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スピーディーに判断する!― これが大学の生きる道《第二回》

アクセンチュア株式会社
官公庁本部・戦略グループ
シニアマネジャー 榎原 洋

腹をくくったら、やるべきことをさっさと決める、そして動く。
意思決定もアクションも、スロースピードでは意味がない。
ハイペースな状況判断を可能にするもの――それがガバナンスである。

意図された冗長性

今、時代はスピードを求めている。実際、民間企業において、これまで規制に守られていたような産業ですら、今日、その経営管理における最重要課題のひとつとしているのは「意思決定のスピードを格段に速めること(=スピード経営)」である。

規制の庇護のもと何もやらなくてよかったところから、きちんと判断しなければならなくなる。経営の質や課題も変わって、余所も動いていれば、社会が待ってくれる時間も限られている。

しかも決めなければいけないことが多いため、とにかく早く決めてゆかなくてはどうにもならないということで、「スピード」が経営上の重要なサクセスファクターとなるわけである。

こうした状況認識は今日の大学にも完全に符合する。大学もスピード経営が必要なわけだ。にもかかわらず、大学の意思決定は遅い。なぜか。意思決定の仕組みが「コンセンサス重視」のセオリーを踏襲しているからである。

独立法人化後の動きはじっくり見極める必要があるのだが、それを差し引いていえば、これまでの国立大学の学長や学部長には、経営上ほとんど何の権限もない。そこでは「教授会自治=学問の自由」のもと、教授会が大学経営を実態的に支配し、一つの案件に対しても全員のコンセンサスを得ないと何も決まらないシステムが立派に確立されている。

われわれはこのようなシステムの本質を「意図された冗長性」と呼んでいる。時間をかけることで総意を得たと認証する反面、個々の責任感は限りなく希薄になる。「何となく決まったけど、誰も責任をとらなくていい」……「無責任の体系」(丸山眞男)はこんなところにも宿っているというわけだ。

そもそも全員のコンセンサスを得ることなど、限りなく不可能に近く、結果、いつまでたっても何も決まらないし、何も変えられない(再度断っておくが、こうした悪弊の解消も独法化の一つの狙いだ)。
伝統のある、あるいは大規模な私立大学でも状況は同じ。まして私立大学は他に先んじた「個性出し」ができない限り生き残れないわけだから、「さあ、みんなで考えよう」なんて悠長すぎる!

これからの環境下では、すべての経営課題に対し、完全・確実な結論を出せるとは限らない。「80%の確度の迅速な決断」が、「タイミングを逸した完璧な決定」に勝るケースが出てくるはずだ。事態はいっそう深刻であり、大学におけるガバナンスの整備・改善が急がれる所以である。


5つのキーワード

大学の競争力を高めるファクターには3つのものがある。1つは前回述べた「戦略(ポジショニング)」、どう腹をくくるか。次に「組織能力(ケーパビリティ)」。これは、資源の潜在的な能力を最大限に発揮できる組織づくりのことだ(詳細は次回)。そして3つめが「ガバナンス」である。

ガバナンスとは何か? 「継続的に望ましいパフォーマンス(成果)を発揮するために、どういう仕組みを設けておくか」――ここではそう定義しよう。戦略や組織能力は、1回セットすればそれで良しではなく、状況に応じ見直さなければならない。あるいは通用しないとなれば、抜本的に変えてゆかねばならない。

また、経営者(学長)に対し、戦略の見直しを促す、あるいは戦略の策定に際し、その人材が適切でないとなれば、首をすげ替える。そういう仕組みを整備しておくことは、大学でも民間企業でも等しく必要だ。

筆を急いで誠に恐縮だが、スピード経営の実現にあたり、望ましい意思決定とチェック機構を機能させるためには、どのような組織基盤、人的基盤を構築すべきか。いわば「コンセンサス重視」から「スピード重視」へのセオリー転換のために、実装すべき方策のベストプラクティスを上図に挙げた。5つのキーワードに集約できる。

犾適任者による決断――要するに「やるべき人がやるべきことをやる」。それが学内の人材であっても、外部の「プロの大学経営者」であっても構わない。
猤監督機能の能動化・活性化――大学(学長)の「執行」を、理事会(役員会)が「監督」する。監督機能には学内はもとより社外取締役的な外部識者も登用する。ただし、監督機能がエンパワーメントされていること。

猪ステークホルダー論理による強い規律――利害関係者へのアカウンタビリティーは必須。
獷革新型リーダーの継続的獲得――リーダーのありようそのものが大学のビジョンを反映する。時代を乗り切るリーダーの選抜と育成を組織的に実行する。
玽経営陣の情報武装――ミッションに直結する情報がタイムリーに提供される仕組みづくり。

3つのステージ

一般にガバナンスの進化は、大別して3つのステージに分けることができる。
ご覧の通り、わが国の大学のガバナンス議論は、依然、第1ステージを舞台としている。「スピード経営」のために何を変えるべきか、それすらまだ具体化されていないのが現状なのである。

こうした考え方は、民間企業におけるガバナンスのありようと必ずしも沿うことはないが、民間企業や海外大学における参考にすべき事例を基に、わが国の大学経営にあてはめ、その目指すべき方向を明らかにすべきであることは確かである。


段階的なアプローチ

スピード感をはじめとして、大学の経営管理のあるべき姿への移行は一朝一夕にはできない。また、拙速を貴んでもいけない。それぞれの状況に鑑み、段階的にアプローチすることが必要である。

スピードの強化に奏効する施策のうち、犾今すぐ着手可能で、猤効果の確認を比較的短期間に実施でき、猪結果として意識改革が進む、そんな取組みとして、7つの施策を右図に挙げる。読者諸賢の状況を充分に鑑み、今すぐ検討、着手されたい。なにしろ時間は待ってはくれないのだから。

次回は、稟議・決裁フローの整理やアウトソーシング、人事マネジメントなど、組織能力(ケーパビリティ)について検証を進めてゆきたい。

榎原 洋 Ebara hiroshi

慶應義塾大学経済学部卒業後、アクセンチュア入社。大学・学校法人の他、研究機関、病院、公共交通・運輸業などのコンサルティングに携わる。大学・学校法人においては、募集戦略、新学部学科のフィジビリティスタディ、新規事業戦略、組織再編、人事制度改革、教育プログラム改訂、情報化計画、業務効率化など、多種プロジェクトに従事。

大学改革提言誌「Nasic Release」第10号
記事の内容は第10号(2004年5月15日発行)を抜粋したものです。
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