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評価文化が大学改革を動かす

大学評価・学位授与機構は、1991年に学位授与機構として発足、2000年に現機構に改組、2004年4月より、独立行政法人として新たにスタートした。
評価はすでに発展段階へ――大学評価を牽引する同機構の評価の視点と展望を聞いた。

独立行政法人 大学評価・学位授与機構
評価研究部長 川口昭彦
聞き手◎ ナジック総合研究所

まず、自己評価ありき

――商品やサービス、あるいは企業自体に対して、「評価」ということがたいへん重視されています。
そうした中、特に「大学評価」が強く求められるのはなぜだと思われますか?

川口部長(以下敬称略) 大学が出遅れたからです。私はよく「評価文化」と言っているのですが、これは、評価の結果を踏まえて今後の方向を考え、創り出し、選択することが、社会における一つの文化になっているという意味です。これが、二十世紀の終わり頃から二十一世紀にかけて、大きな潮流となってきています。

ただし、出遅れたからと言って、決して大学が評価と無縁だったわけではありません。大学の教員は、成績評価、学位の審査等たえず学生を評価してきました。一方で、研究費の採用の審査や科学研究費補助金の交付、学生による授業評価等で評価されてもきたのです。大学は常に何らかの形で評価と関わってきたと言うことができます。

では、なぜ今さら評価なのか――。
ひと言で言えば、今までは基本的に個人評価にとどまっていたということです。しかし、今求められているのは、組織に対する評価、要するに大学という教育組織としてどれだけ力があり、その教育と研究の質がどうなのかという、組織や機関全体に対する評価なのです。

――大学評価・学位授与機構の評価の考え方は、基本的にどのようなものでしょうか。
川口 評価の目的は、大学を画一化するのではなく、それぞれの大学が持つ個性を伸ばしていくことにあります。

そこで当機構では、各大学の個性を尊重し、組織としての目的や目標に即した達成状況について、まず自己評価を実施していただき、その結果に基づきわれわれが評価を実施するというシステムをとっています。昨年、当機構が三年間にわたり実施した試行的評価について検証を行いましたが、結果は非常にポジティブなものでした。

当初はいろいろな意見がありました。例えば、ある大学の学長は「目的に即して評価するというが、俺たちは目的なんて持っておらん」とおっしゃいまして……。実際は、目的がないのではなく、具体的に意識したことがないだけです。それというのも理由があって、これまで掲げられてきた目的が非常に抽象的だったからです。

――ただ、目的に即した評価をするとなると、かなりその目的を具体的かつ明確にする必要がありますね。
川口 例えば「有為な人材を育てます」と言っても、自己評価書にどんな分野かが具体的に書かれてないとよくわからない。評価をするためには、どうしてもそこが必要になりますし、目的を明確化するには、数値目標を設定しなければならない場合もあります。

ただ、教育は往々にして数値目標だけで語ることはできません。もちろん中期目標として数字を出さないといけない部分もありますが、数字になじまない部分もたくさんあります。この数値目標化できない部分も評価しなければならないわけで、これはきわめて難しいことです。しかし、それをどう評価するか。ここにわれわれが担う責任があると思っています。

大学評価の真価

――評価の仕方によって、大学を一定の枠にはめてしまう可能性は考えられませんか?
川口 いいえ。当機構の評価基準では、それぞれの大学がお持ちの目的に即して評価するということが第一条件です。もちろん、その目的が周知されているか、あるいはそれが社会に公表されているかどうかも常に問うています。

組織のあり方についても、大学が設定している研究・教育目的を達成する上で適切かどうかを聞いているのであって、ある一定の体制でなければならないということではありません。
私どもの評価基準は細かく作っていますが、これらはあくまでも目的に照らした評価を行えるよう配慮したものであり、体系的に編成した最低ラインです。これくらいカバーしていなければ、教育機関として社会に出せませんよというメッセージでもあるのです。

――自分自身を正しくつかまないと、改善も改革も適切にできません。大学の自己評価は、適切にできているのでしょうか。

川口 これは私見ですが、自己評価能力について、大学間の差が開いてきているように思います。実際、自己評価者が優れていれば、良いことも改善点についても明確な自己評価書を出してこられます。そういう大学は、評価もスムーズにできるのです。

――アメリカでは評価が即ランク付けになっています。評価は序列化につながっていくのではないでしょうか。
川口 はっきり申し上げておきますが、私どもの機構では決してランク付けを行いません。しかし、評価結果がまったくランキングに使えないということではないのです。どこの大学がどのような面で優れているかが誰が見てもよく分かる評価であれば、ランキングの材料として使われても仕方のないことだと考えているからです。

わが国にはランキングに対して否定的な風潮がありますが、入試には偏差値が、就職にも人気・難易度等のランキングがあります。要するに入口と出口のランキングは歴然とあるわけです。問題なのはランキングの有無ではなく、偏差値など偏った判断しかないという点にあるのではないでしょうか。

そもそも大学教育に関する一番必要なインフォメーションは、偏差値ではなく、在学中に得られる付加価値の高さです。その大学に入学することで、どういう付加価値が得られるか――。大学は、それをしっかりと提示する必要があります。

――もう少し詳しくお話しいただけますか。
川口 例えば、環境学部、環境学科というのがありますが、どの大学も全く同じ研究をしているわけではありません。環境汚染物質を研究するなら自然科学系、環境問題について社会的側面からの解決を模索するなら社会科学系になります。道徳的な問題であれば人文科学系にもなるというように、一口で環境学といっても、いろいろなアプローチがあるわけです。

現状では、そういった情報が流れていないために、受験生や保護者にとって、大学を選ぶ上でもっとも大切な基準が抜け落ちてしまっているのです。逆に言えば、評価結果を利用することで、同分野の学部・学科であってもそれぞれ得意とする研究テーマや教員・施設の充実度をアピールすることもできます。

改革サイクルの起点に

――大学評価については、どの大学もまだまだ手探り状態に思えます。そうした大学に対して、アドバイスをお願いします。
川口 評価というキーワードが法令に現れ始めたのは、一九九一(平成三)年です。それから昨年までの十数年は、いわば評価文化を醸成し、育てる期間だったと思います。

そして、2004(平成16)年からは、評価文化によって大学が発展する時期に突入したと考えています。評価文化の成熟に伴い、各大学がその結果をいかに有効利用できるか、その手腕が問われてきているのです。

昨年、十校ほど大学を訪問しました。そこで非常に印象的だったのが、評価が予想以上に改善に使われているということでした。評価を始めて間もないため、評価結果を踏まえて改善に成功したという事例は必ずしも多くはありません。

しかし、もともと問題として認識されていたのに、どうも学内の議論が進まなかったところへ、第三者の評価で改善すべき点が指摘されたために、学内の改革が一気に進んだという話は非常に多くありました。

今後、評価を受けることで自らの問題点にいち早く気づき、改善へつなげていくという一連の取組みが、ますます大切になります。それができないところが、この先どうなるかは言うまでもないかもしれません。改善の必要な部分、大学の「売り」にしていきたい部分など、重視すべきポイントは何であるかを見極め、はっきり認識することが、個性的な大学づくりにつながっていくのです。

当機構では、そうした流れを踏まえてより汎用性の高い評価システムを整えつつ、常に改善を図っていきます。今後は特に、高い評価能力を持った専門家の育成や、評価結果をわかりやすく公表するための方策などが求められるでしょう。

わが国の評価が国際的に通用するレベルであるかどうかの検証も、重要な課題と捉えています。これまで蓄積してきた評価のノウハウを活かし、それぞれの課題に柔軟に対応するとともに、評価水準の全体的な底上げに取り組んでいく考えです。

川口昭彦 Kawaguchi Akihiko

1942年、台北市生まれ。64年、岡山大学理学部化学科卒業。
69年、京都大学大学院理学研究科化学専攻博士課程単位取得退学。83年、東京大学教養学部助教授、89年、教授。96年、東京大学大学院総合文化研究科教授兼教養学部生命・認知科学科長。2000年大学評価・学位授与機構評価研究部教授。04年、独立行政法人大学評価・学位授与機構評価研究部教授兼評価研究部長。78年に日本脂質生化学研究会千田賞、日本生化学会奨励賞受賞。著書に『生命と時間 生物化学入門』(東京大学出版会)がある。専門は生命科学、大学評価研究。

ポイント

個人評価から、組織・機関全体評価の時代へ。この潮流への即応が各大学に求められている。
大学改革に必要なのは、自らの研究・教育目的を具体的かつ明確にし、しっかりと自己評価を行っていくこと。
評価文化の成熟とともに、自己評価に対する同機構の検証結果をいかに有効利用できるか――その手腕が各大学に問われている。

実績に裏打ちされた客観性で質的向上に貢献する

大学サバイバル時代
――官主導による認可主義は終わり、自己責任による改革を第三者機関が評価する制度がスタート。
60年近く評価事業に携わってきた、大学基準協会の見解を聞いた。

財団法人大学基準協会
事務局長 澤田 進
聞き手◎ ナジック総合研究所

大学評価義務付けまでの流れ

――2004(平成16)年4月から、すべての大学は第三者機関による評価が義務づけられました。経緯はどのようなものでしょうか。
澤田局長(以下敬称略) 歴史的には、明治政府が、近代国家建設の担い手となる官僚を養成するために、「許可主義」という形で大学を管理したことに端を発しています。この時代、政府は私立学校に対しても、補助金を出す代わりに厳しい認可条件を課すという、いわゆる「飴と鞭」で管理するようになりました。

戦後、政府による高等教育の画一化が、軍国主義化につながったとして、国が高等教育の設置等に深くかかわらないよう、アメリカ教育使節団が指導。

そこで、国に代わって大学の設置基準を自主的に作って審査する「大学基準等設定連絡協議会(大学基準協会の前身)」が、1947年に設立されたのです。その後、大学等の設置は「認可主義」に改まりますが、1956年からは、「大学設置基準」という形で、再び国が高等教育の設置に深くかかわるようになりました。

やがて時代は移り、1991年には、大学設置基準が大幅に緩和され、大学側に「自己点検評価」という努力義務が課せられました。しかし、ほどなく自己点検のあり方に疑問が投げかけられ、1998年になって、第三者機関から客観的評価を受けることが努力義務とされました。

この方針がさらに進展して、従来国が厳しく管理していた設置認可については、一定の要件を満たしていれば、特例を除き認可されるようになり、その代わりに、全大学が国から認証された第三者機関から評価を受けるよう義務づけられたのです。

大学基準協会の評価基準

――国家的な「百年の計」の流れに、常に寄り添ってきたと。
澤田) 当協会は、国公私立の四年制大学を会員校とする「自立した団体」としてスタートしました。そして、入会するための「大学基準」を自主的に作ることによって、「正会員として入会すること」が、「その大学の質を保証する」ことにつながるという運営方針を打ち出しました。

その後、国が大学設置基準を定めてからは、当協会の大学基準も都度改正し、わが国の大学の教育や研究の質的向上に役立てるよう取り組んできました。

そして、今回の義務化に際して、これまでの長い実績と取組みが認められ、いち早く認証評価機関として認証されるに至ったわけです。

――どのような方法、内容で大学を評価していますか?
澤田) まず、大学基準協会の正会員になろうとする際、大学は「加盟判定審査」を受けます。さらに、加盟して五年後に第一回目の「相互評価」があり、二回目以降は七年ごとに「相互評価」を受けることになります。

加盟判定審査も相互評価も、評価の流れはほぼ同じですが、正会員校に大きく成長していただくため、相互評価のほうがより厳しい内容に設定されています。評価の基準となる指標として、『「大学基準」およびその解説/学士課程基準/修士・博士課程基準』を独自に作成しており、これらに照らし合わせて評価作業が行われます。

評価手順の第一段階は、当協会が定めた項目について、大学が自己点検・評価を行い、「点検・評価報告書」と「大学基礎データ」という二種類の調書を提出していただきます。

第二段階は、判定委員会・相互評価委員会の下部組織である各分科会による評価です。さらに、第三段階として、実地調査を行い、その結果に基づいて最終判定を行います。

最終判定と評価を伝えて、もし大学側に意見があれば、申し立てができます。その上で必要に応じて「勧告」「助言」を行い、基準に満たない場合は「否」「保留」といった通知を行います。これを受けて、大学サイドは課題解決に取り組み、改善状況を報告する、というのが基本的な評価の手順・サイクルです。

――「加盟判定審査」と「相互評価」という二つの基準は、端的に「わかりにくい」のではないでしょうか。

澤田) 確かに評価機関の認証を受ける際、議論はありました。ダブルスタンダードの問題は、現在理事会でも議論しており、私見ですが、いずれは一本化することになると思います。ただし、相当の時間がかかることは確かです。

それでも、当協会の役員や、実際に大学評価を行う評価者は、一定の資格要件を備えた大学の代表、あるいはその大学で教育に携わった方々から公正かつ透明性のある方法で選出しており、意思決定の客観性は担保しています。

また、現在の評価方法を確立して八年になりますが、評価者はこれまでに約600名を選出。評価項目や点検方法については継続的にトレーニングを積んでいます。ですから、基準が二つあるからといって、あいまいな審査を行うことは絶対にありません。

――先の三月には、第三者評価が義務化されてから初めての審査結果を公表されました。
澤田) 申請のあった35校のうち、33校は大学基準に適合すると判定しましたが、残りの2校は保留としました。また、適合と判断した大学のうち23校には、定員過剰や財務上の問題を理由に改善勧告を行っています。

――厳しいですね。
澤田) 大学基準協会には、蓄積された「大学基礎データ」を参考にできる「強み」があります。正会員としてどういう水準が望ましいか、評価対象となる大学の状況、現在の水準はどうか、どういう理念を持って運営されているか、といったことを判断する比較資料が非常に豊富です。

この強みがあるからこそ、改善勧告もできる。逆に、当協会の正会員として認められれば、一定の評価を得たことになるのです。

求められる評価機関の水準向上

――大学基準協会以外にも「大学評価・学位授与機構」「短期大学基準協会」「財団法人日本高等教育評価機構」などの組織が発足していますが。
澤田) 今後は複数の認証評価機関が、それぞれの特徴、基準で評価を行い、各大学は、自校に適した認証評価機関を選ぶようになると思いますし、複数の機関が切磋琢磨する状況は健全です。

ただし、われわれ以外は、すべて発足したばかりであり、これからしっかりとした基盤を構築されていく段階に、今はあるといえるでしょう。

当協会では約600名の評価者を選出していると述べましたが、この評価者の人数とレベルを維持するのが、認証評価機関にとって最も困難かつ重要な課題。この点に関して、われわれには一日の長があると自負しています。

――大学評価における先達として、ノウハウやデータを他機関に提供することは考えられますか?
澤田) 私は一向に構わないと考えています。というのも評価の項目やフォーマットなどが、各機関によってバラバラだと、結局は評価を受ける大学が困ることになるからです。

実際すでに、他機関との連絡会を発足して協議を始めており、今後、いい方向に向かっていくことでしょう。
一つ申し上げさせていただくとすれば、現時点で、他の評価機関が打ち出されている評価項目は、全般的に見てわれわれほどのシビアさが、まだないという印象を禁じ得ません。
もちろんこうしたことも、互いにノウハウを共有することによって改善するものと考えていますが。

今後の大学のあり方

――現在の大学はどういう問題を抱えているとお考えですか?
澤田) 例えば大学基準協会には「財務状況」という重要な評価項目があります。いくら教育や研究のレベルが高い大学でも、財務状況が悪ければ、いずれは立ち行かなくなる可能性があると考えているからです。そのため、これからの時代、大学も自己責任の意識を高めて「運営」ではなく、「経営」にあたる必要があるといえます。

さらに各大学は、目標や目的が本当に達成できているかどうかを、自らが客観的に評価する姿勢が求められると思います。そうした自己管理能力を養うために、「自立」そして「自律」の精神を身につけていただきたい。

教育・研究に対する熱い思いを持って、断固として改革に取り組んでいかなければ大学はいずれ淘汰されます。
今後は国の顔色をうかがうのではなく、自らの裁量で改革を進め、それを堂々と第三者機関に評価させればいい。良い方向へ変化しようとする気概があれば、評価は必ずついてくるものだし、逆に、何もしない臆病者が評価を闇雲に恐れてしまうのです。

澤田 進 Sawada Susumu

1933年生まれ。56年、中央大学経済学部卒業。71年に中央大学人事課長、72年に同大学理工学部事務長。88年、学長室長、94年、総合企画室長。2001年より現職。その他、1979年、日本私立大学連盟研修事業委員会中間管理職研修運営委員会委員長。83年、日本私立大学連盟第7回海外大学経営セミナー副団長。84年、同管理職研修運営委員会委員長。92年、同調査委員会委員長。99年、私学データバンク推進会議座長。著書に『私立大学のマネジメント』(共著・第一法規)などがある。

ポイント

戦後の学制改革の時代から、大学の水準維持向上に尽力。長年にわたり蓄積されたノウハウと豊富な人材の活用で、客観性の高い評価活動を実践。三月には認証評価機関として最初の評価結果を公表。
評価は「加盟判定審査」と「相互評価」のダブルスタンダード。将来的には一本化も示唆。評価者は累計600名を選出し、評価品質の維持にも努めている。
大学は、自らの裁量で教育体制や財務体質の改善・改革を図らねばならない。必要なのは、教育に対する気概と「自立・自律」の精神だと主張。

ミッションを重視した評価で個性を引き出す

日本私立大学協会が母体となって、私立大学のありようを重視した評価機関を謳う日本高等教育評価機構を設立。私学に特化する評価方法とは? 原野専務理事と伊藤評価事業部長に聞いた。

財団法人日本高等教育評価機構
専務理事 原野幸康
評価事業部長 伊藤敏弘
聞き手◎ナジック総合研究所所長 小川弘行

私学に特化した評価

――大学評価・学位授与機構に大学基準協会……競合がひしめく分野に、あえて参入を決められた経緯は?
原野専務理事(以下敬称略)) 日本高等教育評価機構(取材時は認証申請中)の支援元である日本私立大学協会(私大協)では、2000年の時点で、附置機関として私学高等教育研究所を設立し、以降、私立大学の立場から今後必要となる大学評価システムの具体的なありようを研究してきました。

2002年に、同研究所は中間報告として研究成果を提示。大学評価のあり方として「①設置運営形態の異なる国公私立大学に対して、それぞれの形態に対応できる多元的な評価システム」「②私立大学の規模と多様性に対応できる柔軟かつ弾力的評価システム」の構築が必要との基本認識を得ました。

これらを踏まえ、私大協は私立大学の特性に対応した評価システムを持つ第三者評価機関を自ら設立することとし、評価事業は中立、公正および公益性の強い事業であるとの判断から、財団法人組織による公益法人として本機構を設立するに至ったのです。

考えてみれば、わが国の大学の実に73パーセントが私立大学。機関評価、部門別評価の違いはあるにせよ、教育を中心とした評価というならば、私立大学に特化した評価機関があってもいいではないかということです。

――私立大学の特性とは?
原野) 私立大学とはつまり学校法人であり、その学校法人の中心とは「建学の精神」です。
 
純粋たる教育の情熱に燃えた先達が自らの哲学のもと、私財を投じ学校法人を設立する。
そして校舎を建設し、学長を擁し、教職員を雇用し、建学の精神に基づいた教育が行われるよう委譲する。これが私学の基本です。

建学の精神を中心に、どのような研究・教育を展開し、どのように社会の役に立ち、どんな人材を養成していくか――こうした「ミッション(使命)」は国公立大学にはないものであり、われわれはこの部分を決して蔑ろにはしたくないのです。

評価基準の特徴

――ミッションを評価するのは難しくないですか?
伊藤部長(以下敬称略)) 「基準1」はミッションの貴賤を問うものではありません。建学の精神が明確に示されているか。使命・目的が学内外に示されているか。

そして、それらが教職員、学生を初めとする関係者に周知され、教育・研究等に反映されているかを検証します。特徴としては「基準6」の「職員」の項目も挙げられます。「教職員」と一括りに扱うことが多いのですが、われわれは学生(基準4)、教員(基準5)と等価に評価します。

また、わが国における高等教育の大衆化を図ったのは他ならぬ私学であるという観点から、地域貢献、連携を重視すべきとし、基準10に「社会連携」を挙げています。さらに、アメリカではインテグリティー(誠実性)と表現しますが、何か起こったときの体制、すなわちコンプライアンス/クライシス・マネジメントを、基準11の「社会的責務」で評価します。

原野) さらに11の項目に加え、特記事項を設けています。アピールしたいことを大いに書いていただこうというものです。評価の対象とはしませんが、事実の確認はします。嘘を書いてもらっては困りますから(笑)。

伊藤) 各基準では「領域」として具体的な範囲を示し(例えば「基準3」教育課程の領域は目標、内容、学習量、教育評価等)、さらに3-1、5-3など各基準を細分化した項目を挙げています。特徴ということであれば、これらに付随する「例示」もその一つでしょう。

例えば基準3(教育課程)では、「建学の精神、目的に沿ったカリキュラム編成」や「導入教育等の工夫」「学生のニーズを踏まえたカリキュラムの整備」といった具合に、各基準に5項目以上の例示をしています。例示はあくまでもガイドラインでして、これらに従って領域の範囲内において、各大学で自由に項目を設定し、説明していただくことにしています。

――なぜですか?
伊藤) 他の評価機関では、これに相当する部分を「観点」として、微に入り細を穿った質問項目を網羅しています。しかし、われわれとしては各大学で独自の項目を設定していただきたい。というのも、そうすることが、見直しという点では最も成果が得られると考えるからです。

原野) 自ら項目を設定し説明するのはとても難しいのですが、課題を洗い出し、特徴を再認識するためには、一番有効なのではないかということです。

窓拭きに徹する

――他の認証評価機関と同様、自己点検・評価を基本に据えられています。
原野) 第三者評価は自己点検・評価を通じた活性策の「手段」の一つであって、決して「目的」ではありません。

わが国の学校法人は世界的に見て、仕組みとしても優れており、各校、本当にいいものを持ってらっしゃるし、質も高い。

なぜなら、大学設置基準をクリアすることで、アクレディテーション(品質保証)を既に得ているからです。その上で、各校が個性豊かに充実・発展し、社会に貢献する。また、いい人材を輩出する。そうした目的に向かってどのように考え行動しているかを見つめ直すきっかけをわれわれが提供し、引き出したいわけです。

私は評価機関の役割を「窓拭き」と表現するのですが、ガラスが汚れ、また曇ってしまって中がよく見えない。そのガラスをきれいにすることによって、大学の中身、つまり特徴や強みといったものが見えるようにするということです。われわれは当面の間、学校法人の窓拭きに徹することで、中身の整理・整頓のための刺激剤であらねばならないと考えています。

伊藤) 評価基準について総括的な表現をしますと、われわれは「定量評価」ではなく「定性評価」に重きを置きたいと考えています。蔵書数や研究論文の引用件数、また敷地の坪数や建造物など、定量的な要素も無関係ではありませんが、それらは大学設置基準でクリアされている。

先に説明した「例示」のスタンスに象徴的な部分、つまり各学校法人に合った評価基準をそれぞれ設けることで、定性的な評価もあり得ることを理解していただくということも、われわれの仕事の一つだと考えています。

「大学とは何か」を強調

――今後の抱負をお聞かせください。
原野) われわれは一言でいえば「後発」ですが、いがみ合いや掟破りをする気は全くありません。わが国の大学が個性化を進め、世界と伍するまでに充実することを願い、評価機関同士、ある部分は協調し、ある部分は尊重し合いながら、高等教育の発展に寄与していきたいと考えています。

日本高等教育評価機構では認証取得に先駆け、試行評価を行いました(金沢工業大学と文化女子大学)。両校ともわれわれの意向を汲み取って、きっちり100ページのレポートを提出してくださいました。

そのプロセスと結果を踏まえ、認証評価機関としての責務を果たせることを充分に検討、確認し申請を行ったわけですから、承認の早い・遅いは、われわれにとってあまり意味のないことなのです。

幸い、評価員に関してもすでに230以上の大学から500名程度の登録を得ています。将来的には大学評価を専門とする海外の研究者も加え、世界的なレベルでの評価を大きな特徴としていくつもりです。
日本高等教育評価機構では、大学評価を通じて、「大学とは何か」を再度強調したいと考えています。

昨今、専門学校も短期大学も4年制大学も、職業訓練校化やボーダレス化が進み、また、営利主義、マーケット主義が蔓延しています。

一定の年齢を、一定の場所で、一定の期間過ごすという学校教育制度が崩壊したとも言える状況で、大学がどう存在していくのか? 

それをともに考え具現し、学校法人の自己改善と自助努力を最大限に支援していく――これができないのであれば、われわれ、そして認証評価機関、さらに認証評価制度自体の存在価値など、ないに等しいのです。

原野幸康 HARANO Yukiyasu

1955年、明治大学政経学部政治学科卒業。ただちに日本私立大学協会入職。同協会機関誌「教育学術新聞」編集長を経て編集発行人。91年、日本私立大学協会事務局長。92年、全私学連合ならびに日本私立大学団体連合会事務局長併任。98年、同協会常務理事、2004年、財団法人日本高等教育評価機構専務理事兼事務局長(現職)。その間、IAUP(世界大学総長協会)事務総長歴任。メキシコ国グアダラハラ自治大学名誉博士号。1996~97年、高等教育・オブ・イヤー(英国)選定。その他。学校法人理事のオイスカ副会長、日本イスラエル協会理事、学生サポートセンター理事など。桜美林大学非常勤講師。

伊藤敏弘 Ito Toshihiro

1990年、米国オレゴン州、ポートランド州立大学経済学部卒業。91年、IAUP(世界大学総長協会)日本事務局へ入職。93年、日本私立大学協会へ入職。99年、同協会事務局主任。2002年、同協会附置私学高等教育研究所主任兼任。2005年、財団法人日本高等教育評価機構評価事業部長(現職)。

ポイント

私立大学をメインターゲットに据える評価機関として、現在認証取得申請中。将来的には短期大学などの評価も視野に入れる。
私学の最大の特徴を「ミッション」と位置づけ、その浸透度合いやアカウンタビリティーを評価項目の一つに設定している。
第三者評価は自己点検・評価を促す「手段」であって「目的」ではないことを強調。

競争力の高さが信用獲得のカギに

格付け取得の本来的な意義とは何か?
「格付け」への免疫を持たない日本の学校法人が直面する未来とは?
国際的な金融市場分析ならびに発行格付けに高い実績をもつスタンダード・アンド・プアーズに聞いた。

スタンダード・アンド・プアーズ 事業会社・公益事業格付部
上席アナリスト 吉村真木子
聞き手◎ナジック総合研究所

日本独特の収入構造

――国際的な金融市場において信用リスク分析や格付けサービス等、広く実績をお持ちですが、大学法人を市場としてどう捉えていますか?

吉村氏(以下敬称略)) 2001年に学校債を第三者に売ることが認められたのをきっかけに、将来、大学法人の資金調達は様々に選択肢が広がるだろう。ならばスタンダード・アンド・プアーズ(以下S&P)から何らかのアプローチが可能であると考えました。

そこで、我々がこれまでアメリカやイギリスの大学の格付けを通じて培ってきたノウハウに、日本独自の視点を盛りこみ、わが国の学校法人に対する見方を示したのです。

――日本独自の視点というと?
吉村) わが国の大学法人は、特に事業運営について見た場合、緩やかになったとはいえ法律による規制が強くあり、また独特の事業特性や財務基盤をお持ちです。

中でも収入構造を例にとると、海外の大学は資産運用収入や事業収入にも収入が分散しているのに比べ、わが国では一般的に、学生からの納付金への依存度が高いという大きな違いが見られます。

だからと言って、わが国の大学法人の信用力が劣るわけではなく、むしろ総じて良好であると判断しています。学生数を確保できる限り、財務の安定性は高いですし、加えて有利子負債への依存度が低く、財務内容が極めて健全であることも理由の一つです。

先見性を持ったマネジメント

――大学法人の信用力評価にあたり、特に重視されている点は?
吉村) 事業体として高い競争力を有しているか、その競争力を維持するために、経営陣による的確なマネジメントが行われているかどうかを検証します。つまり、社会や学生から安定した需要を生み出すため、柔軟かつ多様な事業展開を図っているか。

例えば、ご依頼いただいた慶應義塾は、長い歴史に培われた質の高い教育と研究内容に加え、優秀な人材を多く輩出してきた実績をお持ちです。トップレベルの教育・研究内容に加え、この総合的なブランド力が、社会における大学の認知度を高め、学生や外部資金の確保に大きく影響してくると考えています。

――資金確保の面で特に懸念されるのが、18歳人口の減少です。
吉村) 人口減少の問題については、とりわけ先見性をもったマネジメントが求められると思います。先の慶應義塾を初め一部の私立大学では、初等からの一貫教育体制をとることでロイヤルカスタマーを育成し、優秀な学生を確保されています。

その他、法科大学院など専門職大学院の設置も含め、出入り口を多く持とうとする方策を、S&Pはポジティブに評価します。

――日本の大学の国際的な競争力については、どう見ておられますか?
吉村) 現時点では、マーケットの規模と特徴から判断し、国内の競争関係をベースに評価しています。それでも長期的に考えた場合、人口減少の問題がありますので、国外からの学生や資金の確保が必要となる可能性があります。 

ハーバードやスタンフォードといったアメリカのトリプルA格の大学は、世界を舞台に学生や教員を集める力を持っています。その意味では、日本の学校法人はいわゆる名門であっても、国際的なレベルで本格的に競争する状態にはなっていないと考えています。

世界の投資家が注目する

――国立大学法人が将来、起債のために格付けをとることもあり得ますか?
吉村) 不可能ではないですし、将来的には興味をお持ちなのではないでしょうか? ある程度時間はかかると思いますが、学校法人における格付けが広がり、マーケットに出て行かれるようになれば、多くの投資家が興味を持たれることでしょう。

何より事業内容が明確ですし、特に個人の投資家にとって、大学という知名度の高さが訴えるところは大きいと思います。

――S&Pではソブリン格付け(国債)をダブルAマイナス、慶應義塾と上智学院にはダブルAをつけておられます。つまり、国債よりこれら二校のほうが信用力が高いと?
吉村) そういうことです。国がデフォルト(償還不可)の状況になっても同時にデフォルトする可能性は低いという判断です。

一つには、両校とも政府からの補助金が1割程度にとどまっており、これが全くなくなっても経常的な収支と債務の履行に支障を来さないであろうと。債務の償還能力という点では、事業体が国を上回ることがあってもおかしくはありません。

――今後、格付けを取得されようとしている学校法人にアドバイスを。
吉村) われわれの特徴は、国際比較が可能である点です。S&Pの格付けは、グローバルに投資を行う全世界の投資家が注目していますから、国際マーケットにアプローチされる際、われわれの評価を利用していただくことで、学校法人としての水準を、早く正確にアピールすることができると思います。

また、投資家向けだけではなく、例えば海外の大学との連携や留学生の受入れなど、世界中の大学とアライアンス(提携)先を模索する際にも、極東アジア地域における有力なシグナルとなるでしょう。

日本の大学は今、変化と改革の只中にあります。これまで4校の経営トップの方にインタビューして最も印象的だったのが、経営について50年、100年といった長期的な視点を持っておられることでした。一般の事業会社は、10年単位といったもう少し短い事業サイクルで経営されておられますから。

教育というのは一朝一夕に価値が測れないからこそ、トップ経営者に確かな先見性に基づく経営能力と実行力が不可欠だと思います。

そうした意味で、格付けはマネジメントを見直すきっかけにもなりますし、実際にそのようなフィードバックも頂戴しています。わが国の学校法人にとって、格付けが競争力を高めるツールであるとともに、国際舞台へのパスポートとなることを期待しています。

ポイント

1916年より世界各国で多岐に渡る分野への格付け実績を築く。グローバルな投資を行う投資家に向け、格付けを初めさまざまな金融情報およびサービスを提供。
2004年、慶應義塾を皮切りに東京理科大、青山学院、上智学院に格付けを付与。アウトルックはいずれも安定的とした。
一方で、海外の大学との比較から、定量的・定性的にも競争力強化の必要性を示唆。資金調達、ガバナンス、出入り口の拡大等、長期的ビジョンの構築と実践的戦略が不可欠と主張。

格付けが対話力を上げる

学校法人をとりまく経営環境が厳しさを増す中、「自立的な」経営が喫緊の課題として浮上している。学校法人をいち経営体とみた現況および将来性は――日本格付研究所に聞いた。

株式会社 日本格付研究所
シニア・アナリスト 殿村成信
学校法人格付グループ チーフ・アナリスト 吉田法男
聞き手◎ ナジック総合研究所

将来構想に照らした財務力

――これまで、国内の企業を中心に格付実績をお持ちですが、企業と学校法人で着眼点は違うのですか?
殿村氏(以下敬称略)) 格付けの原則は、財務面での信用リスクをはかるという点にあり、これについては共通しています。そのため、アプローチの仕方について両者に大きな違いはないのですが、民間企業と比べて学校法人の方が、より定性分析を重視する必要があると考えています。

――というのは?
殿村) 学校法人は、「教育・研究」を事業特性とする非営利法人です。それゆえ、財源となる学納金や政府の補助金等を長期的に確保するには、カリキュラムや設備の充実、学術研究のレベルアップ、さらに入口・出口対策といった取組みがポイントになります。

つまり、これら定性的要素について確かな将来構想を持ち、それを実行するための具体策とガバナンスが構築されているかが、信用評価を行う上で、とても重要になると捉えています。

――学校法人では、青山学院と共立女子学園の2校を格付けされています。
殿村) 青山学院は複数機関から格付けを取得されたわけですが、教学・経営両者の協調性が高く、安定した志願倍率を確保されており、将来的にも高い財務力を維持されると判断できます。こういった学校法人は、国際交流や産学連携、資金調達など一段上のステージを目指して格付けを取得されます。

一方の共立女子学園は、中堅の私立女子校として、他校と同様、志願者確保や経営体制の見直しなどいくつか課題を抱えておられました。ただ、法人スタッフが高い危機意識を持って具体策に取り組まれており、また、ステークホルダーに向けて財務情報をいち早く開示されたことなどを総合的に判断し、格付けさせていただいています。

――格付けの取得には起債以外の目的もあると――。
殿村) そうです。先の共立女子学園では、格付けを得たことで学内の全スタッフに危機意識を行き渡らせることができ、財務戦略を進める上での基盤が整ったとご報告をいただきました。格付取得の目的や結果は、時代背景や各校の状況に応じて変化していきます。

吉田氏(以下敬称略)) 例えば、現状で潤沢な財源を持った学校法人であれ、将来キャッシュフローにおいてリスクへの抵抗力が低いと判断されれば、低格付けを得るケースもあります。格付けは、絶対的な視点で信用リスクをはかるものであり、相対的評価であるランキングとは明らかに性格が異なることを、強調しておきたいと思います。

USRと格付け

――学校法人の事業体としての存続を考えた場合、リスクとしてもっとも注目している要素は何ですか?
吉田) 私どもは、先ほど申し上げた定性分析の中でも、特に「学校法人の社会的責任(USR)」が重要になってくるとみています。CSRの必要性はすでに広く言われていますが、学校法人には、社会に対するより高度で緻密な責任対応が求められると思います。

実際の調査では、まず、学校法人の経営陣が戦略の一環としてUSRマインドを醸成できているか、続く評価項目として、「コンプライアンス体制の整備・運営」や「情報開示強化への取組み」などについてみていきます。

殿村) 特に、運営・財務等の情報開示は早急の課題と言えるでしょう。学校法人にとってのステークホルダーが誰にあたるかを考えてみると、学納金を納める父兄、補助金・借入金を納める政府や銀行、その他、産学連携を行う企業などが挙げられます。

これまでは、これらステークホルダーに対して、為されて当然の説明がなかったわけですが、今後、継続して資金を確保するためには、情報を積極的に開示し、彼らの理解を得ていくことが不可欠になるでしょう。

――学校法人の情報開示の仕方について、現状をどう捉えておられますか?
殿村) 財務情報の公表一つをとっても、HP等に決算書を貼り付けただけのところもあれば、将来構想との関連を示しながら、わかりやすく解説しているところもあります。説明責任の果たし方に、差が開いてきている事実は否めません。

情報発信のスピーカーとして

――格付取得を検討中の学校法人に向けて、アドバイスをお願いします。
吉田) 私どもは、格付けが学校法人にとって「情報の非対称性」解消のために有効であると考えています。格付けは、学内におけるリスクの共通認識はもちろん、学外においてステークホルダーと大学との共通理解を図るツールになり得ます。

ここ10年ほどで、当社が担当した格付取得会社の数は約2倍にも達しています。その背景には、社債市場の普及のみならず、厳しい経営環境において、格付けを得ることでステークホルダーに対する信用力をアピールできる、特に財務面での不透明性を解消できるという狙いも多分にあると思われます。

では、学校法人にとって格付取得の意義や効果は何かと問われれば、現時点では、ステークホルダーをはじめ社会へ向けて事業情報をわかりやすく発信できる、つまり広報業務においてもっとも大きな貢献を果たすということになりましょう。その上で、将来、独自に経営資金を調達されるにあたり、格付けを利用されるケースが増えていくと予測しています。

殿村) 私どもは、学校法人は本来、さまざまな人に受け入れられる事業体であるべきと考えています。今後は、教育に関する社会のさまざまな期待やニーズを受け止め、こまめにレスポンスしていく姿勢が求められます。

そこで、少し唐突に思われるかもしれませんが、格付会社を「情報発信のスピーカー」と捉えてみてください。これまで、財務をはじめ研究・教育活動等の情報は、教育関係者らによる発信が大半でした。

そうした従来の流れに一石を投じる意味でも、教育界から距離を置く第三者の判断による、「一歩踏み込んだ信用リスク」を公表される意義は大きいと思います。

ポイント

1985年設立。600社を超える本邦企業への格付実績を持ち、特にノンバンクを含む金融業、流通・サービス業など非製造業各分野のカバー率が高い。学校法人の格付公表は現在2校。
学校法人格付けの指針は「将来構想」「建学の精神・ガバナンス」の二本柱。定量分析はもとより定性分析を重視し、将来キャッシュフローの安定性を判断。
大学の社会的責任に対する取組みに注目。「私立大学社会的責任(USR)研究会」にオブザーバーとして参加している。

大学はガバナンスの整備を急げ!

リーディングカンパニー経営者から見た「大学マネジメント」の課題

昨今、日本の多くの大学が「改革」を標榜しているが、経営、教育内容ともに根本的な改革に成功している大学がどれほど存在するだろうか。評価にも格付けにもガバナンスが大きく影響する。
早くからコーポレート・ガバナンスを重視し、企業改革を進めているオリックスCEO宮内氏が、大学経営の本質に迫る!

オリックス株式会社
会長兼グループCEO
宮内義彦

コーポレート・ガバナンスとは

私が会長を務めるオリックス株式会社の取締役会は、全12名のうち5名までが、当社以外の組織に所属する「社外取締役」である。現在の日本企業の中で、この割合は特に高いとされているが、これは、当社が早い時期から「コーポレート・ガバナンス」を重視してきた姿勢の表れといえる。

コーポレート・ガバナンスとは、株主の代理としての取締役が経営者を監視し、組織が目的に向かって適切に運営されているかを監督するシステム、およびそのシステムを軸にしたマネジメントのことである。

企業経営においては、業務執行機能と監督機能を分離させて、第三者が客観的に監視・監督するほうが、より健全で効率的な運営が可能となるのは明白だ。本来なら株主総会がそうしたチェック機能を果たす役割を担っていたはずだが、株主と経営者との間の情報量のギャップが大きいため、わが国だけでなくアメリカでも株主総会は形骸化している。

そうした流れの中で、アメリカでは取締役会が経営者の業務執行を監視する仕組みを取り入れるのが一般的となった。日本はこの面で後れをとっていたが、近年のグローバル化にともないガバナンス推進の動きが強まり、これを後押しする改正商法が2003年に施行された。

オリックスでは、国内の法改正の動きよりも先んじて、コーポレート・ガバナンスを重視し、1997年6月には、外部の有識者・専門家を迎えて諮問委員会を設置した。

その後、執行役員制の導入、社外取締役の招聘を経て、商法改正と同時に、取締役会内に監査委員会・指名委員会・報酬委員会を設置して、いわゆる「委員会等設置会社」に移行したのである。

前述の通り、取締役会には社外取締役が参加し、当社の活動全体をしっかりと監視・監督していただいている。現代の多くの企業は、こうしたシステムを導入し、より高いレベルで目的達成に取り組む経営体制の構築を始めた段階といえよう。

企業の目的とは、平たくいえば、社会に価値を提供して利益を生み出し、株主に貢献することに他ならない。そして、このように目的を持って活動する組織にとって、コーポレート・ガバナンスは重要な意味を持つようになったのである。

変われない大学の現状

それでは大学という高等教育機関の目的とはいったい何であろうか。また、大学の「経営」に、ガバナンスを持ち込むことは可能なのであろうか。

私自身、母校である関西学院の理事や、「21世紀大学経営協会」の理事長を務め、高等教育に密接した活動に携わっている。そのため大学の問題はいつも切実に考えているのだが、残念ながら、わが国のほとんどの大学は、「目的意識」が希薄であると言わざるを得ない。

改めていうが、ガバナンスとは、組織が目的を達成するための統治・監督およびマネジメントのシステムであるから、目的が明確でない状態でガバナンスを導入しても意味がない。

例えば、「そこそこの学生を集めて四年間楽しく過ごしてもらい、そこそこの企業に就職させる」。このような極めて漠然とした「運営」を続けている大学が多いように見受けられるが、この程度のことは、あえて大学が掲げるべき目的・目標ではない。

大学を「経営」する人たちは、目標を具体的に議論し、それに向かって断固として改革に取り組まなければならないはずだ。昨今の大学改革などは、企業が生き残りをかけて取り組む改革に比べると、微々たる動きにしか感じられない。大学および大学関係者は、従来通りの居心地のいい器の中で硬直してしまい、動けなくなっているのではないか。

断固たる改革とスクール・ガバナンス

大学が変われない原因の一つに、「教授会」の弊害がある。
あえて厳しい意見を言わせていただくが、どんな世界でも「実務者の能力」と「経営者の手腕」はまったく別物であり、教授として優れている方に、大学という組織の「経営」が可能かどうかといえば、大いに疑問を感じざるを得ない。

「教授会」によって大学が適切に運営されるという幻想の結果、いつの間にか大学が「教授の教授による教授のための」住み心地のよい別世界となってしまっていないだろうか。

また、根本的な問題として「学校は誰のためにあるのか」ということも、今一度考え直していただきたい。学校は、紛れもなく社会と学生たちのために存在する組織・団体であり、教授の方々が地位と名誉を獲得し維持する場ではない。

もちろん私欲のない素晴らしい教授もたくさんいらっしゃるとは思うが、そうした方々が、経営者としての資質を持っているかどうかはまた別の問題だ。

大学がまず行わなくてはいけないのは、「明確で具体的な目的・目標を持つこと」である。目標ができれば、それに向かって健全かつ効率的に改革を進めるためのスクール・ガバナンスも、大きな意味を持つようになる。

例えば、「野球部を強くして、野球で全国的に有名になろう」という目標を立てても一向に構わない。それならば、優れた指導者を招聘したり、グラウンドの建設に資金を投入したりするなどの施策を講ずることになろう。

あるいは「経済のある分野に力を入れて優れた人材を輩出する」のなら、その分野における日本一、いや世界一の教授を高年俸で引き抜き、その能力を最大限発揮できるように、大胆なカリキュラム変更を行えばいいだろう。

教員の雇用に関しても、能力最優先で人選するようにしなければならない。研究室の外の世界を体験していない方々よりも、はるかに広く豊かな知識を持つ人材は、民間にいくらでもいる。そのような人たちを積極的に登用していけば、大いに活性化するはずだ。

大きな改革を断行しようとしても、過去のしがらみにとらわれた「内部の人間」には、自ずと限界がある。だからこそ、外部の血を取り入れたガバナンスが不可欠となるのだ。

そうすれば、これまで目立たなかった大学が、一流の仲間入りを果たすことも可能だ。逆に小手先の施策に終始していては、一流大学であれ一気に転落してしまうこともあり得る。高等教育界も、すでにそういう時代に突入したということを認識していただきたい。(談)

宮内義彦 Miyauchi Yoshihiko

1935年、神戸市生まれ。関西学院大学商学部卒業後、ワシントン大学経営学部大学院修士課程(MBA)を卒業。60年に日綿實業株式会社(現双日株式会社)に入社した後、64年にオリエント・リース株式会社(現オリックス株式会社)に入社。取締役、代表取締役社長、代表取締役会長を経て、現在は取締役兼代表執行役会長・グループCEOを務めている。自社以外では、富士ゼロックス株式会社取締役、株式会社あおぞら銀行取締役、昭和シェル石油株式会社取締役、ソニー株式会社取締役、株式会社大京取締役、規制改革・民間開放推進会議議長、社団法人日本経済団体連合会評議員会副議長などを兼務。

多様な価値観が豊かな人間性を育む

多様な価値観が豊かな人間性を育む

神戸大学 学長 野上智行
聞き手◎学生情報センターグループ代表 北澤俊和

神戸市灘区六甲台――神戸港から大阪港までが一望できる六甲山麓の風光明媚なロケーションに位置するのが国立大学法人・神戸大学である。六甲台キャンパスにある第一学舎、講堂、兼松財閥の寄付により設立された経済経営研究所や社会科学系図書館は、国の登録有形文化財として登録されており、アカデミックな雰囲気を醸成している。

講義中に外国航路船の汽笛を聞くことができるのもこの大学ならではで、夜間には「1000万ドルの夜景」を見ることができるという。
六甲台にある社会科学系三学部(経済学部、経営学部、法学部)はすべてCOE(世界最高水準の研究教育拠点)に指定されており、その実力はすでに保証済み。

キャンパス中腹の本部棟にある学長室で、二期目を迎えた野上智行学長に話を聞くことができた。学長は穏やかな人柄を映した語り口で、法人化の諸課題から神戸大学のビジョンと具体策、そして「震災」との関わりまで、幅広く話してくださった。

中期目標・計画、以前と以降

――学長2期目を迎えられました。
野上学長(以下敬称略)) この4年で国立大学自体も、それを取り巻く状況もすっかり様変わりしてしまったことは、皆さんもご存じの通り。国立大学法人に課される中期目標・計画を策定した者が、その達成を図るのは当然の責務であり、重責を引き続き預かることには、身が引き締まる思いです。

それは、運営交付金が削減されることが明白な中で、中期目標・計画を達成することは果たして可能なのか。さらに一連の過当競争において神戸大学はサバイヴできるのかという、より切実な緊張感につながるわけで、その意味では「身が引き締まる」どころの問題ではないのかもしれない。これが率直な心境です。

――目標・計画達成の見通しは?
野上) 国立大学法人という課題の少なくない仕組みをうまく走らせるためには、神戸大学が独自に展開できることと、国立大学法人全体が覚悟しなければならないことの両方があると思っています。経営協議会で課題を明確にしつつ、本学の総ての構成員が法人化の課題を理解し、協同して一つひとつの課題を克服していく努力を積み重ねているところです。

国立大学法人の受益者

――授業料の値上げが決まりました。
野上) 授業料改定についての説明は、ホームページにもアップロードしていますが、学生および受験生にはどうか理解していただきたい。

国が定める授業料標準額に合わせないと、その差額は端的に収入減につながります。2007年度からの全学共通教育科目のカリキュラムの全面改定などに先行している環境整備は、今後もいっそう強化していかなければならないにもかかわらず、収入減に加え、運営費交付金が一定のルールで減額されることになっている。

来年度に授業料を値上げしなければ、教育・研究や学生生活の環境整備に重大な支障を来してしまうのです。

もちろん経費節減、財源確保などにより財政基盤の確立を図りながら、教育・研究のクオリティー、学生サービスの向上に努めていくことに、変わりはありません。

――自主性を謳いつつ、依然、官主導の構図は否定できない……。
野上) 先般の会合で、授業料改定に関して「受益者負担」の議論がありました。「国立大学法人にとっての受益者とは誰か?」という問いに、「受益者は一般的には学生」という考え方が示されたのに対して、「国立大学法人の受益者は国であり、国民全体が受益者である」という強い意見がありました。

前者は当然ですが、後者の立場を失うと日本の高等教育は崩壊するのではないかと危惧します。国立大学法人の存在意義の捉え方からして、乖離があるような気がしてなりません。

ドメスティックな競争は眼中にない

――これから先の「神戸大学らしさ」とは?
野上) われわれは今後、国際的な競争環境の中で存在意義を認められる大学として成長する必要があります。そのためには国際水準の研究教育を実現することが不可欠。その点からも、以前から積極的に取り組んできた国際教育の成果が問われることになる。

もっとも、私の頭の中には、国内の大学と張り合おうという発想はありません。文字通り「国際的」な競争に耐え得る教育・研究内容によって、より大きく羽ばたくことを目指しているのです。

――具体的にはどのようなことに取り組んでいますか?
野上) どのような職種であっても、国際社会で力を発揮するためには、豊かな人間性と専門性が不可欠です。その上で、英語が使いこなせるのは当然として、英語以外にもう一つの言語を習得できるようカリキュラムを策定しています。

――国際コミュニケーションセンターの設立もその一環ですね。
野上) その通りです。外国語あるいは国際コミュニケーション能力は、教室の中だけでマスターできるものではなく、より深く外国語を学べる仕組みが必要だったからです。同センターでは、15名の専任教官や留学生パートナーが常駐し、オリエンテーションを交えた外国語学習ができます。

EUに学ぶ「国際性」

――ヨーロッパとの連携を強化されていますね?
野上) 本学が幹事校となり、関西学院大学、大阪大学とともに、本年4月に「EUインスティテュート・イン・ジャパン関西」を発足させました。EUの行政機構である欧州委員会が資金を拠出し、わが国の大学と連携して設置した研究教育機関であり、この機関を通して、EUとの深いつながりができました。

ここでは、政治的、経済的な統合が進んでいるヨーロッパの状況等の研究を進めるとともに、環境や医療の分野も含めて相互の交流活動を進めます。

――なぜEUなのですか?
野上) EUという存在自体が非常に気になるんです。伝統・文化があれだけ違う、そして大きく悲惨な戦争を幾度も体験した国々が、EUという一つの試みを展開しようとしている。苦しんだにもかかわらず一つのゴールに向かって歩もうとする、その姿は学ぶに値するものです。

――EU自体が「多種多様性」や「共生」の鑑ですからね。いわゆる「国際感覚」は、単に母国語以外の語学が堪能というだけではありません。
野上) 国際社会においては、一人ひとりの人間が、多様な価値観の存在を知り、自身のバックグラウンドとなる豊かな教養を身につけ、人間性豊かに成長していくことが最も大切です。

その意味で、外国語の習得は他の文化を理解しようと努めることであり、大学は、さらに大きな視点で学生たちの人間力を養成していかなければならないといえます。

先だっては、ドイツ連邦議会議長のヴォルフガング・ティールゼ氏を招き、学生との交流会を開催したのですが、学生たちが自らの専門分野を生かし、高度な内容の討論をしていたことが、とても印象的でした。

ティールゼ氏からも「学生は大学の宝。これほどまでに優秀な学生が多いことは、ノガミさん、誇りだよね」との言葉をいただきました。本学の国際教育が、確実に実を結んでいることが実感できたエピソードです。

「震災」と神戸大学――地域との共生

――阪神・淡路大震災以降、何か変化はありますか?
野上) 震災時、地域あるいは小さなコミュニティーの中で、さまざまな活動が行われましたが、その時に使われた回覧板から本当に小さなメモ1枚まで、膨大な資料を収集し、デジタルアーカイヴ化して、世界中からアクセスできる「電子図書館」を、われわれの責務として構築しています。

さらに、震災以降、ボランティアに積極的に取り組む風土が本学に生まれました。本学には、学生が自主的に結成したボランティアグループがたくさんあり、それらを統括する組織も存在します。

中には日本各地で災害が発生したとき、現地に出向いてボランティア活動に取り組むものもあり、その功績は各方面から高く評価されています。

このように、真の「国際性」を身につけるとともに、地域との共生にも真摯に取り組む――人間的に豊かで素晴らしい学生たちが数多く育っていることは、神戸大学、そして私自身にとっても、大きな誇りなのです。

野上智行 Nogami Tomoyuki

1946年生まれ。68年3月に広島大学教育学部を卒業し、75年、同大学大学院教育学研究科(修士課程)を修了。78年に同大学院教育学研究科(博士課程)を単位修得退学。92年に博士(教育学)〈広島大学〉となる。79年4月から広島大学教育学部助手、翌年4月から広島女子大学家政学部講師を務め、83年4月に広島女子大学家政学部助教授。その後、アメリカのコロンビア大学客員研究員、神戸大学教育学部助教授、同教授、同発達科学部教授、同発達科学部附属人間科学研究センター長、同発達科学部附属幼稚園長・附属明石小・中学校校長、同発達科学部長、同教育学部長、同大学院総合人間科学研究科長などを経て、2001年2月に神戸大学長となり現在に至る。専門は科学教育論。

「新しい産学連携教育の形」を目指すキャリア開発プログラム

大学が研究と教育だけの場所である時代は終わった。
ここでは、大学の特色として「もう一つの柱」を立てるべく、さまざまな取り組みに果敢に挑戦している事例を紹介しよう。

「新しい産学連携教育の形」を目指すキャリア開発プログラム
~グローバル時代の「即戦力」を育てる~」

今やどの大学でも当たり前となった海外留学制度。
しかし、その経験を社会に出てから実際に活かせている例はごくわずか……。
勢いづくアジアの大国・中国への、他大学に先駆けた留学プログラムで、国際人の育成に力を注ぐ亜細亜大学に本来の意味での「留学の意義」を問う。

亜細亜大学アジア夢カレッジ推進室部長
加藤伸吾氏

魅力的な中国留学プログラム 「アジア夢カレッジ」の開設

近年、中国はめざましい発展を遂げ、アジアのみならず世界経済の中で存在価値を高めている。これからのビジネスは中国なしでは語れないことは言うまでもない。

亜細亜大学(東京都武蔵野市)では産学連携教育の一環として2004年4月に「アジア夢カレッジ―キャリア開発中国プログラム―」を開設した。「夢カレ」と呼ばれるこのプログラムは学部の枠を超え、4年一貫でアジア教育を行うプログラムである。

カリキュラムには半年間の中国留学が組み込まれており、留学先の大連(大連外国語学院)では語学、文化を中心に学ぶのだが、驚くのが、留学中に1カ月間、インターンシップ制度を取り入れていることであり、学生が現地の日系企業で共に仕事を体験するという。

同大学によると、「夢カレ」で学びたいがために入学を希望する学生が増えてきているということだ。

協賛企業とつくり上げる 充実したプログラム内容

「夢カレ」は少人数制で実践的な教育を行うことで、社会で即戦力となる学生を育てることを目的としている。

まず1年次にアジア社会の動きを学ぶため、中国語、中国の近代史等を学び、1年次終了までに中国語検定3級合格を義務づけている。また中国人との付き合い方やマナー、生活習慣等、実践的なことも学ぶ。2年次後半には、メインプログラムである約半年間の中国留学とインターンシップを実施。そして3、4年次にはフォローアップを行い、4年間の集大成を一般公開する。

アジア夢カレッジ推進室の加藤伸吾部長は「夢カレ」について次のように語る。

『夢カレ』の最大の特徴は、学生情報センター他の協賛企業と共同でプログラムを開発し、実施していこうというものです。入学試験ではレポート・面接により選抜を行うのですが、その際にも各協賛企業に協力を要請します。

また、定期的に学生と企業が意見交換し合う場を設けています。中には1年次のうちから『ぜひうちの会社を受験してほしい』と企業からラブコールをもらう学生もいるほどです。

留学先に上海・北京ではなく、大連を選択したのは、治安や対日感情がとてもよいからです。万が一の留学中のトラブルには、過去の経験から充分な危機管理体制を整えています」

積極的な企業のアプローチから、夢カレ生への期待がどれだけ大きいかがうかがえる。この他、4年を通しての企業とのかかわりはさらに深い。

1年次には企業によるアジアビジネスについての講義や、国内企業へのフィールドワークを実施。3、4年次には企業の専門家によるアドバイスを受けながらの報告会や討論会を行い、研究成果をプレゼンする。

アドバイザーの情熱的指導で 学生をバックアップ

夢カレ生を支えるアドバイザーは大学の若手職員です。彼らは日常生活の相談に乗ったり、授業に入って先生と組んで学生を指導したり、留学の打合せ、資料作りをしたりと、膨大な量の準備を、通常の業務を抱えながら行っているのです」と加藤部長は言う。

このような万全の準備や充実した支援・指導体制は、留学希望の学生にとって大学選びの際にも重要な決め手となることは間違いない。「夢カレ」のプログラム自体が、休学ではなく卒業単位として認められているところも魅力の一つだろう。

社会ニーズを的確に反映する人材教育

現代の中国の価値観・労働観などを直接体験した夢カレ生は変化が激しい今後のグローバル社会とのかかわり方を自ら課題立て、答えを模索する力を身につけるという。

景気は回復傾向とはいえ、まだまだ厳しい就職戦線が続く昨今、単に留学したという「形」だけでは社会ニーズには応えられない。経済活動に密着した学びを受けた学生、自発的に行動し、リーダーシップがとれる学生がより求められることは言うまでもない。

「学生には中国を学んだ上で世界各国で仕事をし、対中国、対日本とのかかわりを築いていってほしい。また学校も中国留学にとどまらず、将来的にはベトナムなど東南アジアにもこのプログラムを拡げていきたいと思っています」(加藤部長)

ますます期待が膨らむ亜細亜大学「夢カレッジ」の今後に引き続き注目したい。

同窓会の一体化で教育理念の強化を目指す

~同窓会は学校法人の貴重な財産~

「同窓会は大切だ」「卒業生とのつながりを保ち続けたい」……
そう言うのは簡単だ。しかし、実際、どれだけ実現できているだろうか。
「全人教育」を建学の理念に置く玉川学園での同窓会活動に、本来の学校教育のあるべき姿を見る。

玉川学園・玉川大学 同窓会事務部長代理
玉川学園同窓会事務局長
宮川 正氏

教育現場の「今」 そして「本来あるべき姿」とは

フリーターやニートの激増、幼児・老人虐待、凶悪犯罪の低年齢化や相次ぐ集団自殺……。一昔前では考えられなかったことが、近年では当たり前のように毎日世間を騒がせている。

現代は核家族化、またテレビゲームやインターネット等の普及に伴い、人間関係が希薄になり、社会に適応しにくい成育環境となっている。

昨今の学校教育の現場においても、学力レベル強化の追求のみを重視し、「人間形成」や「人的な交流」という点は軽視される傾向にある。これが前述のような社会問題を引き起こす一つの要因となっているのではないか。

そのような中、他校に抜きん出て充実した全人教育に取り組む学校法人がある。

玉川学園(東京都町田市)は幼稚部から大学院まで約10000人が広大なキャンパスに集う総合学園として、幅広く教育活動を展開している。

同学園は人間形成において真・善・美・聖・健・富の6つの価値を調和的に創造することを教育の理想とし、教師・学生、また先輩・後輩の関係においても「師弟同行」の考えのもと、人間的な触れ合いを通して学生が主体的に行動する力を養成している。

従来基本とされてきたあるべき教育の姿を目指す玉川学園では在学生のみならず、卒業生との交流にも力を入れ、同窓会活動にも非常に力を注いでいるという。

同窓会の意義とは

玉川学園同窓会は1952年に会員2139名でスタート。現在は会員数が83000名を超え、同窓会の支部は国内で66、海外に3つにまで拡大している。クラス会や同期会、ゼミ研、課外活動のOB会等が頻繁に開かれ、同窓生の年齢や職業を超えた交流が盛んに行われている。

同窓会発足50周年記念にあたる一昨年、学校は同窓会の運営・活動により力を入れるため学内組織に「同窓会事務部」を設置、業務の一体化を取り入れた。

「業務一体化は『同窓生は学校の財産』であり『卒業したから任務は終了』ではなく『いつでもこの玉川の丘に帰ってきてください』という温かく見守る存在でありたいという学校の考えのもとに行われたものです。

また、同窓会事務部では、同窓生の学校に対する帰属意識の向上に努めていくことに業務として大きな比重を占めています。

一方、同窓会正会員から2年で5000円の会費を集めていますから、スタッフには『同窓生はお客様』との意識で業務に取り組むよう指導し、会員へのサービス(顧客満足)の充実を図っています。4月からは学内施設の同窓生利用も可能になりました」

こう語るのは玉川学園同窓会事務局の宮川正事務局長である。

同事務局では同窓生間のみにとどまらず、在学生との交流にも力を入れている。

昨年からは、毎年開かれる同窓会イベントである「ホームカミングデイ」と大学主催の「コスモス祭(文化祭)」の同時開催イベントを始めた。

また企業経営者や著名人等、各界で活躍する同窓生が積極的に在学生に講義を行うなど、精力的に活動を展開。同窓会と学校が一体化したからこそ成し得ることであろう。

同じ学びの場で得た「共通意識の集い」という安心感から学園が彼ら自身の拠り所となっているのではないかと感じられる。

「玉川同窓.net」の立ち上げで より確実なパイプを築く

宮川事務局長は昨年10月、情報提供の一環として、株式会社ナジック教育ソリューションの協力のもと、インターネットサイト「玉川同窓.net」を立ち上げた。

このサイトへはパソコン、携帯電話からアクセスでき、同窓生が運営する全国各地の飲食店・旅館・アミューズメント施設の情報や同窓生が経営する企業の求人情報等を提供。会員には割引や各種サービス等、特典を設けている。

「このサイトは各都道府県の支部、そして同窓会員の個人・企業の活性化、またそれを利用できる会員の優位性を図るのが主な目的です。同窓会運営に大きな役割を果たすとともに、他大学のネットワークへの拡大等、さらなる発展を目指せる可能性を秘めています。

また、在学生が、同窓会への関心をより深めていくことにも繋げたい。同窓生自身にも大変意義あるものになるでしょう」と宮川事務局長は言う。

情報やサービス提供者にサイト本来の目的を理解してもらうこと、また個人情報保護法の施行に伴う会員の情報管理も、学校と同時進行で個人情報ガイドラインを作成、全会員に広報を行った。

このサイトが同窓生間、そして在学生とのさらなる交流の橋渡しとなり、玉川の建学の精神に則った「人と人との繋がり」の確実なパイプとなるのは言うまでもない。

玉川学園の教育理念からは、祖父母や親戚、地域の人々との親密な交流の中で倫理規範やモラルを学んでいた古きよき時代の教育が思い起こされる。

企業においても、社会集団における人間関係を通じて、社会の一員として生きるための知識や技術・モラル等、人間的な魅力を持つ調和のとれた人材が求められる。

玉川学園の取組みの中に、一つの答えがありそうだ。

学生と教員、双方のニーズに応えるキャリア支援

~交通整理役としてのキャリアアドバイザー~
好きなこと、やりたいことと仕事が結びつかない。就職してみたけれど、
こんなはずじゃなかった……。就職にまつわるミスマッチは後を絶たない。
教員全員のヒアリングからニーズを把握してミスマッチを解消。
学生のキャリア・デザインをサポートする、新しいキャリア支援が始まった。

麻布大学学生部就職課課長
高橋 徹氏

時代にフィットした キャリア支援とは

業界や各企業の情報を提供するだけの「就職支援」なら、もはや学生は望んでいない。
ニートと呼ばれる若者の急増が問題視されている昨今、価値観の多様化やモチベーション低下が目立つ学生に、大学がどう働きかけていくか――時代にフィットしたキャリア教育の構築を模索している大学は多い。


学生一人ひとりにスポットを当てた キャリア形成支援

麻布大学(神奈川県相模原市)では、昨年度から「キャリア形成講座」の開設や就職課内に「キャリア相談室」を新設して、学生のキャリア形成支援のための体制整備に取り組んでいる。

キャリア形成講座は、キャリア形成の必要性を学生に早い時期に自覚してもらうために開設したが、好評だったので本年度からは1講座増設されることとなった。

今後は、キャリア形成の視点から、キャリア形成講座とは別に、各授業の中で授業の内容がどのような職業と関係し、社会とどのような繋がりがあるかを意識した授業が、より一層求められてくると考えている。

キャリア形成支援の目標について、同大学就職課課長・高橋徹氏は次のように語る。

「本学のキャリア形成支援の目標は、『学生が、自らのキャリアを、自らが形成できるよう支援する』ことです。この目標達成のために、学生に自分というものを理解してもらうことが、キャリア形成支援の第一歩と考えています。

また、自らがキャリア形成をするためには、指示待ち型から自律型の人間へ改革する必要があることを気づかせ、自ら考え、学び、行動する習慣を身につけてもらうよう助言をしています。学生一人ひとりにスポットを当てたキャリア形成支援を目標にしています。

『仏作って魂入れず』や名称だけ変更したキャリア形成支援組織にならないよう御仕着せのキャリア形成プログラムや出来合いのパッケージ的なキャリア形成支援ではない本学の学生一人ひとりのためのオリジナルのキャリア形成支援プログラムの開発を模索しています。

キャリアアドバイザーには、学生個々人にあったキャリア形成支援ができるように、学内の研究室のヒアリングを行い、学生の置かれている状況を正しく理解した上で、専門家の立場で血の通ったキャリア形成支援を行うことを依頼しています。その効果は徐々にですが現れてきていると考えています」

キャリアアドバイザーが常駐

キャリア相談室は、従来の就職相談室とは別に設けられている。就職相談室では3、4年生(獣医学科は5、6年生)を中心に、エントリーシートの書き方や面接試験の予行練習、グループディスカッションなど、具体的かつ実践的な指導を行ってきた。

一方のキャリア相談室は、主に1、2年生を対象とし、将来の進路を見据えた上で学生生活で何をするべきかやそのためにどんな準備が必要かなど、キャリアと学生生活を結んだ視点での支援を行っている。

キャリア相談室には、株式会社ナジック教育ソリューションから派遣されたキャリアアドバイザーが2名常駐している。2人は開設にあたって、麻布大学の学科と進路の特性を徹底的に理解することからはじめたという。

同大学のような専門性の傾向の強い大学に「一般論」だけでは通用しないと判断したからだ。そのため、専門教育を担当する研究室の教員全員にヒアリングを実施。大学で学ぶ専門教育と、実社会での仕事がどう結びつくのか、また実際にうまく活かした事例があるのかなど、詳細を確認した。

その結果、研究室で学ぶ専門教育についてのみならず、教員の就職についての捉え方や支援の工夫などを聞くことができた。

キャリアアドバイザーの一人、宮田祐子氏は次のように語る。

「一口に就職といっても教員によって考え方は様々です。私たちが現状を把握し、キャリア形成の観点から専門分野を選ぶ助言をする。

言ってみれば学内の交通整理をすることで大学時代をキャリア開発の時期として有効に活用できるように支援することができるのです」

もう一人のキャリアアドバイザー、大神光江氏も続ける。

「相談業務というと学生のニーズばかり集まりがちですが、教員の方にヒアリングしたことで教員側の進路についての情報を全体で共有することが可能になりました。学生との窓口というだけでなく、教員への窓口につなげるようになったことは、大きな収穫でした」

一歩先の学生支援

この4月からは本格的に1年次の支援活動が開始され、毎日数組の1年生がキャリア相談室を訪れるなど、利用者も増えている状況という。キャリアアドバイザーの2人に抱負を聞いた。

「教えるのではなく、学生の話をよく聞く。この基本を忘れずに学生に接したい。よく聞いてみると、進路で悩むというより、もっと深いところで悩んでいるケースが多い」(大神氏)

「好きなことと仕事が結びつかない。そうした学生のジレンマを、少しでも軽減するのが私たちキャリア・アドバイザーの仕事だと思います」(宮田氏)

学生のキャリア形成支援の推進役だけでなく、教員・学生・キャリア相談室という三者が一体となった、新しいネットワーク構築に踏み出した麻布大学。学生支援、就職支援で、一歩先を進み始めているようだ。

大学スポーツでコミュニケーション能力を獲得

~meijiコミュニティ・スポーツ・クラブの可能性~
体育会は根性や気合いだけではない。高い技術とセンスを磨く「選手育成」
の場であると同時に、“交流”を軸に社会貢献、地域との連携を図る場である。
そんな先進的な構想の下、本格的な活動を始めようとしているのが、meijiコミュニティ・スポーツ・クラブである。

明治大学硬式野球部監督
川口啓太氏

大学と地方自治体の連携

2004年、明治大学と東京都調布市は、相互友好協力協定を締結した。
調布市には、明治大学硬式野球部の球場と寮があり、同部は1998年から同球場で中学生を対象とした野球大会や教室を開催してきた。また、卓球部と硬式庭球部の寄宿舎も調布市に建設された。

この協定は、スポーツ関係に留まらない包括協定について調布市から提案されたもので、文化、教育、学術、スポーツ分野で援助、協力し相互発展を図ることを目的としている。
大学と地方自治体が正式に協定を締結するケースは、全国でも極めて稀だ。

時代に向かって 積極的に取り組む

明治期以降近年まで、大学は「研究」と「教育」の場だった。しかし、この2本柱ではもはや立ち行かなくなってきていることは周知の事実である。

では、第3の柱とは何か? それは、社会貢献・地域との連携であり、それを可能にするのが大学スポーツだと強調するのは、明治大学硬式野球部監督の川口啓太氏である。

「社会貢献、地域との連携に、スポーツの特性である『交流』をうまく生かせないものか。さらに、これまでスポーツは時代に育てられてきた面があるが、これからは、スポーツが時代に向かって積極的に取り組んでいくべきだろう。こんなところからmeijiコミュニティ・スポーツ・クラブを構想したのです」(川口氏)

meijiコミュニティ・スポーツ・クラブは明治大学が核となり、自治体や企業との連携を通じて、スポーツ文化の発展に貢献することを目的としている。先の調布市との協定締結も、この構想に大きく寄与している。川口氏は続ける。

「今までのスポーツは、どちらかというと選手育成型。もちろんそれも大切ですが、それに加えて生涯スポーツ。つまり、お年寄りから子供まで、スポーツで交流しながら、地域に根付いていく。そして、そこから幸福感を得る。やはりそういう底辺があって、トップ選手の育成があると思うのです」

こうした構想の下、明治大学野球部は既に、調布市やナジック教育ソリューションから支援を受けて市内の8つの中学校を対象に、野球大会・野球教室を開催している。

昨年は、高田繁氏、鹿取義隆氏、広沢克己氏(いずれも明大OB)が応援に駆けつけ、監督、コーチ、そして子供たちに熱心に指導を行ったそうだ。プロを数多く輩出している同大ならではの取組みといえるだろう。

新しいインターンシップ

meijiコミュニティ・スポーツ・クラブでは現在のところ、調布市内に寮・グラウンドを構える硬式庭球部、硬式野球部、卓球部の3部で、施設の開放や野球部のようなスポーツ教室の開催など、スポーツを通して交流を図る場を提供していくことを当面の構想としている。

そこからさらに発展させ、meijiコミュニティ・スポーツ・クラブを軸にしたインターンシップ、体験学習ができないかと川口氏は考えている。

「地域の中学校のクラブは、どこも指導者不足。要請があれば、たとえば明治大学から学生をコーチとして派遣することも不可能ではありません。それが中学校のためになるのはもちろんのこと、スポーツ指導者を目指す学生にとっては、インターンシップの場にもなるわけです」

さらに川口氏は、meijiコミュニティ・スポーツ・クラブの抱負を次のように語る。

「meijiコミュニティ・スポーツ・クラブの中で、クラブ員も子供たちも、交流を通じてコミュニケーション能力が身につけられる。そんなイメージを持っています。

現在でも、組織や事業体の中で、スポーツ経験者が『繋ぎ役』や『潤滑油』となって職場を明るくしているということはよく耳にします。企業との連携も模索していかなければなりませんが、大学、企業、双方にメリットをもたらすクラブづくりができればと思っています」

早稲田大学や東海大学、立命館大学でも大学スポーツの新しい試みは始まっている。
その形態は一様ではないが、それらをつくり上げていくプロセス自体も、大学にとっては大いに価値のあるものではないだろうか。

学校法人と個人情報保護法 ~個人情報保護で学校法人の「品位」を保つ

株式会社イーエムエスジャパン
シニアコンサルタント 深田博史

「資産を預かっている」という認識

――「DMが送れない」「データが集められない」など、個人情報保護法(以下、保護法)をめぐる誤解が多いようですが……。

深田氏(以下敬称略)) そのようですね。保護法自体はシンプル、別の表現をすれば抽象的なのですが、保護法の大きなポイントは「目的外利用の禁止」と「情報漏洩・紛失等の防止」の2点です。

まず「個人情報はあくまでも『(個人情報を提供した)本人の資産』であって、企業であれ学校法人であれ、その大事な資産を蕫預からせていただいて﨟利用している」という視点に立ちます。

そうすれば不正に取得していいのか、勝手に使っていいのか、漏らしたりなくしたりしていいのか、委託するときは特に注意すべき……となり、各条文で定めていることが理解しやすくなるでしょう。

――目的外利用や情報漏洩など、「した側」のリーガルリスクや社会的責任ばかりを誇張する論調も多くあります。

深田) 「した側」のリスクを考え、それに備えることはもちろん必要です。しかし、一番の被害者は「された側」、つまり「本人」だという認識を持っておかなければ、ついつい漏洩などのミスを起こしてしまいます。

学校法人は「宝の山」

――学校法人が特に注意しなければならないことは?

深田) 「悪意ある利用者」にとって、学校法人は宝の山です。所属学部や専攻だけでもマーケティングにおいて便利な情報になりますし、成績もしかりです。

また、生徒や学生の情報には家族の情報が含まれることも多く、1人の情報を入手すれば、家族全員の情報がつかめてしまうことにもなりかねません。さらに学校法人は健康に関する情報も持っており、それを狙う人もたくさんいます。

非常に広くて濃い領域の個人情報を取り扱っているという自覚が、学校法人には大切です。

――卒業アルバムの名簿を高価で買い取る業者もあるようです。
深田) 名簿に実家が記載されていたりするなど、架空請求や振り込め詐欺をたくらむには貴重なデータが満載です。

学校関係者と偽って生徒や保護者に直接アプローチするケースがありますから、生徒への啓発とともに、名簿自体の扱いも今後は、名前、住所等のうちどこまで掲載するかを本人から同意を得るか等、判断が必要になってくるでしょう。

また、同窓会や交友会への無条件の配布、図書館での閲覧などにも見直しが必要です。
――情報セキュリティ対策への先行投資は学校法人のブランド価値を上げるのでしょうか。

深田) そう思います。そこで改めて考えたいのが学校法人の意義です。
学校という一つの組織があり、そこに入る前と出た後で、何が違うでしょうか。
それは、知識・技術・人格などさまざまな面で、学校法人の利用者(生徒)がグレードアップしているということです。

つまり、利用者は学校法人に教育投資を行っている。その意味で言うと、個人情報の漏洩は逆に利用者の負債になるのです。その負債が現実的な被害に結びついたとき、本人は財産面だけでなく精神面にも甚大な影響を受けます。

学校法人のミスや怠惰で、そんなことになってもいいのか――もちろん許されませんよね。漏らしてから取り組むか、漏れる前に取り組むかは学校法人のブランド戦略上重要な経営判断と言えるでしょう。

個人情報保護で「品位」を保つ

――「何から始める」という質問は現時点では遅すぎるかもしれませんが、最低限確認しておくべきことは?

深田) 学校法人に向けた保護法対応簡易チェックリストを用意しました。情報セキュリティ対策が不充分な項目については、改善する必要があります。
――プライバシーマークやISMS認証は、学校法人のマストアイテムになりますか?

深田) 必ずしもそうとは言い切れませんが、個人情報保護に対する仕組みづくりを進める上での、一つのマイルストーン(里程標)にはなります。第三者が監査しますので定着度を客観的にはかることができます。

ISOなどのマネジメントシステム認証もそうですが、取得するとなると、ひと言で言えば「大変」です。

しかし、自分たちだけで蕫なあなあ﨟の仕組みをつくるよりははるかに有効でしょう。認証はいわばスタートラインで、やはり「維持・改善」、つまりPDCAサイクルにより、現場での現実的な運用を意識しつつ、セキュリティを向上させるプロセスが大切です。

例えばプライバシーマークを取得してから情報漏洩が発覚すれば、それこそ「記者会見もの」です。
つまり社会的責任を厳しく問われるわけですが、しかし、そうした緊張感が一つのドライビングフォース(推進力)となって、一定のクオリティーを維持できることは確かです。

――今後、個人情報保護対策をさらに進めていくためのアドバイスを。
深田) 個人情報保護、あるいは情報セキュリティ対策は、できるだけ多くの組織構成員を巻き込んで進めることが効果的です。

繰り返しになりますが、ポイントは仕組みをつくるだけでなく、そのマネジメントを定着させること。全員で「本気で」取り組まないと絶対に定着せず、知らない間に情報漏洩を起こしてしまいます。

学校法人はやはり人を育てる組織。学校法人が、事務局が、そして教職員全員が個人情報保護対策を徹底している姿は、必ず生徒や学生に伝わると思われます。

そうなると彼ら彼女らは、社会人になった時点で、個人情報にまつわる姿勢の学習を既に終えていることになり、それがわが国全体の個人情報保護意識の浸透につながっていくと思うのです。

個人情報保護の一番の根底は「品位」かと思われます。「相手の了解を得てから行動する」ということは基本的な人間の品位の問題であり、もちろん、個人情報の保護に限ったことではありません。
生徒や学生の未来に対し、情報漏洩などでマイナスの要素を付けない。

そのために何をしなければならないか……学校法人の個人情報保護対策は、すべてここから始まると思われます。

深田博史 Fukada Hiroshi

京都市生まれ。トーマツ・コンサルティング、株式会社エーペックス・インターナショナル(現・株式会社ユーエル エーペックス)を経て株式会社イーエムエスジャパンに入社。 ISO9001・14001・ISMSを中心としたマネジメントに関するコンサルティング、経営コンサルティングやセミナー講師、ならびにソフトウエア開発、eラーニング開発、書籍執筆活動等を担当。著書に『最新改訂に完全対応! ISO14001がみるみるわかる本』『ISO17799がみるみるわかる本』『通信教育:情報セキュリティの理解と実践コース』(以上、PHP研究所)、『ISOの達人シリーズ [イソタツ]ISO9000:2000』『ISOの達人シリーズ2 ISO14000』(以上、株式会社ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。
http://www.emsjapan.co.jp

“一人ひとりを大切に”真の学生満足を

学校法人麻生塾 専務理事 古野金廣
〈聞き手〉学生情報センター専務取締役 西尾 謙


学生の夢を形にする徹底した仕組みづくり
多分野の専門学校を有し、毎年、高就職率を誇る麻生塾。
学生満足を第一義に置きながら、「本校の顧客は企業である」と明言する古野専務理事に、その真意をうかがった。

付加価値創造の義務

――ITビジネスや工科デザイン、医療福祉など多岐にわたるジャンルを網羅し、福岡市を中心に全11校を運営されています。専門学校の置かれている現状をどう捉えておられますか?

古野専務理事(以下敬称略)) 麻生塾の前身は、昭和14年の石炭産業が華やかなりし時代、地元の青少年に進学の途を開き、中堅産業人の育成に取り組んできた私塾です。時代の流れとともに学校の規模や体制には様々な変遷がありましたが、職業教育を徹底し、地域産業への貢献を果たすという理念は今も変わりません。

年々、学校法人をとりまく環境は厳しさを増しています。そうした中で専門学校が存在意義を保つためには、いかにプライオリティを明確にし、実践していくかがカギになってくると思います。

本校の場合、最優先するべき方針は「就職」です。長年にわたって、学生の就職がすべてに優先するという考え方を教職員全員に周知徹底してきました。

――事実、毎年100%に近い就職率を達成されていますが、学校が施すべき教育についてはどうお考えですか?
古野) 何より大切なのは、学生が夢を実現できるよう道筋を整えてあげることだと思います。学生にとって、学校はまさに夢を叶える場所であり、同時に、そのための教育サービスを受けられる場所であるべきなのです。

では、教育サービスに求められる要素は何かというと、ソフト面では学生と教師が深く良好な関係を保ち、学生のモチベーションを維持すること。ハード面では、出口対策の意味も含まれますが、一般企業を初め社会との交流を積極的に行い、太いパイプを持つこと。この両面を充実することが、教育サービスの質を高めることにつながるのではないでしょうか。

要は、入学から卒業までの間、いかに学生の付加価値を高め、確実に社会に送り出すことができるかにかかっているのです。

最近は、様々な意味で学生のレベル低下が言われますが、それを嘆くだけでは、学校側が仕事としての課題から逃げていることになりましょう。たとえ学生のレベルが落ちようと、その資質をいかにのばすことができるか、学校は常に、有効な施策を講じていかなければならないのです。

企業満足=学生満足

――志願者確保のため、対大学としての戦略をお持ちですか?
古野) 麻生塾では、特に大学への対抗策を打ち出しているわけではありません。確かに、われわれが網羅する学科は大学と競合するジャンルが多く、同じ土俵で学生を確保しなければならない状況にあります。ただ、専門学校には専門学校にしかできない教育があると自負しています。

ちなみに本校のビジョンは、学校の方針としてはピンとこないかもしれませんが、蕫質の高い教育サービスにより、学生の付加価値を高め、お客様である企業の求める人材を育成し、社会に貢献します﨟というもの。

つまり、麻生塾の顧客の定義は「学生」でなく「企業」なのです。

企業を顧客と置くと、①企業のニーズを的確に汲みとる、②これをカリキュラムに反映させる、③企業の求める人材を輩出する、④学生・企業両者の満足と信頼を得るという図式が成り立ちます。そういう意味では、対大学の視点で考えるよりも、いかに企業と密接な関係を築き上げるかという課題のほうが重要になってきます。

――学生の付加価値を高めるための最適な教育サービスを実践するということですね。ガバナンスについては、特にどのような方策をお持ちですか?
古野) 一般企業であれ学校法人であれ、組織が発展していくためには全員が事業方針を把握し、それを維持・向上させていく仕組みづくりが不可欠です。

本学でも、ISO9001を取得するにあたり、ガバナンス体制を集中的に強化しました。経営陣と職員間で意思伝達とフィードバックが迅速に行えるようラインを整えることはもちろん、更なるレベルアップを図るために、ナレッジマネジメントの強化やベストプラクティス経営に取り組んでいます。

これらは一般企業ではすでに馴染みのある取組みだと思いますが、学校法人で実践されているところは少ないのではないでしょうか? 

今後、特にガバナンスに関しては、学内に限らず他校や企業からも優れたプロセスを取り入れ、学ぶ姿勢が必要になってくると思います。

募集力・教育力・就職力の三本柱

――今後のビジョンをお聞かせください。
古野) ここ10年ぐらいで顕著に感じるのが、専門学校を第1志望に据える高校生が増えているということです。かつて、専門学校の入学者といえば半数近くが大学に不合格になった学生でしたが、その状況が変わりつつあると感じます。

今の高校生は、どこの学校で学べば自分の付加価値を最大限上げることができるか、非常にシビアに見ているのです。

少し前までは、大学全入時代の到来で短大、専門学校はいずれなくなるとの声も聞かれました。

しかし、いざ蓋を開けてみれば、優れた教育サービスを行う学校が必然的に勝つ状況にある。どの学校にも言えることですが、今後は募集力・教育力・就職力すべての力をつけなければ、学校として存続できない時代が来ます。

本校においても、「麻生だったら自分の夢が実現できる」という学生の期待に応えながら、高校生だけでなく社会人にも積極的にアピールしていくつもりです。併せて、社会のニーズを的確に掴み、チャンスがあれば、未開拓のジャンルへも展開していきたいと考えています。