企業を絞って直接アプローチする手法を主軸とし、ライセンスの成約率を高めています。

今後はさらに、企業の担当者の食指が伸びやすい形態――サンプルや試作品など――を用いて研究の将来性をわかりやすく訴える、また、早い段階から特許流通アドバイザー等の専門家を通じて周辺特許の整備を行うなど、より効果的なマーケティングの方策を追究してゆきます。

知財本部とTLOの連携

――大学単体のTLO、そして知的財産本部が増加傾向にありますが、例えば国立大学の独法化は関西TLOの事業に何らかの影響がありますか?

鈴木) 良い悪い、どちらの面もあると思います。従来は、研究者の特許出願経費を弊社が負担していましたが、独法化後、主要な大学は自学でまかなうようになりました。

――つまり、出願案件のデフォルトに対するリスクが減る。

鈴木) その通りです。一方で、マーケティング活動に制約ができたことがデメリットでしょうか。これまでは、特許出願に至るまでに直接、研究者へのヒヤリングを行い、発明発掘や技術評価の現場に立ち会ってきました。

したがって、個々の技術の核心を、我々自身が正確に掴むことができていましたが、出願までの業務を自学の知財本部が行う大学が増え、情報不足のまま案件をお預かりするかどうか判断せざるを得ないケースが増えてしまったわけです。

――業務の分担や引継ぎについて歯がゆい部分も生じてきていると――。

鈴木) 企業が情報として最もほしいのはその技術の核心部分(優位性、市場性)であり、これをうまくアピールできないかぎり、成約へ導くことは困難です。

今後、弊社としては、各大学の知財本部と信頼関係を築きつつ、ともに新たなスキームを構築してゆきたい考えです。
大学の知財本部が特許出願するまでの段階で、TLOが市場性評価の側面からうまくコミットすることができれば、マーケティングとライセンス活用は企業との強いコネクションを持つTLOが行うといった、効率的な役割分担も可能でしょう。

技術移転市場の成熟のために

――将来、大学が知財をさらに活用し、儲けるためには何が必要だと?

鈴木) 大学にもよりますが、技術移転でロイヤリティーを得るよりも、企業との共同研究で資金を得るほうが手っ取り早いという考え方が未だ根強い印象は拭いきれません。ただ、今後は思い切って意識を変える必要があります。

最も大事なのは、各大学が知財活用について明確な戦略を持つことです。リターンを確実に目論むことができる研究を厳選して権利化し、資金を投下する「選択と集中」とでもいうべき方針を打ち出す、高い先見性を持った大学もすでに出てきています。

そうした意味では、開発中の技術・研究の市場価値を正確に予測し企業に売り込むためのブレーンとして、我々のようなTLOが参画し、ともに戦略を立ててゆく図式も考えられます。

――技術移転先進国といわれるアメリカですら、TLOが産業として成熟するまでに約20年を費やしています。わが国においてTLO事業の五年後をどのようにイメージされますか?

鈴木) アメリカでも20年かかってTLOの成功事例は約半分です。日本は今のところ10年ですから、まさに蕫道半ば﨟。わが国で技術移転事業が市場として成長してゆくためには、まだ多くの課題が残されています。

我々としては、5年後に向けて、まず大学の知財本部とTLOとの役割分担を明確にし、お預かりする多様なシーズ、ニーズをスムーズに循環させる体制を整えることが緊要であると捉えています。

また、TLOの存在意義――これを技術移転の存在意義と言い換えることもできましょう――が社会的に浸透するには、より多くの技術移転実績が必要です。

そこで、国の支援体制を今以上に整えていただきたい。そもそも技術移転の本質は、大学の生み出す知的資源を市場に還元すること。技術移転が活発化し産学連携の振興が図られることで、日本から有能な研究者や技術者の流出をくい止めることができます。 

TLO事業はそれ自体がリスクの高いベンチャーと言っても過言ではありません。
わが国が今後も知財立国を標榜してゆくのならば、技術移転市場が安定するための環境整備、および意識改革について、資金・施策両面からのさらなるバックアップを望んでいます。

大学と企業の「知的資産」に「価値」を創造する (財団法人知的資産活用センター)

大学と企業の「知的資産」に「価値」を創造する

財団法人知的資産活用センターに聞く

2002年7月に策定された「知的財産戦略大綱」。わが国の産業競争力低下への懸念から、「知的創造サイクル」の確立の必要性を提唱し、知的財産立国の実現に向け、①創造戦略、②保護戦略、③活用戦略、④人的基盤の充実を具体的な戦略として打ち立てた。

この「大綱」を受け、文部科学省は「大学知的財産本部整備事業」を推進、実施機関として全国四三の大学等で蕫知財本部﨟が稼働している。技術移転機関(TLO)整備事業と相俟って、知財立国へ向けた順調な滑り出しかに見えるが、成功事例が少ない、成果が出にくいなど、道のりは未だ厳しいのが現実だ。

大学と産業界のマッチングを図るべく2004年に設立された財団法人知的資産活用センターを訪れ、理事長・増永保夫氏と専務理事・田代慈邦氏に、財団設立の目的や意義、今後の展望などを伺った。

「財産」ではなく「資産」

――財団名にも冠されている「知的資産」とはどのようなものでしょうか?

増永理事長(以下敬称略) たとえば企業の場合、貸借対照表に表れる資産、つまり簿価の値より、株価に表れる評価のほうが遙かに高いことがよくあります。この差は何だろうかと、我々はここから始まっているんです。

田代専務理事(以下敬称略)現に学術研究もあるんですが、その「差」というのが知的資産の有無だと。したがって、我々は目に見える財産だけではなく、見えない「資産」まで把握する必要があるだろうというわけです。

――目に見えない「資産」には、どのようなものがありますか?
増永) 企業や大学など、その組織が持つノウハウやブランド力、このあたりは非常に価値が大きいものです。
田代) 企業の場合ですと「契約」も知的資産の範疇です。当社はどこそこの会社と契約を結んでいますとアナウンスすることによって、「あ、あそこはすごい」となる。

つまり契約の存在が株価を上げるのです。契約の存在とは即ち、契約できるだけの力が備わっているということですから、そこに評価が集まる。したがってそれは立派な「資産」だというわけです。
増永) 知的財産を扱う企業、公益法人等はすでにいくつかありますが、知的「資産」まで扱えるのは当財団だけだと自負しています。

ミス・マッチを解消

――具体的な事業スキームは?

増永) 大学はもちろんですが、企業サイドとしては、中堅企業、中小企業をターゲットに活動してゆこうと考えています。というのも大企業にはそれなりの体制が整備されていますから。

中小企業が大学から技術を受け入れる。また、中小企業と大学間の共同研究、受託研究等も、徐々にですが増加しています。ここに我々が何かお手伝いできないだろうかということです。

田代) ミス・マッチングの例も多いんです。大学の研究は原則として基礎研究ですから、特許といっても、そこから応用研究、実用化研究と、いくつかのハードルがある。

中小企業が大学から特許を買ったとしても、実用化に漕ぎ着ける力がない。それ以前によく検討してみたら、欲しいものと違ったとか……。共同研究にしても注力できる資源に限りがあります。

――宝の持ち腐れになってしまうと。

増永) そこで我々が一役買いたい。ある中小企業が新しい分野に進出したいという時に、自分たちが持っているコア技術の延長線上で価値を生む特許なり技術の取得に向けたアドバイスをさせていただく。

田代) 中小企業というのは、大抵の場合、いくつかのすばらしいコア技術を持っているものです。そのコア技術を軸に、新しい事業を展開する場合に何が足りないか。それを判断し、大学から探すべきなのですが、現実にはうまくゆかないことが多いようです。

その点、我々はマーケットを見ていますし、技術や特許のデータも持ち合わせています。ですから「あなたの会社の狙いはここですね?でしたら、この大学のこの先生の、こんな技術はいかがでしょう?」といった情報を我々のポートフォリオの中から提供できれば、ミス・マッチという悲劇も少なくなると思うのです。

――いわゆる「知財人材」の育成も急務の課題です。

田代) マーケットを睨みつつ、特許・技術に精通している、そんな「特許の目利き」、そして大学と産業界の「仲人役」を担える人材を育成するための研修等に取り組んでゆきたいと思っています。

増永) 俄に現実的になってきたのが、大学と産業界のマッチングにおける金融機関の役割です。

――三菱UFJフィナンシャル・グループが九州大学と知的財産信託に取り組み始めました。 

増永) 信託を利用したファイナンスでは、言うまでもなく銀行が重要視されます。我々はそうした金融機関の方々に対する知財人材育成セミナーや研修プログラムの開発にも着手してゆきたいと思います。

知的創造サイクルの駆動力として

――展望をお聞かせください。

増永) 知的財産整備事業に該当せず、まだ知財本部がない大学。また、私設で知財本部を整備した大学。そうしたところに対するサポートも、我々の活動の大きな柱となってゆくことでしょう。

また、大学の知財戦略を学生募集戦略にリンクさせるなど、大学の「知的資産」を核に、大学経営のサポートも手がけてゆきたい。そして、産業界に対しては、中小企業の支援を軸に、わが国産業の発展に寄与できるよう、取り組んでゆきたいと思います。

田代) 「知的財産戦略大綱」でいうところの「知的創造サイクル」。これには「創造」「保護」「活用」というポイントがあるのですが、中でも「活用」が従来、手薄だったように思います。非常に消極的な活用の仕方、あるいはあくまで防衛的な活用をしていたということです。

そこで、当財団が有効な「活用」、つまり、きちんと価値を生み出せる知的資産戦略をご提案してゆきたい。そしてさらに、この知的創造サイクルを回し続ける力、ドライビング・フォースになりたいと思っています。

増永) 先般、当財団が主催となって、「日中両国の大学における知的財産権人材の育成と産学連携」という日中知財セミナーを開催しました。中国は知的資産に関しては後発です。我々が国内の大学や企業に行おうとしている支援が中国でも実現すれば、もっと伸びるはずです。

強大なポテンシャルを秘めている中国は、今後、さらに強くなってきますので、特許だけでもたくさん出てくると思います。大学と企業だけでなく、国境を越えた橋渡しということになれば、それこそ国際貢献ということになるのかもしれません。

大学改革トピックス

広大な土地を求めて都心部を離れ、郊外へ移転する大学が相次いだのも今は昔。一転、都市中心部へとキャンパスを移す大学が目立ち始めた。そうした大学は、キャンパスを都心へ移す効果、あるいは移転により派生する新たな組織の構築について、いかなるビジョンを描いているのか――。

2006年以降に都心部へキャンパスの移転を予定している神戸学院大学、名古屋学院大学、神戸女子大学のご担当者に詳しい話を伺った。
いずれの大学も、キャンパス移転は改革の一環であるという。共通する「狙い」は、①入学希望者の確保、②地域社会・産業との連携強化、③事務組織の合理化、の3つに集約される。

キャンパス都心回帰は、学生および研究資金の確保のために、あるいは魅力ある大学づくりのためのカンフル剤となるか?

神戸学院大学
田園型と都心型の魅力を併せ持つ

神戸の都心部からほど近いポートアイランドは、神戸空港のオープンを控え、海、空の玄関口としてさらなる発展が期待される地域である。神戸学院大学(神戸市、眞弓忠範学長)は、2007年4月からこの地に4学部(法学部、経済学部、経営学部、薬学部)の新キャンパスを構える。

新設の理由のひとつは、2005年に総合リハビリテーション学部を開設、また、2006年に薬学部が6年制へ移行する状況を受け、手狭な現、有瀬キャンパス(神戸市西区)での拡張が困難になったことにある。2003年に工場等制限法が撤廃され、予てからの移転・拡張計画の実行が可能になった。

神戸市の西端に位置する現キャンパスは、閑静で自然の豊富な、教育環境としては申し分ないという印象を受けるが、宮本常務理事(事務局長)は「交通手段がバス利用で混雑が激しいことと、キャンパスが手狭になってきたことが、学生確保にあたって大きなネックであると考えています。

実際に、神戸の都心部にある他大学と比べ、京阪地区からの志願者が少ないのが実状ですから。このたびのポートアイランドキャンパスの新設によって、入学希望者数が大きく増加すると見込んでいます」と話す。

新キャンパス設置後は、現在の有瀬キャンパス、法科大学院のある長田キャンパスを含めた三つのキャンパスを包括した改革を推進してゆく考えだ。

本部機能はワンストップ対応で合理化

新キャンパスで学ぶ4学部の学生も、教養教育は現キャンパスで受講する。
学年でキャンパスを移動する、いわゆる「学年移転」の形態をとるわけだが、比較的カリキュラム等を組み換えやすい「学部移転」の形態のほうが合理性の点では勝るように思われる。

この点について宮本常務理事は、「確かに、各教員はシャトルバス等を使ってキャンパス間を頻繁に移動しなければならず、労力を必要とします。

一方で、学生にとっては教養教育の間をともに過ごすことで学風を共有し、よい意味での仲間意識を持つことができる利点があります。後に専門性の高い学問を深めていくうえで、これらは大きな財産になるはずです」と話す。

カリキュラムの調整等をはじめ、キャンパス移転に際して生じる事務作業量は膨大であると想像される。移転について、学内における反対意見が当然、あったのではないか。

「キャンパスの移転および拡充は、もともと理事長、学長のもとで進めてきたものです。ただ、具体的に着手するにあたり、法人説明会はもちろん、数え切れないくらい何度も学内会議の場を持ちました。
現段階でも、移転にともなうメリット・デメリットについて逐一議題に挙げ、各担当部署の運営がスムーズにゆくよう確実にコンセンサスを得て進行しています」(宮本常務理事)

移転を契機に、事務組織のスリム化にも取り組み、新キャンパスの事務室(学生・教務・管理などの業務)は原則としてワンフロア・ワンストップでの対応を、また、大学全体の各種会議や管理運営・学籍管理などの統括事務は現キャンパスで執り行うよう役割が整理される。両キャンパス間はネットワークで結ばれ、迅速な情報共有が徹底される。

神戸市、他大学との連携のかたち

移転先であるポートアイランドの用地には、同大学の他にも後述の神戸女子大学、夙川学院大学、兵庫医科大学等が、2006年から順次、新キャンパスを設置する。

神戸市による地域活性化策「神戸際都キャンパス構想」では、神戸における新たな学際拠点として、発展が期待されている。同構想は、五つの「際」(水際・まち際・国際・学際・業際)を巧みに取り入れた21世紀型の新しい都市空間の中枢を目指すものである。

さらに、同大学は阪神・淡路大震災の震源地に最も近い大学として、他大学にはない想いと特色を持ち「地域とともに学ぶ」ことに重きを置いてきた。

2007年から新キャンパスで展開される「防災・社会貢献」に関わる人材育成を図るプログラム(2005年「現代GP」に採択)も、そうしたモットーを反映してのものである。

「都心にキャンパスを設置することの最大の狙いは、産業界・行政機関との連携を強化し、これまで以上に実践的な教育を行うことにある――産官学連携はもちろん、社会人入学や生涯学習などの新たな教育・研究の充実を図るうえで、大きな成果が期待できると見込んでいます。

大学間交流も当然、視野に入れており、四大学間でこれからの連携を進めています。一例として財団法人大学コンソーシアム京都のような、横断的な交流が可能な仕組みを構築してゆきたいと考えています」(宮本常務理事)大学・地域間交流が生み出す、神戸ならではの「連携」に注目したい。

名古屋学院大学
都心環境を最大限にアピール

名古屋学院大学(瀬戸市、小嶋博学長)は、現キャンパスの3学部(経済学部・商学部・外国語学部)すべてを、2007年に新設予定の名古屋キャンパス(白鳥学舎・日比野学舎)へ移転する。現在の瀬戸キャンパスには2006年度に新しく設置する人間健康学部で、約1000人が学ぶ予定だ。

いわゆる「学部移転」の形態を採用し、原則として学生がキャンパス間を移動することは想定していない。教育・研究に用いる図書資料等の利用については、2つのキャンパス間を定期便で結び、必要な情報が迅速に得られるようシステムが整えられる。

キャンパス移転の狙いについて総合政策部部長・永井氏は「ひとつには、交通の利便性が増すことで、通学圏の拡大と入学希望者の増加を見込んでいます。

さらに、大学生活の4年間は多くの出会いがある多感な時期であることを考えると、都心部での生活は、文化的刺激を比較的享受しやすいという点で、学生にとって大きな魅力に繋がると考えています」と話す。

同大学の場合、通学の利便性が高まれば、特に東海・中部圏に住む学生にとってより身近な存在になるであろうことは想像に難くない。
加えて、地域との交流を推進するうえで具体的な方策も掲げられている。

「名古屋キャンパスは、白鳥・日比野両学舎ともに地域活動の場として広く地元市民に利用していただけるよう計画しています。外国語学部の学生を中心に、国際交流を推進するための場を設ける、あるいは生涯学習支援のための公開講座設置、学生によるまちづくり活動の推進、学内の図書館や食堂を市民に開放する等、新たな試みにも取り組んでゆく考えです」(永井氏)

こうした学術的交流にとどまらず、学生に地域の一員として自覚を持たせるためのサポートも行う。また、近隣住民に新キャンパス設置の説明会を行い、学生の交通・生活マナーの遵守を明言する徹底ぶりだ。地域から認められる大学になり得るか――名古屋学院大の手腕が試される。

神戸女子大学
学部新設にあわせ新キャンパスへ

須磨離宮公園のほど近く、自然に恵まれた立地にある神戸女子大学(神戸市、河上誓作学長)は、文学部と家政学部の2学部体制で運営を続けてきた。2006年に1学部1学科の新設、および組織改編に着手するにあたり、現キャンパスの敷地が手狭になったことを受け、ポートアイランド内に新キャンパスの設置を決めた。

ポートアイランドキャンパスには、新設の健康福祉学部の学生約2840人が就学する。新設後は、隣接する神戸女子短期大学とも、従来なかった大学・短大間の交流に積極的に取り組む考えだ。

新学部の設置について文学部長兼学長補佐・今井氏は、
「健康福祉学部の目的は、福祉関係の各種資格取得だけにとどまりません。福祉の持つ役割を広く捉え、日常生活において様々なレベルで人の幸せを支えることができる多様な人材の育成を目指します」と、新学部の社会的意義を話す。

新キャンパスでの教育・研究にあたっては、もちろん神戸医療産業都市構想への参画も視野に入れている。様々な医療・福祉現場と連携し、福祉分野の管理職として活躍できる社会福祉士や保育士、介護福祉士などの育成に取り組んでゆく。

加えて地域との繋がりなくして、これからの新しい福祉教育を行うことはできないとの認識から、社会人入学制度等を整え、生涯学習の拠点にしたいとの構想も持っている。

各キャンパスを繋ぐ司令塔

同学は、須磨キャンパス、ポートアイランドキャンパス、短期大学の他に、活動拠点としてセミナーハウス(ハワイ)、教育センター(神戸市三宮)を有している。それら全体を統一的な教育理念でまとめるために、2006年4月より新たな組織体「神戸女子大学教育研究センター(仮称)」を設ける。

「本センターの機能は、各学部・学科に固有の専門性を尊重しながらも、大学全体に共通する建学の精神を反映した教育方針を企画立案・実践することにあります。

そこで提起するコア・カリキュラムを各学部・学科に降ろし、それぞれの専門教育とリンクさせている――こうしたシステムを活用することで、中規模の大学だからこそ実現できる学際的でユニークな研究に取り組み、大学の特色として打ち出してゆきたいと思います」(今井氏)

複数の活動拠点を持つ大学が増え、教育・研究形態が多様化するなか、大学全体の方針を支える、「司令塔」は、大きな存在となりそうだ。

押し寄せる薬学部新設の波
差別化のための具体策は?

今、なぜ薬学部なのか? 2003年に端を発した薬学部、薬科大学の新設ラッシュが今なお続いている。資格取得を目指す学生にとって薬学部人気は高く、中には学生確保のいち方策として設置に踏み切る大学もあるだろう。

新設増の背景には学校教育法、薬剤師法の一部改正による規制緩和があったとはいえ、薬剤師の需要については早ければ2010年に頭打ちになると試算されており、このままのペースで新設が続けば、薬剤師の供給過多を招く危険が指摘されている。

こうした状況を、薬学部を有する諸大学はどのように受け止めているのか。本誌では、京都薬科大学と広島国際大学の両校に、自学薬学部の展望とあわせ、率直な意見を伺った。

六年制か、四年制か

厚生労働省では、2006年4月からの入学生を対象に、薬剤師養成のための薬学教育について医・歯学部と同様、6年制への移行を義務づけた。薬剤師の資格を必要としないMRや医薬品販売に携わる人材育成、また、研究者を目指す学生のために4年制の設置も引き続き認められる。

こうした状況で、各大学が今後どのような人材を輩出してゆくか、どんな教育方針を打ち出すかといったスタンスの再確認を迫られることは必須であろう。
薬学系の単科大学として120年の歴史を誇る京都薬科大学の西野武志学長は、学内での協議についてこう語る。

「6年制と4年制を併設するか、もしくは6年制1本に統一するかについて、学内での意見は真っ二つに割れましたが、本学は6年制全面移行の道を選びました。6年制移行に反対する先生方にしてみれば、いわば『薬剤師の養成大学』になってしまうことへの危惧が強くあったと思われます」

西野氏は続ける。
「ただ、学生からすれば薬学部に入学して薬剤師の資格を取得できることは大前提だろうと思います。本学としては、高度な薬学専門知識をいかした先導的な研究に取り組み、臨床面のみならず、創薬科学、環境科学、社会科学等の分野にも貢献できる人材を育てたい。

ならば、『6年制=薬剤師育成コース』と決めつけるのではなく、研究者の育成のみならず、研究的視野を持った薬剤師の育成を目指してゆくべきだという結論に至ったのです」


薬剤師が担う社会的役割

2010年にも薬剤師の需要が飽和に達するとの予測について、各大学は対策を講じているのだろうか。薬剤師需要の試算を、薬学業界における発展的要素と捉えているのが広島国際大学・冨士薫薬学部長である。

「薬学部ラッシュについて、否定的な意見が多勢を占めますが、むしろ私は歓迎すべきであると思っています。薬剤師の絶対数が増え、需要が変わらないのであれば、厳しい競争を勝ち抜いた、本当に能力のある薬剤師が揃うはず。これが、ひいては業界全体の財産になってゆくと思います」

さらに冨士氏は「今後、人材育成、教育方針等について明確なビジョンを持たない大学は運営を続けてゆくことが困難です。本学は、豊かな感性と心を持ち合わせた『人間味あふれる薬剤師』の育成を掲げています。

また、薬剤師という職業は今後、医療現場ではチーム医療の一員として専門性を発揮し、薬局等では、『薬のコンサルタント』としてお客様1人ひとりにきめ細かいサービスを提供するなど、活躍の場がより広く深くなる。

そこで、本学では医療福祉学部、保険医療学部等、他の医療系学部との連携を積極的に図り、ハード・ソフト両面で特長をいかした教育を実践してゆきます」と抱負を語る。

各大学に求められるのは、薬学・薬剤師教育に対する社会のニーズを捉え、それに応えるべく教育方針とガバナンスを構築すること――この実行力が成否を隔てるに違いない。