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格付けが対話力を上げる

学校法人をとりまく経営環境が厳しさを増す中、「自立的な」経営が喫緊の課題として浮上している。学校法人をいち経営体とみた現況および将来性は――日本格付研究所に聞いた。

株式会社 日本格付研究所
シニア・アナリスト 殿村成信
学校法人格付グループ チーフ・アナリスト 吉田法男
聞き手◎ ナジック総合研究所

将来構想に照らした財務力

――これまで、国内の企業を中心に格付実績をお持ちですが、企業と学校法人で着眼点は違うのですか?
殿村氏(以下敬称略)) 格付けの原則は、財務面での信用リスクをはかるという点にあり、これについては共通しています。そのため、アプローチの仕方について両者に大きな違いはないのですが、民間企業と比べて学校法人の方が、より定性分析を重視する必要があると考えています。

――というのは?
殿村) 学校法人は、「教育・研究」を事業特性とする非営利法人です。それゆえ、財源となる学納金や政府の補助金等を長期的に確保するには、カリキュラムや設備の充実、学術研究のレベルアップ、さらに入口・出口対策といった取組みがポイントになります。

つまり、これら定性的要素について確かな将来構想を持ち、それを実行するための具体策とガバナンスが構築されているかが、信用評価を行う上で、とても重要になると捉えています。

――学校法人では、青山学院と共立女子学園の2校を格付けされています。
殿村) 青山学院は複数機関から格付けを取得されたわけですが、教学・経営両者の協調性が高く、安定した志願倍率を確保されており、将来的にも高い財務力を維持されると判断できます。こういった学校法人は、国際交流や産学連携、資金調達など一段上のステージを目指して格付けを取得されます。

一方の共立女子学園は、中堅の私立女子校として、他校と同様、志願者確保や経営体制の見直しなどいくつか課題を抱えておられました。ただ、法人スタッフが高い危機意識を持って具体策に取り組まれており、また、ステークホルダーに向けて財務情報をいち早く開示されたことなどを総合的に判断し、格付けさせていただいています。

――格付けの取得には起債以外の目的もあると――。
殿村) そうです。先の共立女子学園では、格付けを得たことで学内の全スタッフに危機意識を行き渡らせることができ、財務戦略を進める上での基盤が整ったとご報告をいただきました。格付取得の目的や結果は、時代背景や各校の状況に応じて変化していきます。

吉田氏(以下敬称略)) 例えば、現状で潤沢な財源を持った学校法人であれ、将来キャッシュフローにおいてリスクへの抵抗力が低いと判断されれば、低格付けを得るケースもあります。格付けは、絶対的な視点で信用リスクをはかるものであり、相対的評価であるランキングとは明らかに性格が異なることを、強調しておきたいと思います。

USRと格付け

――学校法人の事業体としての存続を考えた場合、リスクとしてもっとも注目している要素は何ですか?
吉田) 私どもは、先ほど申し上げた定性分析の中でも、特に「学校法人の社会的責任(USR)」が重要になってくるとみています。CSRの必要性はすでに広く言われていますが、学校法人には、社会に対するより高度で緻密な責任対応が求められると思います。

実際の調査では、まず、学校法人の経営陣が戦略の一環としてUSRマインドを醸成できているか、続く評価項目として、「コンプライアンス体制の整備・運営」や「情報開示強化への取組み」などについてみていきます。

殿村) 特に、運営・財務等の情報開示は早急の課題と言えるでしょう。学校法人にとってのステークホルダーが誰にあたるかを考えてみると、学納金を納める父兄、補助金・借入金を納める政府や銀行、その他、産学連携を行う企業などが挙げられます。

これまでは、これらステークホルダーに対して、為されて当然の説明がなかったわけですが、今後、継続して資金を確保するためには、情報を積極的に開示し、彼らの理解を得ていくことが不可欠になるでしょう。

――学校法人の情報開示の仕方について、現状をどう捉えておられますか?
殿村) 財務情報の公表一つをとっても、HP等に決算書を貼り付けただけのところもあれば、将来構想との関連を示しながら、わかりやすく解説しているところもあります。説明責任の果たし方に、差が開いてきている事実は否めません。

情報発信のスピーカーとして

――格付取得を検討中の学校法人に向けて、アドバイスをお願いします。
吉田) 私どもは、格付けが学校法人にとって「情報の非対称性」解消のために有効であると考えています。格付けは、学内におけるリスクの共通認識はもちろん、学外においてステークホルダーと大学との共通理解を図るツールになり得ます。

ここ10年ほどで、当社が担当した格付取得会社の数は約2倍にも達しています。その背景には、社債市場の普及のみならず、厳しい経営環境において、格付けを得ることでステークホルダーに対する信用力をアピールできる、特に財務面での不透明性を解消できるという狙いも多分にあると思われます。

では、学校法人にとって格付取得の意義や効果は何かと問われれば、現時点では、ステークホルダーをはじめ社会へ向けて事業情報をわかりやすく発信できる、つまり広報業務においてもっとも大きな貢献を果たすということになりましょう。その上で、将来、独自に経営資金を調達されるにあたり、格付けを利用されるケースが増えていくと予測しています。

殿村) 私どもは、学校法人は本来、さまざまな人に受け入れられる事業体であるべきと考えています。今後は、教育に関する社会のさまざまな期待やニーズを受け止め、こまめにレスポンスしていく姿勢が求められます。

そこで、少し唐突に思われるかもしれませんが、格付会社を「情報発信のスピーカー」と捉えてみてください。これまで、財務をはじめ研究・教育活動等の情報は、教育関係者らによる発信が大半でした。

そうした従来の流れに一石を投じる意味でも、教育界から距離を置く第三者の判断による、「一歩踏み込んだ信用リスク」を公表される意義は大きいと思います。

ポイント

1985年設立。600社を超える本邦企業への格付実績を持ち、特にノンバンクを含む金融業、流通・サービス業など非製造業各分野のカバー率が高い。学校法人の格付公表は現在2校。
学校法人格付けの指針は「将来構想」「建学の精神・ガバナンス」の二本柱。定量分析はもとより定性分析を重視し、将来キャッシュフローの安定性を判断。
大学の社会的責任に対する取組みに注目。「私立大学社会的責任(USR)研究会」にオブザーバーとして参加している。

大学改革提言誌「Nasic Release」第12号
記事の内容は第12号(2005年5月15日発行)を抜粋したものです。
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