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共同討議・高大連携の着地点 ~ソフト・ランディングは可能か?

大学と高等学校間における公開授業や出張講義、単位の認定や互換といった相互の歩み寄り――高大連携が急増している。

その背景には18歳人口の急激な減少、いわゆる少子化問題が挙げられる。いわば大学主導の売り手市場が、受験生主導の買い手市場に180度転換し、大学にとって高校生は「お客様」となったのだ。そうした顧客に対するデモンストレーション、それが高大連携というわけだ。

もちろん大学教育の大衆化による門戸開放や、わが国の教育改革の一端と見ることもできるが、それ以上にマーケット確保のベクトルが、より若年層へシフトしていると考えるのがやはり妥当だろう。

そうした「大学の思惑」を高等学校は基本的に歓迎している。しかし、実際には、例えば地方の高等学校への出張講義はほとんど行われていないし、講義内容すべてに満足が得られるものでもない。公開授業もあくまで「見学」の印象は拭えず、高校生に大学の魅力をどれだけ訴求できるかは未知数だ。

高等学校の要望と消えないギャップ

財団法人学生サポートセンターのヒアリング調査では、高等学校が大学へ要望する事項として「入り口」の問題、つまり入学試験のありようを問う意見が最も多い。
「AO入試などを含む入試の多様化は受験生への迎合」「アドミッション・ポリシーが不明確」「『新課程』の生徒たちを大学はどう受け入れるつもりなのか」などが最たる例である。

入り口だけでなく、「就職支援は?」「人材育成のビジョンは?」など「出口」とそこへ向かう過程についても高等学校は不安視している。高大連携の件数は、文部科学省によればここ10年で4倍以上に増えているが、両者間のギャップは依然存在している。

学生サービスと人材育成の可能性

2004年9月18日、財団法人学生サポートセンター(東京都渋谷区)において、高大連携の可能性を探る共同討議が開催された(主催:全私学新聞/後援:財団法人学生サポートセンター)。参加諸氏の発言内容は以下の通りだが、一貫した認識は「多様化する学生へのサポート」と「社会的責任を全うする人材の育成」であった。

学力の低下や職業観の変化への対応とともに、マナー向上やモラルの再認識など、「実社会を生きる一人の人間」を育成するための連携が、今後も活発に行われることが期待される。

九里廣志氏 山形県 九里学園高等学校 校長

・われわれの世代に比べ、今の子供たちが大学へ進学する姿勢は多様になっている。それを受ける形で、あまりにも多様になった選抜方法によって入学する子供たちを、一つの集団として十把一絡げに教育するのは、もはや難しくなってきているのではないだろうか。

・進学における子供たちのニーズが多様化とともに、より明確化する中で、「どの大学・学部でもいい」というところから、「自分たちのやりたいことを確実に目指す」という方向に、進路指導のポイントもシフトしている。

・多様な子供たちが大学に入学して、どのように扱われるのか。また、そうした多様性の中で、子供たちが順応できる環境が整備されているのか。こうしたことを教職員や保護者は不安に思っている。

北島端男氏 茨城県 水城高等学校 校長

・以前は「大学は入学できればどこでもよく、大学と名がつけばどこも同じ」という感覚の生徒層が多く、保護者にもそうした傾向が見られた。しかし近年は「どういう大学であり、実際の教育・研究内容はどうなのか」というところまで調べる生徒や保護者が多くなってきた。高等学校に対しても、ただ大学へ送り出すのではなく、「どういう大学に、どのように送り出したか」が問われるなど、「高校選び」の視点が変化している。

・大学への進学の際はもちろんのこと、学力等諸般の事情により専門学校への進学を決定するにあたっても、「仕方がないから……」という消極的な理由ではなく、その学校を卒業したうえでのキャリアプラン、自分の将来をしっかりと見据えた選択を行うよう指導している。

平林尚武氏 長野県 松商学園高等学校 校長

・かつては「大学教授が就職の世話などするものではない」「大学進学とはアカデミズムの中に身を投じること」という風潮があったが、今は時代が違う。危機的な就職難の中で、進路について大学の教職員が親切に相談に乗る、そんな姿勢を期待している。

・高等教育は今や広く普及し、いい意味で大衆化している。そうした中で、進路をはじめ生徒たちのさまざまな相談事に、きめ細かく対応できる大学が求められているのではないだろうか。

・進学、就職を問わず、地域社会に必ず校友がいる。あるいは幅広く多面的な活躍で社会に貢献する卒業生を排出すべく指導にあたっている。

角田浩子氏 株式会社リクルート『キャリアガイダンス』編集長

・「フリーター」増加への予防策を立てなければならないが、すべての子供たちに効果的な方法など存在しない。いろいろな方法を、さまざまな立場の大人が仕掛け、刺激を与えてゆくしかないと考えている。

・たとえすぐにはやりたいことが見つからなくても、本気で取り組まなければならないことを気づかせる働きかけや刺激は、高大連携の中でも可能なのではないか。

・例えば模擬授業で学問の楽しさを教えるだけでなく、大学教員の職業観や、就職活動に苦しんだ先輩学生の話などがあってもいい。実際、就職支援が全く手つかずという大学もあるわけで、そこまで調べたうえでの大学選びをしてほしい。

・高等学校も大学も「社会に出てゆく人たちを育てる」という共通テーマのもと、いっそうの協力が必要なのではないか。

曽田成則氏 東海大学教学部学生支援室 室長

・学生生活のサポートを目的とする専門セクションを初めて設けた東海大学だが、追随する形で7校に同様の組織ができている。初年度が8000人、2003年度は11000人の学生が利用し、2004年度は8月現在で既に6200人の学生が来室。開設から3年が経ち、われわれの活動が学内で定着してきたことを実感している。

・学生には日々新しい悩みがあるため、ともに悩み、考えてゆくというのが基本スタンスである。今、重点的に取り組んでいることがいくつかあるが、その一つが面接指導。また、小論文が書けない学生が少なくない現状を鑑み、教学サイド等の了解を取ったうえで、面接や小論文の指導を行っている。

努力したぶん成果があがる過程は、われわれも勇気づけられる。
・高等学校の教職員や生徒の期待は充分に理解している。高大が一体となりさまざまな取組みが実現することを願っている。

山中茂己氏 日本大学総合学生部学生生活課 課長

・日本大学では、自分を見つめ直すチャンスとして「コミュニケーションセミナー」という合宿を行い、学生の「話す力」を引き出そうとしている。当初は友達づくりが苦手な学生が対象だったが、就職面接にも有効だということで、就職活動を控えた学生たちも参加するようになっている。

・また、3年に一度、学生実態調査を行い、大学へのニーズを把握している。大学の規模が非常に大きいため、要望に学部ごとの特徴が出る傾向にあるが、学部単位で解決できるものは解決し、全体的な課題には全学規模での改善を図っている。

・高大連携にまつわるシンポジウムを「個性輝く教育の展開――大学と附属高校との連携を考える」という冊子にまとめるなど、両者の連携を引き続き探り続けている。

小林清次郎氏 駒澤大学入試センター入試課 課長

・入学試験の多様化は限界を迎え、これ以上新しいアイデアを考えにくい段階に入った。

・入学試験は「どんな才能を持った学生を集めるか」に議論が集中する傾向にある。いわば原石を集める、あるいはその方法を考えることばかりに労力が払われている。集めた原石を「どのように光らせるか」という議論はほとんどない。
入学試験の現場からいえば、「どう集めるか」ではなく「どう育て、送り出すか」をアピールしなければならない時代だと感じている。

・高校生までは哺乳瓶で栄養が与えられるが、大学は「自分で食材を探し調理する場である」という譬えをよく援用する。大学での過ごし方が子供たちの人生の基盤をつくるという認識を、高等学校だけでなく大学も再確認する必要がある。

小山田正宏氏 福島県 日本大学東北高等学校 校長

・今は比較的容易に大学に進学できるため、生徒たちはあまり勉学に励まず、競争意識が減退しているように感じる。しかし高等学校にとっては、生徒たちにどんな付加価値をつけ、どれだけの学力をつけて大学へ送り込むかが、依然として重要な責務である。

・子供たちの「コミュニケーション能力の欠如」は高等学校でも大きな問題である。また、指示待ち、自立心や自己肯定感の欠如、さらに人間関係が構築できないなど、問題は深刻化している。専任のカウンセラーを常駐させ、あらゆる相談に対応できるようにしているが、大学においても、カウンセリングを常時実施できる体制の構築を希望する。

・生徒たちの進路は多様化しているが、ひと言でいえば「何が得られるか」を基準に、生徒たちは進路を選択している。

桜井龍太氏 群馬県 樹徳中学高等学校進路指導部 部長

・「ゆとり教育」のツケはすべて高等学校に回ってきている。一次不等式さえ習っていない生徒たちが高等学校へ進学し、さらに勉強をしなくても出口がキチンと整っているというのが現状である。

・社会に出る、仕事をするということは「社会的責任である」ということを、義務教育の段階からしっかりと教えておかないと、高大連携で「やりたいことを探せ」といっても、生徒たちは何も見つけられない。少子化によって我が儘に育ってきた子供たちが、高等教育のみで劇的に変化することはほとんどあり得ない。

・大学においては、専門教育に必要な知識や学力を、もっと明確にアピールしてもらいたい。人員を確保してから補習するのではなく、大学生活のスタートにおける最低限の学力を、高等学校に求めてもいいのではないだろうか。

栗岡教治氏 静岡県 静岡学園中学高等学校進路課 課長

・ミスマッチの解消――これが進路指導の課題だと考えている。入学後の学力差を鑑み、能力別授業を実施している大学もあるようでありがたいことだが、一方で、学問、研究に真面目に取り組みたい生徒が、周囲の不真面目さに失望してしまうといった、ミスマッチの顕著な例もある。

・大学に対し、ここ数年で強い関心を払っているのが「就職支援活動をどのように行っているか」。生徒たちには、オープンキャンパスで生の大学を感じるとともに、卒業後の進路、就職先がどうなっているかを明確に記録してくるよう指導している。

・進学時のセキュリティーガイドをまとめ、ひとり暮らしの注意点を示すなどのサポートも行っている。

柳澤敏勝氏 明治大学学生部 部長 商学部教授

・学生が多様なニーズを抱えていることは事実だが、一方で将来設計ができない学生、大学は「自分探しの場」だと考えている学生が非常に増えているのではないか。従来は「大人」を前提に大学教育が行われていたが、今の学生は適合できない。

・大学が学生に対し何ができるか。概ね2つの方向――「キャリア教育の充実」と「学生生活全般のサポート」に進みつつある。加えて、大学に馴染めない、適応できないというメンタルな問題を抱える学生が急増している。「メンタルケア」をどうするかが、今後の大学にとっての課題になるだろう。

・明治大学では「スチューデントセンター構想」を計画中である。これは、同センターが、学業と学生生活の両方に関わって、ワンストップサービスができる体制、学生がどの窓口に来ても対応できる体制をつくってゆこうというものである。

青木伸子氏 全国私学父母の会 会長

・子供たちの自立性の欠如が指摘されるが、それは親の責任でもある。少なくとも成人するまでに、体力づくり、いつどこでどのような事態に遭遇しても対応できる心づくりを、保護者、あるいは家庭が行っておくべきである。

・電車の中や市井で、立っていられない子供たちを見ると、家庭における健康管理や家庭のあり方そのものに問題があるように思う。

・全国紙に「大学生に勤勉志向」と題する記事が掲載されていた。「出席を厳しく管理すべき」「大学は学問の場」「大学教授は厳しく指導したほうがよい」などと考える学生が増えているという主旨のもので、子供たち自身、大学には入学さえできればいいという考え方からは変わってきているようだ。

北澤俊和氏 財団法人学生サポートセンター 理事長

・学生のコミュニケーション能力の低下は、社会常識やモラル、マナーの低下に繋がっている。社会へ出る前の彼らの一助になればと財団活動を続けている。教育という観点では、高校、大学などの教育機関と連携を深めながら進めてゆきたい。

・財団法人学生サポートセンターでは、ひとり暮らしを初めて経験する学生に役立つよう、『安全・安心なひとり暮らしマニュアル』を作成し、無償で学生や保護者に配布している。高校や大学からの問い合わせも多い。

・フリーター、ニート対策も含め、学生の就職支援は社会的な構造変化、雇用システムの多様化に対応して、早期に、しかも柔軟に取り組む必要がある。大学は、就職率を上げることだけでなく、もっと求人企業の業務内容を知り、本気で就職活動をしている学生の支援をすべきだろう。学生サポートセンターとしても、真剣な就職支援の手助けをしてゆきたい。

日塔喜一氏(コーディネーター) 機会均等等研究所 代表

・これからの子供たちは知識社会に向けて生きてゆくわけで、その道程は容易なものではないだろう。

・真面目に授業に出ている学生の約7割が授業を理解できないという調査結果があり衝撃を受けたことがある。しかし、その原因は教官の板書や発声、つまり「授業の方法」の不徹底が大きなウエイトを占めていることがわかった。「学力低下」を嘆く以前に、FDや授業評価など、大学自身が改善すべきことが、まだ多く残されているのではないだろうか。例えば授業評価、学生満足度調査などは複数年に一度という長閑なスパンではなく、頻繁に行うべきである。

・子供たちは「社会の役に立ちたい」という気持ちで、大学に対し多様な知識を求めてくるのだと考える。そうした真摯な要請に対し、高等教育界のみならず、わが国の社会全体で応えてゆくことが必要なのかもしれない。

大学改革提言誌「Nasic Release」第11号
記事の内容は第11号(2005年1月1日発行)を抜粋したものです。
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