トップページ > ナジックリリース > 第12号 > 競争力の高さが信用獲得のカギに (スタンダード・アンド・プアーズ 吉村真木子)
競争力の高さが信用獲得のカギに
格付け取得の本来的な意義とは何か?
「格付け」への免疫を持たない日本の学校法人が直面する未来とは?
国際的な金融市場分析ならびに発行格付けに高い実績をもつスタンダード・アンド・プアーズに聞いた。
上席アナリスト 吉村真木子
聞き手◎ナジック総合研究所
日本独特の収入構造
――国際的な金融市場において信用リスク分析や格付けサービス等、広く実績をお持ちですが、大学法人を市場としてどう捉えていますか?
吉村氏(以下敬称略)) 2001年に学校債を第三者に売ることが認められたのをきっかけに、将来、大学法人の資金調達は様々に選択肢が広がるだろう。ならばスタンダード・アンド・プアーズ(以下S&P)から何らかのアプローチが可能であると考えました。
そこで、我々がこれまでアメリカやイギリスの大学の格付けを通じて培ってきたノウハウに、日本独自の視点を盛りこみ、わが国の学校法人に対する見方を示したのです。
――日本独自の視点というと?
吉村) わが国の大学法人は、特に事業運営について見た場合、緩やかになったとはいえ法律による規制が強くあり、また独特の事業特性や財務基盤をお持ちです。
中でも収入構造を例にとると、海外の大学は資産運用収入や事業収入にも収入が分散しているのに比べ、わが国では一般的に、学生からの納付金への依存度が高いという大きな違いが見られます。
だからと言って、わが国の大学法人の信用力が劣るわけではなく、むしろ総じて良好であると判断しています。学生数を確保できる限り、財務の安定性は高いですし、加えて有利子負債への依存度が低く、財務内容が極めて健全であることも理由の一つです。
先見性を持ったマネジメント
――大学法人の信用力評価にあたり、特に重視されている点は?
吉村) 事業体として高い競争力を有しているか、その競争力を維持するために、経営陣による的確なマネジメントが行われているかどうかを検証します。つまり、社会や学生から安定した需要を生み出すため、柔軟かつ多様な事業展開を図っているか。
例えば、ご依頼いただいた慶應義塾は、長い歴史に培われた質の高い教育と研究内容に加え、優秀な人材を多く輩出してきた実績をお持ちです。トップレベルの教育・研究内容に加え、この総合的なブランド力が、社会における大学の認知度を高め、学生や外部資金の確保に大きく影響してくると考えています。
――資金確保の面で特に懸念されるのが、18歳人口の減少です。
吉村) 人口減少の問題については、とりわけ先見性をもったマネジメントが求められると思います。先の慶應義塾を初め一部の私立大学では、初等からの一貫教育体制をとることでロイヤルカスタマーを育成し、優秀な学生を確保されています。
その他、法科大学院など専門職大学院の設置も含め、出入り口を多く持とうとする方策を、S&Pはポジティブに評価します。
――日本の大学の国際的な競争力については、どう見ておられますか?
吉村) 現時点では、マーケットの規模と特徴から判断し、国内の競争関係をベースに評価しています。それでも長期的に考えた場合、人口減少の問題がありますので、国外からの学生や資金の確保が必要となる可能性があります。
ハーバードやスタンフォードといったアメリカのトリプルA格の大学は、世界を舞台に学生や教員を集める力を持っています。その意味では、日本の学校法人はいわゆる名門であっても、国際的なレベルで本格的に競争する状態にはなっていないと考えています。
世界の投資家が注目する
――国立大学法人が将来、起債のために格付けをとることもあり得ますか?
吉村) 不可能ではないですし、将来的には興味をお持ちなのではないでしょうか? ある程度時間はかかると思いますが、学校法人における格付けが広がり、マーケットに出て行かれるようになれば、多くの投資家が興味を持たれることでしょう。
何より事業内容が明確ですし、特に個人の投資家にとって、大学という知名度の高さが訴えるところは大きいと思います。
――S&Pではソブリン格付け(国債)をダブルAマイナス、慶應義塾と上智学院にはダブルAをつけておられます。つまり、国債よりこれら二校のほうが信用力が高いと?
吉村) そういうことです。国がデフォルト(償還不可)の状況になっても同時にデフォルトする可能性は低いという判断です。
一つには、両校とも政府からの補助金が1割程度にとどまっており、これが全くなくなっても経常的な収支と債務の履行に支障を来さないであろうと。債務の償還能力という点では、事業体が国を上回ることがあってもおかしくはありません。
――今後、格付けを取得されようとしている学校法人にアドバイスを。
吉村) われわれの特徴は、国際比較が可能である点です。S&Pの格付けは、グローバルに投資を行う全世界の投資家が注目していますから、国際マーケットにアプローチされる際、われわれの評価を利用していただくことで、学校法人としての水準を、早く正確にアピールすることができると思います。
また、投資家向けだけではなく、例えば海外の大学との連携や留学生の受入れなど、世界中の大学とアライアンス(提携)先を模索する際にも、極東アジア地域における有力なシグナルとなるでしょう。
日本の大学は今、変化と改革の只中にあります。これまで4校の経営トップの方にインタビューして最も印象的だったのが、経営について50年、100年といった長期的な視点を持っておられることでした。一般の事業会社は、10年単位といったもう少し短い事業サイクルで経営されておられますから。
教育というのは一朝一夕に価値が測れないからこそ、トップ経営者に確かな先見性に基づく経営能力と実行力が不可欠だと思います。
そうした意味で、格付けはマネジメントを見直すきっかけにもなりますし、実際にそのようなフィードバックも頂戴しています。わが国の学校法人にとって、格付けが競争力を高めるツールであるとともに、国際舞台へのパスポートとなることを期待しています。
ポイント
1916年より世界各国で多岐に渡る分野への格付け実績を築く。グローバルな投資を行う投資家に向け、格付けを初めさまざまな金融情報およびサービスを提供。
2004年、慶應義塾を皮切りに東京理科大、青山学院、上智学院に格付けを付与。アウトルックはいずれも安定的とした。
一方で、海外の大学との比較から、定量的・定性的にも競争力強化の必要性を示唆。資金調達、ガバナンス、出入り口の拡大等、長期的ビジョンの構築と実践的戦略が不可欠と主張。
記事の内容は第12号(2005年5月15日発行)を抜粋したものです。
- 評価文化が大学改革を動かす (独立行政法人 大学評価・学位授与機構 川口昭彦)
- 実績に裏打ちされた客観性で質的向上に貢献する (財団法人大学基準協会 澤田 進)
- ミッションを重視した評価で個性を引き出す 財団法人日本高等教育評価機構 原野幸康 伊藤敏弘
- 競争力の高さが信用獲得のカギに (スタンダード・アンド・プアーズ 吉村真木子)
- 格付けが対話力を上げる (株式会社 日本格付研究所 殿村成信・吉田法男)
- 大学はガバナンスの整備を急げ! (オリックス株式会社 会長兼グループCEO 宮内義彦)
- 多様な価値観が豊かな人間性を育む (神戸大学 学長 野上智行)
- 「新しい産学連携教育の形」を目指すキャリア開発プログラム (亜細亜大学アジア夢カレッジ推進室部長 加藤伸吾)
- 同窓会の一体化で教育理念の強化を目指す (玉川学園・玉川大学 同窓会事務部長代理 宮川 正氏)
- 学生と教員、双方のニーズに応えるキャリア支援 (麻布大学学生部就職課課長 高橋 徹氏)
- 大学スポーツでコミュニケーション能力を獲得 (明治大学硬式野球部監督 川口啓太)
- 学校法人と個人情報保護法 ~個人情報保護で学校法人の「品位」を保つ (株式会社イーエムエスジャパン 深田博史)
- “一人ひとりを大切に”真の学生満足を (学校法人麻生塾 専務理事 古野金廣)