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ミッションを重視した評価で個性を引き出す
日本私立大学協会が母体となって、私立大学のありようを重視した評価機関を謳う日本高等教育評価機構を設立。私学に特化する評価方法とは? 原野専務理事と伊藤評価事業部長に聞いた。
専務理事 原野幸康
評価事業部長 伊藤敏弘
聞き手◎ナジック総合研究所所長 小川弘行
私学に特化した評価
――大学評価・学位授与機構に大学基準協会……競合がひしめく分野に、あえて参入を決められた経緯は?
原野専務理事(以下敬称略)) 日本高等教育評価機構(取材時は認証申請中)の支援元である日本私立大学協会(私大協)では、2000年の時点で、附置機関として私学高等教育研究所を設立し、以降、私立大学の立場から今後必要となる大学評価システムの具体的なありようを研究してきました。
2002年に、同研究所は中間報告として研究成果を提示。大学評価のあり方として「①設置運営形態の異なる国公私立大学に対して、それぞれの形態に対応できる多元的な評価システム」「②私立大学の規模と多様性に対応できる柔軟かつ弾力的評価システム」の構築が必要との基本認識を得ました。
これらを踏まえ、私大協は私立大学の特性に対応した評価システムを持つ第三者評価機関を自ら設立することとし、評価事業は中立、公正および公益性の強い事業であるとの判断から、財団法人組織による公益法人として本機構を設立するに至ったのです。
考えてみれば、わが国の大学の実に73パーセントが私立大学。機関評価、部門別評価の違いはあるにせよ、教育を中心とした評価というならば、私立大学に特化した評価機関があってもいいではないかということです。
――私立大学の特性とは?
原野) 私立大学とはつまり学校法人であり、その学校法人の中心とは「建学の精神」です。
純粋たる教育の情熱に燃えた先達が自らの哲学のもと、私財を投じ学校法人を設立する。
そして校舎を建設し、学長を擁し、教職員を雇用し、建学の精神に基づいた教育が行われるよう委譲する。これが私学の基本です。
建学の精神を中心に、どのような研究・教育を展開し、どのように社会の役に立ち、どんな人材を養成していくか――こうした「ミッション(使命)」は国公立大学にはないものであり、われわれはこの部分を決して蔑ろにはしたくないのです。
評価基準の特徴
――ミッションを評価するのは難しくないですか?
伊藤部長(以下敬称略)) 「基準1」はミッションの貴賤を問うものではありません。建学の精神が明確に示されているか。使命・目的が学内外に示されているか。
そして、それらが教職員、学生を初めとする関係者に周知され、教育・研究等に反映されているかを検証します。特徴としては「基準6」の「職員」の項目も挙げられます。「教職員」と一括りに扱うことが多いのですが、われわれは学生(基準4)、教員(基準5)と等価に評価します。
また、わが国における高等教育の大衆化を図ったのは他ならぬ私学であるという観点から、地域貢献、連携を重視すべきとし、基準10に「社会連携」を挙げています。さらに、アメリカではインテグリティー(誠実性)と表現しますが、何か起こったときの体制、すなわちコンプライアンス/クライシス・マネジメントを、基準11の「社会的責務」で評価します。
原野) さらに11の項目に加え、特記事項を設けています。アピールしたいことを大いに書いていただこうというものです。評価の対象とはしませんが、事実の確認はします。嘘を書いてもらっては困りますから(笑)。
伊藤) 各基準では「領域」として具体的な範囲を示し(例えば「基準3」教育課程の領域は目標、内容、学習量、教育評価等)、さらに3-1、5-3など各基準を細分化した項目を挙げています。特徴ということであれば、これらに付随する「例示」もその一つでしょう。
例えば基準3(教育課程)では、「建学の精神、目的に沿ったカリキュラム編成」や「導入教育等の工夫」「学生のニーズを踏まえたカリキュラムの整備」といった具合に、各基準に5項目以上の例示をしています。例示はあくまでもガイドラインでして、これらに従って領域の範囲内において、各大学で自由に項目を設定し、説明していただくことにしています。
――なぜですか?
伊藤) 他の評価機関では、これに相当する部分を「観点」として、微に入り細を穿った質問項目を網羅しています。しかし、われわれとしては各大学で独自の項目を設定していただきたい。というのも、そうすることが、見直しという点では最も成果が得られると考えるからです。
原野) 自ら項目を設定し説明するのはとても難しいのですが、課題を洗い出し、特徴を再認識するためには、一番有効なのではないかということです。
窓拭きに徹する
――他の認証評価機関と同様、自己点検・評価を基本に据えられています。
原野) 第三者評価は自己点検・評価を通じた活性策の「手段」の一つであって、決して「目的」ではありません。
わが国の学校法人は世界的に見て、仕組みとしても優れており、各校、本当にいいものを持ってらっしゃるし、質も高い。
なぜなら、大学設置基準をクリアすることで、アクレディテーション(品質保証)を既に得ているからです。その上で、各校が個性豊かに充実・発展し、社会に貢献する。また、いい人材を輩出する。そうした目的に向かってどのように考え行動しているかを見つめ直すきっかけをわれわれが提供し、引き出したいわけです。
私は評価機関の役割を「窓拭き」と表現するのですが、ガラスが汚れ、また曇ってしまって中がよく見えない。そのガラスをきれいにすることによって、大学の中身、つまり特徴や強みといったものが見えるようにするということです。われわれは当面の間、学校法人の窓拭きに徹することで、中身の整理・整頓のための刺激剤であらねばならないと考えています。
伊藤) 評価基準について総括的な表現をしますと、われわれは「定量評価」ではなく「定性評価」に重きを置きたいと考えています。蔵書数や研究論文の引用件数、また敷地の坪数や建造物など、定量的な要素も無関係ではありませんが、それらは大学設置基準でクリアされている。
先に説明した「例示」のスタンスに象徴的な部分、つまり各学校法人に合った評価基準をそれぞれ設けることで、定性的な評価もあり得ることを理解していただくということも、われわれの仕事の一つだと考えています。
「大学とは何か」を強調
――今後の抱負をお聞かせください。
原野) われわれは一言でいえば「後発」ですが、いがみ合いや掟破りをする気は全くありません。わが国の大学が個性化を進め、世界と伍するまでに充実することを願い、評価機関同士、ある部分は協調し、ある部分は尊重し合いながら、高等教育の発展に寄与していきたいと考えています。
日本高等教育評価機構では認証取得に先駆け、試行評価を行いました(金沢工業大学と文化女子大学)。両校ともわれわれの意向を汲み取って、きっちり100ページのレポートを提出してくださいました。
そのプロセスと結果を踏まえ、認証評価機関としての責務を果たせることを充分に検討、確認し申請を行ったわけですから、承認の早い・遅いは、われわれにとってあまり意味のないことなのです。
幸い、評価員に関してもすでに230以上の大学から500名程度の登録を得ています。将来的には大学評価を専門とする海外の研究者も加え、世界的なレベルでの評価を大きな特徴としていくつもりです。
日本高等教育評価機構では、大学評価を通じて、「大学とは何か」を再度強調したいと考えています。
昨今、専門学校も短期大学も4年制大学も、職業訓練校化やボーダレス化が進み、また、営利主義、マーケット主義が蔓延しています。
一定の年齢を、一定の場所で、一定の期間過ごすという学校教育制度が崩壊したとも言える状況で、大学がどう存在していくのか?
それをともに考え具現し、学校法人の自己改善と自助努力を最大限に支援していく――これができないのであれば、われわれ、そして認証評価機関、さらに認証評価制度自体の存在価値など、ないに等しいのです。
原野幸康 HARANO Yukiyasu
1955年、明治大学政経学部政治学科卒業。ただちに日本私立大学協会入職。同協会機関誌「教育学術新聞」編集長を経て編集発行人。91年、日本私立大学協会事務局長。92年、全私学連合ならびに日本私立大学団体連合会事務局長併任。98年、同協会常務理事、2004年、財団法人日本高等教育評価機構専務理事兼事務局長(現職)。その間、IAUP(世界大学総長協会)事務総長歴任。メキシコ国グアダラハラ自治大学名誉博士号。1996~97年、高等教育・オブ・イヤー(英国)選定。その他。学校法人理事のオイスカ副会長、日本イスラエル協会理事、学生サポートセンター理事など。桜美林大学非常勤講師。
伊藤敏弘 Ito Toshihiro
1990年、米国オレゴン州、ポートランド州立大学経済学部卒業。91年、IAUP(世界大学総長協会)日本事務局へ入職。93年、日本私立大学協会へ入職。99年、同協会事務局主任。2002年、同協会附置私学高等教育研究所主任兼任。2005年、財団法人日本高等教育評価機構評価事業部長(現職)。
ポイント
私立大学をメインターゲットに据える評価機関として、現在認証取得申請中。将来的には短期大学などの評価も視野に入れる。
私学の最大の特徴を「ミッション」と位置づけ、その浸透度合いやアカウンタビリティーを評価項目の一つに設定している。
第三者評価は自己点検・評価を促す「手段」であって「目的」ではないことを強調。
記事の内容は第12号(2005年5月15日発行)を抜粋したものです。