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競争時代を勝ち抜く大学・成長の条件
聞き手◆ナジック総合研究所副所長 藤井一成
『週刊ダイヤモンド』の特集「役に立つ大学」が好評である。これは他誌の大学ランキングとは違い、「企業の視点」から見た大学像を如実に反映するデータとして独自のものであり、社会的信憑性が高く説得力もある。
「大学全入時代」到来の二年前倒しが公表され、大学存亡の危機はまさに「いま、ここ」に迫っている。そんな中にあって、超・過当競争市場で生き残る大学=「ハズレない大学」の条件を、ダイヤモンド社の松室哲生氏に聞いた。松室氏は「役に立つ大学」を企画、制作した張本人。現在は編集の一線を退いているが、大学改革の動向には引き続き注目している。
氏は「スーパーか、ニッチか」「異分子の活用」「消費者志向」などをキーワードに、専門学校の台頭や株式会社大学参入などのトピックスも交え、大学成長の条件を熱く語ってくださった。
「失われた10年」と大学改革
――「役に立つ大学」の発想はどこから?
松室氏(以下敬称略)) これは1992年にスタートしたのですが、当時『週刊ダイヤモンド』は大きな転換を行っている途上であり、インパクトのある特集が必要でした。
そうした中で、一つの試みとして「大学を評価してみよう」と。大学は実社会に人材を供給する役割があるわけで、その観点からもランキングは必要だというわけです。
欧米の経済誌では既に大学評価が存在しており、そのベースとなっていたのは、大学が公開した情報です。ところが、わが国の大学は情報を全く公開していなかった。評価しようにもネタがないし、取材も断られる……。だったら多少乱暴だけど企業の側からやってみようということです。
――企業は大学・学生に何を求めているのでしょうか?
松室) 「失われた10年」以降、企業だけでなくわが国社会全体が「なぜ失われ」「どう取り戻すか」を問い続けています。それが構造改革の本質です。そうした社会構造の変化に加え、少子化も大学にとっては大きなトピックのはず。
そうすると、市場(=人材を求めている側の企業)が変化してきているわけだから、送り出す側、つまり大学も変わらざるを得ないわけです。逆にいえば、そうした変化に無頓着な大学に対し、企業は興味を示さないでしょう。
また、求める人材も変わっています。従来の「物事を言われた通りに遂行する能力」ではなく、「新しい価値を創造する能力」が重要視されるようになってきています。
埋まらないギャップ
――しかし、「変化への対応」であれば、各大学はそれなりに動いているように思えるのですが。
松室) そうでしょうか? 『週刊ダイヤモンド』ではグループ会社が調査した「就職人気ランキング」も掲載していますが、これと経営者が評価する「企業イメージランキング」を比較すると面白いことが分かってくる。たとえば、これは1985年、95年、そして2002年で集計したものです。
――このギャップというか、学生側の隔世の感は如何ともし難いものを感じます。彼らは何を見ているのでしょうか……。
松室) 何も見てないんでしょう(笑)。企業人から見れば、学生の企業評価は信じられない。未だに財閥志向で安定性重視。規制庇護神話といえるかもしれない。
学生の見方とは、要するに大学の見方であって、「大学改革」の看板だけ掲げたって、こんなふうに意外なところにボロが出る。大学の教職員、関係者は社会のこと、産業界のことが全く分かっていない。残念ですがこれが実態だと思うんです。
スーパー、ニッチ あるいは……
――今、大学には何が必要なのでしょうか?
松室) ドラスティックな構造改革――これは当たり前であって、それだけではダメ。環境に適応するのは当然で、その後、自発的に自校の特徴をどう開発してゆくか。ここが生き残る大学=「ハズレない大学」のポイントです。
企業で進んでいる構造改革の結果、企業間に差がついてきた。ナンバーワン、ナンバーツーしか生き残れずに、あとはニッチとかブティックといった専門領域に特化して棲み分けることしか、生き残る方法はないということです。
これは、大学も同じで、スーパーかニッチか。そのどちらにも属さない、あるいは属することができない大学は、間違いなく淘汰されます。
例えば、東大、早稲田、慶應、法政、立命館などが「スーパーな大学」を志向していることに異論はないだろうし、日本文化大学なら警察官、大東文化ならスポーツなど、スーパーでなくとも何らかの特徴=貌がイメージできるでしょう。逆にいえば、いつまで経っても「何の印象もないまま」のところは危ない。
もう一つ、何らかの形で評価を得ている大学に共通しているのは、「事務方がしっかりしていること」。
「教授会自治」の美名のもと旧態依然とした組織を維持することは、ドラスティックな改革と矛盾するわけで、事務方、つまり組織能力(ケイパビリティー)を強化してゆくことも「ハズレない大学」の要件なのです。
異分子を活用する
――スーパーかニッチかの再構成が進むマーケットに、専門学校という新たな競合が台頭しています。
松室) 専門学校は大学に比べれば身軽です。組織もカリキュラムも変えやすいし、教職員も非常に熱心。予算の補助は全くありませんが……。
しかし、そうした統制、庇護がないがゆえに彼らは大学関係者が考える以上に真剣で、真剣だから学生が集まっている。
大学全入にもかかわらず、専門学校への進学者が増えているのは、その証左にほかならないでしょう。LECやデジタルハリウッドなどのいわゆる株式会社大学の参入も歓迎すべきことです。
異分子の活用――これも生き残りのポイントだと考えています。マーケットに専門学校や株式会社大学という異分子が入り活性化する。大学には外部から経営や財務のプロフェッショナルを招聘し、旧弊を打破する。これも異分子の活用です。
――先ほどの経営者が選んだ企業を見ると、「その企業自体が異分子であり続ける気概」みたいなものが漲っているところが多いですよね。
ハーバード大学は「ココ」です
――今の大学界を見ていると、学生=消費者という意識が、まだまだ薄いという気がしますが。
松室) 消費者志向について、野口悠紀雄さんに以前面白いことを聞きました。
ハーバード大学のホームページのFAQのトップには何が掲載されていると思いますか? 「ハーバード大学はどこにありますか」だということで、嘘だろうと思ってアクセスすると本当にそう書いてある。
大きな北アメリカ大陸の地図に「ココ」って(笑)。
――わが国の大学では考えられないことです。
松室) しかし、消費者志向とはそういうことだろうと。わが国の大学なら、そんな質問は端からバカにして掲載しないはず。概要と住所が書いてあって、アクセスマップを見れば分かるだろうというわけです。
しかし、大きな地図に「われわれの大学はココ」と書けるか書けないか。「ハズレない」大学の条件は、この辺りの認識にも関わってくるのではないでしょうか。
いささか誇張にすぎる部分もあるかもしれませんが、このエピソードは、些細なようで実は、大学にとって本質的な問題ではないかと思うのです。
松室 哲生 Matsumuro Tetsuo
1951年、兵庫県生まれ。76年、株式会社ダイヤモンド社入社。『月刊中小企業』『BOX』編集部等に在籍。84年、情報局システム開発編集部副編集長。91年、経営企画室副部長。同年、『週刊ダイヤモンド』副編集長を経て、95年、同編集長。その後、雑誌局長、取締役雑誌局長を経て、2001年、代表取締役専務。04年、取締役。同年11月、取締役を退任。学校法人自由学園評議員。NPO法人日本ファイナンシャルプランナーズ協会評議員。ビジネスプロセス革新協議会常務理事。
記事の内容は第11号(2005年1月1日発行)を抜粋したものです。