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地域貢献・生涯教育としての大学スポーツ

明治大学ラグビー部監督 境 政義
明治大学硬式野球部監督 川口 啓太
聞き手●ナジック総合研究所副所長 藤井一成

大学スポーツ、社会人スポーツなど、アマチュアスポーツの退潮が指摘されている。
現代人にとってスポーツとは何か。「大学スポーツ」の意義と将来性について、
名門明治大学のラグビー部監督・境氏と硬式野球部監督・川口氏に語っていただいた。

スポーツは時代を映す鏡

――アマチュアスポーツという大きなくくりの中でも、社会人スポーツ、大学スポーツと、それぞれに役割があると思うのですが、そうしたことを踏まえ、大学スポーツの課題をどのようにとらえていますか?

川口) 課題を挙げる前に、まず、スポーツそのものが持つ性格、特性を確認しておきたいと思います。
わが国にスポーツが入ってきたのは明治期です。以来、大正期から第2次世界大戦を経て高度経済成長、そして現在の高度に発達した消費社会に至る流れの中、スポーツはその時代、その時代を反映してきたと思うのです。

私たちは現在を「第3の教育改革」と位置づけています。明治5年の旧学制、昭和22年の新学制に続く改革だというわけです。従来、高等教育、とりわけ大学の責務は研究と教育だったのですが、今後はそこに「地域貢献」が加わるのではないか。

――いわば第3の柱だと。

川口) そのとおりです。社会貢献の一環としての生涯学習、生涯教育について、大学の外部から見た場合に、一番わかりやすいのがスポーツではないかと、私は考えているのです。

そうした視点から、野球部では、1998年より調布市の中学校の先生方と意見交換をしながら、野球教室や大会を催しています。野球、スポーツを通じて、どういう学生を育てるのか。その実践を、私なりに整理し、また、先輩方の意見も聞きながら模索しているのが現状です。

スポーツは地域で発展する

――境監督は現役時代、また指導者としても、海外のスポーツ環境に接する機会が多いと思うのですが。

境) わが国ではアマチュアスポーツが退潮傾向とはいえ、ことラグビーについては根強い人気がありますし、企業、大学の各チームの実力も拮抗しており、激戦が繰り広げられています。

しかし、ひとたび海外から見れば、「企業、大学がなぜそこまで?」という声は確かにあります。というのも、海外においてスポーツは地域コミュニティの中で発展するものだからです。

一方わが国は、企業、大学とアマチュアスポーツがセグメントで分断されています。ある意味で特殊、専門的な流れができてしまっており、その中で勝敗という目標設定がある。
たとえば、体育会でも、野球部とラグビー部といった横のつながりもほとんどありません。さらに、「ここは私たちのもの」「野球は野球、ラグビーはラグビー」といった発想で、都会の真ん中に広大な敷地を確保しておきながら、グラウンドや施設を関係者以外は使えない。

こうした状況は不自然だと思うし、「地域」という視点で考えてみれば、大学スポーツのハード、ソフト両面のアセットは、どのようにでも利用価値があるのではないでしょうか。

――現在構想中の「meijiコミュニティスポーツクラブ」は、まさにそうした大学の側面を具体化しようとするものですね。

川口) meijiコミュニティスポーツクラブは、明治大学が核となり、自治体、企業、そして地域が長期的な連携(JOCは3C構想〈College Community Company〉を提案しています)のもとに青少年や社会人など、アマチュアスポーツの発展やスポーツの文化化に貢献することを目的としています。

現在、43ある体育会に体育会本部と『明大スポーツ』紙を加えた母体と、明治大学スポーツファンクラブ(個人、協賛企業)という会員組織が、相互に情報交換や交流を図ろうというものです。

――具体的にはどのようなことに取り組むのですか?

川口) 青少年スポーツ教室あるいは大会の開催、講演会やセミナーの開催、また、明大体育会グッズや明大戦チケットの販売なども視野に入れています。

――将来的には、明大出身のトッププレーヤーの肖像権の管理といった、大学にとっては新しいマネジメントも生まれてくるかもしれませんね。

境) そうなるべきでしょう。今は「大学にとってのスポーツ」の価値を再確認しなければいけない時代だと思いますし、そのための試金石となればという思いがあります。

スポーツの裾野を広げる

――志の高い両監督が名門大学の名門チームを率いているということで、明治大学を中心とした新しい大学スポーツの発展が大いに期待できます。

川口) 誤解していただきたくないのは、meijiコミュニティスポーツクラブは、プロチームのサテライト組織を目指しているのではないということです。
もちろん、個々のプレーヤーの成熟の到達点として、プロの世界があっていいのですが、われわれの目的はプロの養成ではない。年齢や身体の発育・発達、また、価値観や感受性など、プレーヤーの成長段階に応じた指導を、一貫した組織体のサポートのもと、行ってゆくということです。これは今後、伝統校に求められる社会的な役割となるはずです。

小・中・高の若者たちは、今、一様に体力が低下しています。指導者(教員)の減少などでクラブ活動が割愛される。ひょっとすると高校でもクラブ活動がなくなってしまうかもしれない。
そうした状況になったとき、地域にすら身体を動かせる仕組みがないとなれば、どうなるでしょう。スポーツは体育領域だけでなく、知育、徳育、そして今日求められているコミュニケーション領域を内包しているわけですから、スポーツを蔑ろにするのは危険です。

境) 現在のところ、明治大学の取組みは、まだ「点」が散在している状況です。それらの点を「線」にし「面」にするのが、meijiコミュニティスポーツクラブなのです。

ラグビー部は八幡山にありますが、昨年九月から、グラウンドを「ハイブリッドターフ」という人工芝にしました。これがよくできた人工芝で、転んでも痛くない。子供たちがそこで鬼ごっこでも何でもできるのです。
そうした環境を「どうぞ使ってください」と提供し、また、それが地域のニーズとマッチすれば、自ずとスポーツコミュニティというものは活性化すると思います。あまり慌ててはいけないけれど、何もしなければ、大学は何も変わらないのも事実です。

スポーツの好きな人、身体を動かしたい人、そんな人はみんな集まれ! というところから、大学に自然に人が集まる――そうした姿がベストだと思うし、そうなることで、スポーツの裾野も広がってゆくのだと思います。

境 政義 Sakai Masayoshi

1951年生まれ。明治大学3年時に学生選手権を制し、翌年準優勝。元全日本学生代表。トヨタ自動車入社後、83年~87年、同社ラグビー部で監督として指揮を執り、86年、日本選手権優勝、85年、86年、社会人大会優勝、87年、準優勝、85年、国民体育大会優勝。89年、U23日本代表監督。92年、タイ国際U23日本代表監督、オックスフォード大交際試合監督、93年、アルゼンチン遠征日本代表コーチ、英国ウエールズ遠征日本代表コーチ、94年、ニュージーランドU23日本代表監督、95年、オーストラリアU23日本代表監督を歴任し、2002年より明治大学ラグビー部監督に就任。

川口 啓太 Kawaguchi Keita

1953年生まれ。明治大学商学部卒業。筑波大学大学院修士課程体育研究科コーチ学修了。明治大学商学部兼任講師。明治大学1年時に東京六大学野球秋季リーグを制す。3年時には同春季リーグ、秋季リーグをダブル制覇(春季リーグでベストナイン・三塁手)。明治神宮野球大会でも優勝。78年、江戸川学園取手高校野球部部長兼助監督に就任し、80年、第62回全国高等学校野球選手権大会出場。83年、沼津学園高等学校野球部監督。1991年、明治大学硬式野球部コーチ。2003年、秋季リーグ助監督ののち、監督に就任。JOC大学スポーツプロジェクトメンバー。

――スポーツは本来楽しむもの。芝生の上で裸足で動こうよ、スポーツが好きな人、集まれ!というのが原点。 (境氏)

――段階的かつ一貫した指導を行うスポーツコミュニティの整備が、伝統大学の社会的な役割になる。 (川口氏)

大学改革提言誌「Nasic Release」第10号
記事の内容は第10号(2004年5月15日発行)を抜粋したものです。
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