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多様な価値観が豊かな人間性を育む
多様な価値観が豊かな人間性を育む
聞き手◎学生情報センターグループ代表 北澤俊和
神戸市灘区六甲台――神戸港から大阪港までが一望できる六甲山麓の風光明媚なロケーションに位置するのが国立大学法人・神戸大学である。六甲台キャンパスにある第一学舎、講堂、兼松財閥の寄付により設立された経済経営研究所や社会科学系図書館は、国の登録有形文化財として登録されており、アカデミックな雰囲気を醸成している。
講義中に外国航路船の汽笛を聞くことができるのもこの大学ならではで、夜間には「1000万ドルの夜景」を見ることができるという。
六甲台にある社会科学系三学部(経済学部、経営学部、法学部)はすべてCOE(世界最高水準の研究教育拠点)に指定されており、その実力はすでに保証済み。
キャンパス中腹の本部棟にある学長室で、二期目を迎えた野上智行学長に話を聞くことができた。学長は穏やかな人柄を映した語り口で、法人化の諸課題から神戸大学のビジョンと具体策、そして「震災」との関わりまで、幅広く話してくださった。
中期目標・計画、以前と以降
――学長2期目を迎えられました。
野上学長(以下敬称略)) この4年で国立大学自体も、それを取り巻く状況もすっかり様変わりしてしまったことは、皆さんもご存じの通り。国立大学法人に課される中期目標・計画を策定した者が、その達成を図るのは当然の責務であり、重責を引き続き預かることには、身が引き締まる思いです。
それは、運営交付金が削減されることが明白な中で、中期目標・計画を達成することは果たして可能なのか。さらに一連の過当競争において神戸大学はサバイヴできるのかという、より切実な緊張感につながるわけで、その意味では「身が引き締まる」どころの問題ではないのかもしれない。これが率直な心境です。
――目標・計画達成の見通しは?
野上) 国立大学法人という課題の少なくない仕組みをうまく走らせるためには、神戸大学が独自に展開できることと、国立大学法人全体が覚悟しなければならないことの両方があると思っています。経営協議会で課題を明確にしつつ、本学の総ての構成員が法人化の課題を理解し、協同して一つひとつの課題を克服していく努力を積み重ねているところです。
国立大学法人の受益者
――授業料の値上げが決まりました。
野上) 授業料改定についての説明は、ホームページにもアップロードしていますが、学生および受験生にはどうか理解していただきたい。
国が定める授業料標準額に合わせないと、その差額は端的に収入減につながります。2007年度からの全学共通教育科目のカリキュラムの全面改定などに先行している環境整備は、今後もいっそう強化していかなければならないにもかかわらず、収入減に加え、運営費交付金が一定のルールで減額されることになっている。
来年度に授業料を値上げしなければ、教育・研究や学生生活の環境整備に重大な支障を来してしまうのです。
もちろん経費節減、財源確保などにより財政基盤の確立を図りながら、教育・研究のクオリティー、学生サービスの向上に努めていくことに、変わりはありません。
――自主性を謳いつつ、依然、官主導の構図は否定できない……。
野上) 先般の会合で、授業料改定に関して「受益者負担」の議論がありました。「国立大学法人にとっての受益者とは誰か?」という問いに、「受益者は一般的には学生」という考え方が示されたのに対して、「国立大学法人の受益者は国であり、国民全体が受益者である」という強い意見がありました。
前者は当然ですが、後者の立場を失うと日本の高等教育は崩壊するのではないかと危惧します。国立大学法人の存在意義の捉え方からして、乖離があるような気がしてなりません。
ドメスティックな競争は眼中にない
――これから先の「神戸大学らしさ」とは?
野上) われわれは今後、国際的な競争環境の中で存在意義を認められる大学として成長する必要があります。そのためには国際水準の研究教育を実現することが不可欠。その点からも、以前から積極的に取り組んできた国際教育の成果が問われることになる。
もっとも、私の頭の中には、国内の大学と張り合おうという発想はありません。文字通り「国際的」な競争に耐え得る教育・研究内容によって、より大きく羽ばたくことを目指しているのです。
――具体的にはどのようなことに取り組んでいますか?
野上) どのような職種であっても、国際社会で力を発揮するためには、豊かな人間性と専門性が不可欠です。その上で、英語が使いこなせるのは当然として、英語以外にもう一つの言語を習得できるようカリキュラムを策定しています。
――国際コミュニケーションセンターの設立もその一環ですね。
野上) その通りです。外国語あるいは国際コミュニケーション能力は、教室の中だけでマスターできるものではなく、より深く外国語を学べる仕組みが必要だったからです。同センターでは、15名の専任教官や留学生パートナーが常駐し、オリエンテーションを交えた外国語学習ができます。
EUに学ぶ「国際性」
――ヨーロッパとの連携を強化されていますね?
野上) 本学が幹事校となり、関西学院大学、大阪大学とともに、本年4月に「EUインスティテュート・イン・ジャパン関西」を発足させました。EUの行政機構である欧州委員会が資金を拠出し、わが国の大学と連携して設置した研究教育機関であり、この機関を通して、EUとの深いつながりができました。
ここでは、政治的、経済的な統合が進んでいるヨーロッパの状況等の研究を進めるとともに、環境や医療の分野も含めて相互の交流活動を進めます。
――なぜEUなのですか?
野上) EUという存在自体が非常に気になるんです。伝統・文化があれだけ違う、そして大きく悲惨な戦争を幾度も体験した国々が、EUという一つの試みを展開しようとしている。苦しんだにもかかわらず一つのゴールに向かって歩もうとする、その姿は学ぶに値するものです。
――EU自体が「多種多様性」や「共生」の鑑ですからね。いわゆる「国際感覚」は、単に母国語以外の語学が堪能というだけではありません。
野上) 国際社会においては、一人ひとりの人間が、多様な価値観の存在を知り、自身のバックグラウンドとなる豊かな教養を身につけ、人間性豊かに成長していくことが最も大切です。
その意味で、外国語の習得は他の文化を理解しようと努めることであり、大学は、さらに大きな視点で学生たちの人間力を養成していかなければならないといえます。
先だっては、ドイツ連邦議会議長のヴォルフガング・ティールゼ氏を招き、学生との交流会を開催したのですが、学生たちが自らの専門分野を生かし、高度な内容の討論をしていたことが、とても印象的でした。
ティールゼ氏からも「学生は大学の宝。これほどまでに優秀な学生が多いことは、ノガミさん、誇りだよね」との言葉をいただきました。本学の国際教育が、確実に実を結んでいることが実感できたエピソードです。
「震災」と神戸大学――地域との共生
――阪神・淡路大震災以降、何か変化はありますか?
野上) 震災時、地域あるいは小さなコミュニティーの中で、さまざまな活動が行われましたが、その時に使われた回覧板から本当に小さなメモ1枚まで、膨大な資料を収集し、デジタルアーカイヴ化して、世界中からアクセスできる「電子図書館」を、われわれの責務として構築しています。
さらに、震災以降、ボランティアに積極的に取り組む風土が本学に生まれました。本学には、学生が自主的に結成したボランティアグループがたくさんあり、それらを統括する組織も存在します。
中には日本各地で災害が発生したとき、現地に出向いてボランティア活動に取り組むものもあり、その功績は各方面から高く評価されています。
このように、真の「国際性」を身につけるとともに、地域との共生にも真摯に取り組む――人間的に豊かで素晴らしい学生たちが数多く育っていることは、神戸大学、そして私自身にとっても、大きな誇りなのです。
野上智行 Nogami Tomoyuki
1946年生まれ。68年3月に広島大学教育学部を卒業し、75年、同大学大学院教育学研究科(修士課程)を修了。78年に同大学院教育学研究科(博士課程)を単位修得退学。92年に博士(教育学)〈広島大学〉となる。79年4月から広島大学教育学部助手、翌年4月から広島女子大学家政学部講師を務め、83年4月に広島女子大学家政学部助教授。その後、アメリカのコロンビア大学客員研究員、神戸大学教育学部助教授、同教授、同発達科学部教授、同発達科学部附属人間科学研究センター長、同発達科学部附属幼稚園長・附属明石小・中学校校長、同発達科学部長、同教育学部長、同大学院総合人間科学研究科長などを経て、2001年2月に神戸大学長となり現在に至る。専門は科学教育論。
記事の内容は第12号(2005年5月15日発行)を抜粋したものです。