トップページ > ナジックリリース > 第12号 > 評価文化が大学改革を動かす (独立行政法人 大学評価・学位授与機構 川口昭彦)
評価文化が大学改革を動かす
大学評価・学位授与機構は、1991年に学位授与機構として発足、2000年に現機構に改組、2004年4月より、独立行政法人として新たにスタートした。
評価はすでに発展段階へ――大学評価を牽引する同機構の評価の視点と展望を聞いた。
評価研究部長 川口昭彦
聞き手◎ ナジック総合研究所
まず、自己評価ありき
――商品やサービス、あるいは企業自体に対して、「評価」ということがたいへん重視されています。
そうした中、特に「大学評価」が強く求められるのはなぜだと思われますか?
川口部長(以下敬称略) 大学が出遅れたからです。私はよく「評価文化」と言っているのですが、これは、評価の結果を踏まえて今後の方向を考え、創り出し、選択することが、社会における一つの文化になっているという意味です。これが、二十世紀の終わり頃から二十一世紀にかけて、大きな潮流となってきています。
ただし、出遅れたからと言って、決して大学が評価と無縁だったわけではありません。大学の教員は、成績評価、学位の審査等たえず学生を評価してきました。一方で、研究費の採用の審査や科学研究費補助金の交付、学生による授業評価等で評価されてもきたのです。大学は常に何らかの形で評価と関わってきたと言うことができます。
では、なぜ今さら評価なのか――。
ひと言で言えば、今までは基本的に個人評価にとどまっていたということです。しかし、今求められているのは、組織に対する評価、要するに大学という教育組織としてどれだけ力があり、その教育と研究の質がどうなのかという、組織や機関全体に対する評価なのです。
――大学評価・学位授与機構の評価の考え方は、基本的にどのようなものでしょうか。
川口 評価の目的は、大学を画一化するのではなく、それぞれの大学が持つ個性を伸ばしていくことにあります。
そこで当機構では、各大学の個性を尊重し、組織としての目的や目標に即した達成状況について、まず自己評価を実施していただき、その結果に基づきわれわれが評価を実施するというシステムをとっています。昨年、当機構が三年間にわたり実施した試行的評価について検証を行いましたが、結果は非常にポジティブなものでした。
当初はいろいろな意見がありました。例えば、ある大学の学長は「目的に即して評価するというが、俺たちは目的なんて持っておらん」とおっしゃいまして……。実際は、目的がないのではなく、具体的に意識したことがないだけです。それというのも理由があって、これまで掲げられてきた目的が非常に抽象的だったからです。
――ただ、目的に即した評価をするとなると、かなりその目的を具体的かつ明確にする必要がありますね。
川口 例えば「有為な人材を育てます」と言っても、自己評価書にどんな分野かが具体的に書かれてないとよくわからない。評価をするためには、どうしてもそこが必要になりますし、目的を明確化するには、数値目標を設定しなければならない場合もあります。
ただ、教育は往々にして数値目標だけで語ることはできません。もちろん中期目標として数字を出さないといけない部分もありますが、数字になじまない部分もたくさんあります。この数値目標化できない部分も評価しなければならないわけで、これはきわめて難しいことです。しかし、それをどう評価するか。ここにわれわれが担う責任があると思っています。
大学評価の真価
――評価の仕方によって、大学を一定の枠にはめてしまう可能性は考えられませんか?
川口 いいえ。当機構の評価基準では、それぞれの大学がお持ちの目的に即して評価するということが第一条件です。もちろん、その目的が周知されているか、あるいはそれが社会に公表されているかどうかも常に問うています。
組織のあり方についても、大学が設定している研究・教育目的を達成する上で適切かどうかを聞いているのであって、ある一定の体制でなければならないということではありません。
私どもの評価基準は細かく作っていますが、これらはあくまでも目的に照らした評価を行えるよう配慮したものであり、体系的に編成した最低ラインです。これくらいカバーしていなければ、教育機関として社会に出せませんよというメッセージでもあるのです。
――自分自身を正しくつかまないと、改善も改革も適切にできません。大学の自己評価は、適切にできているのでしょうか。
川口 これは私見ですが、自己評価能力について、大学間の差が開いてきているように思います。実際、自己評価者が優れていれば、良いことも改善点についても明確な自己評価書を出してこられます。そういう大学は、評価もスムーズにできるのです。
――アメリカでは評価が即ランク付けになっています。評価は序列化につながっていくのではないでしょうか。
川口 はっきり申し上げておきますが、私どもの機構では決してランク付けを行いません。しかし、評価結果がまったくランキングに使えないということではないのです。どこの大学がどのような面で優れているかが誰が見てもよく分かる評価であれば、ランキングの材料として使われても仕方のないことだと考えているからです。
わが国にはランキングに対して否定的な風潮がありますが、入試には偏差値が、就職にも人気・難易度等のランキングがあります。要するに入口と出口のランキングは歴然とあるわけです。問題なのはランキングの有無ではなく、偏差値など偏った判断しかないという点にあるのではないでしょうか。
そもそも大学教育に関する一番必要なインフォメーションは、偏差値ではなく、在学中に得られる付加価値の高さです。その大学に入学することで、どういう付加価値が得られるか――。大学は、それをしっかりと提示する必要があります。
――もう少し詳しくお話しいただけますか。
川口 例えば、環境学部、環境学科というのがありますが、どの大学も全く同じ研究をしているわけではありません。環境汚染物質を研究するなら自然科学系、環境問題について社会的側面からの解決を模索するなら社会科学系になります。道徳的な問題であれば人文科学系にもなるというように、一口で環境学といっても、いろいろなアプローチがあるわけです。
現状では、そういった情報が流れていないために、受験生や保護者にとって、大学を選ぶ上でもっとも大切な基準が抜け落ちてしまっているのです。逆に言えば、評価結果を利用することで、同分野の学部・学科であってもそれぞれ得意とする研究テーマや教員・施設の充実度をアピールすることもできます。
改革サイクルの起点に
――大学評価については、どの大学もまだまだ手探り状態に思えます。そうした大学に対して、アドバイスをお願いします。
川口 評価というキーワードが法令に現れ始めたのは、一九九一(平成三)年です。それから昨年までの十数年は、いわば評価文化を醸成し、育てる期間だったと思います。
そして、2004(平成16)年からは、評価文化によって大学が発展する時期に突入したと考えています。評価文化の成熟に伴い、各大学がその結果をいかに有効利用できるか、その手腕が問われてきているのです。
昨年、十校ほど大学を訪問しました。そこで非常に印象的だったのが、評価が予想以上に改善に使われているということでした。評価を始めて間もないため、評価結果を踏まえて改善に成功したという事例は必ずしも多くはありません。
しかし、もともと問題として認識されていたのに、どうも学内の議論が進まなかったところへ、第三者の評価で改善すべき点が指摘されたために、学内の改革が一気に進んだという話は非常に多くありました。
今後、評価を受けることで自らの問題点にいち早く気づき、改善へつなげていくという一連の取組みが、ますます大切になります。それができないところが、この先どうなるかは言うまでもないかもしれません。改善の必要な部分、大学の「売り」にしていきたい部分など、重視すべきポイントは何であるかを見極め、はっきり認識することが、個性的な大学づくりにつながっていくのです。
当機構では、そうした流れを踏まえてより汎用性の高い評価システムを整えつつ、常に改善を図っていきます。今後は特に、高い評価能力を持った専門家の育成や、評価結果をわかりやすく公表するための方策などが求められるでしょう。
わが国の評価が国際的に通用するレベルであるかどうかの検証も、重要な課題と捉えています。これまで蓄積してきた評価のノウハウを活かし、それぞれの課題に柔軟に対応するとともに、評価水準の全体的な底上げに取り組んでいく考えです。
川口昭彦 Kawaguchi Akihiko
1942年、台北市生まれ。64年、岡山大学理学部化学科卒業。
69年、京都大学大学院理学研究科化学専攻博士課程単位取得退学。83年、東京大学教養学部助教授、89年、教授。96年、東京大学大学院総合文化研究科教授兼教養学部生命・認知科学科長。2000年大学評価・学位授与機構評価研究部教授。04年、独立行政法人大学評価・学位授与機構評価研究部教授兼評価研究部長。78年に日本脂質生化学研究会千田賞、日本生化学会奨励賞受賞。著書に『生命と時間 生物化学入門』(東京大学出版会)がある。専門は生命科学、大学評価研究。
ポイント
個人評価から、組織・機関全体評価の時代へ。この潮流への即応が各大学に求められている。
大学改革に必要なのは、自らの研究・教育目的を具体的かつ明確にし、しっかりと自己評価を行っていくこと。
評価文化の成熟とともに、自己評価に対する同機構の検証結果をいかに有効利用できるか――その手腕が各大学に問われている。
記事の内容は第12号(2005年5月15日発行)を抜粋したものです。
- 評価文化が大学改革を動かす (独立行政法人 大学評価・学位授与機構 川口昭彦)
- 実績に裏打ちされた客観性で質的向上に貢献する (財団法人大学基準協会 澤田 進)
- ミッションを重視した評価で個性を引き出す 財団法人日本高等教育評価機構 原野幸康 伊藤敏弘
- 競争力の高さが信用獲得のカギに (スタンダード・アンド・プアーズ 吉村真木子)
- 格付けが対話力を上げる (株式会社 日本格付研究所 殿村成信・吉田法男)
- 大学はガバナンスの整備を急げ! (オリックス株式会社 会長兼グループCEO 宮内義彦)
- 多様な価値観が豊かな人間性を育む (神戸大学 学長 野上智行)
- 「新しい産学連携教育の形」を目指すキャリア開発プログラム (亜細亜大学アジア夢カレッジ推進室部長 加藤伸吾)
- 同窓会の一体化で教育理念の強化を目指す (玉川学園・玉川大学 同窓会事務部長代理 宮川 正氏)
- 学生と教員、双方のニーズに応えるキャリア支援 (麻布大学学生部就職課課長 高橋 徹氏)
- 大学スポーツでコミュニケーション能力を獲得 (明治大学硬式野球部監督 川口啓太)
- 学校法人と個人情報保護法 ~個人情報保護で学校法人の「品位」を保つ (株式会社イーエムエスジャパン 深田博史)
- “一人ひとりを大切に”真の学生満足を (学校法人麻生塾 専務理事 古野金廣)