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新キャンパスからの飛躍~アジアの中の九州大学~
聞き手◆株式会社学生情報センター社長 北澤俊和
本誌巻頭インタビューで九州大学総長・梶山千里氏に話を伺ったのは第六号(2002年5月発行)でのこと。梶山氏が、法人化を見据えた「強い九州大学」のあり方や新キャンパス構想、アジアにおける位置付けなど、九州の最高学府としての課題と将来像を、大胆に提示されたことは記憶に新しい。
あれから二年――。全入時代の到来が二年早まり、九州大学も国立大学法人に移行した。新キャンパスの移転スケジュールが正式に決まり、いよいよ具体的になる中、今回は、その実質的な最高責任者である有川節夫副学長に登場願った。
有川氏は情報科学者らしい緻密なロジックで、新キャンパス計画の進捗から資金調達の方法、PFI(民間資本や経営ノウハウを導入し、民間主体で効率化を図る手法)の活用まで、国立大学法人としての、新しい九州大学の可能性を語ってくださった。
ワーストケースを想定
――「新キャンパス・マスタープラン2001」で当初10年と計画されていた移転スケジュールが、最長で15年とするスケジュールに変更されました。その背景は?
有川副学長(以下敬称略)) マスタープランの中で示した移転スケジュールでは、どういう塊を、どんな順序で移転するかなど、アウトラインを固めることが主眼であり、どれくらい時間がかかるかという部分は、概ね10年だろうと予想していたわけです。
財政状況その他の事情で延長はあり得るということも書いています、言い訳ではないんですが(笑)。
今回の新しいスケジュールは、財政面はもちろん、造成等の技術的な要素も考慮して、より具体的な形に見直したものです。2005年度の概算要求について文部科学省と協議する中で、合理的、効率的かつ具体的なスケジュールを詰め、2004年9月に学内の委員会に報告し、役員会で決定しました。
ただし、2019年度までというのはあくまでもワーストケースでして、進行が早くなる可能性はいくらでもあります。
――技術的な課題というのは?
有川) 遺跡の取扱いです。これはとても大事なことで、先だっても「大宝元年」と記された木簡が出ました。大宝律令時代の木簡が福岡で見つかるというのは、大きな意味があるようです。
そこで、北部の谷部を現状保存することにしたのです。一方でそれを補うため、丘陵部を削平し残土を搬出するのですが、これが少なく見積もっても5年以上はかかりそうです。
そういったことで、予想外の、非常に現実的な課題に直面しているわけで、先の財政面、つまり予算がどの程度つくかという部分と、おもに土地造成における技術的な現状を勘案して、15年という結論を導いたのです。造成ができれば後は建物ですから、その段階になれば予定通りに進むものと考えます。
新キャンパスは「楽しい」
――梶山総長にもお聞きしたのですが、副学長が考えられる新キャンパスの意義を改めてお聞かせください。
有川) キャンパスが新しくなる――これは学生にとって非常に楽しいことだろうと思います。楽しいというのは、何かが新しく動くことによるその瞬間に遭遇できる楽しさのことです。
高度経済成長期以降のわが国は、安定から成熟へと向かっており、「新しいムーヴメント」というものを感じにくい時代にさしかかっていると思います。
学生たちは、新キャンパスでさまざまなことに直接関わりながら、自分の目で見て、肌で感じることができる。これは大きなチャンスだと思います。
さらに、新キャンパスを核に学術研究都市を構築していくわけですが、産官学連携や地域との共生、こういった事業に参画できることを嬉しいと思えるかどうか、ここも大きなポイントです。
ゴタゴタするのは御免とばかり、小市民的なところで満足してしまうのではなく、課題をどんどんクリアして成果を残す。自身の研究領域を探究しつつ、問題解決能力が身につくのであれば、こんなに楽しいことはないと思うのですが、いかがでしょうか。
――「天神や中洲(福岡市の繁華街)から遠くなる」といった冗談も聞こえてきそうですが。
有川) 確かに(笑)。しかし、本当の意味での「学問」を修めようとするならば、ストイックさが不可欠です。そうであれば、いわば非日常的な部分をキャンパス自体が作り出し、そこで一定期間を過ごして集中するということも非常に重要なことだと思います。
競争的な資金調達
――新キャンパスの福利厚生施設はPFI方式で事業化されますが、どのような課題がありますか?
有川) 第1期開校分の学生宿舎、250戸をPFIで建てます。同じ場所では、方式は未定ですが最終的にはその4倍、1,000戸を考えています。
しかし、これは分かりやすくいえば、国が借金するPFIで、宿舎費は1戸ひと月当たり4000~5000円になりそうです。もちろん安いに越したことはないのですが、これが普通だと考えてしまうと、著しく社会常識に欠けた卒業生が多く出はしないかと懸念しています。
やはり国ではなく、国立大学法人自らが負担するPFIがあってしかるべきではないでしょうか? 土地はこちらで用意しますから、月に40,000~50,000円で部屋を提供できるよう、建設とオペレーションをお願いします。
こんな発想があってもいいと思うのです。建物をつくり現実的な宿舎費が徴収できるのなら、手を挙げてくださる民間企業はいくらでもいらっしゃるはずです。
国立大学法人に移行して日が浅く、いきなりすべてを認めるわけにはいかないというのはよく理解できますので、今後さらに具体的な問題が出て、さまざまな提案がなされ、解決を図ることで、何らかの進展があるのでは、と期待しているところです。
――梶山総長には以前、休暇中に学生宿舎をホテルとして利用するというプランを紹介していただきましたが。
有川) 私も賛成です。大学は特に夏期のような長期休暇になると、多くの建物が、文字通り遊休施設に成り下がってしまいます。この厳しい時代に、これほどもったいない話はないのですから、少なくとも有効利用できる方法はないかと考える。そのためにわれわれに何ができるのかという発想が根本にあるわけです。
ホテル=金儲けということで印象が悪いかもしれませんが、例えば、学生以外の方々の教育、あるいは研修の場として活用できるはずです。宿泊施設を整備し、1週間なら一1間集中し、ある一定の最新技術なり知識なりを習得していただくという、いってみれば一つのビジネスモデルを確立せねばならないと思います。
――中期計画の実績と評価に基づいた予算が分配される国立大学法人ですが、資金面で安閑としてはいられない状況に、国公私の区別はありません。資金調達面で具体的なプランはありますか?
有川) 先のホテル構想もその一つですが、特に旧帝大や工科系大学であれば特許収入や産学連携での委託金収入などが原則的なところでしょうか。もう少し一般的なところでは、収益の上がる病院経営の実践や語学などの研修体系を整備するなども挙げられるでしょう。
要するに、資金の中でも競争的なものも含めて外部資金をどれだけ調達できるかがポイントだと思います。
――TOTOと共同で人材育成コースを開設されていますね。
有川) 大学の社会貢献の一環として、本学では産学連携を積極的に推進していますが、文系では初の試みとして、人材育成を目的としたビジネス・カレッジ事業をTOTOより受託しました。同社内で十年以上の職務経験を持つ中堅社員から若手管理職を対象とし、新たな価値を創造し伝達できる人材の育成を図っており、産学連携の新たなスタイルとして定着させたいと考えています。
AUの中心的存在として
――新しい取組みがいよいよ本格化し、これからの展開が楽しみです。
有川) 今後、世界におけるアジアの位置づけがさらに変化するはずです。アメリカに拮抗する形でEUが巨大化し、世界に対する相応の影響力も兼ね備えています。
アジアでもそうした共同体、AUとでも呼ぶものが発展的に形成されるのではないでしょうか。
アジア諸国を俯瞰してみても、現在のところわが国には、ほとんどの分野でまだアドバンテージがあるように思います。
アジアの中心は、やはりわが国であるべきなのです。
アジア学長会議が本学のイニシアティブで開催されていることはご承知の通りですが、他にも近年では拠点大学方式(core university program)の日本側の代表として韓国の忠南大学とともに拠点を形成し、日韓での「次世代インターネット」の研究を推進しています。
このように、アジアにおける関係性において本学は固有の実績を持ち、有利な立場にあります。こうした「強み」を強力に打ち出し、九州大学の進化のスピードを、さらに加速させたいと考えています。
有川 節夫 Arikawa Setsuo
1941年、鹿児島県生まれ。京都大学助手、九州大学助教授を経て教授。後に附属図書館長。2002年、副学長に就任。著著に『述語論理と論理プログラミング』(オーム社)、『オートマトンと計算可能性』(培風社)、訳書に『知識の帰納的推論』(共立出版)、『形式言語の理論』(丸善)、『再帰的思考法』(オーム社)などがある。専門は情報科学、特に発見科学、計算学習理論、情報検索。
記事の内容は第11号(2005年1月1日発行)を抜粋したものです。
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