トップページ > ナジックリリース > 第11号 > 夢に向かって努力する生徒を育てたい
夢に向かって努力する生徒を育てたい
教育界に必要なのは健全な競争原理である
夢を持たない若者、フリーターやニートが増加し、日本の将来を懸念する声が高まっている。今、若き経営者が、教育が抱える問題にメスを入れ、新しい風を吹き込もうとしている。
ワタミフードサービス株式会社 代表取締役 渡邊 美樹
偏差値教育が生んだ歪み
特定非営利活動法人スクール・エイド・ジャパンの理事長を務める私は、同法人によって設立されたカンボジアの学校を毎年視察している。行くたびに、現地の子供たちの「夢の強さ」を思い知らされ、教育の意義について考えさせられることしきりである。
例えば彼らに、「何のために勉強するのか?」と尋ねてみると、「学校の先生になりたいから」「医者になりたいから」「弁護士になりたいから」といった明確な答えが即座に返ってくる。医者を目指すという少年に、「なぜ医者になりたいのか?」と聞いたとき、「自分の村には医者がいなくて、2歳の妹が死んでしまった。だから僕は医者になるんだ」と話してくれて、心を打たれたものだった。
同じ質問をわが国の子供たちに投げかけると、たいていは「いい成績を取るため」「いい学校に入学するため」といった答えしか返ってこない。そこには、自分がどう生きたいのか、人生において何を成し遂げていきたいのか、という中身がないのである。
さらに「ではなぜ国語や算数を勉強するのか?」と尋ねると、ほとんど誰も答えられなくなってしまう。カンボジアという貧しい国で育っている子供たちが、勉強に意義を見出し、夢に向かって一所懸命頑張っているというのに、豊かな日本の子供は、いったいどうしてしまったのだろうか……。
こうなった要因は、他人よりもいい点数を取ることに価値をおいた、戦後の日本の「偏差値教育」にある。教師も親たちも、「学歴」や「偏差値」という比較論に基づく価値観に支配されてしまい、夢を持って努力し、人として人間性を高めていくことの大切さを忘れてしまっているのだ。
また、就職活動をしている学生のうち、「人気の高さで企業を選んでいる人」が93%、「こんな仕事をしたいと思わないで就職活動をしている人」が83%もいるという調査結果がある。
つまり、ほとんどの学生が、好きなことを仕事にしようとせず、企業の人気ランキングという相対的な価値観で職場を選んでいることになる。そのような動機で就職した者が、強い情熱を持って仕事に向かう可能性はきわめて低く、ゆくゆくは日本経済そのものがパワーを失っていくことが懸念される。
このような学生、子供たちばかりになってしまったら、いったい日本はどうなってしまうのか――そんな危機感から、私は教育事業に取り組んでいるのである。
理想の教育への挑戦
私は、学生の頃から教育に強い関心を抱き、施設の子供たちを集めてイベントを開くなどの活動を行っていた。24歳で飲食関連の会社をつくったときには、一店舗つくったら塾を一軒開いて、さらに一店舗出したら塾をつくり、やがては塾を大きくして学校を設立したい、という夢を日記に綴っていたが、現実のビジネスは非常に厳しく、すぐには教育事業に進出できなかった。
その後、1999年に北海道で「自然学校」を始めたのを契機に、本格的に教育事業に取り組むようになり、2003年春、中学・高校・国際高校を擁する郁文館学園の理事長に就任。ようやく夢の実現に向けて第一歩を踏み出すことができた。
私の教育事業は、言葉は悪いが、マイナスからのスタートだった。当初、郁文館学園は30億円の負債を抱えており、1700名いる全校生徒のうち、毎日約600名が当たり前のように遅刻。校舎のガラスは割れ、教室はゴミ箱のように汚れている状態だったのだ。
そこで私は、教員たちに対して、「教師とは聖職であり、生徒のために死ねる人間であるべきだ」という話をして、まず教師の意識改革から始めた。私の改革に反発して、20名以上の教師が辞めていったが、理想の学校をつくるためには、やむをえないことだったと考えている。
さらに、生徒に対しては、「笑顔で元気よく挨拶のできる礼儀正しい人となれ」「約束を守り、嘘をつかぬ誠実な人となれ」といった「郁文十訓」を掲げて指導したところ、素直な子供たちは瞬く間に成長し、ほどなく遅刻者はゼロになった。
郁文館学園の教育目標は、生徒たちの「夢」指数=DQ(Dream Quotient)を高めていくことである。
「夢」指数とは、夢や希望を絵空事に終わらせず、実現に向けて具体的な課題をクリアしていく能力と考えている。「夢」指数は、心の広さの指数であるEQ(Emotional Quotient)、自分自身を正しく自覚する指数であるSQ(Spiritual Quotient)、知識を力にする指数であるIQ(Intelligence Quotient)の3つを総合したものと位置づけており、本学園では、これら3つのQを高める教育を推進しているのである。
プログラムの一例としては、年に1回、長野県の研修センターで行っている「夢合宿」が挙げられる。9泊10日の合宿中、「自分の夢とは何か」「将来何をやりたいのか」といったテーマについて、徹底的に考えさせている。
そして、夢をかなえるために、学校で実際に何をすればいいのかを「夢達成シート」にまとめさせる。これにより、自分が設定した目標に向かって努力するきっかけをつくることができるというわけである。
夢があれば、周囲から押しつけられなくても、本人の意思で必要な勉強をするようになり、学力は自然に上がってくるものである。夢を実現するうえで、大学に進学する必要があれば、そこで初めて受験勉強のことを真剣に考えればよいのであり、夢があればこそ、子供たちは底力を発揮するようになる。もちろん、大学に行く必要がない夢なら、受験勉強ではなく、夢と直結した勉強をすればいい。
それを自分で考えることが、何よりも大切なのだ。
生徒たちだけでなく、保護者の方々に対しても、「子供に必要なのは夢であり、偏差値ではない」という話をしている。教育とは、保護者と学校の両方で取り組まねばならないものであり、そのためには、教師と保護者の意識改革が不可欠なのである。
よい学校だけが生き残る環境づくり
企業経営者という立場から見ると、学校という組織は大きな問題を抱えている。民間企業では、一人ひとりの社員が努力して実績を残さなければ、給料は上がらない。それどころか、必要ない社員は肩を叩かれるのが当たり前である。ところが、教育界では、旧態依然とした年功序列の考え方が残っていて、しかも、努力しなくても解雇されることがない。
つまり、教師になった瞬間に、努力するしないにかかわらず、定年までの自分の将来が見えてしまうのである。これでは、よほど教育に情熱を持っている人でなければ、努力する意欲が湧かない構造、環境になっているといわざるを得ない。
この問題を解決するには、中学、高校、大学を含めて、生徒に対してよい教育をしようと努力しない学校を、閉鎖に追い込む仕組みをつくるしかないと考えている。ニーズに応えられない企業が倒産するのと同じで、どんな学校であろうと、よい教育のために努力しない学校が存在する意味はない。
具体的には、生徒に教育バウチャーを交付し、集まったバウチャーに応じて補助金が与えられるバウチャー制度しか、今の日本の教育を改革する方法はないであろう。これにより、完全な競争原理が働き、よい学校だけが生き残れる「健全な環境」が形成されると考えられる。
郁文館学園の改革は、未だ道半ば。しかし、私の、そして子供たちの夢を叶える準備は整った。さあ、学校をはじめよう――郁文館学園から日本の教育を変えてゆけるよう、全力を尽くしてゆく覚悟である。
渡邊 美樹 Watanabe Miki
1959年、神奈川県生まれ。明治大学商学部を卒業後、宅配便の仕事をして独立資金を貯め、84年に有限会社渡美商事を設立する。その後、ワタミフードサービス株式会社に社名を変更し、96年に店頭公開して、さらに2000年3月に東証一部上場を果たす。同年に学校法人郁文館学園の理事長に就任。04年から医療法人幸会喜多病院の副理事長、日本経団連理事も務めている。著書に『社長が贈りつづけた社員への手紙』(中経出版)、『思いをカタチに変えよ!』(PHP研究所)、『さあ、学校をはじめよう』(ビジネス社)などがある。
記事の内容は第11号(2005年1月1日発行)を抜粋したものです。