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国立大学法人化の意義と展望
国立大学法人支援課長 清木 孝悦
聞き手:株式会社学生情報センター社長 北澤俊和
さまざまな議論を経てスタートした国立大学法人。法人化によって大学はどう変わるのか。学長はどこまでリーダーシップを発揮できるのか。基礎研究は大丈夫なのか。私立大学に与える影響は……。「戦後最大の高等教育改革」の背景と今後の展望について、文部科学省の清木課長に伺った。
文部科学省のホームページに、「国立大学の法人化をめぐる10の疑問にお答えします」という告知が掲載されている。
国立大学法人化に関しての想定質問に答える形で改革内容とその意義を説明するのが目的だ。質問内容は下の通りである。
質問内容
Q1.なぜ国立大学を法人化することにしたのですか?
Q2.国立大学を法人化するというのは、国の財政支出を減らす為に、民営化するということなのですか?
Q3.国立大学が法人化すると、学生にとっては何が良くなるのでしょうか。
Q4.国立大学が法人化すると、授業料が大幅に上がってしまいませんか?
Q5.国立大学が法人化して民間的な発想で運営されるようになると、基礎研究などがおろそかになるのではないでしょうか?
Q6.地方にある国立大学や小規模な国立大学は、法人化すると衰退してしまうのではないでしょうか?
Q7.大学における教育研究などは評価しにくいのではないですか?
Q8.法人化後は、中期目標の作成や評価が行われることで、かえって国の関与が強まるようにも見えますが、どうでしょうか?
Q9.大学の自主性を尊重するなら、中期目標を文部科学大臣が定めることにする必要はないのではないでしょうか?
Q10.国立大学法人制度は、独立行政法人制度とは、どこがどのように違うのですか?
ここに設定された10の質問項目は、多くの人が疑問に思うことを見事に網羅しているし、サイトはその一つひとつに丁寧に答える形で構成されている。
文部科学省の積極的な情報開示の姿勢を示すものといえよう。そしてその内容は、今回の改革がいかに大きいものであったか、いかに時間をかけて検討されてきたものであったかを窺わせるものである。
ところで、文部科学省は現在、東京駅近くのビルで仮住まいをしている。平成19年に新庁舎ができるまでのことなのだが、庁舎に足を踏み入れた途端に印象的な光景に出合った。
グループ行動中と思われる修学旅行の中学生6人が、受付の前に集まっていた。聞くと岩手県北上市の中学生で、自分たちでアポイントをとり、文部科学省見学にやってきたということだ。すぐに広報担当の女性がやってきて、「こちらへどうぞ」と優しく言葉をかけ、彼らを案内していった。
ひと昔前の「お役所」のイメージとはずいぶん違う。文部科学省は明らかに変わりつつある。その文部科学省が手がけた大学改革は、どのようになされていったのだろうか。
1990年代から改革は始まっていた
――まず、国立大学法人化の経過をお教えください。
清木) 「知の創造と継承」――これを担うのが大学の役割です。
今回の改革は、21世紀に入り、わが国が世界の中で発展していく上で、極めて重要な大学の役割を充分果たせるよう環境を整えようというものです。これまでの国立大学は、国の組織、つまり文部科学省の中の組織として位置づけられていました。したがって、国の制度の枠内で人事、会計などさまざまな制約がありました。
国立大学が自主性・自律性を高め、特色ある大学となるためには、国の組織の中にとどまっていたのではどうしても限界があります。そこで、各国立大学を国の組織から切り離して法人格を付与し、自主的な取組みを可能にするとともに、競争的環境を高めることにしたわけです。
――法人化の法案は平成十五年七月に国会で成立し、16年4月に移行という運びになったわけですが、いつ頃から検討され始めたのでしょうか。
清木) 法人化そのものは30年以上前から議論となってきましたが、今回のものは「競争的環境の中で個性輝く大学づくり」をキャッチフレーズに、1990年代から積み重ねられてきた一連の大学改革の流れの中に位置づけられる一大改革と認識しています。
国立大学はどう変わるのか
――国立大学の強みはどんなところにあるとお考えでしょうか。
清木) 国立大学の役割の特徴は、①高度な学術研究、②大学院教育を中心とした高度な人材養成、③地域の産業や文化の拠点などにあると考えます。例えば、大型の基礎研究などは、学生からの授業料収入だけでまかなうのは不可能です。
もちろん、私立大学の中にも優れた基礎研究を行っているところは数多くありますが、「私費」では限りがあります。
例えば、ニュートリノの研究には、カミオカンデ、あるいはスーパーカミオカンデという巨大な装置が必要でした。これには、当時の国立大学特別会計から、多額の予算を投入しました。
――それだけの価値があったということですが、回収の見込みなどは立てられたのですか。
清木) 基礎研究は、短期的に回収するという性格のものではないし、すぐに実社会で役に立つ成果が出るわけではありません。しかし、長期的に見れば、人類の文化に貢献し、あるいは結果的には産業の発展につながるものであり、そのような研究によって小柴昌俊先生はノーベル賞を受賞されたわけです。
――まさに人類の文化に貢献する活動だったわけですね。
清木) 国立大学でなければできないことが、確実にあるのです。
基礎研究もそうですが、地方大学もこの法人化を機に、より特色を強め、地域に根ざした独自の研究分野を開拓したり、地元産業界との連携により地域再生の核となるなどの取組みを始めています。
例えば、鳥取大学では、長年にわたって乾燥地研究を手がけており、砂地農業や砂漠化問題などの分野で、屈指の実績を残しています。
学長のリーダーシップを強化
――学長の権限と責任もずいぶん拡大しましたが、どのような効果が期待できますか。
清木) これまでは、学長がリーダーシップを発揮しようとしても、難しい面がありました。国立大学は国の組織の一部でしたから、教職員すべての任命権は最終的には文部科学大臣が持っていました。今回の法人化によって、理事や教職員の任命権はすべて学長に帰属することになりました。
――組織の改変なども学長の権限になったのですか。
清木) 国の組織の一部であった時は、小規模な組織改編であっても、大学は文部科学省に概算要求をし、文部科学省は財務省などに概算要求をし、膨大な手間と時間がかかったのです。
ところが、国の組織から外れた現在は、新しく学部をつくるなどの大きなものは別として、組織の変革は機動的・弾力的にできるようになりました。
例えば学術研究は日進月歩であり、それに応じて研究組織も柔軟に変えていかないと研究の進展に対応できず手遅れの状態になってしまいます。大学の判断で柔軟に新たな組織づくりができるようにしなければならないのです。
――縦割りの弊害もあったのではないでしょうか。
清木) そうですね。これまでの国立大学は、学長がリーダーシップを発揮して、その大学としての戦略を打ち出し、実行していくのが難しかった面があると思います。しかし、法人格を得ることで、学長の裁量、リーダーシップは大幅に広がり、学部の壁を超えて、大学全体としての戦略的な取組みを進めることが可能となりました。
学外者の声を積極的に取り入れる
――運営方法がずいぶん変わったわけですが、トップ・マネジメントがきちんと機能するためにどういう体制をとられるのでしょうか。
清木) 学長がリーダーシップを発揮するためには、それを支えるマネジメント体制が必要です。それが役員会で、学長と理事によって構成されます。理事は学長が任命します。
役員数は大学の規模によって決められていますが、1人以上は必ず学外の人を入れなければいけないことになっています。
さらに、「経営協議会」が設けられました。これは学外者が半数以上ということになっており、産業界、地域社会、私立大学の関係者など、多様な人が入っています。こうして、ともすれば閉鎖的といわれた国立大学に、外部の多様な意見が反映される仕組みとしているのです。
東北大学と神戸大学では、理事に外国人を起用しています。これまでは公務員でしたので、管理職には外国人は登用できないという制約がありました。しかし、今回公務員ではなくなったことにより、可能になりました。
どうなる?これからの高等教育
――18歳人口が減少し、平成19年度には大学の定員と志願者数が同じになるといわれますが。
清木) そういう状況は、一面大学経営にとっては厳しいものではありますが、見方を変えれば、各大学がそれぞれ特色を出して、学生が大学を選ぶという時代になってきたともいえます。どんな付加価値を学生に身につけさせて社会に送り出すのか――どの大学を出たかではなく、何を身につけて大学や大学院を卒業したのかが問われるわけであり、学生の大学の選び方も当然変わっていかなければなりません。
――そのためにどんな対策を講じられているのですか。
清木) この4月にロースクールがスタートしたように、これからは、高度なプロフェッショナル養成が大切になります。今後はさらに専門職大学院の充実が必要です。
研究面では、平成14年度から世界的な研究教育拠点を形成するための「21世紀COEプログラム」が実施されています。教育面では、平成15年度から「特色ある大学教育支援プログラム」がスタートしました。また、第三者評価制度も今年度から導入されました。
法人化も含めて、それぞれの大学が特色ある取組みを進められるような基盤づくりやそれに資するプログラムは各種用意がなされ、今後もさらに充実していく考えです。各大学がこれらをどう活用して特色を打ち出していくのかが問われるでしょう。
――国際的な競争に勝ち残っていくためには何が大切でしょうか。
清木) 大学に限らず、現代は国境がなくなってきています。今は海外の大学の講義をインターネットで受講できる時代です。国内だけで競争を考えていたのでは、立ち行かなくなります。日本の大学に魅力がなければ、学生はどんどん海外の大学に流れてしまうでしょう。
しかし、日本の大学のポテンシャル、底力は大変なものがあると思っています。例えば「論文引用数」で見た場合、材料科学だと東北大、物理学は東京大、化学は京都大など、世界でナンバーワンクラスの大学がそろっています。国公私を通じた競い合いの中で一層のレベルアップが図られ、国際競争力ある大学となっていくことが期待されます。
――最後に、今回の改革にかける思いをお聞かせください。
清木) 今回の法人化は、さまざまな議論の末、最終的に関係者の総意として実現したものです。法人化はある意味では血を流すことでしょうが、むしろ各大学が法人化のメリットを生かして教育研究の活性化を行い、新たな国立大学に生まれ変わろうという決意のもとにスタートしたといえます。
今、大学は大いに変わりつつあります。従来の大学観ではなく、ぜひ生まれ変わった新しい大学の姿を見ていただきたい、また今後の成果に期待してほしいと思います。
記事の内容は第10号(2004年5月15日発行)を抜粋したものです。