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新生・東京農工大学―発展のためのロードマップ

すべては社会と地球のサステイナビリティ《持続可能性》のために
新生・東京農工大学―発展のためのロードマップ

国立大学法人東京農工大学長 宮田 清藏
聞き手◆ナジック総合研究所 所長 小川弘行

1874年設立の農事修学場と蚕業試験掛をルーツとする東京農工大学。常に「実学研究」を軸に据え、産業界と高等教育界の橋渡し役を担ってきた大学である。
従来は旧七帝大でもなく、いわゆる「駅弁大学」でもない、国立大学の中にあって実力に反比例する形で「地味で隠れた存在」であったことは否定できない。

実際、同大学には、広く一般に名前が知れ渡っている教官は少ないが、わが国における品種改良の第一人者や動物の心臓移植手術を初めて成功させた獣医など、「その道のエキスパート」が数多く教鞭を執っている。特定の分野を研究したい者にとっては非常に恵まれた環境というわけだ。しかし、競争が激化する大学界にあって、いつまでも「分かる人には分かる大学」の座に甘んじるわけにもゆかない。

東京農工大学も2004年度から法人化の途を選択したが、その文字通りの牽引役が宮田清藏学長である。氏のマネジメント手腕には以前から定評があり、法人化後の舵取りにも注目と期待が集まっている。
小雨降る取材当日、宮田学長は府中キャンパスにある学長室において、時にはその大柄な身を乗り出しながら、緻密かつダイナミックな口調で質問に答えてくださった。

憧れと誇り

――東京農工大学も法人化を選択されました。「選ばれる大学」のための過当競争ともいえる状況の中、どういった大学づくりを目指しておられますか?
宮田学長(以下敬称略)) 学生の立場から見れば「超」のつく売り手市場にあって、「憧れと誇り」――これがとても重要だと考えています。本学で学ぶことに憧れを持ち、学んだことに誇りを抱いていただきたいのです。

憧れの対象としては、「教育・研究力」が、その一つとして挙げられるでしょう。

昨年の2月に日本経済新聞社が大学工学部の「研究力」を調査し集計したのですが、そこで東京農工大学は5位にランクされました(1位・大阪/2位・奈良先端科学技術/3位・東北/4位・東京)。

さらに指標別に見れば、教官1人当たりの主要学術誌での論文発表や特許出願数から分析する「成果発信力」で1位、企業との共同研究や研究成果の技術移転で分析する「産学連携力」で5位と、本学の研究力は非常に高く評価されています。

これらの結果は、いわゆる「大学改革」や「法人化」の議論以前から、本学が地道に積み重ねてきた努力の、一つの現れではないかと思っています。

――大学院重点大学への「昇格」も果たされました。
宮田) あくまでも文部科学省の分類ですが、大学院重点かそうでないかの議論が存在することは事実です。

例えば東京大学を筆頭に旧七帝大は大学院重点大学、すなわち研究大学としてその地位を確固たるものにしている。

われわれもそうした研究オリエントな大学になりたいと努力した結果が、先のランキングであり、「昇格」だといえるでしょう。

教育充実のための人材配置

――実学重視、高度研究型大学を志向するがゆえに、これまでの東京農工大学は、大学教育の、特に教育面にはあまり注力されてこなかったように感じられるのですが。
宮田) 確かにそうかもしれません。しかし、私の学長就任以来、「教育の充実」も決して疎かにはしていないんです、実は。そのあたりのアナウンスがうまくないというのが、本学の課題の一つなんでしょうが(笑)。

教育面を考える場合に、強い部分は何であるかを見極め、その強いものを、より強くしてゆこうという考え方があります。こうした「選択と集中」あるいは「資産の重点配分」は、他の何よりもまず第一に、人的配置が大事なのです。

そこで全教職員約700名のうちの3%、21名の人材を、学長直轄人事によって、本学が今後伸びるべきところに再配分することにしました。

まず、21名のうちの11名を獣医学科に配しました。本学の獣医学科は常に全国ランキング1位ですが、さらによい教育の場を提供しようという考えです。結果として現在、35名の学生に対し、38名の教官が指導にあたります。

残り10名のうち5名はFD(ファカルティ・ディベロップメント)の専門家です。どういう教授法が学生にとって理解しやすいか――この問題についてわれわれももはや看過できないからです。

高等学校の現役の校長を教授として招聘し、高大連携を活性化させる。あるいは出張授業等を行うことで高等学校のレベルアップにも加担してゆくなど、「いい学生」が本学へ来てくれるように、全体的な向上を目指しています。

残る5名は専門職大学院。本学では現在、「技術経営研究科技術リスクマネジメント専攻」の設置計画を申請中であり、今年4月の開設に向け準備を進めています。

――技術経営、リスクマネジメントとはどういうことですか?
宮田) 専門職大学院といえば、法科大学院や会計大学院が代表的ですが、理工系研究大学である本学にとっての専門職大学院とは何かを考えてみたのです。

例えば、原子力問題や三菱自動車問題に象徴的ですが、わが国には「技術に対するリスク」の意識が欠如しています。

「絶対に安全だ」という言葉を耳にすることがありますが、この世の中に「絶対」などあり得ない。あり得ないのであれば、そのリスクをいかにミニマムにするかを考えてゆくほうが、よほど現実的だと思いませんか? 

これからはものづくりにおいて、個々ではなく、トータルのリスクをどう減らしてゆくかを考えなければ、社会のサステイナビリティ(持続可能性)は保ちようがないのです。

技術経営研究科では教官16名、非常勤講師17名の計33名で、40名の学生の指導にあたる予定です。

また、学費の10%の値上げが、先に行われた経営協議会で承認されました。これは、国立大学では初めてのことですが、学外の実務家を多く招請することを鑑みれば、至極妥当なものだと考えています。

意思決定のスピード

――法人化にともない、経営協議会、役員会、教育研究評議会など、経営マインドを軸にした意思決定機関を設けられ、学外者もボードメンバーとして迎えられています。いわゆる「大学ガバナンス」の定石ともいえる仕組みづくりですが、一般にいわれる通り「意思決定のスピード」はアップしたのでしょうか?
宮田) 従来より多少は速くなったでしょう。しかし、意思決定はスピードさえ速ければいいというものではありませんから……。

例えば、今日私が何かを思いつき、サッと決断してしまうことが、大学にとって本当にいいことなのかどうかは疑問が残ります。

法律上は、教授会の賛成を得られなくても物事を進めることは可能ですが、それでは大学が空中分解してしまいます。スピード至上主義のガバナンス論には、どうも私は首肯できません。

とはいえ、私がこんなふうですから(笑)、教職員の皆さんも、競争下における危機感が多少は強くなっているようです。経営論的にアイデアル(理想的)な状態に対して、現状のリアルでどうかといえば、まだまだギャップはあると思いますが、少しずついい方向に進んでいると考えています。

モア・センス

――国立大学法人は六年の中期目標・計画に従い、国立大学法人評価委員会から経営および教育研究実績の総合的評価を受け、その評価の結果が予算配分に反映されます。これらを踏まえ、改めて東京農工大学のビジョンをお聞かせください。
宮田) これからは年度計画を作成し、その達成度について自己点検・評価を行い、業務実績の評価を受けながら、6年間の取組みで成果を出すことが課題となります。

交付金の1%ずつの削減も決まっていますから、産官学連携や特許戦略を含めた外部資金調達の方法も考えなければいけない。本学の場合、産官学連携や特許件数にはかなりの実績があるとはいえ、安穏とはできないわけです。

東京農工大学では基本理念を「従来の農学と工学の2つの科学技術系領域を基本とし、産業技術とそれに関連する諸分野を対象とした教育・研究を推進し、それを通じて、人類の生存・繁栄と美しい地球の持続を実現する」とし、この理念を「使命志向型教育研究―美しい地球持続のための全学的努力として―(MORE SENSE=Mission Oriented Research and Education giving Synergy in Endeavors toward a Sustainable Earth)」と称しています。

具体的には例えば、エネルギーや材料、食糧などを自分たちの手で持続的に得ることができるような技術開発をぜひやってゆこうと。それが可能になれば、資源の争奪戦がなくなるわけで、大きくいえば世界平和にも貢献できるわけですから。

私は本学において、科学技術系大学院を機軸としてさらなる高度化を図り、個性豊かなオンリーワン大学を創り上げてゆきたいと考えています。

そのための行動指針として、

①変化を恐れずに革新し、創造に挑戦すること
②環境変化に鋭敏であり、俊敏に行動すること
③常に学生の立場で考え、連帯感と思いやりを持ち、謙虚な心を絶やさないこと
④研究・教育・企画立案に対してプロフェッショナルとしての自覚と誇り、情熱を持つこと
⑤いかなることにも倫理観を持って行動すること

の5点を、全学的にアナウンスしました。

国立大学法人化はチャンスです。社会が大学に対して何を求めているかを常に考え、情報を収集し、次にそれを解析し、新生東京農工大学の発展につながる教育研究活動の活性化に邁進するとともに、競争的環境の中で、本学の存在をさらに高めてゆきたいと考えています。

宮田 清藏 Miyata Seizo

1941年、東京都生まれ。64年、東京教育大学理学部化学科卒業。69年、東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻博士課程修了。69年、東京農工大学講師、70年、助教授、86年、教授。のち同大大学院生物システム応用科学研究科長を経て、2001年、学長に就任。この間、1982年、カリフォルニア工科大学客員教授、84年、ベル研究所客員研究員。2004年、フランス政府教育功労賞オフィシエ受勲。著書に『高分子材料の化学』(丸善)、『インテリジェント・マテリアル』(日刊工業新聞社)などがある。専門は有機光・電子材料。

大学改革提言誌「Nasic Release」第11号
記事の内容は第11号(2005年1月1日発行)を抜粋したものです。
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